あめとつちの恵みで芽吹きはじめた。「新時代のブランディング」とは

数々のブランド支援を手がける「あめとつち株式会社」。時には「天と地」のように遠くても近い存在であり、「雨と土」のように切っても切れない不思議な存在。そして、何よりも「あめとつち」は恵を与えてくれるものだ。代表取締役の龍輪誠氏はそんな不思議な経営哲学のもと、クリエイティビティを最大化し、CEOとして組織全体の強さを上手く引き出している。
企業が構築したいブランドイメージを可視化するためのデザイン、いわゆるブランディングデザイン全般を手がける同社だが、「デザイン」とひとくちには言い表せない価値を提供しているようだ。同社がもたらす恵みと、その背景にある想いを龍輪氏に聞いた。
ビジネスのためのデザイン屋。これが根本的な考え方
東京を拠点としながらも、地方案件まで業種・業態にかかわらずブランディングデザインを手掛けるあめとつち株式会社(以下、あめとつち)。その実績は地方の保育園やお菓子のブランディング、地酒のパッケージデザイン、交通広告など実に幅広い。制作物が決まっている場合はもちろん、課題ベースの相談からその本質までたぐり寄せて全方位からアウトプットしていくのが同社の強みだ。
「よくある制作過程を例にすると、イベントで集客するためにチラシを作りたいという依頼の際に、そもそもホームページが古かったり、知りたい情報が全然出ておらずチラシからの動線が成り立っていなかったりする場合が多くあります。今何が必要か、何をすれば求める結果につながりやすいか、対話をしながら本質を見つけ、デザインしています」(龍輪社長)
クリエイター起点のアートではなく、あくまでも“ビジネスのためのデザイン屋”として商業デザインを手掛けているのがあめとつちなのだ。しかし、一般的な制作会社や代理店とは一味違う。
「私たちはコンサルティングも手がけています。そもそも何を作ったらいいか、どれくらい予算をかけていいか分からない、説明を受けてもどこに発注したらいいか分からないなど、様々な課題を抱えたお客様がいます。そこでお手伝いしたりご相談に乗ったりして、戦略立案からその後の戦術、適切な予算配分になるようなマーケティング施策の立案までサポートしています。
また、同業者からの依頼も多いんです。制作のスキルやそのリソースは潤沢にあるけれど、上流工程やディレクションができなかったり、課題の本質を探れなかったりしている。ただ我々は、食いぶちとしてのデザイン屋は、とうの昔に卒業しているメンバーです」(龍輪社長)
デザイン会社のいいところと、コンサルティング会社のいいところ、どちらも高いレベルで持ち合わせているのがあめとつちなのだ。
自社でも手を抜かない、本質的なブランディングデザイン
ブランディングは企業のイメージを大きく左右する。それをデザインする「ブランディングデザイン」は、ユーザーや消費者に自社のサービスや製品を選んでもらい、企業が永続的に繁栄していくために欠かせない。そんなブランディングの意義について、龍輪氏はこう語る。
「いろいろな定義がありますが、ひとことで言うと『信頼』だと思っています。法人を『法の人』と書くように、ブランドも人格を持つ存在です。その人格や佇まいに期待するから、そのブランドを好きになったり買ったりする。つまり、ブランドは信頼ありきなんです。個人単位や実績ベースの“信用”とも違う、未来志向の言葉なんですよね。信頼こそがブランディングの核であり、それをデザインすることが私たちの仕事です」(龍輪社長)
そんな姿勢を表すように、同社は自社のブランディングでさえ一切手を抜いていない。それが一番に現れているのがロゴと社名だ。ロゴやネーミングなど、あらゆる制作物を取り扱うビジネスをしている以上、自分たちが見本にならなければならない。自社のことは後回しにしがちな中、時間もかけて手本となるような社名とロゴを作り上げたという。

「社名を決めるにあたり、特に大切にしたのが『調和』というテーマです。デザインとマーケティング、創造性と生産性など、価値基準が相反するものを調和させていくことがデザインの仕事だと思っています。それを表現できないかという考えから、自然の摂理のような『矛盾から生まれる恩恵』と、一見遠くても『欠かせない存在』そんな2つのキーワードが思い浮かびました」(龍輪社長)
そして、その組み合わせに説得力を持たせるためにエビデンスを探したところ、日本文化にそのヒントが。
「平安時代初期に作られたとされる和歌『万葉集』では『神』にかかる枕詞として天地が多く使われていたこともあり、『天地』とも『雨土』ともとれる平仮名の造語で『あめとつち株式会社』としています。大切なのは込められた意味ですが、長くなるので、またの機会にお伝えします(笑)」(龍輪社長)
ロゴは、社名のイメージに合うものでありながら、相反するものとして陰と陽、静と動、そして「侘び寂びの心」や「自分たちのふつふつと湧き上がるマグマのようなエネルギー」を示しながら、自然との調和も感じられるようなデザインに。そして飾らないことを表現するために白と黒のみを使って仕上げられた。これらは後にアワードを受賞しており、自社のものでしっかりアワードが取れるクオリティであることを証明することとなった。
さらに、龍輪氏が金融業界に携わっていた経験も活かし、当時デザイン会社としては珍しかった事業計画書も綿密に作り上げたという。その結果、様々な金融機関から満点の評価をもらうなど、これまで余念のない準備によって急成長を遂げているのも、同社の持ち味であり特徴だ。
「個人で仕事をしている分には自分の判断軸でいいのですが、組織にはある程度ルールが必要じゃないですか。かといって、社訓やガイドラインのような堅苦しいものは嫌で。そこで経営の判断軸となりうるものには、はじめからしっかり時間とお金を費やしてきた。だからこそいまがある。意外と、皆さんははじめに手を抜いたり、ケチったりするんです(笑)」(龍輪社長)
チャンスをつかむため、経営の武器は常に備えておく
ー自社のブランディングという見える部分から、事業計画などの見えない部分まで作りこまれているのですね。社内外問わず信用・信頼のおける人間関係を築ける体制が伝わります。
ビジネスである以上はお金も大事ですし、そもそもお金は人が手段として利用するためのものなので、その核となる部分はやっぱり「人」でなければなりません。また、私たちはコンサルティングもしているので、パートナーとして見られる相手かどうかも重要です。だから、私たちの仕事の本質は「人」なんです。自分たちができていないことは、お客様に対してもできませんから、見えるところも見えないところもしっかりやるようにしています。
その上で、自分たちで会社を経営して成果を出していたり、金融から経済まで幅広い業界での実績があったりと、いろいろなバックボーンも含めて信頼いただいているからこそ、デザイナーという肩書きの枠を超えて、皆さまが頼ってくださるのだと思います。
また、見えないところの準備という意味では、弊社は業種・業態問わず受け入れていますし、エリアも全方位なので、急にチャンスが訪れるんです。それに今は僕だけでなく会社という組織なので、皆を守り、チャンスの時には攻められるように武器は多いに越したことはありません。

誰でもいい仕事をやっていてもしょうがない
ー会社を創業したきっかけを教えてください。
もともと会社を立ち上げるつもりはありませんでした。最初は個人事業主として、広告代理店と協業する形で仕事をスタートさせたんです。ただ、大きな組織の中に長く身を置いていると、仕事がだんだん業務的になってしまって、急に面白さを感じなくなることがありました。
最近は少しずつ変わってきているとはいえ、日本ではまだ「発注側が偉い」「大手企業が上」といった価値観が根強く残っています。その結果、組織間の関係性が一方通行になりやすく、仕事が形式的になってしまう。クオリティや費用対効果よりも、「とにかく無難にまとめること」が優先されてしまう傾向があるんですよね。そういった風潮に、ずっと違和感を持っていました。
だからこそ、「誰でもできる仕事はやらない」というスタンスに切り替えたんです。そうやって自分起点の仕事を続けていたら、同じ価値観を持つ人たちが自然と集まってきて、結果的に法人化する流れになりました。
ー業務的にならないように、仕事において大切にしていることは何ですか?
“誰かのため”ではなく“みんなのため”になるようにーー、いわゆる“三方よし”の考え方を大切にしています。そのためにも、パートナーもクライアントも、自分たちでしっかり選ぶようにしています。
だから無駄なコンペにも出ませんし、「大手だから偉い」「金を出してやってるんだから言うことを聞け」みたいなスタンスの方とは一切仕事しません。名前なんて知られていなくても、一人でやってる会社でも、ちゃんと志があって相手をリスペクトできて、ビジネスとしてフェアにお金の話ができる。そういう人たちとだけ共創し、一緒に走りたいと思っています。
そうした関係の中で、クライアントを含め皆がハッピーになるためにはどうしたらいいかという視点で仕事に取り組み、それが実現できるような仲間選びをプロジェクトごとにしています。
ー御社は人材戦略から仕事のやり方も含めて、ほかの会社と差別化されているのですね。
「今の時代は差別化は無理。差異化しかできない」なんて言う人もいますが、そもそも差別化しないとブランドは成り立たないと思うんです。難しいとしても、差別化を狙っていかなければ埋もれていってしまいます。
それに、私たちはブランディングを強みにして仕事をいただいているので、ブランディングで差別化をしなかったら終わりだと思っていて。「ここが違いますよ」じゃなくて、「そもそも根本的に違いますよ」ということをどれだけ主張できるか。それができなかったら誰でも良くなってしまいますし、誰でもいい仕事をやってもしょうがないと思っています。

埋もれている芽にちゃんと向き合うデザインがあってもいい
ー龍輪様自身の今後の展望や思いを教えてください。
経営者なので計画はあるのですが、私自身の展望や野望はなくて。好きなことを自分たちのペースですることを基本として、ビジネスとしての制約や条件の中で最善策を提案することをずっと貫いてきています。
だから「偶然を楽しむ」というか、共感したり応援したいと思ったりした方と一緒に仕事をして、そこに賛同してくれるような人たちを巻き込みながら、その渦を大きくしていく。そんな仕事をこれからもしていきたいと思っています。
また、「クリエイティブって何?」「ブランディングが大事なのは分かるけど…」といった方々や、間違ったやり方をしている方々がまだ多くいらっしゃいます。しっかりやっているのにうまくいかない、地方で機会がない、良い人材と巡り合っていない…。そういう人や会社にちゃんと向き合うデザイン屋が一つぐらいあってもいいんじゃないかと思うんです。そうやって、埋もれている会社をどんどん発掘して支援していけば、あちこちから芽が出て、日本がもっと面白くなるんじゃないかと思います。
私たちもビジネスとしてやりたいことをやってお互い楽しく、結果もついてくれば自然とお付き合いも長くなっていく。そういう当たり前のことが今はできているので、これからも続けていくだけです。