FACE

顔認証技術のパイオニア「サイバーリンク株式会社(以下サイバーリンク)」。同社のAI顔認証エンジン「FaceMe®」は、2018年のリリース以来、米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテストで好成績をおさめるなど、世界最高水準の技術として評価されてきた。

2021年4月、サイバーリンクはFaceMe®に、「e-パスポート対応」や世界最上位レベルの「第6世代顔認証モデル」などを搭載したと発表した。

これまで公共機関や民間施設のセキュリティ対策などで導入されてきたFaceMe®の顔認証技術のさらなる精度向上により、さまざまな産業分野での活用が期待される。

今回はFaceMe®に搭載された新たな機能について詳しく掘り下げる。

顔認証によるeKYCはなぜ優れた認証方法なのか

eKYCとは「electronic Know Your Customer」の略であり、電子的な本人確認のことを指す言葉だ。

従来、金融機関などで行われてきた口座開設などのシーンでは、書類による本人確認手続き(KYC)が行われてきた。

この手続きにeKYCを導入し、オンライン上で手続きを完結させることより、顧客はアナログな手続きの手間を省くことができ、企業は本人確認のさまざまなコストを削減できる。

eKYCには本人確認のために生体認証技術が活用されている。金融機関がeKYCで使用する生体認証は主に、指紋認証、虹彩認証、顔認証の3つだ。

このうち指紋認証では、認証する際にデバイスとの物理的な接触が必要となるため、使用を続ける中で衛生上の問題に気を配る必要がある。認証精度を保つ上でも、皮脂などを原因とするセンサーの識別エラーに対処しなくてはならない。

また、虹彩認証は高速かつ高精度の認証が可能だが、対応するカメラが限られており、導入コストが高額になるというデメリットがある。

上記2つに比べ、顔認証は市場で普及している安価なカメラで導入が可能であり、物理的な接触を回避できるため衛生面でも優れている。

高精度なAI顔認証開発環境を提供するFaceMe®

さまざまな業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれる中、金融業界なども従来の本人確認ではなく、顧客の利便性と安全性を両立した新しい本人確認の方法を取り入れる必要がでてきた。

そこで導入されているのがeKYCによる本人確認だ。FaceMe® は顔認証アプリケーションをスマートフォンやタブレットなどのエッジデバイスに実装することができ、デバイスから生体認証と本人確認を行うことができる。

FaceMe®は高度なディープラーニング AI(人工知能)技術を採用した顔認証エンジンとして、米国国立標準技術研究所(NIST)の顔認証技術ベンチマークテスト(VISA、WILD テスト)で常に世界ランキング上位にランクインしている。

FaceMe®は、映像から人の顔の位置を正確に検出する顔検出や、顔の特徴を抽出し、データベースから個人を識別する顔認識などのシステム開発に活用できる。

また、マスクを着用した状態でも顔認証ができるようになっており、病院や工場など常時マスクを着用する環境においても非接触による生体認証を行うことが可能となる。

FaceMe®は企業の勤怠管理やアクセスコントロール、公共機関の本人確認などに活用されているほか、顧客のパーソナライゼーションなどのリテールマーケティングにも導入されている。

金融機関における顔認証技術のプロセスと活用例

金融機関における顔認証技術のプロセスは、①デバイスで身分証明書を撮影、②個人の顔をリアルタイムで撮影、③両者を比較して照合、という手順で進める。

金融機関で顔認証によるeKYCを使用するシーンとしては、銀行口座の開設やATMでのカードレス取引、保険契約の申請などが考えられる。

銀行口座の開設では、銀行店舗やオンラインにて上記のプロセスを踏むことで、銀行システム上で顧客の財務状況を確認できるようになる。eKYCによるチェックを通過した顧客は口座開設の手続きが可能となる。

ATMに顔認証を導入するためには、ATM内蔵のカメラで顧客の顔写真を撮影する必要がある。撮影された写真と銀行のデータベースに登録された情報を照合後、二段階認証のために暗証番号を入力してもらえば顧客はATMでの取引が可能になる。

e-パスポート対応で旅行がますます便利に

今回のリリースでは、FaceMe®が、パスポートのICチップに記録された情報を使用した本人確認に対応したことも発表された。

まず、パスポートの顔写真のあるページ下部の機械読取領域をOCR(光学的文字認識)で読み取った情報と、ICチップ内の情報を照合すれば、パスポートが本物であるかを確認できる。

さらに、スマートフォンのカメラを使用して、撮影した顔とICチップ内の顔写真を照合することで、本人確認をすることも可能となった。

FaceMe® にはなりすまし防止機能が備わっており、複数のバイオメトリクス認証技術によって写真を使用したなりすまし行為を探知することができる。

例えば、2Dカメラによる表情やまばたきの検知、3Dカメラによる奥行検出などの技術がなりすまし防止に活用されている。

これらの技術により、写真などの不正利用を防止し、目視による本人確認に代わってより、確実ななりすまし防止が可能となる。

第6世代顔認証モデルの搭載

FaceMe®には導入するプラットフォームによって、さまざまなモデルを用意している。

FaceMe®では今回、世界最上位レベルである第6世代の顔認証モデルをUltra High Precision モデル(UH)、Very High Precision モデル(VH)、High Precision モデル(H) に採用した。

これにより、サーバー・ワークステーションやPC、モバイルなどさまざまなプラットフォームでさらなる高精度な顔認証が実現できる。

導入された第6世代顔認証モデルは、NIST(米国国立標準技術研究所)のテストにおいて、世界市場への展開に制限がある中国、ロシアのベンダーを除外すると、世界最上位の技術水準にあると認められている。

iOSデバイスの3D生体認証にも対応

今回の発表によると、FaceMe®は、iPhone、iPad Pro のFace IDで使用されている3Dカメラを活用して3Dなりすまし防止機能を使用できるようになったという。対応機種はiPhone X~12(Pro、Max含む)、iPad Pro 11インチ、 12.9インチだ。

これにより、iOSデバイスでも、第三者が認証時に本人の顔写真を悪用するなどのなりすまし行為を防止できるようになった。

そのほかにも、2Dなりすまし防止機能の精度向上(Ubuntu / Jetson / Android / iOS)などの機能も強化されている。

このように、サイバーリンクはFaceMe®で、私たちの生活の中で顔認証技術が広く利用可能になるサービスを展開しており、今後もモバイル端末を含めたさまざまなデバイスに対応することが期待される。

顔認証技術の普及により、今後もeKYCによる本人確認の利便性が向上することに期待したい。

 

<プロフィール>

江連良介

ライター・編集者。1989年、北海道札幌市生まれ。政策、金融、法律、テクノロジーなど幅広い分野で執筆活動を展開。最近の関心分野はGovTech分野など。