東急ハンズのアバター接客

コロナ禍において、サービス業も変化を余儀なくされている。

 

政府が提唱する「新しい生活様式」の中にも、店舗の従業員や他の顧客とのコミュニケーションを極力避けることが望ましいと明示されている。

 

このような中、AI顔認証エンジンとアバターを用いた遠隔接客による「コンサルティングセールス」を実現するための「アバター接客」の実証実験が行われた。

参考:https://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2020/101400/

 

今回は、この実証実験を通じた人とAIのハイブリッド接客について掘り下げる。

 

withコロナ時代の新しい接客を目指して

2020年10月14日、AIと顔認識技術のパイオニアであるサイバーリンク株式会社(以下、サイバーリンク)は、株式会社NTTデータ(以下、NTTデータ)が株式会社東急ハンズ(以下、東急ハンズ)と協力して行うデジタルストアの実証実験にAI顔認証エンジン「FaceMe®」を提供したことを発表した。

 

同実証実験は、第1回として2020年6月1日から15日まで東急ハンズの1店舗で行われ、今回は第2回として2020年10月16日から12月15日までの約2か月間にわたり、店舗を3都市5店舗に拡大して実施された。

 

実証実験の背景には、小売業界の店舗戦略の見直し、スタッフ不足の解消、コンサルティングセールス・接客の品質維持、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策といった狙いがある。

 

小売業等のサービス業では、ウィズコロナ時代において接触を避けた接客が求められる中、いかに消費者とコミュニケーションをとるかが課題となっている。

 

また、国や自治体による休業要請など、社員を感染リスクのある場所から遠ざける配慮も同時に求められるようになった。

 

このような中、NTTデータと東急ハンズは遠隔接客の本格導入に向けた検討を進めるため、今回実証実験を行うことになった。

 

アバター接客の仕組み

本実証実験は、東急ハンズ3都市5店舗にアバター特設ブースを設営し、アバターを介した接客を行った。

 

接客は美容やコスメに精通した専門スタッフが担当し、商品の使用用途や消費者の肌の状態などから最適な商品を紹介する。

 

接客に対応するスタッフは働く場所を限定しないため、自宅など様々な場所で対応することができ、まさにwithコロナ時代の働き方を実現する取り組みと言える。

 

本実証実験では、サイバーリンクが開発したAI顔認証エンジンであるFaceMe®が活用されている。顔認証エンジンは一般的に本人の識別等の目的で使用されることが多いが、今回の実証では、FaceMe®が遠隔接客では収集しづらいとされてきたお客様の属性情報(性別、年代)、感情等の定性データの収集に用いられた。

 

このように、専門知識を持ったスタッフとAI技術により、「アバター接客」の環境は構築されている。

 

コロナ禍における接客のサステナビリティ

6月に行われた1回目の実証実験では、接客スタッフには本社の専用端末からの遠隔接客という店舗に依存しない新たな働き方の可能性が示された。

 

今回の実験ではウェブブラウザ上で接客操作を実施できるため、専用端末にアプリをインストールする必要がない。普段利用しているパソコンやタブレット端末があれば、店舗のバックヤードや自宅などの様々なロケーションからの接客が可能となった。

 

利用者へのアンケート結果でも好意的な回答が多かった。アバター接客の感想としては、「アバターのほうが気軽に話しかけられる」「説明と商品画像がセットでわかりやすい」「他のお店にもいてくれたら助かる」「友達にも紹介したい」など接客品質への満足度が伺える。

 

コロナ禍においては、消費者だけではなくスタッフも接触機会を減らし、社会全体が感染リスクを減らすために取り組む必要がある。

 

先の見えないコロナ禍において、アバター接客は消費者、スタッフ両者にとってサステナブルで実現可能な接客方法であることを示している。

 

接客情報をデータ化し、品質向上へ

既存の店頭接客モデルでは消費者の反応をダイレクトにデータ化することが難しいため、PDCAサイクルを回すのが難しいという課題があった。

 

アンケート調査により接客品質へのフィードバックをもらうことは可能だが、文章化できない情報も多く、また、特定の消費者からしかフィードバックしてもらうことができないため、現場の接客対応をきめ細かく改善するための材料としては十分でない面もあった。

 

一方、本実験で使用されたFaceMe®では、接客中のお客様の性別や年齢層、感情を推定したデータを取得できる。

 

接客データを一元管理することで、実際の接客コミュニケーションの内容を接客スタッフで共有することができ、組織としてPDCAサイクルを回すことが可能になっている。

 

接客はこれまで属人的で共有が難しいものとされていたが、IT技術を掛け合わせることでデータ化が可能になれば、集められたデータは品質向上への貴重な財産となるだろう。

 

接客はAIと人が共創する時代に

接客はこれまでIT技術が馴染まない分野と見なされてきた。表情や瞬時の対応は属人的な要素を多く含んでおり、消費者からのフィードバックもアナログな手段を取らざるを得なかった。

 

しかし今回、FaceMe®により感情を推定したデータや会話内容などを蓄積、共有できるようになり、接客に関する情報をビックデータとして品質向上に活用する道が切り拓かれた。

 

また、本実験では人とAIが共創して接客品質を高める仕組みになっていることも示唆に富むものだ。

 

接客には人の表情や会話など言語・非言語コミュニケーションの要素を多分に含んでおり、技術は人同士のコミュニケーションをより円滑にしたり、遠距離でもすぐそこにいるように再現するために導入されている。

 

今後さらに技術が進めば、アバターによる遠隔接客により、FaceMe®のAIが非言語コミュニケーション情報をリアルタイムに収集し、その解析結果に基づき遠隔地のスタッフにアドバイスする仕組みが構築されれば、対面接客時と同様、あるいはそれ以上のコンサルティングセールスが可能となるかもしれない。

 

コロナという大きな逆風の中で、接客スタッフと消費者の間でwin-winな関係を構築するAI技術を用いた取り組みに今後も期待したい。

 

 

江連良介 

ライター・編集者。1989年、北海道札幌市生まれ。地方公務員を経験後、政策ライターとして独立。現在は政策、金融、法律、テクノロジーなど幅広い分野で執筆活動を展開。書籍『新型コロナウイルスお金の対策 実はあなたももらえる給付金補助金』、『米国株ナビ』編集長など。最近の関心分野はTech×行政領域。