世界の行動指針に。「ほめ育」が提案する、新たな教育の在り方

「私たちは、ほめられるために生まれてきて、ほめ合うために存在する。」
そう語るのは、株式会社スパイラルアップ 代表取締役であり、「ほめ育(Ho-Me-I-Ku)」の創始者である原邦雄氏だ。
原氏が独自に築き上げたこの教育メソッドは、幼少期の体験や、キャリアの中で積み重ねてきた実践知に深く根ざしている。一時は“叱るマネジメント”を行っていたという原氏が、なぜ「ほめること」による人材育成にたどり着いたのか──そこには、人生をかけた気づきと使命があった。
“日本発の教育”を“地球規模の希望”へ 世界へ広がる「ほめ育」
現在、ほめ育は日本国内のみならず、世界へと広がり始めている。
原氏は、2025年9月、世界経済フォーラムの公式イベントで議長を務める予定だ。さらに、日本とインドの教育機関との連携による国際教育協会の立ち上げも控えており、インドを拠点に日本発の教育メソッド「ほめ育」を世界中に発信する挑戦に取り組んでいる。
少子化という未曾有の課題に直面している日本。これまでの政策だけでは、明るい未来を確信できる状況ではない。人口減少という経験を持たない教育リーダーたちにとって、今こそ世界に視野を広げ、インドやアフリカといった次世代の中心地に対し、日本が誇る教育モデルを輸出していくべき時が来ている。
ほめ育はすでに国連ユネスコ、TEDx、そして世界経済フォーラムなど多くの国際舞台で注目されており、海外メディアからも続々と取材依頼が寄せられている。
「教育は、未来をつくる力だ」と語る原氏。
その言葉どおり、彼の挑戦は“日本発の教育”を“地球規模の希望”へと昇華させる新しい一歩となっている。
ただほめるのではない。「ほめ育」のロジック
これまでに700社以上で導入され、世界20ヵ国、のべ100万人以上が受けた「ほめ育」。従業員をほめて育てる、株式会社スパイラルアップの独自の教育メソッドだ。しかし、「ほめる」がなぜ育成に必要なのか?なぜ、これだけ多くの企業や国で導入されているのだろうか。
ほめ育は、手当たり次第なんでもほめる教育ではない。目指すのは企業の業績アップであり、基本となるのは「売上につながる行動を発見し、ほめる」ことだ。そして、その風土を浸透させ、習慣化していくことで職場環境を良くし、重要な戦力となる人材を育てる。その結果として、売上アップを目指す教育システムなのだ。実際、とあるフランチャイズ店では、採用費削減や給与120%の実現、医療機関では離職ゼロ、応募者3倍といった成果を出している。

ほめ育のメソッドは、それまで誰も作ってこなかった「従業員をほめて育て、売上が上がる」というロジックにこだわって原氏が独自に作り上げた。「ほめる」が売上アップにつながるロジックとは。
「ほめ育においてほめるのは、売上の増加につながる『行動』です。それぞれの業種や業態、目的に合わせて、売上アップのために今日からできることを、90日間みんなで徹底的にやる。そうすれば売上は必ず上がると、僕は言い切っています。つまり、誰にもできることを、誰にもできないぐらい積み重ねることを従業員の行動目標にし、ほめる基準を明確にするのです。
そして、目標に沿って行動した従業員をほめることで、周りの従業員にも売上につながる行動が広がり、さらにその従業員もほめることでよい循環ができていく。その中で売上をアップさせていくのです。また、ほめあう環境を作ることで職場環境が良くなり、従業員がいきいきと働くようになればそれがお客様にも伝わり、口コミによって他のお客様を呼びこんでくれる。そうした相乗効果も期待できます」(原社長)
一見すると、ほめることと売上アップは直結しないことのように見えるかもしれないが、実は切っても切れない関係性があるのだ。また、売上アップによって従業員の給料が上がることも、ほめ育では大切にしている。
「給料が上がらなければ、ほめ育はやりがい搾取になりかねません。売上を上げることで給料アップを目指さなければ、ほめ育の価値が広がらないと強く思っています。だからこそ、ほめ育導入の目的は、あくまでも業績を上げること。過去最高をも目指しています」(原社長)
「しかる」が正しいと思っていた。ほめ育の核ができるまで
原氏がこの会社を立ち上げたのは38歳のことだ。ほめ育が生まれるまでには、原氏のキャリアや経験が大きく関係している。
大学を卒業後、食品メーカーへ就職した原氏は同期でトップの営業成績を収めていた。入社3年目のある時、社外のマーケティング講座に参加したところ、同い年のコンサルタントが年上の経営者に対してセミナーをしている姿を目の当たりにする。トップの成績で天狗になっていた中、「上には上がいるのか」とショックを受けた反面、憧れる気持ちも芽生え、コンサルティング会社への転職を決めた。
大手コンサルティング会社へ転職し、週3日の徹夜も珍しくなく、お客様のために全力を尽くす毎日。しかし、2年ほど勤めたものの伸び悩み、先が見えなかった。さらに、コンサルタントとしての提案と現場との乖離にも課題を感じていた。そこで「優れたコンサルタントになるためには現場の経験が必要だ」と考え、上司からの進言もあり、29歳でラーメン屋へ転職。住み込みで働き始めた。
「皿洗いからのスタートでしたが、しばらくは満足にできず、勝手が違う現場のルールも分からない中で店長から怒鳴られる日々でした。前職の元同僚には『終わった人間』と嘲笑されたこともあり、悔しさに手を握りしめた夜もありました」(原社長)
それでも休む暇もなくがむしゃらに働き続け、1年半で店長へ昇格した。当時は気合が入っており、従業員のことを徹底的にしかって指導をしていたという。怒鳴りつけ、ほかの従業員の前で泣くまでしかることもあり、当時はそれが正しいと思い込んでいた。
そんな時、ある従業員の「今月のMVPは誰ですか?」の一言に衝撃を受ける。従業員全員がダメだと思っていたために、頑張った人を認めるという発想がなかったのだ。そこで、「しかる」から「ほめる」にマネジメントをシフトし、月に一度スタッフを集めてほめる会議を実施するようにした。すると、従業員たちのやる気が引き出され、業績は150%にアップし、離職はゼロになるという大きな変化があったのだ。この経験が、現在のほめ育の核となっている。

しかし、32歳の頃、人間関係に悩んで半年間社会から離れることに。もともと、文句や悪口を言う上司に経営者、真面目に働いていない人が嫌だった原氏は、人と意見が対立して人間関係に悩むことが多かったのだという。体調を崩してしまい、社会から離れて自分を見つめ直す中で「自分と同じように人間関係で疲れてしまった人たちのため、困っている人たちのために何かをしたい」と考え、独立を決意した。
独立した当初は、これまでのキャリアを活かして研修やコンサルティングの仕事をしていた。特に、会社員の頃に培われたチラシ作成のスキルが発揮され、チラシ大賞では2年連続大賞を受賞。チラシコンサルタントとしての仕事もしていた。
一方で、昔は小学校の先生になることを夢見ており、教育や人材育成に携わりたいという思いもあった。「それなら、チラシコンサルタントと研修や人材育成を掛け合わせればいい」と考え、コンサルタントをしながらほめ育のメソッドを作り上げていったのだ。そして、そのメソッドを入れながら研修をする中で、今のほめ育の事業が形作られてきたという。これまでと現在を振り返って、原氏はこう語る。
「ほめ育がたくさんの人に届いている今、いいね、すごいねと人から言ってもらえるようになりました。でも、僕はあまりうまく人間関係が作れなくて、会社員としては不適合だったわけです。だから、もうこの仕事以外できなかったんですよ。自分にできることで頑張っているのが、今の仕事なんです」(原社長)
大切なことを携えて、先人を追い抜いていく
ー住み込みでラーメン屋で働いたり、社会から離れていた時期があったり、苦労もたくさん重ねられてきたことと思います。その中で、どうしてここまで積み重ねられたのでしょうか?
15年間毎日、「人生において何をするのか」をA4用紙に書きとめています。自分のビジョンや夢、家族やお客様の名前。そして、今日・今週すること、3ヶ月後、半年後、1年後、2年後、3年後に成し遂げたいこと。これらを書き続けていると、自分の人間性や本性がこの紙の上に現れてくるんです。
そして、書くことを継続する中で習慣になっていくと、習慣が僕を追い越して、今度は習慣が僕を育て始めるんですよ。そうすると、思い描いた方へ一本道で人生を進んでいける。だから、ここに書いたことは全て叶っていくんです。
また、これを書くことで「忙しい」を言い訳にしないようにもしています。仕事以外にも、趣味のピアノやトライアスロンの練習もしていて、やることは毎日本当に多いです。でも、それを言い訳にして妻の誕生日や子どもの学校の話を忘れたり、部下から聞いた仕事の話を忘れて聞き返したり…。それって忙しいからじゃなくて、優先順位を低くしていて、タスク管理が下手で、時間管理がずさんだったからじゃないですか。それを「忙しい」という言葉でごまかしたくないんです。
それに、「あなたの方が優先順位が低いんです」なんて言われたらショックですし、相手も僕の優先順位を下げて、人間関係も冷えていくと思うんですよ。だから、自分の人生においてすること、大切なことをこうして毎日書いていて、その積み重ねが最強の武器になっていると思います。

ーこれまでのキャリアで特に大きく影響を受けたことは何でしたか?
家族の影響を非常に強く受けていると思います。我が家は祖父母・曽祖父母を含めた親族が政治家、実業家、教育者など社会貢献に尽力してきた人格者ばかりで、私自身も愛情を受けて日々ほめられながら育ってきました。自然とみんなほめ育をやってきた家系なんですよね。そのルーツが血として脈々と受け継がれてきたのだと思います。
生意気なことを言うと、そういう先祖たちに負けたくないと思っていて。お墓参りに行ってただ先祖に感謝しても、「何も本気でやっていないくせに、感謝を言われてもな」と思われると思うんですよ。「抜いてやる」くらいの勢いで、精一杯生きろよって。
実際、ひいおじいちゃんは「抜けるものなら抜いてみろ」という言葉を残していて、それが先祖や偉人たちの本音なんじゃないかと思うんです。だから、僕は追い抜く気満々で生きています。
約束を叶えるために。あなたへ、世界へ広めたいほめ育
ー世界中でほめ育を広められていますが、世界に通用するという可能性を感じていらっしゃいますか?
感じています。ただ、通用するから世界へ出ているわけではありません。例えば、カンボジアには周辺一帯がごみ山の区域があるのですが、そこで生まれ育った子どもは病気のために大人になるまで生きられないんです。その中には、生まれてから一度もほめられずに命を終える子どももいるでしょう。
世界にはそういう子どもたちがいるのに、会社も家族も経済的に潤って準備ができてからでは遅い。急がなければと居ても立っても居られなくなり、海外へと飛び出して広めています。
それに、これが自分の生まれてきた意味で、これをするために存在しているんじゃないかと思うんです。僕は「なんで人は人に文句を言うんだろう」「いじめをやめなさいって言うのに、なんで大人は喧嘩しているんだろう」と、この世に対する憤りや疑問を小さい頃からずっと考えていました。「こんな世の中になったらいいのに。大きくなって力がついたらやってね」と将来の自分に約束した、原少年の思いを叶えてあげたいのです。
ーどのような使命を感じながら、日々活動していますか。
私たちはほめられるために生まれてきて、ほめ合うために存在する。この真理を世界中の人に聞いてもらうこと。そして、ほめ育を地球の行動指針として提案したいと考えています。
会社には経営理念があるじゃないですか。逆に、なければ作ろうと提案するし、もはや入社しないかもしれませんよね。でも、地球にはそういうものがない。なんで作らないんだろう、と思うんです。それがなければ地球に住む私たちはチームとして強くなれないですから、196か国にほめ育を広げ、地球の行動指針にしたいと思っています。

ー読者へどのようなことを伝えたいですか?
どんな仕事でも、とにかく楽しんでほしいです。僕はいろいろな仕事を見てきましたが、ラーメン屋の皿洗いが一番難しかったです。熱いし、手は切れるし、スピードも超早いし、ずっと忙しいし。でも、すごく楽しかった。
子どもの夢にはならないかもしれないけれど、世の中にはそういう仕事だらけで、それで回っているじゃないですか。ラーメン屋の皿洗いになりたい子どもはいないけれど、皿洗いがいなかったらラーメン屋は回らない。どんな仕事も必要で、奥深さや難しさがあって、それと一生懸命向き合ってきて良かったと思っているんです。
何より、人生はいつか終わってしまいますから、思いっきり楽しんでほしい。そのためには、徹底して自分をほめること。どんな自分でもほめて、黒歴史ほどハイライトにしてほしいと思います。
「やっちゃった」という時でも「お前はすごいよ。そんなこともあるし、また一からやり直したらいいんじゃない」と言ってあげる。そうやって生き方すべてを肯定する自分を用意したら、怖いものは何もありません。嫌なら会社を辞めて違うところへ行けばいいし、今までの人脈を全部なくしてもう一回やり直してもいい。とにかく、思いきり楽しんでほしいです。
◎インタビュイー
原 邦雄(はら・くにお)
株式会社 スパイラルアップ 代表取締役
一般財団法人 ほめ育財団 代表理事
日本発の教育メソッド「ほめ育」開発者。世界20カ国・100万人に広め、700社以上で離職防止・業績向上に貢献。著書34冊(多言語で翻訳)、米経済誌『Forbes』のウェブ版『Forbes.com』連載。世界経済フォーラム Global Shapers Communityインド2025議長、世界教育サミット登壇。NHK『あさイチ』、フジテレビ『ホンマでっか!?TV』などメディア出演多数。モットーは「意志があるところに道はある」。
◎会社概要
会社名:株式会社スパイラルアップ
URL:https://spiral-up.jp/
住所:〒541-0053 大阪府大阪市中央区本町4丁目8番1号SD本町ビル702号
※本記事はcokiに掲載しているこちらの記事からの転載です。