アタゴ、オートマックス、高橋製作所… キラリ輝く超優秀企業ズラリ 区長のリーダーシップの下、産業活性化政策奏功
板橋区 製造品出荷額で大田区抜いて23区トップに
都内23の各区はそれぞれ特色を持っている。板橋区といえば高層マンションや団地が林立、ベッドタウンとして知られるが、このほど同区は、2010年東京都工業統計調査の製造品出荷額で、毎年首位の大田区を抜き、トップに就いた。
もともと板橋区は都内有数の工業集積地域であり、高度先端技術を有する都市型産業の代表的な土地柄。日本の経済が長い不況のトンネルから未だ抜けられず、景気沈滞ムードが漂う中で、板橋のモノづくり・製造業の活躍ぶりはまぶしいばかりだ。
坂本健区長のリ−ダーシップの下、モノづくりに励む中小・中堅企業育成支援を軸とした同区の長年の地道な産業活性化政策が、功を奏したといえるだろう。
※本記事は2011年にBigLife21で掲載した記事です。
都内ものづくり王国の地位を獲得
板橋区の産業活性化政策を見る前に、まずは同区における工業発展の背景と現状を見てみよう。
戦前は火薬製造所を始め、軍需目的の工場が数多く立地していたが、戦後の平和経済移行に伴い、精密機器・光学・化学・非鉄金属を中心とした工業が盛んとなり、1970年代からは印刷関連が集積し、今日それらの分野が板橋区の代表的な産業として発展している。
このように板橋区は古くから工業が盛んであり、工業全体の、製造品出荷額、付加価値額、従業員数の規模において東京23区中、常に第2位の地位を占めていた。
それが昨年には、製造品出荷額でいつも後塵を拝していた大田区を抜き、見事、都内「ものづくり王国」の地位にのしあがったのだ。
板橋区の工業で特筆すべきは、なんと言っても光学産業である。
世界的メーカーのペンタックス、富士フィルムなどがはるか昔に立地し、「国産フィルム発祥の地」として名高い。
1960年代には国産カメラの70%のシェアを占め、世界にも多く輸出され、メイドインジャパンならぬメイドインイタバシの名声を広く世界に知らしめたものだ。
光学工業は裾野が広く、周辺産業として光学精密機械関連産業が育った。
それも資金と人材が豊富な大企業ではなく、技術力と経営力が勝負の、世界的中小・中堅企業を輩出している点が目を見張る。例えば、屈折計のトップメーカーであるアタゴ、自動車の駆動系部品試験装置で国内シェア90%を占めるオートマックス、天体望遠鏡を始めとする天体観測機器専門製造会社で世界ブランド・タカハシを誇る高橋製作所など、キラリと光る超優秀技術企業が目白押しだ。
それもこれも、建築設計事務所出身の坂本区長はもとより、経済産業政策にたずさわる幹部・職員の、中小・中堅企業支援策、モノづくり復活にかける情熱と使命感、不断の努力のたまものでもあろう。
同区では地元産業の将来像に向けたスローガンを「夢に形を 産業文化都市 いたばし」と定め、その実現のため平成17年12月に「板橋区産業振興構想」を策定、この構想の下に地域の製造業の活性化、各種の産業振興施策を粘り強く、積極的に展開してきた。
産業経済部・産業活性化推進室の有馬潤室長は、「板橋区を単に住むだけの街にはしたくない」とし、特に区内企業の99%を占める中小・中堅企業の存続発展こそ地域全体の活性化に繋がると力説。
「23区の中でも、もっとも生産の場、働く場がある健全な産業都市として大事に育てたいという思いで、産業振興策に取り組んでいる」と、情熱的に話す。
その主な内容は、まず第1に製品・技術のPR・販路拡大支援策として、区内製造業を中心とした企業が出展する「いたばし産業見本市」の開催、さらに区外で実施される専門展示会には「板橋区ブース」を構え、区内企業と共同で出展、企業の負担を軽減する。
第2が企業の創造性支援だ。
そのために毎年行っているユニークな催しが「板橋製品技術大賞」制度。区内中小企業の優れた新製品・新技術を表彰するもので94年から毎年実施、全ての応募製品に対して、技術支援、販路開拓支援、事業化支援など各種特別支援を行っている。
これにより、個別企業の新製品開発、技術イノベーションの意欲、他社との競争心をかきたて、多大な成果を生み出している。
さらに受発注拡大の支援。製造業を中心とした中小企業が一堂に会して情報交換を行い、取引先の新規開拓、企業間の技術交流、販路拡大などを促進する場を提供することで中小企業の経営力向上を計っている。
その他、板橋ものづくりの拠点施設として「新産業育成プラザ(仮称)」を構想中。
さらには企業活性化センターを事務局として創業や経営に関する相談・支援も行っている。
創業についてのさまざまニーズに対し、事務局を介して、公認会計士など各種専門家や金融機関などとのネットワークを構築し、総合的かつ多角的な支援体制を強化している。
こうした中小製造企業への支援策の集大成として、去る2月13日から、ものづくり企業の高度化を支援するための「計測検査機能」「技術相談機能」「人材育成機能」などを取りそろえた総合支援センターをオープン。区内中小企業の〝頑張り〟を実らせるべく、強力にサポートしている。
「中小企業の悩みは資金、販路開拓、技術開発、後継者育成など数限りない。それぞれの強みを生かして競争力を伸ばせるように、きめ細かい支援策が必要」(有馬室長)としつつ、ニーズに合わせた幅と厚みのある支援対策には頭を痛めると、苦労のほどを吐露する。
未来の産業文化都市を目指す、ニーズに合ったきめ細かい支援策に腐心
大手・中小を問わず、日本企業はまだまだ「内向き」志向が強いといわれる中、板橋区は都内ものづくり王国の座に安住することなく、さらに世界にはばたくことを目指しているから、すごい。
有馬室長の話によると、区長は常々、板橋区は都内有数の産業区であり、産業活性化を通じて街全体を活性化するためにも、板橋が産業の町であることと、その高い技術力とブランド力を、もっと外に向かってアピールしなければならないと、檄を飛ばしているという。
そこで区はこのほど、新しい施政方針として光学・精密機器産業の技術力、板橋ブランドを世界にアピール、国際展開していくことを決定した。
その第1弾として、レンズの設計・製造に関しては世界的権威とされる国際会議「ODF」(今年は7月にロシアで開催)に参加する他、各種国際交流事業を計画。
これによって区内モノづくりの一層の活性化を図るとともに、東の「大田」、西の「東大阪」に対する差別化を図り、産業文化都市「板橋」のブランドを確立していくという、壮大なチャレンジ構想をぶち上げた。さて、その顛末は少し時間がかかると思われるが、これまでの実績からみて、日本経済・モノづくり復活の重い課題をうち破るのに、少なからぬ清涼刺激材料を提供してくれるものと期待して差し支えあるまい。
グローバル化の時代、中小企業の間にも今や「生き残り」を賭けた海外進出が盛んだ。それによる産業の空洞化、地域衰退を危ぶむ声は少なくない。
しかし、有馬室長は言う。
「生き残るためには中小企業とて同じです。区内の産業振興のためなら、中小企業の海外展開も視野に入れて支援していきたい」と地域の立場に立ちながらも、スケールの大きな政策展望を聞かせてくれた。こちらが大いに励まされた次第である。