◆文:井上創太

(写真=写真AC)

 

 

「イノベーション不足」

この言葉を聞かない日はないのではないかというほど、今の日本社会は革新に飢えています。

その背景としては、急速に進行する「日本社会の老衰」にあるといえます。

数十年スパンでは避けることのできない衰退からイノベーションの必要性はあるものの、

現状経済が悪くないだけに革新を急ぐことができない。

まさにイノベーションのジレンマに陥っているのが現状と言えると思います。

 

そういった現状を打破できるのは誰なのか。それは、既得権益をもたず、将来にわたって生きていかざるを得ない若者、さらにいえば学生だと思っています。

 

幸い日本の大学生には「時間」があります。その「時間」をイノベーションに振り向けること

ができれば閉塞した日本社会のジレンマを打破し、新しい形の成長へと繋げることができるのでは

ないかと考えています。

 

 

私は東京で大学生向けのビジネススクール「3rdclass」を運営する、株式会社BYD代表の井上創太といいます。自分に自信のなかった学生が、プログラムを通して、表現力や思考力を身につけ、最終的には自分で仕事を生み出すビジネススキルとマインドを身につけるためのスクールを運営しています。

 

本稿では簡単に日本社会の現状と将来見通しを振り返りつつ、「気軽に学生が起業する社会」の実現が日本社会にイノベーションを起こし未来を創ることができるという私の持論について書ききたいと思います。

 

 

■長期的には衰退が避けられない一方、好調な足元経済の中で陥るジレンマ

実感に乏しいと言われながらも、戦後最長の景気回復期間にまもなく到達する日本経済ですが、2010年にUS$ベースでのGDPで中国に抜かれて以来、倍以上の差をつけられてしまっています。

 

また、少し未来に目を向けると2010年をピークに人口減少が進んでいます。

 

まだ、2018年現在、減少は緩やかですが、2020年以降急激に人口減が進み、今から約30年後の2050年には1億人を切る予測となっています。生産年齢人口に至っては1990年頃のピークから約半減し5000万人を切る予想です。(出典:http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf)

 

半分の人員で同じ生産をすることが困難であることは間違いありませんが、それ以上に問題な点は「高齢多死社会」ともいうべき21世紀の日本社会の活性化につながる対応ができていない点であることは誰の目にも明らかでしょう。

 

大企業の「イノベーション」関連フォーラムでは「うちの会社は理解がない」「イノベーションへの取り組みが潰される」といった言葉がよく聞かれます。また、スタートアップも国内では通用しても海外で通用する会社は数えるほどしかないのが現状です。

 

 

企業の時価総額や投資規模など中国や米国のスタートアップ・企業と比べると1~2桁少なく、世界マーケットでは存在感が希薄であるのが現実です。

 

かつて、世界の時価総額上位を日本企業が大半を占め、「JAPAN As No.1」と言われた面影はもはやありません。

国際経済における「日本人労働者」の相対的な地位の低下は実質賃金の下落にも現れています。

出典:http://agora-web.jp/archives/1666251.html

 

一方で企業の足元業績は日経平均株価の上昇にも現れているとおり比較的好調です。

出典:https://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=998407.O

 

 

このような「長期的には苦しいが、足元は好調である」という現在の環境が新しい取り組みへの中途半端な対応にあらわれているといえます。ある意味「数字上好調だが、決して経営基盤は盤石でない」ということを理解しているがゆえに既存事業を危険に晒すような抜本的な改革に手をだせずにいる経営者も多いのではないでしょうか?

 

 

■既得権益のシガラミがない「学生」であればイノベーションを起こしやすい

上記の通り、「長期的にはイノベーションは必要だが、足元業績が好調なだけに既存事業を傷つけることはできない」というジレンマに多くの日本企業は苛まれています。

 

私が学生に期待を寄せるのはこういった既得権益のシガラミがないことが一つの大きな要因です。

学生はまだ若く平均寿命を80歳とすると、今の大学生は2080年ころまで生きる計算になります。

彼らには好調な企業の足元業績の恩恵を受けることはが少ないだけでなく、自らの未来を自分で切り開かなければ苦しい想いをすることは間違いないのでイノベーションに取り組むことに集中できます。

彼らも薄々ながら「このままでは危ない」ことを理解しています。

いつの時代であっても「未来」の一番の利害関係者は若者なのです。

 

 

■大学生が一番起業のリスクを負うことができる

そして、大学生に期待することのもう一つの理由は大学生の起業におけるリスク許容度が極めて高いことです。すこしずつ変化しつつありますが、まだまだ日本社会においては大企業での勤務経験や転職経験数の多寡が評価の対象になります。

 

一度企業に勤務してしまうと金銭面だけでなく、社会的評価面においても「退職することのデメリット」が極めて大きくなってしまいます。

 

一方、大学生のうちのチャレンジはエスタブリッシュな企業においても評価の対象となるケースが多く、社会的評価が毀損されることは少ないといえます。

 

もちろん、経験の浅いうちは失敗のリスクも高いため、多額の借り入れなど金銭面でのリスクテイクは控えめにしておくほうが無難ではあります。

アプリ制作など金銭リスクを負わずにチャレンジできる事業は数多ありますのであまり問題になるケースは少ないと言えるかと思います。

 

■失敗しても成功しても起業経験は財産になる

起業というと失敗がつきものです。一般に会社を立ち上げて3年後には半減するといわれています。

出典:http://www.recojapan.jp/independence/data-2/

 

起業を進めると「失敗する可能性が高いのに無責任に煽るな」などと言われます。

確かに、上記の通り会社員を辞めて独立することには金銭面・社会的評価面で一定のリスクが伴います。

 

しかし、こと学生に関して言うと金銭面・社会的評価面両面のリスクがほぼないことがわかります。

大半の学生がアルバイト程度の収入しか得ていないですし、既存される社会的評価を持ち得ていないからです。

 

さらにいうのであれば「起業失敗」の経験は将来どのような仕事をするうえでも確実に活かされます。起業してしまうと企画・商品開発・営業・物流・税務・会計などあらゆる分野の知識を嫌が応にも吸収せざるを得ません。一部の環境を除き、会社員の仕事は特定領域に絞られ、得られる知識・ノウハウもその業務領域に限定されてしまいますが、起業を通じて得た関連業務の知識や苦しい思いをした経験は様々な形で恩恵を与えてくれます。

 

このように金銭面のリスクさえ適切にコントロールしていれば学生起業は恩恵こそあれマイナスになることはほとんど無いといえます。

 

 

■カジュアル学生起業が「未来に希望をもてる社会」を創る

「起業」というとどうしても念入りに計画し、全力を持って実行していくものというイメージが強いのですが、実際はそういったものばかりではありません。極端な例として「1時間100円で話を聞く」といったサービスでもよいのです。

 

なんらか商品やサービスを提供し、対価をいただけば立派な「業」です。

1時間100円といえばアルバイトの時給以下ですが、それでも「サービスを考え」「ターゲットユーザーに伝え」「サービスを提供し」「対価を回収する」という一連のプロセスが必要です。

ひょっとしたら「話をきくボランティア」を活用することで仕入れを0円にすればNPOとして成り立つかもしれません。

 

ひょっとしたら1時間100円でなく、1分100円にしても成り立つかもしれません。

 

又はVALUEやTIMEBANKのように「話をきいてもらう権利」を売買するサービスが成り立つかもしれません。

 

私は学生起業にあたっては、社会価値の高いサービスの方が良いことは間違いないもののサービスの内容は重要でないと考えています。

 

「起業」という経験を通して自分と強制的に向き合わされ、「自らの力で(他者の協力を引き出し)未来を切り拓いていく経験」を積むことが本当に未来を切り拓くことが必要とされた時に活きてくると考えるからです。

 

「自らの頭で考え、自ら未来を切り拓いていく人材」が世の中に溢れた世界を想像してみてください。

今よりはきっと前を向ける社会が広がっているはずです。

 

 

■「カジュアル学生起業」を支援する3rdClass

当然のことながら、「なんでもいいからとりあえず起業してみよう」と言われて起業できる学生は皆無に近いと思います。

事業アイデアの考え方、サービス構築、物流、資金調達などなどしらないといけないことは数多あります。

そういったことを教える組織や団体は多々ありますが、その多くは「既に起業を志し、なんらか事業案がある若者・学生」を対象にしています。

私が運営しているキャリアスクール「3rdClass」はそういったハイスペック学生ではなく「普通の大学生」を対象にしています。

 

私が目指しているのは「ごく一部のハイスペック大学生」だけが起業する社会ではなく「普通の」「大多数の」大学生が「普通に」起業する社会です。

 

3rdClassの受講生が最初に受ける「ベーシックコース」はプレゼンテーションやファシリテーションを学びます。

ビジネスとはさほど接点のないスキルです。受講動機も「人前で堂々と話せるようになりたい」といった内容です。

それでも受講生の多くはベーシックコースを通してビジネスに興味をもち、学んでみたいという意思を持ちます。

 

3rdClassはできてちょうど3年がたったところですが、ここまでは既に我々が実現できている世界です。

これから実現していかなければならないのはビジネスを学ぶ中で「実際にやってみたい」という興味喚起、そして起業しても太刀打ちできるビジネススキルの習得です。これから1~2年でこれらを実現していこうと思っています。

 

最初はビジネスには興味が持てなかった学生が3rdClassと出会い、学ぶ中で自らの未来を切り拓くことを学び、実践し、試行錯誤の中で成長していく。当たり前に「学生のうちに1回起業しておいたほうがいいよね」と自分でサービスを考え、作り、実行していく。

 

今はまだ夢物語のような話ではありますが、近い将来に必ず実現させたいと考えています。

私が経営する株式会社BYD「Be your Dream」の名に恥じぬ結果を創っていきます。

 

 

井上創太

株式会社BYD 代表取締役

一般社団法人グローバル教育研究所 役員

NPO法人 Class for Every Color(設立準備中) 代表理事

学生向けスクール事業「3rdclass」を通じて、学校では中々身につけられない思考力や表現力を身につけるためのプログラムを提供している。アクティブテーニング型で行われる授業は学生からだけではなく、教育関係者やビジネスーパーソンからも評価を得ている。