
最先端エレクトロニクス技術の若き雄 代表取締役 國廣愛彦氏
新社長はとにかくよく動く。こうだと決めたら有無を言わさず突き進むのがモットーだ。ぜひ紹介したい学生時代のエピソードがある。
「生まれは東京ですが、高校は日大山形に進学しました。親元を離れて一人暮らしがしたかったのと、野球をやりたい気持ちがあったからです。ところが日大山形に行ったら、野球部ではなくテニス部に入ってしまった。なぜかというと、当時好きになった女の子がいまして、山形県の酒田の人だったのですが、彼女がテニスをやっていたんです。それで、彼女に会うためには、インターハイに出場すればいいと思った。テニスにはまったく興味がなかったのですが、会いたい一心で必死に練習してなんとか出場を勝ち取り、大会の時には宿舎が一緒に!
もう、ドキドキで……。こんな話、どうでもいいですよね(笑い)」
その後大学に進み、就職したのは総合ファッションアパレル企業の三陽商会。今とはまったく違う職種だ。「親父の跡を継ぐ気はまったくなかった」が、説得されて、三陽商会はわずか1年半で退社。茨城のハーベストジャパンに営業マンとして入社する。
「そのあとすぐに本社勤務にしてもらえるのかと思ったら、〝ワンクッション置いたほうがいい〟と言われました。〝ワンクッションって何だよ?〟と思いますよね(笑い)。なぜかそのあと、政治家の秘書に誘われたり、いくつかの選択肢の中から4年間の海外留学を選ぶなどして、2008年にやっと2代目社長に就任しました」
一箇所に安住せず、次々に動くのが、この人の宿命のようだ。しかしその活力と情熱が、今のフルハートジャパンを支えているのは間違いないだろう。
「加工技術として基板の組み立てと制御盤の組配軽装配管、メカトロ装置の組み立て、精密板金加工、それらすべてのソフト、ハードともに設計を行っています。パーツを一つひとつ作って納めるという会社は日本に何万とあるわけですが、弊社はシステム的に製品全体としてお客様に提供できるのが強みです。精密板金加工もやりますし、〝板金屋さんだと電気なんかやらないでしょ?〟と言われるけど、でもウチは電気も、設計も、基板の開発もやります。そうしたオールラウンドのプレーヤーでいられるからこそ、いろいろな仕事を受け、様々なお客様に対して、きめ細かな良いサービスが提供できるんです」
モノづくりに携わる日本の中小企業がさらされている大きな問題点として、主に東アジア地区を中心とした生産拠点の移転および流出と、それに伴う国内の空洞化、後継者不足などが挙げられる。海外進出の失敗、指揮系統の混乱による事業の失敗、世代交代の失敗などを尻目に、フルハートジャパンでは、設計から完成まで、社内で一貫して生産するというアドバンテージ、つまり、外に出さないことの強みを力にしてきたのだ。
「お取引先は100社を超えています。弊社が手掛けているのは、小ロット多品種の製品やサービスです。それゆえ、大量生産品を請け負っている会社さんに比べると非常に非効率的なのですが、その代わり、仕事が一気に減ってしまうということはない。例えば自動車部品を作っている会社さんなんかだと、リーマンショック中は、仕事が2割くらいになってしまったなんていう話をよく聞きますよね。ウチも正直、リーマンショックでやられて、いちばん悪い時は売上が半分にまで落ちこんだのですが、翌年からV字回復し、2011年度は過去最高益を上げることができました」
「作業場も手狭になってきましたし、〝きれいに効率的に作業しましょう〟なんて言っても、掛け声だけに終わってしまいます。そこで、これ以上はできないというくらいに良い環境を整備して、その中で、本当にプロフェッショナルなモノづくりを追求したいと考えています」
将来のビジョンをうかがうと、「正直、量産品に憧れがなくはないんです」と、本音をのぞかせた。
「量産品を扱えば数字も出やすいですからね。それと海外についても、安い労働力を求めて出ていくつもりはありませんが、それこそ夢物語で言えば、社員全員で移転して、心機一転、アジアの地で、皆で高度成長の醍醐味を味わってみたい、なんて気持ちもあります(笑い)。しかし、製造の様々な工程をトータルにまとめあげてコーディネートするような仕事は、やはり日本人でないとできないと思うんです。その意味では、海外に出た経験のある会社さんが、〝やっぱり日本で作らないとダメだな〟と思った時に真っ先に頼りにされる存在、〝ウチの仕事は、フルハートジャパン抜きでは成立しない〟と、そう言われるような企業に成長していきたいと思います」
日本のお家芸であるモノづくりを守るためには、不況という嵐が去るのを待っていてはダメで、嵐の前につぶされてしまうことは目に見えている。だから動く。守るために動いて、攻める。若き社長には、そのことがよく見えているのである。
國廣愛彦(くにひろ・よしひこ)
1974年、東京都生まれ。日大山形高校、日本大学商学部を経て、三陽商会に入社。わずか1年半で退職し、父であり前社長(現会長)の國廣紀彦氏の求めに応じ、株式会社ハーベストジャパンに入社。その後、2年半の海外留学と仕事を1年経験し、2008年より代表取締役に就任する。
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