huron

東京・荒川区、JR日暮里駅から徒歩1分、昔から繊維街として有名なこの街のビルの中に、従業員4名・資本金1,000万円のアパレルメーカー”株式会社トランスタイル”の本社があります。

 高添義浩社長(61歳)は「入口がわかりにくいので、初めて来社された業者さまは必ず迷われます」と笑います。しかし、その小さなオフィスで企画されるリカバリーウェア〈HURON〉は、自律神経を整え、睡眠の質や疲労回復をサポートする“着るセルフケア”として支持を広げています。

 2022年にTV番組で取り上げられて以降、月間2千セットを出荷。2025年には医薬品医療機器等法の「管理医療機器」を取得したTシャツを投入し、規模約33兆円超ともいわれるヘルスケア市場(経済産業省調べ)へ本格参入します。周囲が「無謀だ」と口をそろえた挑戦を、なぜ4人の小所帯で実現できたのでしょうか。

金融志望9割の学部で“モノを売る道”を選んだ理由

Huron 高橋氏
株式会社トランスタイル 高添義浩社長

「お金そのものを商売にする仕事より、手ざわりのあるモノと向き合いたかった」と高添氏は語ります。

 兵庫県尼崎市出身の高添氏は、大学時代に周囲の多くが銀行や証券を志望するなかで「お金を売る感覚が肌に合わない」と感じ、メーカーや商社を志望しました。最終的に入社したのは老舗の繊維専門商社です。入社3年目で東京・赤坂へ。大手アパレル企業向けにオリジナル生地を提案する“飛び込み営業”を4年間続けました。毎朝、有名アパレル企業の受付で名前を書くのが日課となり、持って行った見本をデザイナーから何度も突き返されながらも、「川上から川下まで」の流れを身体で覚えたといいます。

 頼りになるのは「人脈」と「風が吹いた瞬間に動く度胸」だけ。赤坂時代に出会ったアパレル界の重鎮に鍛えられ、「これからは綿素材の時代だ。良い生地を開発しなさい」とアドバイスされた経験が、その後の開発志向につながりました。「当時は本当に楽しかったですね」と振り返ります。

30 億円チームを率いた後、独立へ 医師の言葉と“上海プラン”の狭間で

生地開発の成功をきっかけに製品部門へ抜擢。3名から始まったチームは最盛期に25名・売上30億円規模へ拡大しました。ゴルフブームの追い風もあって高価格帯のOEM商品がヒットし、30代で「部門を任された快感」を味わいます。

 卸主体だった大手アパレルが製造小売りへ転換していく現場で、店舗立ち上げやヒットブランドのOEM に携わり、「SPA型」のものづくりと収益構造を肌で学んだことも大きな財産になりました。
 とはいえ、高添氏は在職中に「辞めて独立したい」と三度申し出ています。背中を押したのは、十代から診てもらってきた小児科医の恩師。「会社員が悪いわけではありません。ただ、あなたは自分で事業を興してこそ活きる」と診察のたびに励まされ、“独立は天命”と感じるようになったといいます。

 三度目の退職を決意した当時、社内では上海に巨大生産拠点を築く計画が進行中で、高添氏もキーパーソンに指名されていました。しかし「このまま駐在を続ければ再び流れに飲み込まれてしまう」と判断し、辞退して2005年に退社。以後、「人を活かし、風が吹いた瞬間に最速で動く」経営スタイルで事業を拡大し、現在のトランスタイルへとつながっています。

トランスタイル誕生 OEM 栄華と崩壊

 独立後まもなく、大手商社から「有名セレクトショップのOEMを手がけないか」と声が掛かりましたが、1年目は思うよう採算が取れませんでした。しかし2年目には売上も粗利も目標に到達。「独立して良かった」と実感しました。

 ところが 2018 年、大手ジーンズメーカーの経営再建に伴い、仕入れ先はすべて大手総合商社系列へ集約。担当者が誤って送信したリストを受け取って衝撃を受けました。仕入れ先欄に同系列企業名が並び、トランスタイルだけが孤立していました。系列外の会社は排除され、半年後OEM 売上はゼロに。「一本足経営」の怖さを思い知り、自社ブランド立ち上げへの意欲が一気に高まります。

 2009年にはファッション雑貨のECサイトを大手モールに開設し、年商も拡大しましたが、中国製品の価格攻勢で利益が急速に縮小。「価格決定権を自社で握らなければ勝てない」という教訓を得ました。

HURON 誕生 “Human×Neuron”で自律神経を調律

HURON ロゴ

 HURONテクノロジーは、大手繊維メーカーで開発された技術が源流です。洗濯耐久性も高く、「もう一度世に出したい」という開発者から託されました。ブランド名は“Human(人間)+Neuron(神経細胞)”を意味します。積極的休息をサポートするリカバリーギア&ウエアブランドとしての<HURON>誕生です。

HURONテクノロジー(超微細振動)+天然鉱石を練り込んだテラヘルツプリント加工を施すことにより、身体全体をリラックスモードへ導きます。HURONテクノロジーは、身体に微弱な振動を与え自律神経にアプローチ、交感神経と副交感神経のバランスを調律し、自律神経のコンディションをサポートします。

 2020 年3月、新型コロナ第1波で物流が混乱する中、クラウドファンディングに挑戦。リストバンドなど3品目で900万円近くを調達したものの、その後は営業力の弱さに苦しみました。東急ハンズに商品を置くことはできましたが、店頭だけでは十分に売れなかったのです。

転機はTV番組『ドランクドラゴンのバカ売れ研究所!』の取材でした。他事業で展開しているペット用商品(オリジナルTシャツ、バッグなど)の取材に来たスタッフへ「こんなリストバンドもあります」と差し出したところ、急遽番組内容が変更に。放送と共にEC注文が跳ね上がり、雑誌取材も相次ぎました。

医薬品医療機器等法の壁と“管理医療機器” HURON+(ヒューロンプラス)

HURONイメージ

 健康商材は概ね「雑貨」「一般医療機器」「管理医療機器」の三段階に区分されます。一般医療機器では表現が制限されるため、上位クラスである管理医療機器を目指しました。他社が既に販売している家庭用の磁気治療器と同じように、医療機器認証番号を取得すれば、ドラッグストアやテレビ通販で説明不要の取り扱いが可能になります。2025 年 9 月のテレビ放映を起点に「管理医療機器 HURON+」(ヒューロンプラス)を発売予定です。

“風が吹いたら即動く” 小さな船だからこそ遠くへ

 「お金の匂いにつられる人は短期で離れます。『無給でも手伝います!』と言える人だけが残るのです」と高添氏。立ち上げ期には大手繊維メーカーOB、大手アパレルOB などがボランティアで参画し、現在も技術・デザイン・PR の中核を担っています。

大資本が広告費と資金で席巻するヘルスケアウェア市場において、同社は小型船のような存在です。しかし小さいからこそ「風が吹いた瞬間に最速で帆を張れる」。OEM 依存から自社ブランドへ、さらには医療機器・プラットフォームへ。高添氏の20年にわたる航海は、これから「夜中三時に目覚めてしまう人々」を救う長い旅になりそうです。

「眠れなくて困っている方は想像以上に多くいらっしゃいます。だからこそ、着るだけで自律神経を整える服を“新しいウェアの標準”にしたいのです」と高添氏は締めくくりました。

【会社概要】
– 社名:株式会社トランスタイル
– 代表:高添 義浩
– 事業内容:HURON事業(テクノロジーで健康をデザインする)
petomo事業(世界に一つだけしかないオリジナルペットアイテム)
– HURONオフィシャルサイト:https://www.huron.jp/
– 2020年のクラウドファンディング:https://www.makuake.com/project/huron/
– 2025年のクラウドファンディング:https://www.makuake.com/project/huron_plus/