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Business Column イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ! その24

実は進んでいる徒弟制度。できる人間は徒弟制度がつくる

◆文:佐藤さとる (本誌副編集長)

 

 少し前にホリエモンこと、堀江貴文さんが、ツイッターで「寿司職人になるのに何年もかかるというが、イケてる寿司屋はそんな悠長な修行はしねーよ。センスのほうが大事」とつぶやいて、寿司や和食の世界の人から反感を喰らったことがあった。

 確かにAIやAR、ロボティックスにIoTといった時代に、徒弟制に基づいた長年の修行とかっていうと、「時代遅れじゃん」「いや時代錯誤だろwww−−−」とか“弾幕”で書かれかねない雰囲気がある。

 まして、刻々と状況が変わるIT世界の旗手として時の人となった身であるなら、時間のかかる修行や徒弟制がまどろっこしいのも分かる。

 

 堀江さんは、「一人前の寿司職人になるのには時間がかかるものだ」という反論に対し、「あれなんでか分かる? (教えると弟子が独立して客を奪うから)わざと教えないようにしてるんだよ」と再反論している。

 無論なかには1年、2年で身につける人はいるかもしれない。どこにでもセンスのいい人はいる。だが誰もがわざと教えないと思っているとしたら、まったくの誤解だ。

 

 確かに伝統工芸などの世界では、入門後しばらくは何も教えない期間がある。それは「わざと」であるが、意図がまるで違うのだ。

 教えないのは、師匠がその時を待っているから。何を待つかというと、本人が現場の空気を読んで、その仕事や職場が何を目指しているのかを感じ取り、学ぶべきものは何かを捉え、見出す時を待つのだ。仮に本人に学ぼうという意欲があっても、その目的が師匠が求める世界観と共有できなければ、技術は伝わらない。だからその時がその弟子に来るまで「待つ」のだ。

 

 やる気のない、学ぶ意味も分からない生徒に教える現代の学校の教育と、プロとしての技能を磨いていくこととは似て非なるものなのだ。その意味で義務教育の先生方は、それはそれですごいのである。

 本人の意欲と現場の世界観がマッチすれば、人はぐんぐん伸びる。いまやっていることの先にある世界が手に取るように分かれば、何をどうすればいいか理解できる。本人の学ぶ力を最も合理的に引き出すのが徒弟制度なのである。

 

 実は職人、プロを育てるための徒弟制度は、日本だけでなく古今東西、世界各地で取り入れられてきた。

 

 代表的なのはドイツとイギリスだ。とくにドイツではよく知られるようにマイスター制度があり、それを支えているのが徒弟制度なのだ。ドイツで何かしらの技能を持つ職業に就こうとすると、この徒弟制度を経ずに就くことは困難である。というのもドイツでは学術を中心とした教育と、それぞれの職種にふさわしい職業訓練教育があり、目指す職業の職場に入って週に数日は先輩の職人や親方について学び、残りが学校で座学を中心とした教育を受けるようになっている。

 仕事の現場と学校で交互に学ぶこのシステムは「デュアルシステム」と呼ばれ、ヨーロッパの職業人育成の基本システムとなっている。

 

 本邦の若手学者や企業家が欧米に留学して箔をつけて凱旋するパターンは、明治維新以降変わっていないようだが、彼ら彼女らが学ぶ彼の地では、いまもなお、いや進化した徒弟制度が社会を支えているのである。で近年、本邦でも徒弟制度の良さに気づいた教育関係者が「デュアルシステム、いいね!」ってことで、日本の工業学校や職業訓練校にも取り入れられつつある。

本誌でも東京都内の工業高校と都内の町工場の事例を取り上げているから、ご存知の方もいるだろう。

 「そうは言っても徒弟制度が効果を発揮するのは、和食や伝統工芸、もしくは町工場レベルだろう」と思ったとしたら、アナタは世間知らずと断言してもいい。

 

 徒弟制度は先端の学者や医師の世界では、歴然とある。あるからこそ人材も育っている。学者では大学の研究室がそれに当たるし、医学では医局制度がそれに当たった。いまはインターンという制度で自らの意志で修行先を選べるが、そこでも徒弟制度は敷かれている。

 つまり、専門性が高いほど徒弟制度が必要であり、優れた人材を育成するなら師匠に付いて学ぶ徒弟制度が最も近道なのである。

 

 イマドキのビジネスは、だいたいそんな感じだ。

 

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◆2016年4月号の記事より◆

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