
大阪府枚方市に本部を置くNPO法人S.O.L.(ソル)が、スリランカにおけるデング熱被害の軽減に向け、日本発祥の文化である網戸を応用した簡易網戸「AMIDO」の導入支援を本格化させている。
同法人の発表によると、2025年末から2026年1月にかけて実施されたクラウドファンディングの支援を元に現地入りし、国立病院での試験導入やスリランカ保健省との連携など、着実な成果を上げつつあるという。
日本の当たり前が通用しない異国の地で、深刻な医療課題にどう立ち向かっているのか。現地からの報告を紐解く。
プロジェクトの第一歩として同法人が訪問したのは、スリランカ有数の医療機関であるクルネーガラ・ティーチング・ホスピタルだ。
スリランカの医療機関は大部分が国立であり、国民は無料で医療サービスを享受できる。しかし、その恩恵の裏で、病院は常に多くの患者を抱え、特にデング熱が流行する時期には医療体制が激しく逼迫する。同法人が視察に訪れた際も、すでにデング熱の流行が始まっており、病室に入りきらない患者が廊下にまであふれ返っていた。廊下のベッドに横たわる患者たちは、およそ2週間にわたりベッドから降りることすら許されない過酷な療養生活を強いられている。
「子ども病棟に足を踏み入れた瞬間、あちこちから聞こえる苦しそうな泣き声に胸が締め付けられた」と、現地の惨状を目の当たりにした関係者は振り返る。蚊を媒介とするデング熱から患者を守るためには、物理的に蚊の侵入を防ぐ手立てが急務であった。
病院長からはAMIDOの導入に向けた前向きな協力を得られたものの、実際の設置作業は困難を極めた。最大の障壁となったのは、建物の老朽化である。日本の一般的な住宅のように壁に直接取り付けることができず、現地の状況に適応した新しい設置方法を模索する必要に迫られた。
そこで同法人が考案したのが、現地の環境に合わせた木枠の製作と、そこにAMIDOを設置する手法だ。しかし、ここでも文化や労働習慣の違いという壁が立ちはだかる。現地の職人に木枠の製作を依頼したものの、予定通りに作業が進まないことも珍しくない。「本当に間に合うのか」という不安と焦りが募るなか、同法人のスタッフたちは採寸から粘り強く関わり、現場の状況に合わせた微調整を繰り返した。日本で容易にできることが全く通用しない環境下において、綿密な準備と現地への深い理解がいかに重要であるかを浮き彫りにするプロセスだったと言える。
現場での泥臭い試行錯誤が続く一方で、プロジェクトの将来を左右する大きな前進もあった。スリランカ保健省との連携である。
スリランカの病院は前述の通りその多くが国立であるため、全土への普及を目指すには行政の理解が不可欠となる。同法人はデング熱対策を担う専門機関と面談の機会を得て、AMIDOの有効性についてプレゼンテーションを実施した。結果として、保健省側からは同プロジェクトに対する強い関心と期待が示され、今後の普及に向けた重要な資料提供や支援の申し出を受けるに至った。
行政側からは「病院での実証的な導入を進めることが、今後の制度化や拡大の可能性に繋がる」との見解も示されており、草の根の支援活動が国家レベルの感染症対策へと発展する可能性を秘めている。
現在、病院側からの意向もあり、すべての病室への一斉導入ではなく、一部での試験導入を経て段階的に拡大していく方針が採られている。すでにカーテン式AMIDOの設置は完了しており、現場の看護師からも実用性の高さにおいて好評を得ているという。
今後は、この試験運用を通じて効果検証と改善を進め、本格展開に向けた体制づくりを急ぐ構えだ。蚊帳や虫除けといった日本の伝統的な知恵と技術が、東南アジアの深刻な社会課題を解決する糸口になるかもしれない。NPO法人S.O.L.の挑戦は、海外進出を目指す日本の組織にとって、現地への適応力と行政巻き込み力の重要性を示す好例となるだろう。
(文責:綿引亮介)