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【誌上セミナー】

新規事業成功の確率を高めるノウハウ

 

◆ラーニング・インターナショナル 代表 小松 勝

(人事・経営コンサルタント/ダントツ事業家養成塾 塾長)

 

◎なぜ多くの新規事業はうまくいかないのか?

 多くの日本企業が次なる攻めの一手として、新規事業開発に取り組んでいるが、十分な成果が上がっているとは言い難い。まずはその理由を整理してみよう。

 

理由1:経験不足で単発的な取り組みで終わってしまう

 新規事業の成功事例を俯瞰してみると、既存事業が培ってきた経営資源を最大限に活かしながら、新たな事業領域を切り開いてきたケースが多い。

 特に中小企業では、新たに思いついたような全く別の事業に着手するなど、今までの既存事業の強みを活かせず、単発的な取り組みになってしまいがち。経験不足と重なって大きな成果に結びつかない事例が散見される。

 

理由2:短期的な戦略と予算

 世の中の人気やブームに煽られて着手した新規事業は成功する確率は低い。特に中小企業の場合、新たに参入しようとする事業分野とのミスマッチに注意したい。短期的な戦略と予算配分では、粘り強いチャレンジが求められる新規事業レースは戦えない。成果が上がるまでに時間がかかり、赤字事業から脱却できないという他社事例から学べる点は多い。

 

理由3:人材不足とノウハウ不足

 新規事業の立ち上げには未知の事業運営ノウハウが求められ、その成功は容易なものではない。そもそも社員数が少なく、専門的な中途入社者を採用していない企業ではそのような経験やノウハウを持つ人材が少ないだけに、弱みをカバーするしたたかな戦略が求められる。

 

◎中小企業の新規事業は練習あるのみ

 中小企業の新規事業では勝負を焦らず、新規事業計画づくりの過程で「人材育成、社内の人材を鍛える場」と発想を転換することも大切だ。

 新規事業の練習にエネルギーを注力している余裕ある企業は決して多くない。だからこそ毎日の仕事を通じて、新規事業への新しいアイデアや仕組み作りのクセをつけ続けると、人材育成や新事業への種蒔きという公式試合へのスタートがきり易い。会議・研修・勉強会等々、あらゆる機会を活用して、今の事業の「ムダ・ムラ・ムリ」な点を、「なぜ、なぜ、なぜ」と話し合いながら分析するなど、新規事業へのアレルギーを取り除く工夫を重ねてみよう。

 新規事業の練習で何よりも大切なのは、経営トップの新規事業の練習にかける思いの強さと覚悟である。

 リスクの高い新規事業を組織として推進していくには、いかに日々の積み重ねが大切なのかを、経営トップが情熱を持って発信し、全責任を負う覚悟を社員に理解してもらい、ともに学ぶ姿勢を前面に出して明るくシビアに進めていくことが必要だ。

 

◎新規事業の戦略はシンプルに強みを活かしきる

 新規事業の練習が進み、新規事業へのアレルギーが薄れ、事業の方向性も固まってきたら、新規事業への戦略をシンプルに3つの観点で整理してみたい。

 

 はじめに、新規事業の戦略策定で求められるのは、『5年先・10年先に、会社全体としてどれだけの事業領域を展開するのか』という将来のビジョンを明らかにすることである。

 自社の将来像に照らすと、現時点で不足している製品やサービスが見えてくる。これこそが取り組むべき『新規事業』になる。

 具体的には訪日客を迎える日本の「おもてなし」の舞台裏では、ベンチャー企業が活躍している。今までITコンサルティング力を活かして、有名旅館の接客技術を伝授するマニュアル作成ツールを開発・提供したり、画像認識技術を応用して免税手続きを簡素化したり、人手不足という課題に新たな商機を見出している。

 

 次に中小企業の新規事業とは、『まったく新しいことを始める』のではなく、『成功してきた主力事業近くの未開拓分野』だと発想転換してみよう。

 あくまでも既存事業での自社の強みや特徴を見直しながら、今以上のシナジー効果が見込まれそうな分野に着眼し、不足しているものを開発または補完していく考え方である。

 例えば、洋酒メーカーのサントリーとUCC上島珈琲の合弁事業、「プロント」のケースがわかり易い。それぞれに強みのある飲食サービスを展開していたが、「昼のコーヒーショップ」と「アルコール」で違う目的の顧客を集めることでシナジーを生み出している。

 

 最後に、経営資源が限られている中小企業の新規事業では、ターゲット市場を絞り、競合他社との争いを極力少なくすることが大切だ。今までの既存事業の強みが活かせる「小さな池を見つけ、競合他社が気づかないうちに大きな魚」を目指す戦略である。

 既存企業の近くに小さな池を見つけ出し、成功体験を重ねながら、小さく産んで大きく育てていくシンプルな戦略で、新規事業への自信や手応えを掴むことが大切になってくる。

 

◎提携戦略・ジョイントベンチャーで新規事業を加速させる

 資金・人脈・人材、多くの経営資源が限られている中小企業の新規事業をスピードアップさせるのに、戦略的な業務提携、ジョイントベンチャー戦略は是非ともマスターしたい経営手法。その重点ポイントを整理してみよう。

 

・新規事業成功までの全てを自社のみで考えない

 現在は大手・中小・ベンチャー企業を問わず、単独で成長シナリオを描く時代ではなく、お互いの強みを効果的に組み合わせ、成長のスピードアップを図る時代である。

 特に新規事業においては、不足している経営要素やノウハウ等を「協業できるパートナー」とWin-Winの関係を築きながらスピードマネジメントに繋げていく発想が重要になる。

 商品力、営業力、管理力など全ての条件が揃ってくるまでの機会損失を防ぐのに、効果的な提携戦略・ジョイントベンチャーのシナリオを描いてみよう。

 

・「競合」よりも「協業」のパートナー探し

 「戦略的な提携」では「どことどのように提携するか」のシナリオづくりが重要になる。その際に、自社の利益のみを先に考えると成功しない。パートナーのメリットを忘れてはならない。

 また、短期的な視点でなく、始めから継続的な関係を意識することも大切だ。新規事業の多くがマーケットそのものを新しく創ることでもあるので、マーケットを広げていくための長期的なパートナーとして捉えることが大切だ。

 先のプロントの例では、新業態のコンセプトを「昼は気軽なコーヒーショップ、夜はおしゃれなダイニングバー」としている。これを二毛作経営と名付けているが、事業展開成功の理由は「時間帯別メニューと飲食サービスの切り替え」を夕方5時30分を境目に完璧に行えるオペレーション・システムを開発した点にある。まさに「競合から協業のパートナー」として高速で事業を伸ばした成功事例といえる。

 

 

 最後に「中小企業の新規成功の確率を高めるチェックリスト」を掲げるので自社の新規事業、加速化への参考にしていただきたい。

 

【中小企業の新規成功の確率を高めるチェックリスト】

1.□新規事業シナリオにワクワクするビジョンが感じられる。

2.□新規事業の意味、取り組む価値が関係者で共有されている。

3.□新規事業の目的・進め方が具体的、明確でわかり易い。

4.□顧客を誰にするのか、どのように絞り込むのかが明確になっている。

5.□顧客の課題について、魅力的な解決策(価値)が提案されている。

6.□なぜ、今その事業をやるべきかが社員間で納得し、共感できている。

7.□新規事業の立ち上げ方、進め方、提携戦略なども明確でわかり易い。

8.□新規事業を求められたので「仕方なくやる」のではなく「自分達がこうやりたい!」という主体性が感じられる。

 

本件に関する問い合わせ先:ラーニング・インターナショナル

TEL. 03-5213-3434 FAX. 03-5213-3422

E-mail:komatsu@learning-i.jp

http://cli.asia

 

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ラーニング・インターナショナル 代表 小松 勝ラーニング・インターナショナル 代表 小松 勝

●プロフィール/こまつ・まさる

中央大学商学部卒業。都市銀行勤務を経て、1975年産能大学入職。企画本部企画開発室長、事業本部事業戦略推進室長等20年間勤務し、その後現代マネジメント研究会(株式会社エム・デー・シー)にて18年間経営人事コンサルタントとして活動後、現在に至る。中央大学商学部にて「人事管理及び能力開発論ゼミ」を兼任講師として18年間担当。労働省ビジネスキャリア専門委員会委員。現在は中堅・中小企業を中心に賃金処遇制度や人事考課制度の設計と運用、目標管理制度の導入と運用、管理職研修等の指導・セミナーなどに活躍中。主な指導先は、みずほ総合研究所、幻冬舎、ルイ・ヴィトン、読売広告社、ミクニ、井筒屋、大同火災海上保険、琉球セメント、地方銀行協会、JA関係、中央大学他私立大学、生協、病院など多数。

 

◆2016年4月号の記事より◆

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