◆取材:増山弘之

藤井一郎 インテグループ株式会社 代表取締役社長

 

インテグループ株式会社は「M&A仲介会社のブランド認知度等に関する調査」(2018年5月 大手民間調査会社実施)において、完全成功報酬制のM&A仲介会社の「認知度」、「相談したことがある会社」、「相談したい会社」の全てで1位を獲得している。今回、顧客から支持される完全成功報酬モデルの成り立ちの背景を藤井一郎代表に詳しく伺った。

 

M&Aビジネスとの出会い

藤井氏の好きな言葉の一つに「鶏口となるも牛後となるなかれ」がある。中学生のころから柔道に熱中し、高校時代には兵庫県代表としてインターハイに出場するまでの実力を身に着けた。このとき同じ60キロ級で奈良県代表として出場していたのが、後に五輪3連覇を果たした野村忠宏氏だ。しかし、その時の結果は2人ともリーグ戦で敗退。その後、野村氏は、大学でも柔道を続け、頭角を現していく。

一方、藤井氏は「インターハイで負けているようでは、柔道ではとても五輪を目指せるような選手にはなれないと思い、競技人口が少なく、自分の特徴をいかせて、世界で№1を目指せるサンボ(ロシアの格闘技)に転身することに決めた」。この結果、大学時代から世界選手権に出場でき、世界5位まで行くことができたのだ。

さて、サンボで世界選手権に出場する際、主催国が途上国の場合もあったことから、藤井氏はそういった国に興味を持つようになる。競技を通して世界に目が開け、社会人になっても海外で活躍したいという思いが芽生えてきたのだ。そこで、確実に海外に行けそうな総合商社の三菱商事に就職することにした。

三菱商事では自動車部門の台湾チームに配属された。望み通り入社2年目から2年間の台湾に行くことがかなった。その台湾で、現地の若者と接し藤井氏は金融に目覚める。そこでは20代の若者が、株や投資信託に関心が高く、投資活動が当たり前になっていた。これがきっかけで、自身も株式市場や投資に強く興味を持つようになり、独学で金融を勉強するようになった。

台湾から日本に帰任後も、引き続き台湾と中国市場の自動車ビジネスに携わっていたが、それと同時に自ら株式投資も始め、ますます投資や金融関係の仕事をしたいという思いが募ってきた。そこで、社内で投資部門への異動希望を出すに至るが、大組織の中では希望がいつ通るか分からない。ついに藤井氏は思い切って会社を辞め、MBA取得のための留学を決める。

ビジネススクールは10校ほど受検したが、結果、全額学費免除になるスカラーシップのオファーを受けたサンダーバード国際経営大学院を選んだ。このMBA留学時代に藤井氏はさらに貴重な体験をする。

それは、シリコンバレーのコンサルティング会社でのインターン体験だった。シリコンバレーではネットワーキングを行うコミュニティ活動が活発で、スタートアップや、自分が成長させた企業の売却の話が飛び交っていた。特別な才能がなくても、皆普通にチャレンジ精神をもって起業していく空気が新鮮だった。

そこで気づいたのは、コールセンターや、アウトソーシングなどの新事業モデルが、そのうち確実に日本に導入され、成功していくという流れだ。中でも藤井氏が目をとめたのは、IPOに至る前でも、会社を売ったり買ったりするM&Aだ。藤井氏は日本でも未上場会社のM&Aが日常化するだろうという確信をもった。性分として興味を引くのは、やはり今すでに出来上がっているビジネスではなく、これから参入しても勝てるビジネスだ。そして何より日本でも、シリコンバレーのようなM&Aによるダイナミズムを経験したかった。

 

日本のM&Aの現状認識と、M&Aアドバイジングの事例について教えてください

帰国後にM&Aに直接かかわり始めたのは、留学時代に知り合った会計士が立ち上げたM&Aアドバイザリー会社の役員になるところからだ。その頃までは年間1千件台だった日本のM&Aも、2004年ごろから2,000件を超え、件数が急激に伸び始めていた。

 

「経営者の印象も変わってきました。一頃はM&Aと言えば『ハゲタカ』、『乗っ取り』といったネガティブな見方が多かったが、今は身近な経営者が売買にかかわり、企業戦略の一つとして一般化してきている。IT業界が特にM&Aが活発で、全体の動きをけん引していますね」と藤井氏は指摘する。

ただ、日本のM&A取引金額の対GDP比率は欧米と比較すればまだ半分程度と言われており、まだまだ伸びる余地がある。

ここで、藤井氏が携わった印象深いアドバイジングについて聞いてみた。それは、IT系のコンサルティング会社の売却に絡むものだった。この会社は当時年商が約100億円の会社であったが、オーナーが50代での早期リタイアの可能性を探っていた。もともとは何の伝手もなかったが、送ったDMに問い合わせをいただいたのだった。

オーナーとしては、今すぐではなく、これから数年かけて権限委譲を進めていき、自分がいなくなっても成長できる体制にしたら、売却するかもしれないとのこと。

その後も、年に1,2度会いに行っていたが、3年ほどたったある日、準備が整ったので売却してもよいという話が出た。打診は数社に絞り、金額は200億円以上で売りたい、それ以下では無理に売らなくてもよいという。

藤井氏は、いくつかの事業会社と投資ファンドに打診し慎重に買い先を探した。魅力的な案件だったので複数のオファーがあったのだが、その中の一つにオーナーの希望通りの良い条件を出すグローバルに活動するファンドがありそこに決まった。

この時のスキームはオーナーがまず持ち株を約200億円でいったんファンドが設立したSPC(特別目的会社)に売却した後、オーナーはSPCに30億円程度出資した。オーナーが再び出資することが、事業の成長を確信しているというシグナルになり、本件にかかる資金調達を容易にした。

この案件は、ファンド側が過去にさかのぼって遡及監査を実施し、ファンドが買収してからわずか2年3か月で上場するというバイアウトファンド傘下での新規上場の最短記録を打ち立てた。そして、上場後にはオーナーが再出資した部分が約4倍になった。会社もその後順調に業績を伸ばし続け、オーナーはやりたいことをやりながら、充実した自適の生活を送っているという。

 

M&Aがさらに普及するにあたってのボトルネックは経営者の出口意識

しかし、先のようにしっかりと出口の準備をするオーナーはまだ少ないという。藤井氏は日本でM&Aがさらに活性化するにあたっての問題を指摘する。

 

「経営者の経営に対する考え方の問題がまず大きいですね。日本では100年超の長寿企業が外国と比べて圧倒的に多いという状況からも見受けられるように、継続することこそがいいことだと考えられている部分がある。100年以上続いてきた企業は、今まで親族に引き継がれてきたことが多いという結果です。ただ、親族はその会社を本当に引き継ぎたくてやっているのか、本当に能力のある経営者が経営してきたのか、ということもあるのではないでしょうか」。

 

日本では、経営者があまりにも自身のオーナーシップに拘りすぎていると藤井氏は言う。

「実際にこんな例がありました。ある海外の化粧品メーカーの日本での総代理店を行っている会社のM&A仲介を引き受けたときのこと。M&A実行前に、株主と社長が変わることについて、その海外の化粧品メーカーから承認を得ることという条件がM&Aの最終契約書に盛り込まれました。

売り手の社長はその条項を非常に気にしていて、自分が経営権を手放すと言ったら、長年の信頼を失い取引が切られるのではないかと大いに心配でした。そこで、社長としては恐る恐るメールで打診をしました。すると、返って来た答えは、Congratulations!(おめでとう!)、早く次の社長に会いたい、だったのです」

 

自分がいることに固執するのではなく、本当に成長させてくれる経営者に引き継いだほうが従業員にとってもよい場合もあるのではないかと藤井氏は指摘する。

さらに、もう一つの問題は売るタイミングなどの出口の設計の話だ。日本の経営者の場合、良いときは自分が経営をし続けようとし、手放そうと思うときは経営が思わしくなくなったときになる。しかし、買い手からすれば当然に業績の良い企業が買いたいので、業績が下がると価値も下がり売り時を逃すということになる。

この点、シリコンバレーを中心に欧米では、経営者が事業を行うときに出口のことを考えていることがむしろ一般的だという。「欧米では、企業価値をできるだけ高めていって、一番いいタイミングで売るという発想だ」。

前述のアドバイジングの事例では足掛け数年で売却を実行しているわけで、出口の設計があれば価値を高める余裕ができる。 

M&A売買手数料のブラックボックスに切り込む

さらに藤井氏は言う。

「もう一つの大きな問題は、すでに当社が問題解決に取り組んでいることではありますが、取引の不透明性ですね。ブラックボックスになっている方が、仲介会社は儲かるわけですが、依頼する側は躊躇する。透明性が高まると、もっと依頼は増えると思いますね」

そもそもM&A仲介をビジネスとして考えると、仲介会社の収益の中身は、平たく言えば客単価×件数ということ。企業が儲けるためには、着手金や中間金等のキャッシュポイントを増やすか、件数を増やすかということになる。

着手金や中間的なフィーを徴収する方向に行くと、どうしても職業倫理の問題が生じてくる。つまり、儲けるためには内心決まらないだろうと思っていても、営業をかけ中間的な稼働に対する費用を徴収するということが起こる。実際には、着手金を払ったがその後まったく良い相手先を紹介されないという場合もよくあるらしい。

これに対して、インテグループでは「着手金や中間的な顧客負担をゼロにする一方、引き受けた案件は、確実に成約できるよう尽力し、成約率を上げることを考えています。そのためには、取引の透明性を高め、安心して相談できるようにすることがまず重要なのです」。

この点、完全成功報酬型は成功したときしか手数料は発生しないので、依頼主からすれば明朗だ。

また、「着手金や中間的な手数料をいただかないということにより、成約する可能性が低い案件は最初から受けないということもできます。つまり、弊社のアドバイザーは、依頼主に対して心理的な負い目がなく、高いモチベーションをもって依頼主の期待に応えることができるのです」。

このように、不要なコストを徴収しないことが、内部に対してはアドバイザーの活動の質を高めることになるのだ。その結果。同社は成約率が高く、社員一人当たり成約件数が業界平均の3倍の生産性を実現できている。

「サステイナブルなビジネスモデルは、売り手にとっても買い手にとっても、我々の従業員にとっても公正なものでないと成立しないと思っています」と藤井氏。

 

M&Aが上手くいくために重要なのものは?

最後に、M&Aの成立においてもっとも重要なことは何かについて聞いた。

それは、売り手と買い手との間で、M&A後もスムーズに引継ぎができる信頼関係の醸成だ。この信頼関係が当座の成約のみならず、PMI=Post Merger Integration(ポスト・ マージャー・インテグレーション)、つまり経営の統合プロセスにも影響する。

 

藤井氏は信頼関係の醸成にあたり、以下のようなポイントを指摘する(売り側にとって)。

 

①言ったことを守る

あたりまえのことだが、交渉中は、小さなことでも時間や提出物の納期は守る。こいうった細かいことの積み上げが信頼関係の醸成に役立つ。

 

②できるだけオープンに情報開示する

あとで、聞いていないということが出てきたりすると、取引が破断になったり、買取価格を必要以上に下げられたりということも多い。悪い情報であってもできるだけ早く出しておくことが必要だ。

 

③相手の立場を尊重・理解する

売り手からすれば、相手を尊重することで、相手の企業戦略や、当該担当者のミッションなどについての情報をより一層引き出すことができ、信頼関係をさらに深めることができる。

 

④共通の利害について話す

ここがもっとも重要であるが、引き継いだ会社をどうするのか。売る側も買う側も利害が一致するポイントは会社が業績を上げることだ。売り手は残った従業員に活躍してもらいたいし、買い手は事業を成功させたい。そうすると、従業員が活躍し業績を上げるにはどのような体制としておくべきか(当面の従業員待遇の維持など)といったことを良く合意しておく必要がある。

 

⑤好感を持たれる

最後に細かいことだが、売りたい側はプライドがあったりして、買い側に対して不遜に見えるような対応をしたりすること(そのように見えてしまうこと)がある。また、高い値段をふっかけようとしていると見えることもある。よって、信頼関係構築に成功するまでは相手にどう見えているのかに細心の注意を払う必要がある。

 

「インテグループでは、PMIにも影響する、相手との信頼関係が醸成されていくサポートをしっかり行っているが、それが満足度の高さにも繋がっている」と藤井氏。

今回、一連のインタビューを通して感じたことは、藤井氏が売り手、買い手、仲介会社、アドバイザーなどのインセンティブと利益相反を勘案した上、合理性を突き詰め、それぞれに喜ばれるビジネスモデルとしての完全成果報酬制に行きついていることである。このことが相談したい完全成功報酬制M&A会社№1の評価につながっているのだろう。

さらに掘り下げると、そのビジネスモデルを包摂するのは藤井氏の経営哲学だ。インテグループ(Integroup)の名前を成す基本理念、Integrityとは、裏表がなく首尾一貫していること、「思考」、「言葉」、「行動」の3つが一致していること、そこから「誠実さ」「高潔さ」を意味する言葉だという。

閉塞感漂う日本経済にあって、産業構造や、経営体制の新陳代謝を促す起爆材として期待されるM&A。「顧客から支持される完全成功報酬制のM&A仲介の市場をリードをしていきたい」と、藤井氏は熱を込める。

 

 

<プロフィール>

藤井一郎(ふじい・いちろう)

インテグループ株式会社 代表取締役社長

三菱商事株式会社(東京および台湾)にて台湾・中国市場の自動車関連プロジェクトに従事。その後、米国ビジネススクールに留学し、米国シリコンバレーのコンサルティング会社Business Cafe, Inc.にて現地ソフトウェア企業の日本進出をハンズオンで支援。日本に帰国後、ITベンチャーのフリービット株式会社(現東証一部)での海外事業開拓マネージャーを経て、M&Aブティックの株式会社サンベルトパートナーズの取締役に就任。2007年インテグループ株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。

早稲田大学政治経済学部政治学科卒(小野梓記念賞を受賞)

Thunderbird School of Global Management, MBA(Merit based, full-ride scholarship)

著書

『トップM&Aアドバイザーが初めて明かす 中小企業M&A 34の真実』(東洋経済新報社)

『プロフェッショナル・ネゴシエーターの頭の中』(東洋経済新報社)

特技は格闘技で、学生時代に以下の実績を残す。

サンボ(ロシアの格闘技):-57kg級で二年連続世界選手権5位。

柔道:-60kg級でインターハイ出場。

極真空手:軽量級で学生空手道選手権大会優勝。

 

<会社情報>

東京本社

〒100-6003 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビル26F

TEL: 03-6206-6980 FAX: 03-6206-6982

https://www.integroup.jp/

設立 2007年6月

資本金 1億円

【特長】

中堅・中小企業のM&A支援に特化

中小規模のM&A仲介・アドバイザリーの専門会社として豊富な実績を有する。

 

完全成功報酬制

お客様にとってリスクがない完全成功報酬制を採用している。

M&Aが成立しない限り、手数料は一切徴収しない。