大事なのは「人のつながり」?SNSマーケティングの新フレームワーク「SIPS」‐ 冨田和成 株式会社ZUU
◆文:冨田和成(株式会社ZUU 代表取締役社長兼CEO)
(写真=pixabayより)
従来のマーケティングは企業サイドから情報(特に広告による大量の情報)を供給することが必要とされるシンプルな構造でした。しかしインターネットの普及・拡大により、生活者が自ら情報を検索・発信することが容易になりました。
また、情報を受け取る生活者はマスメディアに加えてもうひとつの情報源を得ました。そしてWebを介しての情報流通経路はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の出現によって人と人の「つながり」へと拡大しました。SNSの活用はもはや避けては通れないマーケティング上の課題です。
Twitter(ツイッター)、Facebook(フェイスブック)、mixi(ミクシー)などのSNSとスマートフォンの普及によって、モバイルでのSNSの利用が伸びています。これによって情報の流通とコミュニケーションの方法が大きく変化してきているのです。
この変化を捉える消費行動モデルとして電通が提唱しているのがSIPSです。SIPSはSympathize(共感) → Identify(確認) → Participate (参加する) → Share & Spread(共有・拡散)とういうフレームワークで構成されています。
マスマーケティングで情報流通を媒介するのは「注意」や「興味」ですが、SNSで媒介となるのは生活者の「共感」です。その共感は主に2種類。
ひとつは「発信元への共感」でしょう。情報の発信元が個人であれ企業であれ、共感できる「人・企業」がその情報を語っているかが重要視されます。
もうひとつは「情報そのものへの共感」です。情報の理性的な価値(役に立つ、便利など)だけではなく心理的な価値(面白い、好きなど)も重要になります。そしてその情報の信憑性を確認し判断する行動は、機能や利便性、価格などが持つ客観性・相対性に対し、より主観的で感情的なものとなるでしょう。
情報流通のプロセスに生活者自らが参加し、その情報を人と共有・拡散する方法を手に入れたことはSNSの大きな特徴であり、今までのマーケティングでは考えられなかったことです。
従来のマーケティングでは企業からの一方的なアプローチに対して生活者の行動は受動的でしたが、SNSでは自ら情報を共有・拡散する生活者の行動は能動的になります。このプロセスでは必ずしも購買行動は伴わず、情報の流通にとどまることもあります。
しかしこれはマーケティング上の「ムダ」ではありません。プロセスに参加してもらうことは受け手のすそ野を広げることであり、参加なくしては情報の共有・拡散、さらには購買行動につながりません。
共有・拡散はマスマーケティングと根本的に異なるプロセスです。ある情報に価値を感じ共感した生活者が他の生活者とその情報を共有し、次の生活者に伝えていく。共感を媒介にして情報が生活者から生活者へと連鎖的に広がっていく。そして共感が強ければ強いほど、情報が共有される度合いと拡散される範囲は大きくなるでしょう。
非常に興味深いのは、デジタルだと考えられがちなWeb上での情報伝達が、SNSでは実は最も古典的でアナログな「人とのつながり」に力点が置かれるようになったことです。「口コミ」で重要なのはやはり、強い共感性なのです。
SNSを活用したマーケティングでは、「つながり」のコアにいる生活者にアプローチをしていくという意味で、マーケティングの基本である生活者本位のアプローチは従来と変わりなく重要です。
また、拡散を加速・拡大させるという意味でマスマーケティングのアプローチも大切になるでしょう。
SNSでのマーケティングを従来のマーケティングと別のものと捉えることは適切ではありません。全体のマーケティング戦略を俯瞰したうえで、生活者を情報発信源・情報流通経路としてとらえ、彼らの主観的・感情的な価値を重視するというSNSマーケティングの特性を、従来のマーケティングのなかに組み入れていくことが重要なのです。
筆者プロフィール/冨田和成
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。
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