
東京都大田区は、区民生活の質の向上とSDGs推進を掲げ、スタートアップ企業と連携した実証実験を開始した。
ボーンレックス(東京都千代田区)の発表によると、同社が受託運営する大田区実証実験促進事業「HOIP(Haneda Ota Innovation Platform)」において、PIJINおよびRYDEとの連携による実証実験が1月より順次スタートしている。イノベーションモデル都市を目指す大田区が、行政サービスの多言語化と二次交通のデジタルトランスフォーメーション(DX)という、現代の地域社会が直面する二つの大きな課題に挑む格好だ。
羽田空港を擁し、国際化が急速に進む大田区において、言語の壁は行政サービスにおける喫緊の課題である。株式会社PIJINは、独自の多言語対応ソリューション「QR Translator」を活用し、外国人住民への正確な情報提供を支援する。
具体的には、区民部国保年金課と連携し、国民健康保険料納入(変更)通知書に同システムを導入。さらに、環境清掃部清掃事業課とは、区内全域で実施されるプラスチック分別回収制度の周知に活用する。いずれも15言語に対応しており、ユーザーのスマートフォンなどの端末設定言語に合わせて、自動で情報が表示される仕組みだ。印刷物の削減によるコスト低減と、誰一人取り残さない行政サービスの両立を図る。
PIJINの高野公晃氏は「大田区は都内でも急速に国際化が進んでいる地域。ごみと資源の分別や国民健康保険といった、日常生活に欠かせない広報物の多言語対応にチャレンジすることで、区が掲げる多文化共生推進プランに貢献したい」と、本実証への意気込みを語っている。
大田区側も、外国人加入者が増加傾向にある国保制度の理解促進や、新たなプラスチック分別ルールの徹底による公衆衛生の維持、ごみの減量に強い期待を寄せている。
一方、交通不便地域の解消を目的として大田区が平成21年から運行してきたコミュニティバス「たまちゃんバス」の利便性向上を担うのが、RYDE株式会社である。同社はモビリティプラットフォーム「RYDE PASS」を提供し、乗車券のデジタル化を通じたキャッシュレス決済を実現する。
まちづくり推進部都市計画課との連携によるこの取り組みは、単なる決済の電子化にとどまらない。RYDEの杉崎正哉代表取締役は「お客様がスマートフォン一つで乗車券の購入から利用までを完結できる利便性はもちろん、販売元である大田区様にとっても、利用動向などマーケティングに有用なデータを取得できるメリットが大きい。これらを活用し、より使いやすい商品開発と継続的なサービス提供を目指したい」と、データ駆動型の公共交通アップデートを見据える
大田区都市計画課も、運転手不足や生活様式の変化で公共交通事業が厳しい局面にある中、データに基づく政策やプロモーションの効果検証が可能になる点を高く評価している。将来的な地域公共交通全体の利便性向上を目指す上で、重要な試金石となる。
今回の取り組みの背景には、大田区が内閣府の「SDGs未来都市」として選定されている事実がある。羽田イノベーションシティをハブとし、社会課題解決のテストベッド(実証の場)として機能させる狙いだ。単なる技術検証にとどまらず、社会実装までを一気通貫で支援するボーンレックスの存在が、このエコシステムを下支えしている。
多国籍化による情報格差の是正と、地域交通インフラの持続可能性。大田区が提示するこの実証モデルは、同様の課題を抱える全国の自治体にとって、注視すべき先行事例となるだろう。