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政治とビジネスに共通する普遍的法則とは?

◆文:筒井潔(創光技術事務所 所長)

 

創光技術事務所の筒井潔と申します。BigLife21では、ビッグライフ社と共同でインタビュー企画を立案、展開しております。読者の皆さま、我々のインタビューを受けて下さった方々、ビッグライフ社の方々、ありがとうございます。

※創光技術事務所は、設立当初、技術コンサルタント、技術系の経営コンサルタント、知財コンサルタントが集まって、主に技術系企業に対して、技術、経営、知財で三位一体を築き、これらを有機的に結び付ける経営を提案することを事業とするコンサルタントファームとして出発しました。それが現在では、私企業のみならず、社団法人などの公益性の強い活動をする組織へのコンサルテーションサービスの提供や、公共政策コンサルタントのようなことも行うようになっています。

 

こうしたビジネスと政治という二つの活動範囲を持つことから、たまに「政治とビジネスとコンサルとしてどちらが難しいか?」という質問を受けることがあります。

この場合、私はいつもこう答えます。「政策を考えることと、ビジネスモデルを考えることの難易度に大きな差はありません」、と。もう少し言えば、政策やビジネスモデルは、その瞬間瞬間の現場レベルでは大事なことでしょうが、それらを主に考えると間違えるものです。なぜか。会社を新たに作ろうとしたときに真っ先に考えるのはミッションやビジョンであって、具体的なビジネスモデルではないからです。

 

ビジネスモデルはミッション、ビジョンの具現化の一形態であって、時々刻々と変化し得るものです。企業にとってビジネスモデルが大事なのは、「顧客に自社の価値を“持続的に”提供し続けるための手段」であるからです。とすれば、「ビジネスモデル」が大事か、「顧客に自社の価値を提供し続けること」が大事かを比較してみれば、時にはビジネスモデルを変更しても、顧客に自社の価値を提供し続けることが大事であることが明白です。もちろん、ビジネスモデルや政策を軽視して良いのではありません。企業で言えば、ミッション、ビジョンとビジネスモデルはある意味、表裏一体のものですから。

同じように、政党がM&Aをする際に、政策レベルで一致するかしないか、を議論する向きがありますが、これも意味がない。なぜなら、政党にとって政策というのは、会社におけるビジネスモデルのようなものであって、組織の運営上、永劫不変なものではなく、適宜修正すべきもののはずです。ですから、そんなもので相手を判断して一緒になるとか、ならないとかを議論することは賢いことではありません。

 

また、ビジネスの目的は「自分たちが儲けること」であり、政治の目的は「自分たちが信じる理想の社会を実現すること」であるから、その視野の広さにおいて、ビジネスより政治の方が広い、だから政治の方が難しい、という議論もあります。多分、それは間違いです。我々はもっと「持続可能性」を考えるべきだと思います。私は、政治もビジネスも遣り方の違いだけであって、「持続可能な社会を実現するという目的の追求」という意味では同等であると考えています。そして、この文脈上に於いて、ビジネスにも政治にも同等に当てはめることができる「普遍的な法則」があると見ています。

 

日本ではドラッカーの経営学が大変もてはやされています。ドラッカーは経営学を発見した人かも知れません。ドラッカーが語っているところによれば、ドラッカー以前にマネジメントが適用されていたのは軍隊と宗教法人だけとのことです。そのドラッカーが渋澤栄一の「論語と算盤」に強く影響を受けたことは有名な話です。実際、ドラッカーのマネジメントと論語には、数多くの類似の点があるのをご存知でしょうか。

(ドラッカー)フィードバック分析

(論語)学んで之を時習す。亦説(よろこ)ばしからずや。

 

たとえば、ドラッカーのフィードバック分析と、論語の冒頭の有名な言葉は対応関係にあります。「学んで之を時習す。亦説(よろこ)ばしからずや。」の中の「時習する」という動詞はどういう意味かというと、「朋遠方より来る。亦説(よろこ)ばしからずや。」と一緒で、あることを友達のことのようにずっと頭の片隅に入れておき、適宜、考えをブラッシュアップするという意味です。たまに思い出して復習する、というような甘いことではないようです。

私が教わった先生は「(成功したければ)徳を積みなさい。」と仰いましたが他にも論語とドラッカーは、普遍的な法則を提供してくれると思います。たとえば、ドラッカーのマーケティングは論語とは次のような対応があります。

 (ドラッカー)マーケティング

(論語)季路(きろ)、鬼神に事えん(つかえん)ことを問う。子曰く、未だ人に事(つか)うる能わず、焉んぞ(いずくんぞ)能く鬼に事えんか。曰く、敢えて死を問う。曰く、未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん。

 

ドラッカーのマーケティングは、「マーケティングの理想は、販売を不要にすること」です。一方の論語は、鬼神などという直接的に手に届かないものに仕えようなどと考えず、人という直接経験可能な世界の住民に仕えることを考えなさい、さらに死という見えないことを知ろうとするより、生きているという今の状態についてよく知ろうとしなさい、という意味です。

一方、ドラッカーは次のように言います。即ち、「成果を上げる秘訣の第一は、共に働く人たち、自らの仕事に不可欠な人たちを理解し、その強み、仕事の仕方、価値観を活用することである。」と。ドラッカーが言っているのは、顧客というまだ見えない対象について知ろうとするのではなく、まずは、身近にいる共に働く人たち、自らの仕事に不可欠な人たちのことを知りなさい、ということです。

 

他にもドラッカーの理論と論語には共通することが多々あります。孔子第75代子孫の孔健氏が「何のために論語を読むのか」という本の中で、「人が学ぶことをやめたら人は人として存在できない、私はそう断言します」と書いています。学び続け、学んだことを実践することは政治にとってもビジネスにとっても、普遍的な法則の一つに違いありません。(次号 孫子的世界観のカオスを理解することでビジネスの可能性は広がる!?』に続く)

※以下の見解は、事務所としての見解というより、所長である私個人の見解であることは先に断っておきます。所内にもいろいろな意見があります。

 

obi2_columnプロフィール

筒井

筒井潔(つつい・きよし)…経営&公共政策コンサルタント。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。外資系企業、ベンチャー企業、知財関連企業勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。

合同会社創光技術事務所

〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-28-8 ロハス松濤2F

http://soukou.jp

 

2014年10月号の記事より
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