超高齢社会の最前線で、人手不足と低賃金に悩む介護業界の“常識”を覆そうとする経営者がいる。創業20周年を迎えたあおぞらケアグループ代表・大牟禮康佑氏は、現場を縛る膨大な書類業務に生成AIを導入し、働き方と収益構造を大胆に変革している。
介護は「やりがい搾取」では終わらない──その挑戦と未来像に迫る。(取材・文:菰田将司)

2006年に創業し、今年で20周年を迎えるあおぞらケアグループ(略称ACG)。代表の大牟禮康佑氏は介護事業の「今」について積極的に発信し続けている。
介護業界は、総人口に占める65歳以上の高齢者割合が29.4%と過去最高を記録し、世界で最も「超高齢社会」になった日本(38か国中。令和7年、総務省調べ)において日に日に重要度が増している業種だ。しかし日々のニュースからもれ聞こえる業界の内情には長時間労働、そして低賃金といったネガティブな話題がつきまとっている。
実際に福祉介護事業を管轄する厚生労働省の調査を見ても、介護関係職種の求人倍率は全国平均3.97倍で、これは全職業の平均1.16倍と比べて圧倒的に高い。それだけ希望者が少ない、人手が不足している証拠だが、しかし介護関係従事者は2026年度には約240万人、2040年度にはさらに増大し約272万人も必要になると予想されている。十数年後には、全国民の約2.5%が何等かの介護関係の仕事で働く時代になるのだ。
この常に人材不足に悩まされる介護業界に一石を投じているのが大牟禮代表だ。
「高齢少子化は日本だけでなく今後、世界中の国々で問題になってきます。身体が不自由な方々の手助けをする気高い仕事でありながら、重労働・低賃金のイメージで見られている。この介護の仕事を変えていかなければならない」
代表が着目しているのが、介護の現場で利用者と触れ合ったり介助したりといった実際の業務に付帯する、報告書作成などの事務作業だ。
「平成12年に介護保険法が施行されて以来、日本の介護関連法は何度も更新されてきました。それは介護事業が様々な分野を横断し、連携していかなければ意味がないことが少しずつわかってきたからです」
まだ自分で病院に通えるのか、それとも自宅にいて看護が必要なのか、ベッドから起き上がることもできないのか、杖をつけば歩くことができるのか。家では誰かがいつもそばにいるのか、それとも一人暮らしなのか。こういった利用者それぞれの状態に対応していく中で日本の介護サービスは充実していたのだが、「そういった場当たり的な制度の『増築』を繰り返した結果、役所などに各所に提出するための書類が膨大になってしまったのです」と代表は話す。
「いわゆる『介護業務に付随するバックオフィス』業務が現場を圧迫しているのです。私は以前、建築会社に身を置き、役所に提出する書類などの作成もしていましたが、介護業界の書類の量は、体感でその3倍から4倍もあります。厚生労働省の調査では、介護施設の一日の業務量の3割は書類仕事で占められているというデータもあります」
ただでさえ忙しい日々の業務の中で、このバックオフィス業務をどうにかできないか。代表の着眼点はそこにある。
「経営面から見ても、介護事業は介護報酬が決まっているので単価を上げるといった売上向上の施策をとることができない。ではどうやって利益を上げるか。人件費以外の経費を削減していくしかない。その点でもこのバックオフィス業務の改善は不可欠でした」

―そういった課題意識がある中で導入したのが、業務のDX化だったわけですね。
「いわゆる2040年問題にどう対処していかなければならないか、という課題も頭にありました。少子高齢化によって、日本の総人口に占める高齢者の割合が35%に達すると同時に、15歳から64歳の生産年齢人口が現在より約1,100万人減少する。深刻な労働力不足が確実になる中で、既に不足している介護人材は2040年にはさらに危機的な状況になる。この問題を解決する方法としてDX化を思い立ったのです」
―もともと事業のDX化には関心があったのでしょうか。
「弊社の事業の中には利用者さんの就労支援事業もあるのですが、その中に身体的なハンデがある障害者の方で仕事がしたい方にパソコンを教える、というものがありました。この事業をやるにあたってプログラミングやアプリケーションに詳しい人材を招いたのですが、彼らと話をしていく中で、ITを有効に使えば今まで時間と手間をかけてやっていた仕事を軽減できることに少しずつ気がついていったのです。それで10年ほど前から実務のDX化を進めてきました。その結果、以前は利用者800名分の報告書作成のために月間400時間も費やしていたのを、50時間にまで短縮することができました」
―昨年10月に御社はホリエモン生成AI学校株式会社と提携し、介護業界に特化したフランチャイズ校「ホリエモン生成AI学校 介護校」を開設されました。こちらの設立の経緯と目的についてお伺いします。
「生成AIが今、急速に進歩していることは皆さんもご存じだと思います。ChatGPTをはじめとした様々な生成AIツールが驚くべき勢いで進化し、一般にも広く普及して利用されるようになりました。私自身ニュースを追いながらその進歩のペースに驚いていたのですが、生成AI関連の情報を収集している中でホリエモン生成AI学校株式会社の存在を知り、弊社で受講した後にFC加盟までしました。弊社が実践する介護業務に則した生成AI活用法を、まだ生成AIを導入していない、導入したいが活用できるか不安、といった同業の事業者に提供し、支援することを目指しています」
―同業他社も巻き込んで、介護事業全体を活性化させていきたい代表の意志が感じられますね。

―なぜ代表は介護業界に足を踏み入れられたのでしょうか。
「私が新卒で入社したのは先ほどもお話に出ましたが建築会社でした。九州では名の通った建築会社で、そこで橋梁の工事などをしていたのですが、当時は公共事業が削減されていた時期だった。それで『このままでいいのかな』と漠然と不安を感じ転職しようと考えたのですが、その時友人がホームヘルパーの研修会社で働いていて、なかなか生徒が集まらないから参加してくれないかと誘われ、友人を助けるつもりでホームヘルパー2級講座を受けた。それがこの業界に入ったきっかけでした。22歳の時です。
そうして介護の現場に入って仕事をしていく中で、この仕事は人と向き合っていく仕事で、資本主義を第一優先とせず、そして心理学や哲学的な要素もある複雑で奥深い仕事だと気づかされたんです」
―介護の意義深さを知ることになった。
「ええ。それで仕事に熱中していくと、やっぱり業界のやり方に対する疑問がわいてくる。特に感じたのが『これが本当に利用者さんの生きたい人生を支えられているのか?』というもの。食事は塩分量が少ないものばかりを提供する、といった通り一辺倒の介護、『介護する側』の主導で『介護される側』の生活を指導するといったパターナリズム的な介護が蔓延していた。この介護のスタイルを自分に置き換えて考えた時に『私が介護を受ける側だったら、この介護は嫌だ』と」
―介護を受ける人が本当に求めていることをしてあげられているのか、と。
「利用者さんの人生に最期まで主体性を維持したい、という想いから私が一人でがんばった結果、周囲の反感を招くこともありました。私一人がそういうサービスをしていると、それをしない人との差ができてしまう。私は深夜でも率先して仕事をしていたのですが、そうすると今度は残業代を稼いでいるとかやっかみを受ける」
―それが起業を決意することに繋がったのですね。
「できるだけ利用者さんの目線で考える介護をしたい。それをしていくためには自分で会社を立ち上げるしかない。そう思って弊社を設立しました。
スタート当初は同じ想いを持ったメンバーたちで、部活みたいに楽しくやっていました。しかし事業が拡大し、規模も大きくなっていく中で私たちにのしかかってきたのが膨大な書類仕事でした。介護保険制度が更新されるたびに増え続けたこれらの書類はまさに『書類のための書類』。報告や記録を残すことはもちろん大事なのですが、それ以上に今では、書類が存在すること自体が大事になっている。その作成に多くの時間を割かれているのです」
―それが生成AIの導入へと繋がった。
「生成AIの導入によって書類作成にほとんど人手がかからないようになりました。バックオフィス業務を生成AIに任せることで、スタッフは現場に注力し、利用者さんと向き合う時間が増えただけでなく、経費を軽減し、その分を人件費に充てられるようになった。実は介護業界の年収は他の業種と比べて100万円以上低いといわれています。やりがいはあるが、低い賃金。これが介護業界が『やりがい搾取だ』と言われる要因なのですが、弊社では創業時からの理念である『ご利用者様に最期まで自分らしく主体的な人生を』という言葉と並べて『ケアスタッフにやりがいと経済的豊かさの両立を』を企業理念として掲げています。この『経済的豊かさ』を実現していくためにも生成AI導入は欠くことのできないものでした」
※厚生労働省の調査によると、介護職員の平均給与は月額約31万8,230円となっており、全産業の平均と比較して月額約8.3万円低いとされている(令和8年現在)。
―今後の介護業界について伺っていきます。
「当面は2040年問題に向けて人材不足状態が続いていくと思います。そして、さらにその先の時代になると、今度は高齢者層も減り日本の国そのものが縮小していく時代になる。そうなった時、日本の介護事業は海外に展開していくようになると考えています。日本は超高齢社会に、先進国の中でいち早く突入しました。しかし高齢化は現在、世界各国の趨勢で数年、数十年後には中国やアメリカも日本に追随して高齢化の道を歩みます。その時、ノウハウを蓄積した日本型の介護制度と介護事業者は海外で大いに注目されるのではないでしょうか」
―介護事業が日本の輸出産業になるわけですね。そうなると人材不足どころか、若年層から憧れの職業として介護職が見られるようになるのかもしれません。
「新型コロナ禍以来、エッセンシャルワーカーを見る世間の目が変ってきているように感じています。生成AIの登場によって一部の業種の仕事が奪われつつある今、ブルーカラーの、特にエッセンシャルワーカーの仕事が見直されてきている。介護の仕事もこの時流の中で期待される仕事になっていくのではないでしょうか。
介護業界は事業者自らが仕事の辛さや低賃金をふれ回っていて、ネガティブな印象を広げているような気がします。今後はそれが変り『やりがい詐取』にならず、収入も充分に得られる仕事になる」
―代表は鹿児島と福岡に地盤を置き、九州を中心に事業を展開しています。そのメリットについてはいかがでしょうか。
「日本では現在、数多くの介護事業者があります(約25万4000件、厚生労働省)。鹿児島や福岡にも介護業者は多いのですが、大都市圏と比べて新事業に取り組むと注目を集めやすい、というメリットはあると思いますね。地方ゆえ、やはり意欲のある人材を集めるのが難しいという点がデメリットとしては挙げられますが、これもDX化を推進していくことで解消できるのではと期待しています。
介護保険制度が発足して25年を経て、制度の利用者も増加しましたが、事業者もまた次々に誕生している。ただ日本政府としては介護医療費の肥大化の懸念もあり、今後は事業者を吸収合併して数を減らす指針で進められています。その中でも淘汰されずに事業を推進していくためにも、鹿児島・福岡という地域に根ざしてやっていきたいですね」
―地方発、ということに弱点は感じていない。
「介護事業はこれから若い人がどんどん集まる仕事になると思っています。その点では全く悲観はしていません。介護はやりがいと収入に繋がる、一生を賭けるに足りる仕事だと思っていますから」
―本日はありがとうございました。
〇プロフィール
大牟禮康佑
株式会社あおぞらケアグループ代表
〇会社概要
会社名:株式会社あおぞらケアグループ(ACG)
住所:〒890-0056鹿児島県鹿児島市下荒田3-17-1 レジデンス久野ビル3F
URL:https://aozora-cg.com/
創立:2006年6月