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盲導犬「オレオ」号と歩む歌の道 

歌手  八汐由子

1回「盲導犬育成のために」

◆取材・文:小川 心一

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盲導犬と立つステージ

犬と共にステージに立つ歌手がいる。八汐由子さん。歌謡曲からシャンソン、フォークやソプラノとレパートリーは幅広い。

そのステージには常に黒いラブラドール・レトリーバーが寄り添っている。名前は『オレオ』号。メスの盲導犬だ。オレオのステージはなかなか堂々としたもの。演奏や歌の大音量にも、大勢の観客にもまったく動じる様子はない。飽きているわけではないのだろうが、途中でゴロンと横になったりする姿は、図らずも会場を和ましている。

八汐さんがステージ上で語るオレオとのエピソードからは、彼女がこの犬に傾ける愛情の深さと、オレオの優しさが伝わってくる。

 

 

盲目の歌手・八汐由子さん

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八汐由子さんは、昭和49年読売テレビ『全日本歌謡選手権』に出場、見事10週勝ち抜きで第35代チャンピオンとなった。その時の審査委員長・船村徹先生にスカウトされ翌昭和50年に歌手デビューを果たした。

先天性の「網膜色素変性症」という目の病気を隠して歌手活動を続けてきたが、病気の進行のため平成20年からは歌謡界で初めて盲導犬と共にステージに立つようになった。

 

「今でも完全に見えないってわけではありません。いわゆる視野狭窄なんです。子供の頃から徐々に見えなくなっていきました。現在は真っ正面にあるものはかろうじて感じることができる程度です」

そう語る八汐さんは、見た目にはとても目が不自由な方とは思えない。

 

「私のステージの司会は荒木おさむさん(漫談家。故三波春夫をはじめ、船村徹、中村美律子、鳥羽一郎など、多くの歌手のステージで司会を務める)にお願いしていたんですが、私のことをじっくり見ていてくださっていました。平成17年に『由子さん、もう目のこと皆さんに話したら?』とアドバイスしてくださいました」

それまで、スタッフが目の不自由な八汐さんのためにいろいろな工夫を施してきたが、それにも限界が来ていた。

 

「人から目が不自由でお気の毒と思われるのがいやで、ずっと隠して活動してきました。ですがもう隠し通せなくなってしまった。ステージで強いライトを浴びたりするのも目には悪かったようです」

そんな頃、ある人から『あなたの個性って何?』と問われた。目が見えないことですと打ち明けると『だったらその個性をもっと活かしたら』と言われ、気持ちが固まっていった。

 

 

盲導犬育成チャリティーコンサート

 

盲導犬について、最近ではずいぶんと知られるようになってきたし、法律も整備されてきている。だが、我々はなかなか街中で盲導犬に出会うことがない。絶対数が足りていないからだ。

盲導犬育成には多額の資金が必要だが、公的助成は少ない。育成に必要な費用の9割は一般からの支援で賄われているそうだ。

 

「私の目のことを知って、地元大分で盲導犬育成を応援している団体から啓蒙に力を貸して欲しいとお願いされました。やっぱり盲導犬を必要としている人間の言葉には説得力があるからでしょうね」

そうなると、八汐さん自身が盲導犬ユーザーでなければ不自然だし、何より必要なところまで病状も進んでいた。

 

「平成17年に盲導犬貸与の申請をしました。ですが、実際に手元に来るまでに3年はかかると言われてしまった。それほど待っている方がいらっしゃるということです。これは何としても盲導犬育成に協力しなければと思いました」

 

今、彼女が最も力を入れているのが盲導犬育成のためのコンサート活動だ。平成18年からスタート。平成21年からはすべて彼女自身のプロデュースで開催している。

「この盲導犬育成チャリティーコンサートは私自身の手作りです。会場選びから出演者の交渉、音響や照明の手配、印刷物のディレクションまで全部私一人でやっているんですよ。チケットも自分で販売し、構成演出もやっています」

今年は4月に「大正ロマンと昭和レトロ」をテーマとして開催。大好評を博した。もちろん、『オレオ』号もその存在感を存分に発揮していた。(次号へ続く)

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●プロフィール

やしお・ゆうこ…大分県大分市生まれ。高校卒業と共に歌手を目指し上京。昭和49年に『全日本歌謡選手権』で10週勝ち抜きチャンピオンとなる。昭和50年日本コロンビアより歌手デビュー。現在、盲導犬『オレオ』号と共にステージを務める。

 

2013年9月号の記事より

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