コラム

福岡 天神にドゲンジャーズ降臨。エムマーケットエージェンシーが仕掛ける若者投票率向上の奇策

2026.02.15
ドゲンジャーズが衆院選の投票を呼び掛ける
画像出典:株式会社エムマーケットエージェンシー プレスリリース

政治とエンターテインメントは、本来水と油の関係にあるとされることが多い。前者が求めるのは厳格な公平性であり、後者が追求するのは大衆の熱狂だからだ。しかし、ここ福岡の地において、その境界線は軽やかに踏み越えられようとしている。

突如現れたヒーローの目的と正体は

5日、福岡・天神の目抜き通りに、異色の光景が広がった。真紅の鎧をまとったヒーロー「ルーキー」と、あからさまに悪役の風体をした「ヤバイ仮面」が、道行く人々にティッシュを配り歩いている。彼らが呼びかけているのは、悪の秘密結社の勧誘でもなければ、ヒーローショーの告知でもない。「選挙に行こう」という、極めて真っ当な民主主義の行使である。

株式会社エムマーケットエージェンシー(福岡市)の発表によると、これは8日投開票の衆議院議員総選挙に向けた、福岡市選挙管理委員会による街頭啓発活動の一環だったのだという。ドゲンジャーズ製作実行委員会(主幹事:同社、代表取締役:下青木秀輝氏)が協力し、若年層の政治参加という長年の課題に、キャラクターの求心力で挑む試みである。

「無関心」という最大の敵と戦う

選挙啓発といえば、タスキをかけた候補者や行政職員による呼びかけが常だが、若者にとってそれは「風景」の一部として素通りされがちだ。そこに、九州のローカル局で6年にわたり放送され、確固たる認知度を持つ「ドゲンジャーズ」を投入する。その狙いは明確だ。

「選挙を『他人事』から『自分事』へ、さらに言えば『ネタ』として消費できるレベルにまで身近に引き寄せること」。現場で足を止める若者や親子連れの姿からは、そんな意図が透けて見える。事実、ドゲンジャーズと福岡市選管のタッグは今回が初めてではない。2025年の参議院選挙では、投票済証のデザインに彼らが採用され、SNSを中心に大きな話題を呼んだ実績がある。

エムマーケットエージェンシー・下青木秀輝氏の戦略

特撮番組を制作するエムマーケットエージェンシーの下青木秀輝代表らが描くのは、単なる「客寄せパンダ」としてのキャラクター利用ではないだろう。同社は創業以来、エンターテインメントと地域経済、地方文化の一体化を掲げてきた。

「ヒーローが街のために戦う」というフィクションを、「選挙に行って街を良くする」というリアルな行動に接続する。この文脈の巧みさこそが、彼らの真骨頂である。悪役であるヤバイ仮面が「投票に行かないとイタズラするぞ」とでも言いたげに啓発活動に参加する皮肉も、堅苦しい選挙というイベントに絶妙なスパイスを加えている。

民主主義のアップデートへ

8日に投開票が行われた今回の衆院選。今回の街頭啓発が最終的な投票率にどのような影響を与えたのか、その詳細な分析は今後の公式発表を待つ必要がある。

しかし、数字以前に確かな成果がある。それは天神の街頭において、政治への入り口が義務としてではなく楽しさとして提示され、多くの若者がそれに反応したという事実だ。期日前投票の利用も呼びかけられた今回の活動は、投票所への物理的・心理的なハードルを下げる一助となったことは想像に難くない。

ヒーローは、怪人と戦うだけが能ではない。無関心という最大の敵から民主主義を守るために、彼らは今日も街に立ち続ける。

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