本記事は、HIS創業者の澤田秀雄が設立した『澤田経営道場』の入門式で道場生へ向けて行われた講義を再編したものです。澤田経営道場では、世界で活躍する次世代リーダーを育成するためのプログラムを展開しています。このシリーズでは半年間に渡って行われる澤田経営道場の座学の講義内容を一部切り出してご紹介していきます。シリーズ第一弾の今回のテーマは、「経営者の8つの心得」です。

澤田秀雄
1951年生まれ、大阪府出身。大阪市立生野工高卒業後、旧西独・マインツ大に留学。帰国後、1980年に旅行会社「インターナショナルツアーズ」を設立。1990年に社名を「エイチ・アイ・エス」に変更。1998年には航空会社「スカイマークエアラインズ」を就航させ、社会的な話題となる。2010年、ハウステンボス株式会社社長に就任し、再生事業に着手。開業以来18年連続赤字だった同社を黒字に転換させる。現在は株式会社エイチ・アイ・エス代表取締役会長、エイチ・エス証券株式会社の代表取締役会長の他、アジア経営者連合会 会長も務める。

 

起業家で終わらず「経営者」になるために必要な8つの心得


突然ですが、皆さんは「起業してから1年以内に50%以上の会社が、5年以内には80%以上の会社が倒産や業務廃止で消える」という言葉を聞いたことがありますか?実際の数字はどうであれ、起業したものの「経営者」になれず、悔しい思いをする若者は少なくないのが現実です。

起業家で終わるか、経営者となれるかの分かれ目は、実はちょっとした心得にあります。今回は起業したばかりの人も、これから起業する人にも役立つ心得を8つご紹介します。どれも口で言うのは簡単ですが、実践するのは非常に難しいものばかり。しっかりと胸に刻み、本物の経営者になっていただきたいと思います。

経営者の8つの心得①「ビジョンを描き続ける」

まず、紙とペンを用意して、あなたが実現したい目標を書き出してみてください。目標は、短期目標(3〜6ヶ月)、中期目標(3年)、長期目標に分けて、できるだけ具体的に書いてみましょう。次に、目を瞑ってそれらが実現した時のことを思い浮かべてください。

目標設定のコツは、短期目標は少し頑張れば達成できるものにすること、中期目標は短期目標を実現した先に達成できそうなものにすること、そして長期目標は自分に制限をかけずできる限り大きな目標にすることです。

どうでしょう。いつまでに、何を、どのように、どれくらい実現するかを、数字を用いて具体的に書けましたか?頭の中で成功イメージが映像として鮮明に思い浮かびましたか?

ビジョンや目標をできる限り具体的に設定し、潜在意識に刷り込ませるほど何度も思い浮かべると、日々の思考や行動が変わります。日々の行動が目標達成に向けて自動操縦されるくらい、何度もビジョンを繰り返し想像し、ワクワクする感覚やイメージを刻み込みこむことが経営者として成功する1つ目の心得です。

経営者の8つの心得②「ポリシーや理念を持つ」

あなたは何のために起業しますか?人類のため、地域のため、地域のため、身近な困っている人のため。理由は何でも構いませんが、何となく起業するのではなく、ポリシーや理念を持って起業してください。

企業が成長するためには、色々なステークホルダーに応援してもらう必要があります。ポリシーや理念のない経営者に、部下も顧客もついてきてはくれません。

起業したことで、どのように社会に貢献してくのか。それを周囲にわかりやすく明示することで、協力してくれる人たちを獲得していくことが、事業を継続するにあたって非常に重要となるのです。

経営者の8つの心得③「辛いときこそ、明るく元気に」

経営では必ず、上手くいかないことが訪れます。そのときにリーダーが暗いと、周りもネガティブな気分に引っ張られ、状況がどんどん悪化します。経営者は心で泣いても、明るく元気でいましょう。

私は18年間赤字続きのハウステンボスの再建を任されたことがあります。スタッフたちは、給料が下がり、ボーナスも10年間1度も出ていないため、園内には落ち込みムードが漂っていました。そんなときに私が言ったのは、「嘘でもいいから明るく元気にやってほしい」という言葉です。「そうすると黒字になります」と。そんなバカな、思っていてもスタッフたちが明るく振舞ってくれたのは、リーダーの私が明るく自信満々でいたからだと思います。その後様々な施作を打ち出した結果、ハウステンボスは僅か1年で何十億もの黒字に転換しました。

皆さんも楽しい仕事ではないとき、嫌な言葉をかけられたときこそ、笑顔です。その方が早く立ち上がることができます。落ち込むのは1日だけ。一晩寝たら気持ちを切り替えて、明るく元気に前に進んでいきましょう。

経営者の8つの心得④「人を大事にする」

昔から、経営の資源は「人・物・金」と言われていますが、一番大切なのは「人」です。世の中には様々な経営ノウハウが溢れていますが、最終的には「誰がやっているか」、つまり「人」で成功が左右されるのです。

ですから、将来一緒に事業をしていくスタッフをぜひ大切にしてください。喧嘩することがあっても良いです。厳しくすることがあっても構いません。ただし、何があっても相手を「大切にする」ということだけは、絶対に忘れないでください。

経営者の8つの心得⑤「スピードを意識する」

人より早く行動すると、成功する確率は格段に高まります。もちろんスピード以外にも、正確さや無駄をなくすことも必要ですが、ジェット機でも経営でも、速いほうが大概の場合で勝ちます。早くやる、すぐにやる。この2つを徹底すれば、周囲の一歩先を行くことができます。ぜひスピード感のある経営を目指してください。

経営者の8つの心得⑥「継続する」

私は現在のHISの前身となる会社を、電話1本、机2つだけの事務所でスタートさせました。海外航空券を一般価格の半額で買える破格なサービスだったので自信満々にお客様を待っていたのですが…全く売れませんでした。いい話には危険がつきものだと思われたのでしょうね。「また来ます」と言って帰られたお客様は、二度と戻ってきませんでした。

残念ながら起業から半年間はボロボロで、家賃・電話代・人件費などで、あっという間に1,000万円が飛んでいきました。このままだとマズイと思いつつ、あまりにも暇でしたので、歴史小説ばかり読んでいました。すると、どの登場人物も「石の上にも3年」とか「継続は力なり」と語るのです。それが妙に心に響き、とりあえず3年は続けることを決めました。

すると、1年経って、2年経って、お客様がポツポツと増えていきました。「格安チケットは危ないかも?」と思いながらも買ってくださるお客様が現れ、「安いよ」「よかったよ」という口コミが徐々に広がっていったのです。起業3年もすると、3億、6億、12億と売り上げが右肩上がりに伸びていきました。

もし当時の私が半年で諦めていたら、今のHISも、事業家としての私も存在していません。当たり前の話ですが、成功するまで続ければ、全員が成功します。失敗するのは途中で諦めたからです。目安は3年。3年続けて何も結果が出なかったら、また違うもので挑戦しましょう。そのためにも、起業前には最低6ヶ月間、できれば1年間は利益が出なくても継続できるような資金を準備しておくことも重要であることを付け加えておきます。

経営者の8つの心得⑦「数字を読み解く」

貸借対照表や損益計算書などの財務諸表が読めなければ、経営の状況は分かりません。逆に言えば、数字を読み解けるようになれば、経営課題と解決策を導くことができます。また、お金があればとりあえず会社が潰れることはないので、お金をきちんと管理するためにも、数字を的確に読み解く力が経営者には必須です。

私がハウステンボスの経営再建を行ったとき、まず注目したのが数字でした。経費を3割下げて、売上を2、3割上げれば黒字化すると分かりました。利益と聞くと、売上だけを想起する方が多いのですが、経費を下げることも利益になります。

起業家の中には、「これ以上経費を下げられない!」と嘆く人もいますが、十中八九どこかに効率化や合理化の余地があります。ハウステンボスの場合は、「どうしても効率化できず2割下げられない方は、ぜひ1.2倍の速度で歩いてください」と伝えました。園内を端から端まで歩くと20~30分かかります。1.2倍の速さで歩いて仕事をすれば、10時間かかる仕事が8時間できます。それで2割の経費削減になりますね。経営者はここまで徹底的に考えなければいけません。

皆さんも、「これはいったい何の数字なんだ?」「経費を使い過ぎているのではないか?」と指摘できるように、数字を読み解く勉強をしていただきたいと思います。

経営者の8つの心得⑧「バランスを整える」

世の中はすべてバランスで回っています。会社でいえば、営業部門が強くて売上が上がっていても、経理部門がずさんであれば経費が削減できませんし、人事部門が機能しなければ良い人材を採用することができません。逆も然りで、経理部門や人事部門がいかに素晴らしくても、営業部門にやる気が無ければ会社としては衰退します。

経営者が知っておくべき重要なポイントは、「会社は一番低い部分に合っていく」ということです。いくら経理部門が優れていても営業部門のモチベーションが低ければ、会社全体は営業部門と同じレベルまで下がります。逆に言えば、バランスの悪い部分を調整すれば、会社全体が良い方向に底上げされていきます。この原則をぜひ、覚えていてください。

次世代リーダーに必要な力を鍛える『澤田経営道場』とは

これまで8つの心得をお伝えしてきました。

会社経営は決して楽ではありません。しかし、様々な問題をクリアにしていけば、必ず良くなっていくものです。HISも、コロナで2年間打撃を受けましたが、何とか元気にしています。それもこれも、経営者としての8つの心得を実践してきたからに他なりません。

今後も震災やコロナなど何が起こるか予測しづらい時代が続くと思いますが、どんなときでも今回お伝えした8つの心得は役に立つと思います。こうした心得を早いうちから身につけておくことは、大きなアドバンテージになります。知識や経験が0の状態で起業するよりも、先人の知恵を実践を通して学んでから起業をする方が事業の成功確率が高まるのは言うまでもないでしょう。

そこで、私は志のある若者たちを応援するため、次世代のリーダーに必要な知力・胆力・実践力を徹底的に鍛える『澤田経営道場』を設立しました。澤田経営道場では、約6ヶ月間の座学と1年半の実践研修を通して、経営戦略・戦術、経理・財務的思考、リーダーシップなどを体で覚える2年間のプログラムを提供しています。

私自身も直接指導に携わり、経営者としての経験知をお伝えします。これから何かを達成したいという人たちは、是非道場にチャレンジしていただき、新しい仲間たちと共に切磋琢磨し、より良い社会の構築を目指して世界を変えていこうではありませんか。私も力一杯サポートします。志のある元気なあなたの挑戦をお待ちしています。

※澤田経営道場の詳細はこちらからご覧いただけます。
澤田経営道場公式サイト

https://sawadadojo.com/