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地方から日本を変える!龍馬プロジェクト

◆取材・文:加藤俊 /文:渡辺友樹

龍馬プロジェクト 神谷宗幣氏 (8)

神谷宗幣氏 龍馬プロジェクト全国会 会長・元吹田市議会議員

「既存の政党の枠の中では日本の政治は変わらない。現状の政治を続けるなら地方議会は不要になる。国政が変わらなければ、それぞれの地域の住民の期待に答えられない」こういった思いをもった若手政治家が、それぞれの政党や所属するグループの垣根を越えて集まった『龍馬プロジェクト』という超党派グループがある。

実は、藤井浩人美濃加茂市長事件で巷を騒がしている藤井浩人市長もメンバーの一人である。本稿では創設者にして会長の、神谷宗幣・元吹田市議会議員にお話を聴く。

梅本大介氏 (1)

聞き手:特定非営利活動法人修学院 梅本大介氏

メンバー藤井市長の逮捕

梅本大介氏 (3)

梅本:6月24日に岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長が浄水設備納入をめぐる受託収賄などの容疑で愛知県警に逮捕された事件は、概要が明らかになるにつれ、報道の風向きが変わってきました。龍馬プロジェクトとしてはメンバーである藤井浩人・美濃加茂市長の逮捕についてどうお考えなのでしょうか。

 

龍馬プロジェクト 神谷宗幣氏 (12)神谷:今回の件について、龍馬プロジェクトとしての見解は表明していません。司法の判断を待たなければならない部分がありますから。実際、今回の件に関して、龍馬プロジェクトの中でも、藤井市長の収賄を疑うメンバーもいます。ただ、私は彼とは付き合いの長い友人でもあり、性格や今までの業績も知っていて、且つ事件の経緯を知るにつけ、これは冤罪の可能性が非常に高いという確信を持てましたから、早い段階から彼をバックアップしていくと意見表明をしています。

ですので、私個人の見解とご理解頂きたいのですが、彼はお金をもらっていたならもらっていたとはっきり認める、そういったタイプの人間です。その上で、趣旨や経緯をきちんと説明するハズです。何より、私も含めて、合法的な献金は政治家であれば誰しも受け取っています。今回のような無理筋での強引な逮捕が認められるのであれば、政治家は誰しも逮捕することができてしまいます。これは、政治の危機に他なりません。

 

梅本:この事件の背景には何があるのでしょうか。

 

神谷:どこかから仕掛けられたものなのでしょう。今回のケースは、贈賄側にあたる浄水設備会社の中林正善被告から提案され、良い制度だと思ったので試験的に導入した。確かに彼と食事はしたが、奢られてもいなければ、お金ももらっていないという話です。同席した第三者も、渡したところを見ていないと言っています。つまり中林被告の証言のみで逮捕されたのです。よくこんな杜撰さで現職市長を逮捕したものです。

今回のように、一方の証言のみをもとに逮捕するなんて無茶苦茶なことが罷り通るのなら、それこそ潰したい政治家がいたら、誰でも潰すことができるようになってしまいます。業者を近づけて、例えば市役所に紹介してもらったという事実を先に作っておき、後から、お金を渡しました、こんな便宜を計ってもらいましたと、虚偽のリークをさせる、といった流れで簡単に逮捕ができてしまいます。今後この事件は、誰かを陥れるモデルケースになりかねません。これは非常に恐ろしい事態だと感じています。

 

梅本:誰がリークしたのでしょうか?

 

神谷:“渡した”という証言なのですよ。警察はその証言と、その日にお金を下ろしているという客観的な事実のみで逮捕しています。これ以上ない乱暴な逮捕です。

 

梅本:彼を陥れることによって利益を得る人がいるのでしょうか?

 

龍馬プロジェクト 神谷宗幣氏 (9)

神谷:政治的な反対勢力があって、そこが圧力をかけているという憶測を働かせることはできると思います。藤井市長は当選時28歳で、前市長が末期がんに罹ってしまって、急に白羽の矢が立ちました。政党はすべて他候補を応援する中、彼は無所属、前市長のバックアップだけで僅差で当選した経緯があります。つまり安定基盤ではなかった。また、当選後は様々な改革を行っていて、かなりの反発もありました。

そんな状況下で、彼に繋がりのある人間が逮捕されていたことが分かった。事情聴取を受けたとか、逮捕されたというだけでも、彼の名声に大きな傷を付けることができますから、それを狙って警察にあることないことリークした人間がいると推測しています。また、実は逮捕の前後で検事局長が代わっていて、警察としてはこの人事の前に逮捕したかったのではないかという話も聞いています。

 

ひとつ言えるのは、彼の釈放を求める嘆願署名の数は、当選時に獲得した11,000票を上回る15,000人に上っています(9月現在約22,000人)。これは、藤井市長の仕事ぶりを市民の方たちがきちんと見て評価していることの何よりの証左ではないでしょうか。その美濃加茂市民の方達を「ハナタレ小僧を選んだ市民の気がしれない」「早く自白しないと美濃加茂市を焼け野原にするぞ」と蔑んだ愛知県警の暴言は許されるものではありません。正に司法や警察の信頼が問われる事件です。私としては、引き続き藤井市長をバックアップしていく所存です。

 

 

「教育」「食料」「エネルギー」「軍事」「経済」での自立

龍馬プロジェクト (2)

梅本:なるほど。『龍馬プロジェクト』としての見解は表明せず、神谷さん個人として、冤罪であるという方向で支援しているのですね。では話題を変えて、『龍馬プロジェクト』についてご自身の経歴を踏まえて簡単に紹介してください。

 

神谷:私は現在36歳ですが、21歳のとき1年間、海外に留学し世界を旅しました。世界の若者と交流を持ち、異文化に触れ、諸地域の抱える問題を知る中で、日本の平和や豊かさを再認識すると同時に、それを当たり前のものと思って享受していた自分の姿に気付きました。無意識に享受していては、この豊かさはやがて我々の掌から零れ落ちてしまうだろう。この危機意識から、問題提起の手段として政治の道を志したのが22歳でした。父の会社の倒産などで足踏みしましたが、29歳で吹田市市議会議員に初当選しました。

当選後、橋下徹氏と教育改革のグループ『大阪教育維新を市町村からはじめる会』を結成しましたが、袂を分かち、維新には入らず『龍馬プロジェクト』を立ち上げました。

 

梅本:それは何故だったのでしょうか。

 

神谷:焦点が違うと思ったからです。『龍馬プロジェクト』は、たとえば、『大阪都構想』といった政策に比べ、より俯瞰した視野で日本の将来を見据えています。坂本龍馬が提示した『船中八策』を手本に、日本の将来のために目標を立てて、「教育」「食糧」「エネルギー」「軍事」「経済」という5つの柱における日本の自立を目指しています。

 

梅本:『龍馬プロジェクト』は超党派200人規模のグループで、多様なメンバーが在籍しています。政策に幅があるのは良いことですね。幅を持たせる中に、何か一定の指針や条件はあるのでしょうか。

 

神谷:大きな枠で捉えたいので、国家観や歴史観などの部分でよほどの違い、たとえば日本は悪い国だから無くなった方がいいとか、アメリカの属国になった方がいいとか、皇室をなくす、日の丸は嫌い、そういったレベルの違いがあっては一緒にやれませんが、たとえば原発が要るか要らないか、などは話し合いの余地があり、意見が割れるのは当然です。細かな意見の違いに囚われるのではなく、大きなスケール感をもって、騙し合いや裏切りなく、語り合える人間関係の構築が目的です。

 

 

日本という国家への危機感

梅本大介氏 (2)

梅本:神谷さんは日本という国の存続に危機感を持っておられ、その点を共有できる仲間が欲しいという意識が根底にあるのでしょうか。私も、日本という国家の存続に強い危機感を持っています。いま、日本は辛うじてまだ世界の第1グループに属していますが、そこから脱落したら終わりだと私は思います。しかし、この危機感を持っている日本人は少ない。

 

神谷:どんな国も永続的に繁栄を享受し続けることはできません。ただ、少しでも長く豊かな国でいたいと思わない人はいないでしょう。そういった文脈上で捉えたとき、私を含め多くの方が、生まれたときから先進国としての豊かな環境があったため、危機感に欠けるというか、ある種の油断や甘えがあるのは否定のしようがありません。それを裏付けるように、我々の世代では、リーダーたるリーダーも育っていません。この問題は、日本人としてのビジョンがないことに起因していると考えています。

 

梅本:その通りだと思います。哲学なき政策論議をしている限り、政治は衰退します。選挙というとマニフェストを提示するという、共産党の専売特許がすっかり広まりましたが、本来そのひとつ上の階層、概念の部分で戦うべきなのです。私には、日本が国家として存続して欲しいという当たり前の希望があり、その点でも龍馬プロジェクトに注目したい。

私はこれからの世界の対立軸は、非常に細かいところに入っていくと思います。社会主義はもう崩壊して、無い。資本主義の中でのイデオロギーの戦いになっていくだろうと。この辺りのお考えはいかがですか?

 

龍馬プロジェクト 神谷宗幣氏 (10)

神谷:公益経済を実現すべきだと考えています。お金があるところにお金が集まっていく寡占化にはブレーキをかけるべきです。そうではなくて、売り手良し、買い手良し、世間良し、という近江商人の『三方良し』を目指さないことには、環境に悪かったり、弱者が貧困に喘いだりと、持続可能な社会を実現できません。

実は、この点で最も先進的な考えを持っている経済大国は他ならぬ日本なので、逆にこのモデルを世界に発信していく必要があります。カネや武力で言う事を聞かせるやり方ではなく、日本が自立して凛とした意見を発信すれば、特定の国にとっては面白くなくても、周辺のその他の国からの理解は得られるはずです。日本的に言えば「徳が高い」、そう思われます。

 

しかし、先述した5つの柱における自立を果たさなくては、日本の言葉に説得力が宿りません。その5つの柱とは、「精神の自立」。これは教育やメディアも含みます。それから「資源エネルギーの自立」。「水も含む食糧の自立」。「軍事の自立」。そして「経済の自立」です。いま自立できているのは経済ぐらいでしょう。アメリカや中国、韓国、北朝鮮に何かされて、すぐに「ごめんなさい」ではいけません。国連の戦勝国はなかなか認めないでしょうが、ある点では敗戦前の日本の姿に戻るべきなのです。(次号に続く)

地方から日本を変える!龍馬プロジェクト 後編

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神谷宗幣 梅本大介

龍馬プロジェクト

http://ryouma-project.com/

神谷 宗幣(かみや・そうへい)氏

http://www.kamiyasohei.jp/

1977年 福井県生まれ。関西大学文学部史学地理学科卒。同学大学院法務研究科にて法務博士。

2007年 大阪府吹田市議会議員選挙に初当選。『吹田新選会』立ち上げ。

2009年 『大阪教育維新を市町村からはじめる会』結成。

2010年 関西州政治家連盟代表、『龍馬プロジェクト』全国会会長。

2011年 吹田市議会議員選挙に2期目の当選。吹田市議会副議長。

2012年 自由民主党大阪府第13区支部長就任。同党公認候補として第46回衆議院議員総選挙に出馬、落選。

 

インタビュアー

梅本 大介(うめもと・だいすけ)氏…1983年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院公共経営研究科修士課程修了。早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程研究修了。ルーテル学院大学、国士舘大学、玉川大学で非常勤講師を勤める。専門は、教育学、政治学。大学で教鞭を取る傍ら、私立学校や幼児教室で、教務コンサルティングなど行っている。特定非営利活動法人修学院幹事長。

 

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