コラム

資生堂 AIで生分解性評価と安全性情報識別を革新。環境配慮と研究効率化を両立へ

2026.02.25
資生堂DX

100年を超える研究開発の歴史を持つ資生堂が、デジタルトランスフォーメーション(DX)による新たな一歩を踏み出した。

資生堂は25日、研究開発領域においてAIを活用した2つの新技術の開発に成功したと発表した。一つは環境負荷を低減する「化粧品原料の生分解性評価法」、もう一つは膨大なデータから必要な知見を抽出する「安全性情報識別システム」である。

同社の発表によると、これらの技術は従来、熟練研究者の経験則や膨大な時間に依存していたプロセスを劇的に効率化し、サステナビリティと安全性の両立を加速させるものだという。

開発期間を「月単位」から「即時」へ。NITEと挑む環境対応

化粧品業界において、環境への配慮はもはや「付加価値」ではなく「前提条件」となりつつある。特に、製品が使用後に自然界で水や二酸化炭素に分解される「生分解性」を持つ原料の選定は喫緊の課題だ。しかし、従来の試験法では結果が出るまでに約1〜2か月を要し、コストもかかる上、評価者の経験に左右される側面があった。

このボトルネックを解消するため、資生堂は独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の協力を得て、AIを用いた予測評価法を確立した。

資生堂によると、この技術の核となるのは、経済産業省の委託事業で開発された「分解性AI-QSAR(定量的構造活性相関)」モデルである。化学物質の構造から、その物質が生分解されるかどうかをAIが予測する仕組みだ。資生堂はこれを化粧品成分に応用するため、新たに実測データを蓄積し、モデルの最適化を行った。

結果として、高度な専門知識や長期間の試験を必要とせず、即時に評価結果を得ることが可能になったという。これは単なる時短ではない。開発サイクルの高速化は、より環境に優しい新素材の採用機会を増やし、業界全体の環境負荷低減に寄与する可能性を秘めている。

膨大な文献の海から「真実」を救い出すAIの眼

もう一つの成果は、消費者の安全を守るための技術革新だ。資生堂は1963年に安全性研究部門を設立して以来、厳格な基準を設けてきたが、その裏側には膨大な労力が隠されている。

新規原料の採用にあたっては、世界中の文献や毒性情報などの既存データを網羅的に調査する必要がある。情報不足であれば、優れた機能を持つ原料でも採用を見送らざるを得ないケースもあった。

今回開発された「安全性情報識別システム」は、この「情報の選別」をAIが担う。同システムは、反復投与毒性や皮膚感作性といった重要項目について、文書の中から関連性の高い情報を高精度で識別・抽出する。

これにより、属人的な見落としリスクが低減されるとともに、専門家は最終的な判断や、より創造的な研究にリソースを集中できるようになる。なお、本研究成果は2024年の日本動物実験代替法学会第37回大会で発表され、大会長特別賞を受賞するなど、学術的にも高い評価を得ている。

「経験」と「データ」の融合が拓く未来

資生堂が掲げるR&D理念「DYNAMIC HARMONY」は、相反するように見える価値の調和を目指している。今回の発表は、まさに「伝統的な研究知見」と「最先端のデジタル技術」の融合と言えるだろう。

環境対応と安全性保証。これらは企業の社会的責任(CSR)の範疇にとどまらず、今や競争力の源泉である。AIをテコに研究開発の基盤を強化した資生堂が、今後どのような革新的な製品を市場に送り出すのか。業界共通の基盤展開も含め、その動向が注目される。
(文責:綿引 亮介)

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