2019年11月のM&Aは前年同月比12件増の86件と、単月として今年の最多となった。2009年12月(114件)以来、ほぼ9年ぶりの高水準となった昨年8月(86件)と並んだ。単月ベースで10月まで3カ月連続で前年を下回っていたが、大幅な増勢に転じた。1~11月のM&Aは762件で、2009年以来の年間800件台乗せがほぼ確実になった。

全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介大手のストライク(M&A Online)が集計した。

 

 

件数は過去10年間で3番目の高水準

 

11月のM&Aの総開示件数86件の内訳は買収73件、売却13件(買収側と売却側の双方が開示したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は19件(買収13件、売却6件)で、4月(23件)に次いで今年2番目(9月と同数)に多かった。

2009年以降の過去10年間でみると、総件数は09年12月114件、同3月88件に次ぐ3番目に高い水準で、18年8月と並んだ。

金額トップは旭化成の海外案件。米製薬会社のベロキシス・ファーマシューティカルズを約1432億円で買収すると発表した。ベロキシスは腎移植手術患者向けに独自技術を用いた免疫抑制剤に強みを持つ。同社の全株式を保有するデンマークの親会社に対してTOB(株式公開買い付け)を12月中に実施する。

旭化成が1000億円を超える大型M&Aに取り組むのは2015年、リチウムイオン電池材料メーカーの米ポリポアを約2600億円で傘下に収めて以来。米では昨年も自動車内装材大手の米セージ・オートモーティブ・インテリアズを約790億円で買収している。

 

アイカ工業は、メラミン化粧板大手の米ウィルソナート傘下でタイ、豪州、中国、香港の4カ所にある現地事業会社の全株式を取得し、子会社化することを発表した。取得金額は4社合計で約162億円。

これとは別に、ベトナムのメラミン化粧板販売会社CHIグループ8社の事業を取得することも決めた(取得額は非公表)。アジア・オセアニア地域で新たな生産拠点や販売網を獲得し、海外での建装事業を拡大するのが狙いだ。

 

コクヨとプラスの「ぺんてる」争奪戦

 

国内M&Aで今年一番のニュースとなったのが「ヤフー」展開のZホールディングス(HD)とLINEの経営統合。2020年10月までに統合完了を目指す。実現すれば、約1億5000万人の利用者を持つ国内最大規模のITプラットフォーマーが誕生する。世界を席巻する「GAFA」に代表される海外IT企業に対抗したい考えだ。

ZHDの親会社であるソフトバンクと、LINEの親会社である韓国ネイバーが折半出資する企業の下にZHDを置き、ZHDにはヤフーとLINEの事業を引き継いだ新会社がぶらさがる形となる。

敵対的買収の様相を呈しているのがコクヨによるぺんてるの子会社化。コクヨがぺんてる株式を追加取得し、子会社化する方針を発表したのは11月15日。1株3500円で既存株主から37.8%の持ち株比率を50%超に引き上げる内容だったが、ぺんてる経営陣の賛同を得たうえで同業大手のプラスが同じく3500円でぺんてる株の買い付け(上限は33.4%)に参戦したのだ。

コクヨはその後、買付価格を2度引き上げ、4200円とした。買付代金は46億1000万円以上。

プラスによる買付期間は12月10日で、コクヨはその前日の9日を実質的な買付期間として決着を図りたい構え。ただ、仮に、ぺんてるがコクヨの買い付けを阻止できたとしても、コクヨは3分の1以上の株式を保有するため、筆頭株主の意向を無視できるわけでもなく、難しい経営のかじ取りが予想される。

 

 

焼肉など外食で買収が活発に

 

業種でみると、外食でM&Aが活発だった。チムニーが都内を中心に焼肉「牛星」など11店舗を展開するシーズライブ(東京都渋谷区)を、フジオオートシステムはそば専門店「土山人」7店舗を運営する暮布土屋(兵庫県芦屋市)を子会社化すると発表した。

また、SRSホールディングスは、エイチ・ツー・オーリテイリング傘下で飲食店運営の家族亭(大阪市)とサンローリー(大阪市)の2社を傘下に収める。

小売業では、エコスが埼玉県で食品スーパー15店舗を運営する与野フードセンター(さいたま市)を子会社化するほか、コーナン商事はパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(旧ドンキホーテホールディングス)傘下のドイト(さいたま市)からホームセンター事業(15店舗)を事業を取得する。

コーナン商事は近畿を主力地盤とするホームセンター大手で、近年、首都圏での事業基盤拡充に注力中。今年6月にはLIXILグループ系の建築資材卸の建デポ(東京都千代田区)を239億円で買収している。