株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ – 山崎社長が語る「働きやすい職場作り」と「地方創生のこれから」
◆取材・文:和田祐里香
山崎雅人さん
株式会社KDDIウェブコミュニケーションズは、今から31年前、1987年2月に設立された。主力事業は、20年前に提供を開始したレンタルサーバーの「CPI」。ほかにも簡単に本格的なホームページをウェブ上で作成できる「Jimdo」などがあり、現在は計6つのサービスを展開しているIT業界の老舗である。
同社が提供するサービスの共通点は「高いITスキルがなくとも直感的に使える」という点だ。これらのサービスを通じて、ITを家電のように気軽に使える社会を目指している。例えば、今までパソコンに触れてこなかったような方でも自分のホームページが作れたり、専門スキルが使えなくても簡単に画像を加工できたり、といった具合にだ。今回は、そんな社会を実現するべく奮闘する同社代表取締役社長の山崎雅人さんにインタビューをさせていただいた。
働きやすい職場作り① “目的”ではなく“手段”としてのフレックス制
山崎さんがKDDIウェブコミュニケーションズの社長に就任したのは2年前の2016年のこと。社長として会社をどのように変えていくことが求められたのかとの質問からはじめると、意外な答えが返ってきた。
「特に劇的に何かを変えないと、というものはないです。そもそも会社ってそれぞれカラーや文化があって、そこに共感してくれた人が入ってきてくれているから、このKDDIウェブコミュニケーションズの大切な文化を変えてしまったら皆戸惑ってしまうでしょう。
経営者としての私の仕事は、当社が掲げているメッセージに向かって、共感をして集まってくれているメンバーたちに最大限に力を発揮できる環境をきちんと整えていくことだと思っています。
KDDIウェブコミュニケーションズは、『ITで明日のビジネスの当たり前を作る』という標語を掲げています。誰もがその目標に向かって働きやすいように、例えばフレックス制や時短勤務といった、一人ひとりが働きやすい選択肢を用意しています。フル在宅勤務の社員もいて、彼らは北海道、広島、群馬、宮古島で仕事をしています。そういった一人ひとりのライフスタイルや大切にしている想いを尊重して、各人の考え方に寄り添った働き方を選択できるのが、当社の文化です」
「たとえば『何曜日は皆早く帰りましょう』と一律で決める手法もありますが、私たちがやるべきなのは、一人ひとりのライフスタイルや生き方にマッチした選択肢を用意することです。だって、部署によっては業務上、ある曜日は毎週忙しくて、早く帰ろうとすると支障がでるということもあるかもしれない。フレックス制や在宅勤務は生産性をあげるための手段であって、導入すること自体が目的ではない、という点は履き違えたくはないと思っています」
事実、自分で好きな働き方を選べる体制に変えてから、一人当たりの労働時間は減少しているという。
働きやすい職場作り② 社員の挑戦、そして失敗を受け入れる文化
KDDIウェブコミュニケーションズでは、常時新規事業の企画を募集しており、年に一度企画コンテストを行っている。その中で生まれたサービスの一つが子どもが描いた絵をぬいぐるみなどの形にして思い出の品として残すサービス「キッズコレッチオ」だ。
キッズコレッチオ WEBサイトより
これは一人の女性社員の思い出から生まれたものだという。
その女性社員は幼いころ、飼っていた愛犬が亡くなり悲しみに暮れていたそうだ。そこで、なんとか元気を出してほしいと思った両親は、子どもの絵をぬいぐるみにしてくれる海外のサービスを発見し、彼女が描いた犬の絵をぬいぐるみにしてプレゼントしてくれたという。
幼いながらに両親の愛情に感動した彼女は、この感動をより多くの子どもたちに届けたいと思い、事業化を思い立ったという。この女性社員の想いに賛同するメンバーが集まり、最終的に事業化へと結実した。
このように、社員のチャレンジを常に受け入れる体制でいるのには、考えがあった。
「人は誰しも可能性がどこにあるかわからないので、基本的に当人がやってみたいと言っていることは、チャレンジできる環境にしています。そしてその手を挙げた人こそが、サービスに一番熱い想い入れを持っている人なので、実際に中心メンバーになってもらっています。
もちろん、最終的にサービスとしてスタートさせる際には、きちんとサステナブルなサービスとなるか厳しく判断します。ただ、チャレンジして初めからうまくいくことなんてまずほとんどありません。むしろ、いかに早く挑戦して、失敗して、立ち直るという経験をできることが重要だと思っています。失敗したり、周りから『そんなのうまくいかないよ』と言われても、自分の思いを貫き通せばなんとかなるんだ、っていう気持ちを先に手に入れてほしいと思っています」
そのため、新しいサービスを始めるときも多数決はとらず、サービスに共感してくれる応援団が一人でもいればひとまず企画継続、プロトタイプ作成のゴーサインを出しているという。ただ、最終的に世に出すためのハードルは決して低くない。
「私たちが提供するサービスはほとんどが企業向けのものです。提供開始してから数年もたたずに上手くいかなかったからといって、クローズしてしまうサービスもありますが、頻繁にあるとお客様に大変なご迷惑をかけてしまいます。最近スクラップアンドビルドといいますか、スピード優先で開始してみて失敗したらやめればいいやというようなサービスもみかけますが、私としては、あれは正常な姿ではないと思います。世の中が投資に合わせて変な方向にいっている気がします。
もちろんすべてを否定する訳ではないですし、サービスによってはそれが正解の場合もありますが、会社である以上従業員やその家族の人生、そして私たちに関してはお客様の仕事も預かっているので、持続可能性ということは大切に考えています。もし普段、仕事で使っていたものが突然使えなくなったら困りますよね。企業として信頼を背負い、預かっている会社なので、始めるときは責任を持って始めますし、終わるときも責任を持って終わります」。
地方へのIT支援 継続の鍵は「双方にメリットがあること」
KDDIウェブコミュニケーションズは昨年2017年春から、全国の市町村と IT 企業が連携協定を結び、IT サービスを活用して地方創生を推進するプロジェクト「Cloud ON」を発足している。その第一弾が、沖縄県内の課題を解決するプロジェクト「Cloud ON OKINAWA」である。
ホームページ作成サービス「Jimdo」や、ネットショップ作成サービスの「BASE」やネット印刷サービスの「ラクスル」など、インターネットでサービスを提供する企業9社が参画している。山崎さんは、地方へのIT支援を持続可能なものにするためには「双方にメリットがあること」が必要であるという。
「もともと弊社は中小企業にもっと気軽にITを使ってもらいたいというミッションを掲げています。でも、東京にいるとなかなか気づけないのですが、地方の中小企業はこちらが思っている以上にインターネット上にいないことのほうが多いんです。サービスを届けたい直接の相手にはなかなか気づいてもらえない。それがジレンマでした。
だからプロジェクトが発足する以前から、こちらから出向いて、実際に何に困っているのか、普段どこから情報を得ているのかなどを直接ヒアリングすることを意識して行ってきました。また、ヒアリングだけではなく、当社のサービスをどうしたら認知してもらえるのか、そして使ってもらえるのか、ということも相談させてもらっていたのです。こうした現場の声を一つひとつ丁寧に拾っていくうちに、自然とお客様の悩みとして浮かび上がってきた課題を当社で解決しようという流れになり、実際に個別に取り組むようになったのです。その活動が結果的にITでの地方創生と捉えられているだけというのが実情でして、『Cloud ON』の発足というのもこの延長線上に位置するものなのです」
「Cloud ON OKINAWAの一例として、一次産業へのIT支援があります。沖縄の提携市町を訪問するなかで、特に一次産業の方から多く協力して欲しいとの声をいただきました。
今では各業界で当たり前になっているネットショップも、一次産業ではまだ当たり前にはなっていません。野菜農家や果樹園の多くが流通・販売面に課題を抱えています。そこに、Jimdoでホームページを作って直販体制を整え、全国のお客さんにフルーツや野菜、魚を生産者から直で届ける体制を支援しています。実際に、糸満市のパッションフルーツ農家ではネットショップでの販売が増加し、今までは近隣での販売中心だったのが、いまは主に全国各地へ販売しています。かなり地域に根ざしたやり方ですが、その土地特有の課題や問題に寄り添うことが大事だと思っています」
自社のサービスを活用し、その土地特有の課題や問題に寄り添い解決する。まさに「双方にメリットがある」ことである。
「当社には月の半分くらい全国を飛び回ってセミナーを行っている社員もいます。彼らはKDDIウェブコミュニケーションズの名刺ではなく、自分が担当しているサービスの名刺を持つのが特徴でしょうか。お客様にとっては、サービス提供会社がどこという話よりも、サービス名で認知いただけることの方が、直接的な関係性を築きやすいです。だから、社員たちにたまに『(KDDIグループであることを)忘れないでね』って言っています(笑)」
「結局、当社でできることは限られていて、ITサービスだけ紹介させてもらっても、きちんと使いこなしていただくことなく終わってしまうこともあります。中小企業へのIT支援という名目で、きちんと問題を解決していこうとしたら、何年かかるのか分かりません。だからこそ、双方にメリットがある形にすることで持続していく必要があると思います。
それともう一つ大事なのは、その土地の方々が何に困っているのかにちゃんと耳を傾けることです。ある地域で成功した事例をそのまま他の地域にもっていこうと安易に考えても『いや、それうちでは困ってないですよ』ということがよくあります。Cloud ONも、沖縄で成功してもそれを他の地域でそのまま展開しようとは考えていません。あくまでその地に根差した課題ありきで、都度自分たちに何ができるかを考える姿勢を忘れないようにしたいですね」。
過去には沖縄県の高校生たちに同社のサービスを使ってもらい、名刺デザイン作成の取り組みを行っている「ビジネスの楽しさに触れるきっかけになれたら」(山崎さん)とのこと
企業は常に変化していきます。例えば今「働きやすさ」という基準で企業を選んでも、5年後もその会社が働きやすい会社であり続けている保証はどこにもありません。働きやすい会社、というのはその会社のその時のスナップショットで切り取られた一枚に過ぎないからです。でも「その会社がどういう会社でありたいか」というメッセージはずっと変わりません。
だから、学生の皆さんにはぜひそこを見てほしいし、KDDIウェブコミュニケーションズもそのメッセージに共感してくれる学生さんに来てほしいと思っています。
どんな仕事がしたいかなんて、実際に働いてみなければわかりません。でも、会社が掲げるメッセージへの共感さえもてれば、仕事で思うようなパフォーマンスが出せない時期があっても、耐えられると思うし、いずれやりたいことを見つけられると思っています。
開放的で気持ちのいいKDDIウェブコミュニケーションズのオフィス
なぜか電話ボックスが⁉ KDDIグループだからなのかと思いきや、社員が集中できる環境に、とのこと
かなり豊富な品揃えの食料
山崎雅人……株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ代表取締役社長
1990年第二電電株式会社(現KDDI)入社。業務系、営業支援系のシステム開発、
企業向けサービス企画・開発、事業企画等を担当。
2016年より現職。小規模事業者の課題解決・IT化促進、新しい働きかた、
情報格差の解消などが目下の関心ごと。
株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
東京都港区南青山2-26-1 南青山ブライトスクエア10階
℡:03-6371-1900 (代表)
https://www.kddi-webcommunications.co.jp/
社員数:177名(2018年5月末時点)
年商:41億円(2016年度実績)