中小企業の多くが後継者不足に陥っている。中小企業庁の試算によると、今後10年間の間に70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人。このうち約半数の127万人が後継者未定の状況だ。この事業承継問題を解決しなければ、廃業が急増し、2025年ごろまでの10年間の累計で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性がある。中小企業の2025年問題と呼ばれるデータだ。新型コロナウイルスの影響を受けて、企業の倒産・廃業が増え、2025年問題が前倒しになるという可能性も出てきた。株式会社M&A総合研究所の代表取締役の佐上峻作氏(29)は、自身もかつてM&Aで苦労した経験を持つ。AIを使いマッチングのスピードと精度を高める、M&A総研の戦略と展望を佐上氏に聞いた。

 

―大学卒業後にM&Aとは全く異なる事業で起業しました。

「神戸大学農学部で遺伝子研究を専攻していた。周囲の大半が大学院に進む中、卒業後はサイバーエージェントグループの株式会社マイクロアドに入社し、広告システムのアルゴリズム開発を担当した。エンジニアとしてのスキルはこの時に磨いた。当時から起業を考えていて2016年、ECやウェブメディア事業を手掛けるメディコマの前身になる会社、Alpacaを創業した。若い女性向けにメークやファッションの情報を発信する『Pinky(ピンキー)』が柱だった」

 

―2017年3月、PR会社のベクトルに株の71%を6億7600万円で譲渡、時価総額は9億5000万円を付けました。上場企業の傘下に入り、何が変わったのでしょうか。

「大手の傘下に入ることで、取り引きが増えて事業が拡大した。また、ベクトルに会社を売却する前後や、ベクトルに在籍した約1年半でM&Aの売り手、買い手両方の立場になる機会が10数回あった。その時にM&Aの大きな課題に気付いた。成約まで時間がかかりすぎることだ。2018年末には残りの株29%を約18億円でベクトルに売却し、メディコマの代表を退任し、M&A総合研究所を設立した。私の祖父が不動産業を営み、父が継がずに仕方なく廃業した。跡継ぎがいなければ廃業を余儀なくされる自営業の大変さを間近で見たことも創業のきっかけになっている」

 

―他の仲介事業者と比べて、どんな点が強みですか。

「自社で開発したAIによるマッチングで、人間では考えることが難しい提案ができることと、成約までの時間が短いことが強みだ。一般的にM&Aの平均成約期間は10カ月から1年と言われている。当社の平均成約期間は7・7カ月(2019年実績)で、業界の平均と比べて3カ月以上短い。事業の譲渡先を探している経営者の中には、従業員の雇用を維持するために、とにかく一日でも早く買い手を見付けたいという人が少なくない。1年もかかっていては会社の経営は立ち行かなくなる。当社は最短3カ月で成約まで至ったケースもある。レアケースだが買い手とのマッチングまでの時間が1時間26分という記録もある。スピードが全てとは言わないが、売り手の要望に応えられることは確かだ。

 

もう一つ、他のM&A仲介事業者と異なる点が、報酬体系だ。大手は交渉前の着手金や基本合意した時の中間金など、交渉の複数の段階で料金がかかる会社が多い。当社はAIによるマッチングで効率化している分、コストを抑えることができる。このため完全成功報酬型の料金体系にしている」

 

―AIの開発は、社内でどのような体制を組んで進めているのでしょうか。

 

「AIは機械学習の量がマッチングの精度上昇に比例するので、3人のエンジニアが手を動かし、どの段階で成約に至らなかったのか常に機械学習させている。AIによるマッチングは、100万社以上の企業データからマッチングして500社から1000社ほどリストアップされる。人の手であれば100社がせいぜいだし、抜け漏れもありマッチングの機会を逸してしまう可能性もある。

 

AIマッチングはまた、人では考えが及ばない異業種同士のマッチングも可能だ。当社は異業種のM&Aが2019年実績で6割を占める。例えば、過去には博物館運営事業者と、メディア運営事業を手掛けるIT企業のマッチング実績がある」

 

―交渉などAIにはできない領域もあると思います。

「もちろん条件交渉などは人の手が必要になる。マッチングの精度を上げたり、日報や稟議書作成などの日常業務をすべて自社システム化することで、営業や交渉といった人の手が必要な業務に時間を割くことができる。これまで千回以上、自社システムを改善してきており、営業担当1人あたりの担当社数も増えている。

 

自分自身、企業の売却、買収どちらの立場にもなったことがあり、苦労した。だからこそ日本のM&Aの課題を解決したい」

 

―新型コロナウイルスの影響で、観光業や飲食業など厳しい経営を強いられている企業も少なくありません。

「当社のお客様でも、スポーツジムを経営される方が新型コロナによる影響を受けて、M&Aを決意した経営者の方がいる。地元で愛されている地域に密着したジムだったので、廃業せずに事業承継という道を選んだ。マッチングの結果、ある大手企業のグループ会社の傘下に入り、廃業を免れた。こうした実績をつくり、M&A仲介企業としての信頼感を高めたい」

 

―11月には大阪と名古屋に営業拠点を設けました。今後の展望は。

「これまでは首都圏や関東の案件が多かったが、営業拠点を広げて全国展開したい。アルゴリズムに言語は関係ないので、いずれは海外も視野に入れる計画だ。新規株式公開(IPO)も視野に入ってきている。

 

中小企業の経営者にとってM&Aは一生に一度あるかないかの非常に重要な決断を伴うものだ。その割にM&Aについてはあまりにも情報が少なく、不透明な部分が多い。こうした情報格差をなくし、適正なM&Aができるように力を注いでいきたい」

 

 

 

【会社概要】
会社名:株式会社M&A総合研究所
事業内容:MA仲介事業
資本金:4.1億円(資本準備金含む)
本社:東京都港区六本木5-2-5 鳥勝ビル
3F
代表者:代表取締役社長 佐上 峻作


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