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外国人従業員の採用とその後―賃金設定はどうしたらいい?

◆文:四ノ宮美紀子(四ノ宮行政書士事務所)

 

『外国人建設労働者の賃金是正 政府方針「日本人と同等」義務づけ』―人材不足が深刻な建設業界で、政府は外国人を技能実習生として受け入れる制度を拡大する方針を発表しましたが、この制度運用で受け入れる外国人労働者の賃金について、同じ技能を持つ日本人と同じ水準以上の給与を支払うよう、受け入れ先の企業に義務づけることを8月7日までに決定しました。

技能実習制度に対しては「外国人が日本人の代わりに低い賃金で働いている」との批判があり、こうした声や慣習から、「外国人労働者は低賃金で働いている」という思い込みをされる方も少なくありません。でも、実はそれは大きな間違い。今回は、外国人従業員の採用と、報酬の支払いに関する注意点についてお話しします。

賃金設定は日本人従業員と同様が大原則

例えば、海外に現地法人をもつ企業が従業員を日本へ出向させる場合や現地で採用して日本へ連れてくる場合、その外国人従業員の母国と日本とでは大きく貨幣価値が異なることが多々ありますので、特に初めて外国人を採用する担当者の方は、賃金をどのように設定すればよいのか戸惑ってしまうこともあるでしょう。

また、どんなに能力の高い外国人の方であっても、日本語や労働慣行に慣れるまで、なかなか業務を完璧にこなすのは難しいというもの。

こうした理由から、日本人従業員より賃金を下げることを検討してしまうかもしれませんが、そのような対応については入管法(*1)、労働法双方の観点から禁止されているのです。

 

 

就労ビザと賃金の関係

まずは入管法の観点から見てみましょう。外国人従業員が日本で就労することを目的として滞在する場合、一般に「就労ビザ」と呼ばれる在留資格(*2)を取得します。この就労ビザに関しては、本人の学歴や職歴、事業規模といった諸条件を総合的に勘案して交付されるわけですが、外国人従業員へ支払う報酬額もその条件のうちの一つ。報酬額については、「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上」の賃金を支払うことと明記されています。

では、就労ビザが許可されうるために必要な報酬額は具体的にいくらなのでしょうか。この点については、業界平均や地域、本人の経験等により一概に決められないため、具体的な額が公表さていないものの、実務上、最低でも月額20万円程度は保証したいところです。

支払う報酬額については、まず就労ビザ取得申請時に審査機関である入国管理局へ提示する他、ビザの期間を更新する際には、実際にその報酬額が支払われたかどうか、納税証明書や所得証明書により確認されます。

もしも当初の支払予定額から大きく下回るようなことがあれば、ここで更新が不許可になってしまうことも十分にあり得ます。

ちなみに、ここでの「報酬」の月額は、「一定の役務の給付の対価として与えられる反対給付」を言い、賞与等を含め1年間従事した場合に受ける報酬の総額の12 分の1で計算したものを指します。通勤手当や住宅手当など、実費弁償の性格を有するもの(課税対象となるものは除く)は含みませんので、その点についても考慮した上で賃金設定を行ってください。

 

 

労働関係法も皆平等に適用

忘れてはならないのが、外国人であっても日本で働く以上、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法についても平等に適用されるということ。労働基準法第3条では、均等待遇の原則として「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」ことを定めています。

仮に従業員が外国籍であることを理由として賃金を下げた場合、この原則に違反することになり、会社側が罰則(6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)を受ける可能性があります。

また、労働関係法が平等に適用されるということは、社会保険料などの控除も同様に適用されます。日本では当たり前の労働慣行であっても、初めて日本で働く外国人にとっては理解しづらい仕組みもあることでしょう。

単に雇用契約書を明示するだけでなく、賃金設定の方法や会社が規定する就業規則などについて、しっかりと事前に説明し了承を得ることが、その後の労使トラブル防止に役立ちます。何より、こうしたささやかな配慮が、外国人従業員の抱える不安や不満を取り除き、彼らが持つ能力を最大限に発揮できる環境へつながるはずです。

 

*1…出入国管理及び難民認定法の略称。外国人の出入国や滞在に関する法律。
*2…厳密に言うと「在留資格」と「ビザ」は異なりますが、本稿では「在留資格」≒「ビザ」として説明します。

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四ノ宮行政書士

【プロフィール】

四ノ宮 美紀子(しのみや・みきこ)

埼玉大学教育学部総合教育科学専修 卒業

平成23年1月 行政書士試験合格、同年「四ノ宮行政書士事務所」開設

 

【お問い合わせ先】

四ノ宮行政書士事務所

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