◆取材・文:和田祐里香

「日本のフードロスを減らしたい」そんな思いから4月29日、世の中に一つのサービスが産み落とされた。その名もTABETE。なんとも可愛らしい名前の背景には、サービス制作者である株式会社コークッキング代表川越一磨さんの熱い想いが込められていた。

 

TABETE は、飲食店や惣菜店等で発生した余剰と消費者であるユーザーをマッチングするフードシェアリングサービスである(URL:https://www.cocooking.co.jp/food-sharing/ )。予想外の出来事や急なキャンセルによって発生してしまう余剰食料。本サービスでは、従来はやむを得ず廃棄していた食料を、たった数タップでユーザーが「レスキュー」することができる。「すべての『食べて』を『食べ手』につなぐ」をモットーに、フードロス削減から、人々の消費行動全体の変革を目標としている。

 

本サービスのベータ版が開始されたのが昨年2017年9月、渋谷区や港区を中心に順調に提携店舗数を増やし、現在では130店舗にのぼる。ガイアの夜明けや報道ステーションで紹介されるなど、メディアでの露出が増えたこともあり、想いに共感してくれる飲食店が増えてきているという。

 

国内では初めてとなる本サービスの発起人川越一磨さんにお話を伺った。

 

サービス開発の原点「飲食アルバイト時代の悲しい思い出」

 

川越さんが食に関心を持ち始めたのは、高校時代に2度短期留学したフランスで、カルチャーショックを受けたことがきっかけだった。

 

「その当時はまだ和食が本来と異なるスタイルで伝わってしまっている時代で。おにぎりに刺身がのっかった寿司が出てくる時代だったんですよ。それをどうにかして、和食文化を本来の姿のまま世の中に広めることはできないか、という想いから始まりました」

 

その後SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)在学中の4年間は、ずっと飲食店でのアルバイトにいそしんでいた。飲食店の裏側の事情を目の当たりにしたのはそのときだった。

 

「私は調理場をやらせてもらっていたのですが、食べ残しや仕込みのロスの多さに愕然としたのを今でも覚えています。例えば二次会で利用してくれるお客さんは、ほとんど料理には手を付けずに帰っていくこともよくありました。そんな中で『俺、何のために作ってんだろう』という気持ちが芽生え始めていました。売上がたてばそれでいいのか、そんなもやもやした思いがずっとありましたね」

 

卒業後は老舗ビヤホール『銀座ライオン』でホールとして働き始め、やがて店舗運営を任されるようになる。そこでもお客さんの食べ残しを下げ場に捨てたり、賄でも消費しきれないロスが出るなど、常に食べ物のロスとは向き合わざるを得ない状況にいた。

 

「スーパーの牛乳を前から取るか奥から取るか問題」から考える「食の尊厳」

 

長い間食と接点を持ち続けていた川越さんは、ある繋がりから『スローフード』の活動を始める。『スローフード』は現在世界160か国に支部がある国際規模の社会運動であり、川越さんは東京支部『Youth Network Tokyo』の代表を務めている。そこで世界共通で掲げられているテーマがフードロスだ。活動の一つとして、毎月一回、青山ファーマーズマーケットでディスコスープという活動を行っていた。ディスコスープとは、二股に分かれた人参や、表面に少しの傷がついてしまったばかりに規格外となってしまった野菜でスープを作り、皆に配るという活動だ。こういった活動を続ける理由として川越さんの口から出たのは、食の尊厳という言葉だった。

 

(川越さんFacebookより)

 

「『食の尊厳』とはスローフードの副会長であるアリス・ウォータースさんがおっしゃっていた言葉なのですが、彼女はファストフードの問題は食の尊厳を下げてしまったことにあると言っています。例えば、どこにいても安価で統一された味の食料が手に入るようになったことで、私たちが食にかけるコストは下がりました。私はこのことが、ひとりひとりの消費行動を思考停止状態たらしめてしまっているのではと危惧しています」

 

その一例として、川越さんはスーパーで牛乳を買うシーンを挙げた。

 

「スーパーの牛乳を買う時を想像してください。今って、多くの人が消費期限の長い奥の方から取っていくと思うんです。私は決してそれ自体が悪いことだとは思いません。ただ、その行為が何かしらの理由に基づいているべきだと思うんです。例えば『自分は一人暮らしをしていて、この牛乳を1週間飲むんだ』っていうなら奥から取った方がいいですよね。ただ『うちは5人家族だから牛乳なんて1,2日ですぐなくなっちゃう』っていうなら、手前から取ってもいいと思うんです。

 

食の尊厳が下がったことで、ひとりひとり消費するところに思考が働かなくなってしまっている。そこでちょっと頭を使って消費を選択してみる、それだけで、世界はよくなると思うんです。私がディスコスープの活動を続けているのも、そんな風にひとりひとりの意識が少しでも変われば、という想いからです」

 

最後にTABETEをやっていて嬉しかったエピソードを聞いた。

 

「嬉しかったのは、ユーザーさんのある投稿です。TABETEで知ったお店で、TABETEでは買わなかったけど、お店の理念に共感して素敵だと思ったから別の機会に食べに来た、という投稿があったんです。それを見た時はお客さんと飲食店さんをつなぐお手伝いができたなと、やっていてよかったなと思いました。もちろん、それでうちにお金が落ちるわけではないんですけどね(笑)」

 

 

―やりたいことが見つからない学生に対して、アドバイスをください。

 

「やりたいことや興味の湧くものを見つけるのが大学だと思っているので、大学時代は悩めばいいと思います。それで大学で時間が足りないなら大学院に行けばいいし、そこで興味分野を研ぎ澄ましたり悶々とする時間を過ごしたりするのも大いにありだと思います。例えばゼミを転々してもいいし、ゼミの中でなかったら学校の外で色々やってみてもいいと思うし。自分では限界があるのなら他の人の手を借りればいいし。もっと自分が熱を持ってやれることを探すのに、貪欲になっていいと思います。というかそれを探さないともったいないと思う。

 

今の就活は大企業に入れれば勝ち、のような風潮がありますが、私はそれだけが大事なことだとは思いません。もちろん、自分でやりたいことが大企業でしかできないのであればいいと思いますが、思考停止していくのは違うと思う。

 

そんなことを言いながら、私もちょっとだけ就活していた時期があったんです。2週間だけ(笑)でも、その期間合同説明会でいろいろな業界を見て『やっぱりどこの説明もわくわくしないな』と思ったんです。それがあって、食の畑で生きていこうと腹を決めることができたので、その2週間は就活してよかったと思っています。ただ、だからと言って私自身、食の分野に心底わくわくしていたかというとそういうわけでもありませんでした。なんというか『自分はこの道で生きていこう』なんて覚悟まで決める必要はないと思うんです。目先3年くらい頑張れればいいと思う。それくらい気楽に考えていいのではないでしょうか」

 

●川越一磨

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、株式会社サッポロオライオンの老舗ビヤホール『銀座ライオン』で

1年半ほど客席業務、店舗運営の経験を積んだ。その後2015年7月、山梨県富士吉田市でレストランLittle Robotの

チーフシェフに就任。同年12月に株式会社コークッキングを設立。現在Slow Food Youth Network Tokyoの代表も務めている。

株式会社コークッキング

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代表:川越一磨

本社:〒106-0047 東京都港区南麻布3-3-1
麻布セントラルポイントビル 3F

設立:2015年12月1日