◆文:冨田和成 (株式会社ZUU 代表取締役社長)

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アベノミクスが生み出した頭痛の種!?

昨今、巷間ではベビーブーマー層の大量退職が問題視されている一方で、経営者の世界でも代替わりが騒がれるようになりました。実際、この5年間で事業承継の件数は増加の一途を辿っています。

この事業承継が、いま経営者の頭を悩ませています。キーワードは〝アベノミクス〟です。アベノミクスは、多くの企業の株価を上昇させました。更に、推進する資産インフレ政策が、不動産などの資産価値の上昇を惹起しやすい地合いを作りだしていることも関係しています。これらの話は、見かけ上は個人や企業にとって非常によいことです。ところが、資産承継・事業承継の観点から見ると、どうしたって経営者の頭痛の種になります。

 

どういうことかというと、各中小企業の自社株の価値や、保有する不動産の価値が上昇することは、イコール相続税が重く圧し掛かることに他ならないからです。加えてもう一つ、2013年度の税制改正で相続税への課税が強化された結果、この問題はさらに深刻なものになりそうです。

こうした環境を背景に、いま金融機関各社はまたとないチャンスと言わんばかりに、鼻息を荒くして、事業承継を切り口に中小企業へ攻勢をかけています。その中でも活発なのが銀行です。ここで、よくある銀行の提案内容を見てみましょう。

 

「事業承継をスムーズにするために、資産管理会社を設立しましょう」

貴社もこんなことを言われたことがありませんか? これは、オーナーが保有する事業会社の株式などを、新しく設立した資産管理会社に移転し、将来経営権を渡したいご子息を社長や株主に就任させるといったものです。実は、ここに銀行の強かな意図が隠されています。

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多くの場合、新しく作った資産管理会社には資金がありません。銀行は資産管理会社に融資をするといった構図を目論んでいることが多いのです。
簡単にいうと、例えば下記のような支配関係になります(図1)。金融機関的な視点から解説を試みると──。

 

 

銀行の提案プロセス

具体的な例を挙げて説明しましょう。まず、銀行の定期訪問という形で、いつもの担当者が、本社などの専門部署の担当者を連れてくるところから始まります。そして、「自社株の算定をして、一度事業承継が発生した際のシミュレーションをしましょう」といった提案をしてきます。すると、多くの企業オーナーは、そこで算出された具体的な数値に目を丸くします(何故なら、元から事業承継が大変になる可能性が高い顧客を銀行はターゲットにしているので……)。いま仮に事業承継が起こると、後継者が買取できる状態になっていないことを目の当たりにするわけです。

 

このオーナーの危機感に付け込む形で、銀行はこう言ってきます。「外部の専門家を紹介します」と。そして、さらに詳しい山田&パートナーズ辻・本郷税理士法人のような大手税務コンサルティング会社を同伴したり、多種多様なコンサルティングが行われるのですが、最終的に外堀は埋められて、資産管理会社を作るという解決策の提案に繋がる場合が多いのです。

 

 

銀行にとっての提案メリット

資産管理会社をゼロから作り、そこで事業法人の株式を買い取るわけですから、資産管理会社に資金ニーズが発生することになります。結果として、銀行がこの資産管理会社に融資をすることなります。銀行の本業は融資ですから、全ての提案は、ここでの大きなビジネスを目論んでのことなのです。この場合、優良な事業法人の株式などを担保に取ることも可能なため、銀行にとってのリスクは高くないばかりか、資産管理会社との取引が生まれることで、個人資産の問題や世代を超えたオーナー一族との関係が生まれる利点もあります。

手間をかけてコンサルティングをしてでもとりたい案件であるのは、こういったインセンティブが強いことが理由としてあるからなのです。

 

以上、簡単に銀行の提案の裏側を解説しましたが、私は資産管理会社の提案が悪いと言っているわけではありません。これは、うまく活用できれば非常に有効な手段に成り得ます。しかし、他にも様々な選択肢がある中で、その他の選択肢を吟味しないで決断してしまうことは避けるべき、という警鐘をこの場で鳴らしておきたいのです。

 

例えば。他にも相続時清算課税制度、財団、隔世贈与、信託、生命保険、不動産などを使った承継スキームが選択肢としてあります。一口に金融といっても、銀行だけでなく、証券、保険、不動産、税理士、会計士、信託銀行、様々な立場の専門家がいます。
詰まるところ、多角的な視点から話を聞くことが重要なのです。次回は、この資産管理会社のメリットとデメリットについて解説したいと思います。

 

➀金融アドバイザーから一言

「事業承継対策は多角的な視点で。 様々な選択肢に目を向けることが大切です」

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ZUU冨田写真(内)

【プロフィール】

冨田和成(とみた・かずまさ)…神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。

 

【お問い合わせ先】
株式会社ZUU
〒150‐0011 東京都渋谷区東2-23-6 5F
E-mail: info@zuuonline.com
URL: http://zuu.co.jp/

町工場・中小企業を応援する雑誌BigLife21 2013年8月号の記事より

町工場・中小企業を応援する雑誌BigLife21 2013年8月号の記事より

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