全研本社が7月末に実施した日本企業のIT(情報通信)エンジニアを対象としたアンケート調査によると、給与水準は「年500万以上600万円未満」との回答が最も多かった。専門知識や技術が必要とされるITエンジニアは、企業経営者も給与面で一定の優遇をしているとされる。しかし、IT人材からは「現在の給与水準に満足していない」との回答が4割超に達し、「満足している」の約3割を大きく上回った。日本では物価高などを背景に実質賃金のマイナスが続いており、ITエンジニアの仕事量も増えているとみられる。企業への賃上げ圧力は今後、さらに強まりそうだ。

 

春闘は30年ぶりの賃上げ率も・・・「1年前から年収の変化なし」が6割

調査は全研本社が全国のITエンジニアを対象に7月28~30日に実施し、200件の回答を得た。アンケートで現在の年収を聞いたところ、最も多かったのは「500万円以上600万円未満」で22%だった。「400万円以上500万円未満」が16%、「700万円以上800万円未満」が14.5%で続いた。「1000万円以上」との回答も11%に達した。「300万円未満」は4.5%にとどまった。

日本の平均年収が400万円台半ばだということを考えれば、今回のアンケートの回答者の多くは平均以上の年収を得ている。年収1000万円以上の人の比率も1割以上と比較的高い。しかし、「現在の給与水準に満足しているか」と質問したところ、「はい」と答えたITエンジニアは31.5%にとどまった。「いいえ」の44.5%を大幅に下回った。「どちらともいえない」と答えた人の比率は24%だった。

 

「1年前と比べて年収の変化があったか」については「いいえ」との答えが59.5%と過半数を占めた。「下がった」も7%あり、「上がった」は33.5%にとどまった。23年の春季労使交渉(春闘)での賃上げ率は30年ぶりの高水準に達したが、今回のITエンジニアへのアンケートでは賃上げとなった人はむしろ少数派だった。有能な人材確保に向けて賃上げする大企業が増えている反面、中小では賃上げできるだけの余裕のない企業も多いとみられる。比較的賃金の高いITエンジニアについては企業が積極的に賃上げをしていない可能性もある。

 

賃上げ希望は8割、理由は「物価上昇」が最多 「仕事と賃金見合っていない」も

「賃上げを希望しているか」と質問したところ、「はい」と答えた人は78.5%。「いいえ」は21.5%に過ぎなかった。

「賃上げを希望する理由」について聞いたところ、最も多かった回答は「物価上昇に対応するため」で49%だった(複数回答)。厚生労働省によると物価変動の影響を差し引いた実質賃金は、去年の同じ月と比べて1.6%減り、15か月連続のマイナスとなった。円安などを背景に物価が上昇していることが、一定水準の給与を得ているITエンジニアの家計にも重くのしかかっているものとみられる。

2番目に多かったのは「仕事内容と賃金が見合っていないため」で44.6%だった。「労働時間と賃金が見合っていないため」も27.4%、「同業他社と比べ賃金が安いと感じるため」も18.5%の人があげた。自らの仕事が正当に評価されていないと感じているITエンジニアが多くいるとみられる。

 

IT人材不足の実感、現場でも64%

人手不足の中で賃金への不満は、離職や転職にもつながる。IT人材が職場環境と賃金のアンバランスに不満を持てば、別の職種に流出することも考えられる。一方でIT職場の人手不足は深刻さを増している。「IT人材の不足を実感しているか」との質問に対して「はい」との回答が64%を占め、「いいえ」の16%を大幅に上回った。

 

「人手不足を感じる理由」については「必要なスキルを持っている人が社内で見当たらないから」が52.3%でトップ(複数回答)。「IT人材が採用できないから」(35.9%)、「IT人材の離職数が多いから」(32%)がそれに続いた。労働市場の需給バランスが崩れていることがうかがえる。「社員をIT人材に育成することが難しいから」「土日出勤や残業が多いなど仕事が忙しいから」との回答も2割を超えた。

 

将来の人手不足はさらに深刻だ。経済産業省は、日本国内のIT人材は2030年に最大で79万人不足すると予測している。全研本社が今年2月に実施した中小企業の経営者を対象としたアンケートでは「物価上昇が続いているが、すでにいるIT人材の賃上げを考えているか」との質問に対して「考えている」との回答が65%に達した。企業が有能な人材の離職を防ぐため、賃上げに積極的な姿勢を示すことができなければ、人手不足は加速するとみてよさそうだ。