◆取材:加藤俊 /文:近藤智子

岡本祥治さん 株式会社みらいワークス 代表取締役

 

近年、ライフワークバランスが叫ばれるようになり、会社と人との関係は劇的に変化した。年功序列、終身雇用モデルが崩壊してから幾星霜、やっと旧来の画一的な価値観から解き放たれ、一人ひとりにとって会社の存在や「働く」ことの意識そのものが変節し、本当の意味での「多様性」が許容されるようになったと言える。

ここに働く人それぞれが置かれた状況に合わせて働き方を選択でき、将来へのよりよい展望を持てるような社会の実現に貢献することをミッションに掲げた面白い会社がある。株式会社みらいワークスは、働き方が変わる中で、フリーランスに特化したプロフェッショナル人材と企業を結ぶプラットフォームを構築している会社だ。

このたび、新しく医療に特化した人材サービスも始めた同社であるが、ゼロから立ち上げ、マザーズ上場にまで育て上げたのが、代表取締役の岡本祥治さんである。

みらいワークスが提供するプロフェッショナル人材とは

登録者数7,100名。これは、みらいワークスが抱えるコンサルタントの登録者数だ(2018年6月現在)。コンサルタントの経歴は大手コンサルファーム、SIER、ネット系メガベンチャーなど。幅広い領域のエキスパートが並んでいる。みらいワークスは、ハイスペック層のプロフェッショナルに特化した人材サービスとして2012年の起業後、急成長した会社だ。

背景にあるのは、少子高齢化に端緒をなす育児や介護などの諸問題が叫ばれるようになった世相の移ろいが大きい。人の働き方が多様になるにつれ、フリーランス人口は着実に増えた。近年では、ライターやデザイナーなどの職種に限らず、コンサルタントなどのプロ人材として独立する人間も増えている。

転職と同じレベルで「独立」や「起業」を選択する人が増え、みらいワークスはこの受け皿となったことが成長の理由だ。事実、みらいワークスを一言で言うと、「プロフェッショナル人材の新しい働き方を実現する会社」だと答える人が多い。

フリーコンサルタント.jp WEBサイトより

現在、フリーランスのプロフェッショナル人材向け案件紹介ポータルサイト「フリーコンサルタント.jp」やフィンテックプロフェッショナル人材向けプラットフォーム、転職希望のプロフェッショナル人材向けキャリアプランニングサポートサイトを運営している。
クライアントの利用シーンは下記のようなものだ。例えば、古川電工グループでは、会社の持続的成長を考えるうえで、古河電工グループに近い将来起こり得る「高齢化による人材不足」とそれによる「業務停止リスク」という課題に取り組むために、今後については俯瞰的に検討しなくてはならなかった。

そこで、みらいワークスはプロフェッショナル人材を紹介し、ディスカッション・パートナーとなり、マクロデータの取りまとめをしたりして、経営施策をつくる道筋を引く手伝いをした。

東和薬品ではシステムの入れ替えに際して、システムのことも薬剤の原料もわかり、かつコンサルやベンダーの立場ではなく、自分たちと同じ目線で働いてくれる人を探していた。

 

フリーランスのプラットフォームができるまで

岡本さんが初めて起業したのは11年前。趣味で海外を20ヵ国以上旅する中で、日本の良さを再認識し、日本をもっと知りたいという想いから47都道府県を回ってみた。その旅の途上で「日本を元気にしたい」という想いが強くなり、起業を決意。独立コンサルタントとして活動を開始し、コンサルタントとしてお金をため、新規事業をやっては失敗してまたお金をためての繰り返しであった。

そんな中、自分自身で独立コンサルタントをしながらも、同じように独立して活動するプロフェッショナル人材の方々に仕事を紹介する機会が何度かあり、その際に「ありがとう」と感謝の言葉を聞く機会が増えたことが何よりも嬉しいと感じ、個人で戦うプロフェッショナル人材の為の社会インフラを構築することで日本を元気にしたいという想いが芽生え、プロフェッショナル人材サービス事業を開始。

 

理想のビジネスモデルを追求

いまみらいワークスには50名を超える社員がいるが、上場を目指し始める前からのメンバーは6名だけだ。上場を目指して会社が速度を増す会社にはついていけないという社員も多かった。また、これまでは口頭でのやりとりでかまわなかったことに稟議書が必要になるなど、堅苦しさが出てきたことも影響した。

一方で、経営理念やビジョンを刷新した後に採用した社員の離職率は低い。会社としての軸がしっかりしたことで共感してくれる人材が増えたためだろうと岡本さんは考えている。採用する際、何より社風に合いそうかどうかを重視していることも大きなポイントだ。

上場に向けて走り出した時、岡本さんは会社の組織図をつくった。しかし、組織図の部門の責任者名にすべて「岡本」と書いてあったため、監査法人に苦笑されたそうだ。しかし、じっくりと上場へ向けて準備をしたことで、みらいワークスはしっかりと軸足をつくることができた。そうすることができたのは、「フリーコンサルタント」という働き方への信念があったからこそである。

 

「フリーランス化」は片道切符ではない

日本は近い将来、「雇用に縛られない働き方を選ぶプロ人材が増えてくるのでは」と岡本さんはにらんでいる。つまり、今後はそれぞれがライフステージに合わせた多様な働き方を選択する世界になるだろう。大学院などに入学して学びなおす人もいれば、フリーランスになったがサラリーマンに戻る人、起業する人などいろいろだ。

みらいワークスの登録者には、新しい働き方を実践している人が多い。全員がこうした働き方になるわけではないが、一生のキャリアの中で、2、3年だけフリーランスになったり起業したりする人が増えてくるというのが岡本さんの予測である。

 

しかし、有料職業紹介の会社は2万社ほど存在するが、フリーランスや起業家も含めたサポートをしている会社がない。だが、起業を経験している人は物事を推進できる力があり、大企業の中にあっても主体性を持って動ける貴重な人材だ。1回フリーになると「片道切符」でもう戻れないと思っている人も多いが、むしろ実現したいことがあれば、組織に戻る選択肢もある。そんなアバイスができる人がいないことが残念で、だからこそ唯一のプラットフォーマーになりたいのだと岡本さんは言う。

日本は先進国の中でも転職率が低く、年間300万人にとどまっている。「もっと人材の流動化が進むべき」だと岡本さん。

「我々のプラットフォームが大きくなればなるほど、働き方は多様化し、流動性の向上にも貢献する。斜陽産業から成長産業へ人材が動くなどを通じて、日本の社会に、経済にと貢献していけると考えています」。

プロフェッショナル人材を支援する時間軸が長いことを示した図。中長期的に人生に寄り添い、そのときそのときの働き方やライフスタイルに合わせたサポートを心掛けていくことを希求している

 

「三種の神器」がみらいワークスのしくみをささえる

みらいワークスにはこれまでの6年間で得たノウハウの蓄積がある。複数の営業メンバーが登録希望者と面談をしてそれぞれの印象を突合することで、偏りのない評価をすることが可能になっている。そのしくみに欠かせないものが「三種の神器、すなわち「みらペディア」「みらフォース」「みらPDCA」である。

設立の過程が面白い。会社が大きくなるにつれ、組織づくりを徹底することが大切だと岡本さんは感じていた。ノウハウを形にしなくてはならない。しかし、岡本さんと、数名の古株の社員の頭の中にしかノウハウはなく、新しい社員がくるたびにOJTを行い、「一子相伝」のように仕事を伝える状況に陥っていた。これでは社員の増加に対応しきれないし、何より非効率だ。岡本さんは打開策に頭を悩ませた。

そんな折、ある社員が書店で『無印良品は、仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい』(角川書店)という本を買ってきた。これは無印良品を運営する良品計画の元会長、松井 忠三さんが2,000ページにも及ぶ店舗マニュアル「ムジグラム」について書いたもので、これを読んだみらいワークスの社員が主体的にマニュアル作りを始めた。

のちに岡本さんも一読して「これだ!」、これをみらいワークスでもやりたいと思い、岡本さんはマニュアルづくりに本気で乗り出した。

 

2016年のはじめ、会社の行動指針「みらいズム」を策定、経営理念(日本のみらいの為に挑戦する人を増やす)と、ビジョン(プロフェショナル人材が挑戦するエコシステムを想像する)の二つを掲げた。

これに基づいてどんなマニュアルをつくるか。どの部門でどのようなことが大切かを岡本さんは書き出してみた。その分量はA4用紙に5~60枚にも上った。「これでは分量が多すぎて誰も見てくれないないだろう」。岡本さんはつくりかけたマニュアルをいったんしまうことにした。

みらイズムの5つの行動指針。会議室の扉に掲げられており、訪問者が一目見て、何を大切にしている会社かわかるようになっている

 

無印の神様との運命的な出合い

夏になり、岡本さんはBSの番組に人事の専門家としてレギュラー出演することになった。そこになんと松井さんがゲストで出演した。またとないチャンス、逃してはならない。番組内で岡本さんは「ムジグラム」についてたくさん質問が、まだまだ足りなかった。

後日、岡本さんは松井さんの事務所を訪問し、「ムジグラム」の実物を見せてもらう僥倖に。マニュアルの作成、運用方法にくわえ、仕組みづくりに魂や思いを込めることの意味を知った。

「ムジグラム」では、どんな業務においても「何のために仕事をしているのか」が明確にされている。すべては「お客様のためにどうあるべきか」という目線で決定されている一方で、会社としてのビジョンもはっきりしている。一つひとつへのこだわり、マニュアル通りにやりきることのすごさ。しかも、現場から改善要望があれば、都度フィードバックされているのである。「マニュアル集はこうでなければだめだ」と岡本さんは痛感した。

 

ついに動きだした「みらペディア」

「ムジグラム」に衝撃を受けた岡本さんは、以前書き出したマニュアルの内容をブラッシュアップしていった。ようやく形が見えてきたのは2017年の3月ごろのことである。新卒社員の研修のタイミングでマニュアルを試してみるといけそうな気がした。しかし、不安もないわけではなかった。

 

みらいワークスでは月に一度、オフィスで「みら金」という飲み会を行っている。社員のコミュニケーション円滑化のために考案されたものだ。マニュアルを試していたころ、このみら金の二次会で当時恵比寿にあったオフィス近くの居酒屋に社員数名と訪れた。

その時、偶然にも、2人ほどの社員から社内の「しくみ化」ができないかとの提案があった。渡りに船とはこのこと。岡本さんはこの2人を中心に「みらペディア委員会」を立ち上げると、営業担当の社員を中心としたワークショップを2週に1回開催することにし、ワークショップで出た課題を常にマニュアルに追加しつつ運用した。こうして、社内マニュアル「みらペディア」ができあがり、今に至っている。現場からの声で常に更新され続け、盤石なものとして会社を支えるものだ。

 

「みらPDCA」と「みらフォース」で仕組みを支える

PDCAサイクルのうち、岡本さんは特に「C」で得られるノウハウと「D」で得られる情報を重視しおり、「仮説」「数字」「行動」の三つに分けで回すという独特な方法を採用している。これは毎週ミーティングで回すことで、社内に定着しつつある。みらいワークスのPDCAは「みらPDCA」と名付けられ、定着しつつある。

「みらフォース」は、セールスフォース・ドットコムを使ってデータを蓄積したものである。データの蓄積が人材ビジネスでは重要だが、特にみらいワークスの登録者は、数か月単位という短いスパンで仕事をする人が多いからだ。1年半くらい前から使用しており、有機的なつながりが、社内のオペレーションの強みになっている。

こうして社内での仕組み作りは、毎日アップデートされつつ社内に根付いているのである。

 

下請けではなくビジネスパートナーとして

たとえば中小企業でも、業務委託などで必要な時だけ人に来てもらうことが必要だろう。もちろん社員でないとできないこともあるが、加速度的に変化する世界にあって、社員をゼロから育てていては間に合わないこともある。岡本さんは、「その時々に合わせた最適なチームを組むためには、プロを雇うべき」という考え方が必要だと言う。中小企業だからこそ、変化する世界に飛び込むことが大切なのではないかと。

 

クライアントは「プロのフリーランスの挑戦の場を提供してくれる 我々のビジネスパートナー」というのが岡本さんの考えだ。

志を持っていて何かに挑戦しているフリーランス人材に対し、クライアントの「下請け」にとどまることは失礼だと考えている。もちろん、社内でもそれは一緒だ。岡本さんは社員を縛るつもりはない。入社の面接の際に、みらいワークス卒業後のプランを聞くほどだ。常に何らかの挑戦をしてもらい、個人個人が成長し、 ビジョンや理念を実現してほしいと希望している。

新事業とみらいの人材への思い

6月25日、フリーランスを中心とした医療系プロフェッショナル人材に特化した新マッチングサービス「ヘルスケアプロフェッショナルズ.jp」がローンチした。医療・ヘルスケア産業において、IT導入や新規事業の企画など、人材が足りない場合に、即戦力を提供するプラットフォームである。

久野芳裕さん

このサービスを提案した社員の久野芳裕さんは、米国医師の免許を持っており、アメリカで心臓外科医としてキャリアをスタート、2016年に日本に戻ってきた。病院に対するコンサルティングという医師ではない仕事をしてみて、医療従事者に挑戦することの面白さ、病院以外の挑戦の場があることを伝えたいと語る。

いま、医療現場ではIT人材のニーズが高まっている。ITを使った遠隔診療や電子カルテの統合、地方医療連携など、その仕事は実に幅広い。特に地方では医療現場で仕事をできる人がいないのである。

2018年、岡本さんに久野さんは粗い企画書を渡し、医療サービスへの参入を提案した。岡本さんが「やれば」と乗った。さっそくメンバーをそろえて準備し、サービス開始にいたった。

医療業界にはお金のことを口に出さず、奉仕すべきという考え方が根強い。しかし、だからといって倒れるまで働かねばならないのか、と久野さんは疑問を抱いていた。医療現場では国家資格がなければ働けないが、システムにかかわる業務などはフリーランスでも活躍できる。「病院の閉鎖的な状況がなくなればよいですね」と久野さんは言う。

岡本さんの名刺には点字で会社の理念が刻まれている。起業したからには社会貢献を、という思いでNPOに依頼し、すべての社員の名刺に入れることにした。利益よりも社会を、という岡本さんの思いに共感し、入社したユニークな社員たち。多種多様な人材が活躍できることを、身を以て登録者であるフリーランスに伝えている格好だ。日本の人材業界にさらなる風穴を穿つべく、岡本さんは次のみらいを模索しつづけている。

 各ステークホルダーとの向き合い方

クライアント

クライアントはプロのフリーランスの挑戦の場を提供してくれる方々だと思っています。できれば我々をビジネスパートナーとして考えてくれる方とお付き合いできればよいですね。クライアントが我々を「下請け」と考えて接することは、スキルもやる気も持ったプロ人材である登録者に対して失礼だと思っています。クライアントとフリーランス人材が共同して物事をすすめることが、クライアントの会社が成長するために役立つと思っています。

登録者

フリー人材が登録してくれることは、日本の未来のために挑戦する人を増やすための第一歩になるでしょう。彼らは日本の未来をつくる人であり、志を持っていて何かに挑戦している人です。今後、日本を背負う重要な役割を担っていくと思います。

社員

社員にも何らかの挑戦をしてもらい、個人個人が成長していくよう、会社としても努力したいと思っています。会社のビジョンや理念を実現することで、仕事の楽しさを感じてもらえるとうれしいですね。みらいワークスで人生を終わらせるのではなく、みらいワークスで働くことで、退社後にやりたいことをみつけることができる。社員がそうした働き方を実現してくれれば本望です。

株主

株主は、我々がつくろうとしている世界観、つまりみらいワークスの仕事が社会を変えていけると思ってくださり、支えてくださる方々だと考えています。いまはまだ配当できていませんが、ビジョンに共感していただけているみなさんには、いずれ恩返しをしたいと思います。

地域コミュニティ

いまのところ地域コミュニティに役立つことは行っていませんが、日本全国を旅した経験をもとに、今後役に立てることができればよいですね。

 

<プロフィール>

岡本祥治(おかもと・ながはる)

2000年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。ITコンサルタントとして基幹システム導入などのプロジェクトに参画。戦略グループ転籍後は事業戦略策定や新規事業立ち上げなどを推進。ベンチャー企業へ転職後は経営企画室責任者として事業管理や新規事業立ち上げなどを牽引。2007年に株式会社オンサイドパートナーズを設立し、フリーランスのコンサルタントとして活動を開始。独立プロフェッショナルの需要に着目し、プロ人材に特化したフリーランス派遣事業を立ち上げ、2012年3月にみらいワークスを設立。働き方改革の広がりやフリーランス需要の拡大とともに売上22億と急成長し、2017年12月に東証マザーズへ上場。趣味は読書、ゴルフ、焼肉、旅行(日本47都道府県・海外は74ヵ国渡航)。経済同友会会員。

<会社情報>

株式会社みらいワークス

東京都港区東新橋二丁目8番1号 パラッツォアステック7階

従業員数:従業員 28人、臨時雇用者 18人(2017年10月31日時点)

年商:22.7億(2017年9月期)円

https://mirai-works.co.jp