後継者不足による廃業の増加や将来的なGDPの減少などの問題が新型コロナの影響で深刻化する中、事業承継の選択肢の一つであるM&A仲介業を手掛けるM&A総合研究所が、東証適時開示データをもとにM&Aに関する2021年上半期の国内動向を調査した。

サマリー

・2021年上半期の公表されているM&A件数は447件となり前年比2%と増加

・買収対象となった企業の中で最も多かった業種は「IT・ソフトウェア」(86件)、ついで「専門商社」(27件)、「建設・土木」(21件)

・買収の対象となった企業において増加率が著しかった業種は「繊維製品」(600%)、「化学」(380%)、「精密機械」(300%)

 

コロナ禍での、「繊維」や「化学」、「精密機械」業を対象にした買い意欲が活発に

2021年1月〜6月期において上場企業が公表した合併・買収(M&A)の件数は447件でした。前年の同時期における件数が421件であり、前年比106.2%と増加しました。 買収の対象となった企業の業種別のランキングを見ると、「IT・ソフトウェア」が最も多く86件で、「専門商社」が27件、「建設・土木」が21件と続きました。

最も数が多かったIT・ソフトウェア業界では、企業の多くが3次・4次請けとなり、薄利の構造に陥りやすいという課題が存在し、多重下請け構造から脱出するために、M&Aで会社売却を決意する経営者が多い特徴があります。

 

「IT・ソフトウェア」業種を対象としたM&Aの中でも、日立製作所が、米IT企業のグローバルロジックを1兆円超で買収した案件が上半期で最も取引金額の高い成約案件でした。これは、日立製作所がエネルギーや鉄道などの社会インフラ事業のデジタル化促進を目的として行ったものでした。今後同様の目的でIT企業を対象にデジタル化促進を目的としたM&Aが増えていく可能性があります。

 

2020年の上半期と比較した業種別のM&A件数の増加幅を見ると、「繊維製品」、「化学」、「精密機械」の3領域が著しく増加しました。「繊維製品」は、件数は6件と少ないものの、前年には1件であり、6倍にまで増加しました。また「化学」は19件で前年の3.8倍、「精密機械」では3倍と高い増加幅となりました。

 

M&A総合研究所取締役 矢吹明大による総括

 

昨今では新型コロナによる不況を通じて一時的に下がった買収需要が復調し、さらにコロナを通じて事業基盤の強化を進める上場企業も多く、経営の多角化が進んでいます。また新型コロナ発生から1年以上が経過し、経営層のM&Aに対する心理改善が顕著になりつつある中、様々な業界においてさらに積極的な再編が進んでいくと考えられます。

今回の調査対象期間において増加率が著しかった「繊維製品」業では、企業の多くがコロナ禍で中国との取引高の減少や、中国から綿やウールの輸入が滞ったことによる業績悪化に見舞われました。これに対して経営体制の盤石化を図るため、技術交換、インフラ相互利用などの協業を推進し業績拡大を図る企業が増えています。さらに今後は中国の復活基調を受け、買収対象となる企業の採算良化を見越したM&Aが増えていく可能性が高いと考えられます。

また化学業界では石油元売り大手を取り巻く事業環境の厳しさが目立つ他、日本政府が掲げる2050年までのカーボンニュートラル宣言を受け、国内の石油需要が低下すると見られ、これを受け再生可能エネルギー事業などを強化し事業転換を進める企業が今後も増加すると予想されます。

 

 

株式会社M&A総合研究所

事業内容:M&A仲介事業

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