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人が何らかの動きを始める時、その後ろには「理」と「利」があると言われています。自分自身の「理」=理屈(知識・考え)によって動くか、自分にもたらされる「利」=利益(金銭的・非金銭的)によって動くかのいずれかということです。自分自身だけを動かすのであればそれで足りるのかもしれませんが、他人を動かすとなるとそれほど簡単な話ではありません。 自分自身の「理」と他人の「理」は全く違うものであり、それぞれが自分なりの理屈で動いているはずです。自分の「理」を相手に押し付けて相手を動かすためには、他の対価が必要となるかもしれません。 また、例えば給与などの報酬という「利」を約束して他人を動かす場合、その報酬を提供し続けなければ効果は途切れてしまうかもしれませんし、与える「利」以上の働きは望めないことも良くある話です。 では、比較的長期間、さらに言えば目標達成のその日まで、相手を巻き込み動かすためには何が必要なのでしょうか? それは相手自身の中に起きる『感動』に他なりません。「この人と一緒に達成したい」「この会社にどうしても貢献したい」「一緒に描いた夢をなんとしても実現したい」という気持ちが、相手自身の中に起こらない限り、その『動き』が自ら望む『動き』にならない限り、そういう心の変化=『感動』が生じない限り、相手の動きは長続きしないのです。 この他人の『感動』は、自分自身の『感動』でしか惹き起こすことはできません。『情熱』という心のロウソクに灯を点せるのは、自分自身の灯でしかないのです。もちろん、相手のロウソクに簡単には灯はつきません。様々な現実、様々な諦めから、ロウソクの中に芯が埋まってしまっていることも少なからずあります。それをあなたの一生懸命という『熱さ』で溶かしながら、芯をむき出しにし、聖火ランナーのように灯を繋げていくしかないのです。 働きかけ力の要件の1つは、熱い想いを持って、何かを伝え、相手と自分の間に共通の目的・目標を創り上げることです。その結果、相手に「自ら動きたい!」という気持ちを持ってもらえる『影響力』と言ってもよいかもしれません。 もちろんパッション(熱)だけで何かが伝わるほど楽なものではありません。この時に大切なのは『伝え方』です。相手には相手の『普通』があり、『当たり前』があり、『常識』があります。また、相手によって、その日の相手のメンタル状態によって、短めに伝えた方が良いことも、じっくり伝えた方が良いことも、また淡々と話した方が良いことも、情熱的に話した方が良いこともあります。あなたの料理(話)について、相手がどのくらいの量を、どのくらいの温度で食べたいのか。それを察することも必要となります。 働きかけ力の要件の2つ目は、相手を知ろうとすることです。相手が求めていることは何なのか? 相手の困っていることは何なのか? 自分が相手に貢献してあげられることは何なのか? それが分かれば自ずと『伝え方』は見えてきますし、決まってきます。 そして、最後の要件は『押したい背中』です。 相手があなたの夢・目的・目標と全く同じモノを持ってくれることは『奇跡』でしかありえません。その中で、相手は相手自身の夢・目的・目標との共通点や似ている部分を少しでも探すのです。その上で、あなたの挑戦に自分のチカラを貸したいと思ってくれるとしたら、あなたは相手が『押してあげたい』と思う背中を持っているのです。 この『押したい背中』は一朝一夕には創れません。これまでの相手との関わりが大きく影響してきます。相手への貢献の『先払い(ペイフォワード)』をどれだけしてきたか、自分の強みを惜しげもなく相手に提供してきたか、そして自分の弱みを強がることなく開示してきたかによるのです。*
3つの要件を挙げましたが、とかく似たような文化や価値観の下では、人は『貢献』の意識より『権利』の主張が先に立ってしまうものです。逆に、異なる文化や価値観を持った様々な人たちと共に学び、働き、生活をしていく時、そこに必要なモノは、『自分が仲間に対して出来る〝貢献〟は何なのか?』を常に考え、それを実行に移していくことに他なりません。相手を知り、相手がどんなことを欲しているのかを知ることで、相手との接し方やいかに動機付けるかを学び、相手に協働を促すことが出来るのです。 考え方や価値観の異なる人たちをモチベートしていくことを、身を持って学んできた海外生活経験者たちは、帰国後、自分の意見だけに固執せず、個性の違う同僚やお客様に柔軟な対応をすることができ、異なるアイディアの掛け合わせによる新しい価値の創造を促していくことが出来る人材となるのです。 企業人事としては、この『働きかけ力』のバリエーションを身に付けた海外生活経験者を、新しい企業価値を生み出す最高の『触媒』として再定義してみてはいかがでしょうか? そして1人の親としては、どんなビジネスも日本の中だけで完結する時代ではなくなった今、世界中の誰とでも協働していけるチカラを、ご子息・ご令嬢に授けてあげてはいかがでしょうか?