◆文:大澤美恵 /撮影:Yilin Zhou

2018年8月28日、国内最大級のM&Aマーケットの「TRANBI(トランビ)」を運営する株式会社トランビが、複数のベンチャーキャピタルファンドやM&A仲介会社などから11億円の資金調達を行ったことを発表した。プラットフォームを運営する業態のベンチャー企業が調達した金額としてはかなりの高額だ。

トランビでは、「事業や会社を売りたい」と考える比較的小規模の中小企業に関する情報が数多く掲載され、売り手にはこの事業を買えばどのようなメリットがあるのかがわかるようになっている。一般的に、M&Aを行う際は仲介会社などの専門家が当事者間に介入することが一般的だが、トランビでは買い手と売り手の間が直接交渉できる点も大きな特徴だ。

 

写真左 髙橋聡 社長 /桃井透部長

そのようなM&Aのプラットフォームを運営するトランビが、これほど規模の大きな資金調達を行ったのはなぜなのか。また、同社が考える今後の課題とは何なのか。代表取締役社長高橋聡氏、経営管理部長 M&Aシニアエキスパート 桃井透氏、経営企画部部長兼広報 井土裕介氏の3名から話を聞いた。

 

―今回、11億円もの資金を調達しようと思われた理由は?

 

高橋:経済産業省の調べによると、2025年までに70歳(平均引退年齢)を超える中小企業の経営者は245万人に上りますが、そのうちの約半数の127万社で後継者が未定、という事態になっています。

(※)現に、私が長野で経営しているもう一社のアスク工業の取引先でも、毎年3~5社が黒字廃業しています。そのため、事業承継の手段としてM&Aのニーズは非常に高まっていると言えるでしょう。

しかし、急増する需要に支援体制のほうが追いついていない、という大きな問題があります。初めは無償のM&Aプラットフォームとしてトランビはスタートしましたが、おかげさまで利用者が1万人を突破し、規模も大きくなってきました。現状だと買い手と売り手が出会うことしかできないのですが、本来、M&Aの成功のためには知識提供や相談対応といったさまざまな機能がないとだめなわけです。

そこで、中小企業にとってM&Aをもっと身近にするべく、必要な体制を構築していくために今回資金調達を実施しました。

 

―調達した11億円はどのような用途に使われる予定なのか?

 

高橋:地方の金融機関を対象にしたeラーニングシステムを構築しようと思っています。地方の中小企業のオーナーが事業承継の問題を考えたときに、相談相手がいません。インターネットで検索しても限られた企業しか出てきません。しかし、数千万円~1億程度の事業規模では、「手間のわりにコストがかかる」と言って相手にされないことが多いのが実情です。

そのため、付き合いのある地方銀行や税理士・会計士などの専門家に相談することになるのですが、そこにも課題が2つあります。

ひとつは、売り手と買い手のデータベースがないために、両者が出会いたくても出会えないこと。もうひとつは、地域にM&Aの専門家がいないこと。専門家の数は増えてきてはいるものの、まだまだ数は圧倒的に足りていません。そのため、まずは地域で企業の顧問をされている税理士・会計士の方が相談に乗れる仕組みをつくるべくeラーニングの準備を進めています。

 

―金融機関はそれをどう受け止めている?

 

井土:金融機関の方からは非常に好意的に受け止めていただいています。地銀にとって、顧客の9割は、地元の中小企業です。これまでは独自にM&Aを実施することは難しかったわけですが、トランビを利用していただければM&Aに取り組んでいただけるようになるわけですから。

金融機関にも温度差はありますが、非常に熱心にM&Aに取り組んでくださっている銀行では、企業のオーナーさんに事業承継に関する話を持ち掛け、トランビの利用登録を促していただいているところもあります。

一方で、そこまで取り組んでいただけていない金融機関もありますので、我々としては、熱量を上げるべく努力をしていきたいと思っています。その手段として考えているのが、eラーニングです。

 

―急成長しているトランビだが、最近ではどのようなM&Aのマッチングが行われている?

 

桃井:売り手としてご登録いただく案件として、最近では創業以来何十年、何百年と続く老舗企業の登録まで幅広く行われるようになっています。代々家業を受け継いできたものの、お子さんは都市部の企業に勤めておられて「家業を継ぎたくない」と言っている、などのケースが増えていると思われます。

先日は、老舗の豆腐店がカフェ事業の売却に関する情報をトランビに掲載したところ、20社近くの問い合わせがあり、その中からプロモーション会社との間で成約しました。

 

井土:その豆腐店は、豆腐を活かしたカフェを1~2年前から経営されていました。ところが、海外から多数引き合いがあり、今後は海外事業に注力するため、カフェ事業を売却しようと考えたようです。

当時、買い手となったプロモーション会社では、「ヘルシーな素材を使ったカフェを始めたい」とカフェ事業を探されていました。ちょうどそのときにトランビで豆腐店のカフェ事業を発見され、成約に至ったのです。現在では、豆腐スイーツを出す健康系カフェを始めるべく準備が進められています。

 

―既存の企業や事業をM&Aで買うメリットは

 

井土:業歴が長いということは、すなわち財務的に安定している証です。「これから何かを始めたい」という人がゼロから事業を立ち上げるのには、かなりの資金が必要ですし、さまざまなリスクも伴います。

たとえば「これからお菓子屋さんを始めたい」という人がいるとします。しかし、お菓子屋さんを始めるには、まず店舗を探して、厨房機器や調理器具などをそろえなければならない上に、一からお客様を獲得しなければなりません。そのため、かなりの資金もエネルギーも必要になります。

しかし、既存の企業や事業を購入すれば、設備投資の必要性や財務リスクがない上に、そのまま老舗ブランドを使って新しいことにチャレンジすることができます。また、顧客や商圏もそのまま引き継ぐこともできます。自社の事業と買収した事業を組み合わせることで、大きなシナジーを生むことができる可能性もありますから、M&Aを使った事業展開はまさに一石二鳥ではないでしょうか。

 

 

―今後、トランビの利用を検討されている方に伝えたいメッセージは?

 

高橋:売り手の方には、トランビをご利用いただくことで、自社の事業が客観的にどう見られているのかを知ることができます。例えば旅館であれば、旅館の事業自体に価値を感じる企業もあれば、旅館の建物や地域のコミュニティを活用できることに価値を感じる企業もあります。そういった自社事業に価値を感じてもらえる企業と想いを共有していくことで、今までとは異なる角度で自社事業の魅力を改めて発見できる可能性があります。

これによって、自社の価値を新たに認識し、将来発展させてくれる買手企業を見つけることができるかもしれません。

一方、買い手からすれば、M&Aを通して新たなチャレンジができるチャンスがあると言えます。地方には、先代・先々代から受け継いできた事業を踏襲しながらも、新しいことに次々と挑戦している企業もあります。そのため、既存の事業を大きくするだけではなく、新しい事業に挑戦していくためにM&Aを活用する方法もあります。そのような企業に出会うためのツールとして、当社のようなプラットフォームを活用いただくことも一つの方法ではないでしょうか。

 

地方の中小企業にとって、後継者がいないことは死活問題だ。ひとつの企業が廃業してしまうことで、その企業の取引先や地方銀行の経営にまで影響を及ぼすこともある。今回11億円という莫大な金額の調達に成功したことで、トランビにはM&Aを使った事業承継をさらに推し進め、後継者問題に悩む中小零細企業の救世主となってもらえるよう、期待したい。

 

(※)経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」pp.6

<https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/chusho/dai1/siryou1.pdf>

【プロフィール】

高橋聡(たかはし そう)

1977年生まれ、長野県出身。

アメリカのデュポール大学を卒業後、有名大手コンサルティング会社のアクセンチュアに入社。2005年より父親の経営するアスク工業に入社し、2010年に同社代表取締役社長に就任。翌2011年、社内事業としてトランビのサービスを開始。2016年に株式会社アストラッド(現トランビ)を設立し、同社代表取締役社長を務める。以後現職。

<会社概要>

株式会社トランビ

設立:2016年4月

所在地:〒105-0004 東京都港区新橋五丁目14番4号 新倉ビル6階

連絡先:TEL:03-6869-8193 / FAX:03-6869-5455