企業経営者にとって最大の責任は会社を潰さないことである。理由は至極簡単で、倒産させるとステークホルダー(利害関係者)にご迷惑をかけるからだ。

社員は職を失う。次の仕事が見つかるまでの収入が途絶える。銀行は貸し倒れ金が発生する。

取引先は仕事が減る。会社は倒産させては困る。“倒産(トーサン)困る、カーサン困る”という羽目になる。要は、サステナビリティー(持続可能性)の担保が肝要なのだ。

 

「成功している会社は何故成功しているのか。成功するようにやっているからだ。失敗している会社は何故失敗しているのか。失敗しているようにやっているからだ」。私が言ったら、お前アホか!と叱られそうな言葉だが、実は経営の神様とまで言われた松下幸之助氏の言である。成功は成功なりに、失敗は失敗なりにそれぞれ理由があるのだ。

 

企業を究極の失敗(倒産)に導く最大の理由は「3つのC」でほぼ説明し尽くせる。

第一のCは、“COMPLACENCY” である。安易な現状是認である。“我が社は業績に陰りが出ている。目標達成は覚束ない、という甘えの構造のことだ。言い換えると、”危機意識の欠如“である。江戸幕府末期の幕僚、小栗上野介という人が残した言葉がある。「一言で国を滅ぼす言葉がある。”何とかなるだろう“という言葉だ」。何とかなるではアカン、何とかせなアカン、という警告の言である。社長が、“これでいいんだ”という安易な現状是認に陥った瞬間から会社は滅亡への道をたどり始める。

優れた経営者は、一見業楽天的に振舞ってはいても、内心は、我が社はいつ潰れるかもしれない、という危機意識を擁いている。本物の社長は、楽観的悲観主義者である。

 

第二のCは、“CORPOCRACY”である。CORPORATION(企業)と BUREAUCRACY(官僚主義)の合成語で、いわば”企業内官僚主義“のことである。

企業は夢で始まり、情熱で大きくなり、責任感で維持され、官僚化で衰退する。

会社を破滅させる最大の最大の癌は、官僚主義である。会社は大きくなればなるほど官僚主義という病気にかかり易くなる。売り上げが伸び、利益が増し、人が増えるにつれ、余程気を付けないと、会社の中には官僚主義という病原菌が発生して、最終的には全身に転移する。究極的に無謬に会社は一命を失う。実に恐るべきは官僚病である。

 

官僚病7つの特徴

一口に官僚病というが、これには何となんと7つの「主義」という顕著な特徴がある。

その1は、「前例主義」である。前例のない事には手を出さない。一つひとつの案件の妥当性よりも、前例の有無を問題視する。そもそも企業を伸ばす経営者やリーダーという人は、”前例がないからやらない“ではなく、”前例がないからやる“人である。

 

第2は、「無謬主義」である。神と人間の最大の違いは、前者が絶対に過ちは犯さないという無謬の存在であるのに対し、後者は間違えることがあるという一点である。決して自分の過ちは認めない。悪いのはすべて他人と信じ切っている人は、“自分は神様である”と宣言しているに等しい。

 

第3は、「形式主義」である。実質、実態よりも形式や体裁を尊ぶという精神構造である。書類や書式や会議の席次にこだわる割には本質的な議論がない。会議を何回も行ったという事実そのものが結論を正当化するための免罪符として通用してしまう。要は、中身よりも外見(ソトミ)。品物よりも包装紙の方が大事という本末転倒症候群である。

 

4番目は、「無責任主義」である。“チーム一丸となって事に当たる”というと如何にも耳に心地よく響くが、多くの場合、この言葉は、“誰も責任を取らない”という意味に外ならない。皆でやって、皆で責任を取るということは、誰一人最終責任(アカウンタビリティー)を取らないということだ。“最後の骨は俺が拾う”という男気は薬にしたくてもない。引責辞任と言っても、自ずから責任を取っていて潔く辞める訳ではない。上から詰め腹を切らされて泣く泣く辞めるだけである。あまり美しい姿ではない。

 

次は「天下り主義」である。同期の同僚が出世して要職に昇格すると、選に漏れた役人が民間企業や政府系の団体に天下りする。無事定年をまで役所で勤め上げた場合でも、その後、個室付き、車付き、秘書付き、接待費付き、高給付き、仕事なしの甘いポストに天下り(実は天上がり?!)する。2年単位で4回も天下りすると退職金がゴマンと入る。

 

6番目に上げたいのは「無作為、無過失主義」である。

定年まで勤め上げて組織を去る時に、今迄の同僚が送別会を開いてくれる。送られる側が口に出す常套句がある。“皆様のお陰で、今まで37年、大過なく勤め上げることが出来ました”。一寸お待ちよ、と言いたくなる。大過がないということは、大功もないということだ。37年間碌な仕事をしなかったという告白である。碌な仕事もしない人を日本語ではろくでなしという。大きなリスクも冒さず、“沈香も焚かず屁もひらず“という無作為、無過失人間が蔓延るというのが役所文化である。

 

最後、第7は「身分主義」である。学歴や入所時の試験の成績により、キャリア組とノンキャリア組に分けられる。キャリア組は30代で課長、ノンキャリア組はどんなに頑張っても50代で精々課長か課長補佐が関の山で、局長にはなれない。新幹線に乗った瞬間から一人は特急のぞみのグリーン車、他の一人はこだまの普通車である。仕事をするのは学歴でも入社時のテストの点数ではなく、その人が持つ能力(スキル)と貢献するぞという意欲であるべきなのだが、この本質は見事に棚上げとなっている。

 

以上の「企業内官僚主義の7つの特徴」、例外は随所に多々あるにせよ、概ね正鵠を射ているのではないか。“会社は夢で始まり、情熱で大きくなり、責任感で維持され、官僚化で衰退する”という、げに恐るべきは官僚病である。

 

最後のC CULTURE

そして、最後、第三のCは“CULTURE”である。“企業成功の50%は理念である”という、これまた松下幸之助氏の言葉がある。この言葉を翻訳すると、企業理念の無い会社の成功率は高くても50%止まりだということだ。50%以下は失敗である。従って、理念の無い会社は、失敗会社ということになる

理念とは、ミッション(使命感)、ビジョン(我が社のあらまほしき姿)、バリュー(価値観)の3点セットから成り立っている。くだけていえば、我が社は何のために存在するのか、何をやることにより世のため人のためにお役に立つのか。どういう会社になりたいのか。何を大切と心得て仕事をするのか“という考え方であり哲学である。理念を全社員が共有すると、細かい業務上の問題は別として、経営次元の物の考え方にズレやブレが無くなる。

ダイバーシティー(多様性)が進めば進ほど、多種多様な考え方混在するようになる。その時に、他の会社はいざ知らず、我が社にとっては何が大切なのだ、という理念を全員が共有すると、全体としてベクトルが合ってくる。結果として生産性が高まる。

 

そもそも理念とは、“理想を念じる”という意味の言葉である。理想の火が消えた瞬間から企業も人も老衰化を始める。

 

理念が企業の中にシッカリと定着した時に生まれるのが企業文化(CULTURE)である。正しい企業文化が根付いている会社と、理念も文化もなく、ただただ金儲けだけに追われている集団を比べると、中長期的に見ると業績にザッと4倍の格差が出るという。我が社を不況に強いレジリエンスの高い会社にしようと経営者が望むなら、まず1丁目1番地は正しい理念に基づいた文化(カルチャー)の醸成ということになるのだ。

以上述べた3C(COMLACENCY・CORPOCRACY・CULTURE)の有無が企業の成功と滅亡を運命づける最大の決め手である。

 

新 将命(あたらし まさみ)

株式会社国際ビジネスブレイン
代表取締役社長

1936年東京生まれ。早稲田大学卒。
シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6 社で社長職を3 社、副社長職を1 社経験。2003 年から2011 年3 月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50 年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、今も尚、様々な会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組んでいる。