◆文:長島寿恵

 

マインドフルネスと言えば、瞑想法など「静」のものが注目されています。「静」の状態で心を落ち着け、呼吸などを意識して自分の内側に目を向けることにより、ストレスから解放され、心と体の疲れを和らげることができます。
ですが「今、ここに意識を向ける」ということは、「静」だけではなく、「動」の中にも見出すことができます。結果として、マインドフルネスに繋がっていることがたくさんあります。

 

例えば、職人の動きの中にも、動作に伴い「今、ここに意識を向ける」という状態を見ることができます。呼吸を意識しなくてもそのような状態に自然となっています。

特に自分の手など体で感触をつかみながら、経験によって磨きを高める日本伝統文化の職人の仕事の中に、「動」のマインドフルネスがたくさんありました。

 

例えば、日本刀を作るとき、砂鉄や鉄鉱石などの成分を均一にする為に、繰り返し折りたたんで叩く鍛練という動きは、「今、ここに意識を向けた」マインドフルネスの状態を作っていたことでしょう。
また、機織りも、経糸と緯糸を交互に組み合わせる工程ですが、そのリズミカルな動きと共に、呼吸も調い、「動」のマインドフルネスとなります。

 

日本伝統工芸の一つである木彫刻を見ても、小刀一つでくり抜いて作品を作ったり、気を抜かずに集中して「今、ここに意識する」の究極が仕事の中にありました。

 

経験を積み重ねながら、技術を練り磨き、感性を高め、無駄のない動きが、脳にも心地よい刺激を与えたと思われます。

なぜなら、そのような動きはリズム的運動となり、セロトニンの分泌を増やすからです。仕事をしながら、幸せホルモンがよく働いたということになります。

 

かつては、このような仕事が多く、今のように体だけではなく、心まで疲れ果ててしまうということは少なかったのではないでしょうか。現代社会は機械化が進み、全身に響くようなリズム的運動が期待できる仕事が減ってしまったということは確かです。
 

ですが、日常生活の作業の中には、様々なリズム的運動があります。例えば、日曜大工で釘を淡々と打ち続ける動作も、リズミカルで、無駄な力が入らない方法を工夫していると、マインドフルネスのような状態を作ることができます。

薪を割る、餅つきなども全身運動とリズム感を伴います。また、身近な所では、お料理の際に野菜を細かくみじん切りするなど、どの仕事も道具と一体になり、経験によって、道具を使いこなしていく作業です。

日常生活の作業の中にある、「動」のマインドフルネスで、心地よい心と体をつくりましょう。

 

【プロフィール】

長島寿恵(ながしま・ひさえ)
青森県八戸市生まれ。東京薬科大学卒業。薬剤師、健康運動指導士、睡眠健康指導士上級、西東京糖尿病療養指導士、健康・食育マスター(財団法人日本余暇文化振興会認定)、心理カウンセラー。多彩な資格をもったユニークな健康づくり専門家として、全国で運動や、食生活、心の在り方の改善を提唱する講演活動を行っている。趣味:武道、ピアノ
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