◆文:近藤智子 /撮影:加藤俊

 

事業承継を積極的に行う税理士をはじめとした専門家が集まり、必要な知識・経験とネットワークを広げる会として発足した虎ノ門会。その全国会が7月6日、京都市中京区のくろちく京都本店天正間で「第三回全国虎ノ門会(IN京都)」として開催された。

当日は各地に大きな被害をもたらした西日本豪雨がピークに向かいつつあり、交通機関への影響がみられた。そのため、九州と東京からの参加予定者が一部参加できず、講演の順番が変更されるシーンもあったが、各地より65名の会員が駆けつけ、事業承継を扱うプロフェッショナル同士の交流が行われた。

 

田中謙太郎 代表理事と門澤慎先生

 

まずは、代表理事の田中謙太郎さんと理事の門澤慎(公認会計士)さんより、現状報告とこの一年を通しての虎ノ門会の活動の振り返りが行われた。そして、「虎の門会の設立の意義」「税理士・会計士の存在」「虎ノ門会の定義」などが改めて説明されると同時に、「地域間の交流」「HPの活性化と情報交換ツールの活用」「各会合の情報交換の活発化」など、課題も提起された。

 

 

虎ノ門会の会員数は年々増加している。発足当初は8名の集まりから始まった会も、4年経った2018年7月末現在、北は北海道、南は鹿児島まで160名97社が参加するまでに拡大。

時代背景としても潜在的な事業承継ニーズはなお一層の高まりを見せている。田中代表曰く、

「事業承継の悩みを抱えているオーナーは、会社全体の約2/3もいる(帝国データバンク「2017年後継者問題に関する企業実態調査)。このニーズに対して事業承継の専門家の人数が足りておらず、また残念ながらスキル・経験を有している専門家の人数も少ない。そのため、廃業を選択される企業数が年々増えている。事業承継問題を抱えているオーナーに日々会っており、オーナーより相談されている税理士・会計士が事業承継の知識・経験を身につけ、事業承継のサポートしていくべきだ。約半数のオーナーは、税理士・会計士に事業承継の相談しているのだから」と会の意義を強調した。

虎ノ門会の会員は、事業承継問題に関わっている、今後関わりたいとの熱い思いを持った税理士・会計士が中心となっている専門家の集団である。この専門家が虎ノ門会を通じてより一層知識・経験・ネットワークを身に付ける場所である。虎ノ門会の発展が、日本経済の課題の解決につながり、日本経済の成長に寄与できるとの思いである。

 

 

「本来税理士・会計士は、月1回ペースで、担当企業に訪問しており、経営者の色々な悩みを聞いているはずである。ただ、事業承継(M&A)に関する知識・経験不足のため、対応出来ていない現状があります。虎ノ門会は、この現状を変えることがミッションです。」

 

引き続き、虎ノ門会メンバーの基調講演では、4名が登壇。

大丸勲氏

 

ファイナンシャルスタンダードの大丸勲氏がM&Aにおける資産運用について講演した。IFA(金融商品仲介業)としてのアドバイスを行っている同社は、インターネット証券(楽天証券)のサービスを対面で提供している。中小企業が事業を売却した後の資産運用について、銀行や生命保険などバラバラになってしまうことを回避し、税理士や会計士が総合的にサポートすることの大切さが必要であるという。

また、相続も外せない問題であるため、IFAと連携し、最適なアドバイスをすることの必要性を訴えた。

 ファイナンシャルスタンダード (https://fstandard.co.jp/)

 

沼田和敏氏

 

次に、DIマーケティングの沼田和敏氏より、子会社のDIAsiaが行っている「ファイナンシャルマーケティングスタンダード」の業務案内が行われた。同社は今年設立されたばかりの会社であり、ベトナムやインドネシアなどアジアでのビジネスを得意とし、市場調査やインタビューを行っている。120万人いる会員を利用したリサーチで事業を進め、BtoBのマクロ分析や有識者インタビューをしてクイックに情報を得られることが強みである。中小企業が東南アジアへ進出する際のインターネットサーベイをする際に有益な事業だそうである。

 DIAsia (https://dreamincubator.asia/)

 

鈴木知朗氏

 

続いて登壇した税理士法人古田土会計代表社員・鈴木知朗氏。230人ほどの社員の古田土会計は町工場が多い江戸川区にあり、経営者が作業着で事務所を訪れることも多く、「寄り添う」ことを従事している事務所だという。月次決算の会社が多いため、毎月顧客を訪問している。2,200社ほどの顧客がいるが、開業36年以来、紙の決算書を使うことで、数字が苦手な人にもわかりやすく伝えることに力を入れているとのこと。

AIやRPAが浸透しつつあるが、同社は中小企業の経営者と合って話すことを重視することを方針としている。古田土会計作成の「未来会計図表」は空欄を設け、経営者と一緒に考えて埋めていくワークシートのようなもの。数字に無頓着な経営者が考えるために役立っているという。さらに、新入社員でも使いやすい「商品」(フォーマット)をつくることを心がけているという。ベテランほどPCに疎いのが、M&Aや事業継承に役立てられるのではないだろうか。

 株式会社古田土経営 税理士法人古田土会計 (https://www.kodato.com/)

 

税理士法人広瀬 所長代理・上村勝規氏

税理士法人広瀬では、税務顧問以外の業務をより明確に行い、高めるためにチーム制を導入している。それによって、それぞれの分野でのノウハウを集約し、税理士業界の変化に対応することが可能である。京都で活動する当社は、京都の地銀、信金、税理士会、税務署、自治体、事務所OBと連携し、ブランド力を高めることが目的としている。従業員満足が高めて人財の蓄積を行い、各事業力を高めることで京都でも高度な事業を行える組織づくりを目指す。

これまで扱ったM&Aの事例は「中堅企業の買い案件」(買い手・出版系←売り・手出版企画系)、「上場企業の買い案件」(買い手・教育系←売り手・教育系)、「小規模企業の売り案件」(売り手・和装製造業←買い手・和装卸売業)とさまざまである。「京都に広瀬あり」をビジョンとし、今後もより地元密着の活動をしていくとのことである。

税理士法人広瀬 (http://www.hiroseac.co.jp/)

 

 

日本ウィル税理士法人 大坪洋一氏

日本ウィル税理士法人は日本経営グループの税理士法人である。医療・介護・福祉分野などヘルスケアを得意とした当グループは「コンプライアンス業務」「コンサルティング業務」に業務を分けている。医療・介護業界に対するM&A支援業務は、2008年に立ち上げられ、さまざまな案件に取り組んできた。年間5~10件前後の成約実績があり、調整・交渉担当、税務担当、手続担当について、親身かつスピーディーな支援を行っている。

同社は認定医療法人制度(医療法人の非営利性の確保のため、出資持分のない医療法人への移行が推奨された制度)の利用にも積極的に取り組んでいる。この制度を利用することで「円滑な事業承継と地域活性化」「制度活用による相続対策の負担軽減」「持ち株の円滑な移行」「みなし贈与課税のリスク対策」「特別の利益供与の解消、損税の解消」などが可能になる。個人医院の事業承継に今後大いに役立つだろう。

日本ウィル税理士法人 (http://nktax.or.jp/)

 

 

税理士法人北前会計 統括代表社員・中村泰道氏

日本酒の話題だった。「日本酒の現状と歴史」ということで、日本酒ブームの系譜の説明から始まり、水増しされ添加物が多めの普通酒が一般化した現状、普通酒よりもアルコールが少ない本醸造酒という問題から、コストや技術の低下が起こる悪循環についての説明がなされた。そのような中でおいしい日本酒に出合うにはどこを見ればよいのか、料理との相性、さらには日本酒の選び方のコツについても熱く語られた。辛口、甘口の違い、純米酒の良し悪しも加えて伝えられ、会場は大いに沸いた。

虎ノ門会の活動と日本酒はまったく関係がないようにも思えるが、中小企業には蔵元や醸造家が多く、家族や杜氏など事業と技術の継承に頭を悩ませている人も多い。税理士、会計士が客先に出向く際の話題として大変役に立つ知識だといえるだろう。

税理士法人北前会計 (https://mfc-partner.moneyforward.com/16116/)

中村泰道会計事務所 (http://nakamura-cpa.jp/)

 

その後、恒例となった各事務所の名刺交換と初参加メンバーの紹介および名刺交換が行われた。新規参加者も多く、毎回1時間以上時間を要した。

 

 

最後は、くろちくにて、京料理を満喫。酒も入り、見目麗しい舞妓さんと芸妓さんも登場し、会員たちの交流は今宵最高潮に。

 

 

豪雨のため会の開催も危ぶまれたが、幸いにも予定されていた講演を行うことができた。最後に写真撮影をして会は終了した。M&Aは今後もより注目の集まる問題であると思うが、今回の会をきっかけに、さらに取り組や対策に役立てていくことができるのではないだろうか。

 

 

一般社団法人 虎ノ門会

http://www.toranomon-kai.com/