◆取材:加藤俊

 

その日、西新宿三井ビルディング23階のコミュニケーションスペースbit&innovationの会場は一日中熱気に包まれていた。

現代社会を覆う貧困、食糧問題、エネルギー問題、水質汚染、コミュニティ開発、難民問題、宗教先導、文化継承、高齢化、教育格差などの社会課題。その解決に向けて何かをしたいという志をもった人が一堂に集まる「地球カンファレンス」なるイベントが開催されたのだ。

「地球カンファレンス」という名の通り、地球軸で社会課題を考え、一人ひとりが地球に対して自分ができるアクションを考えていくというのが本イベントのテーマ。主催は、インプレス山中哲男さんと、another life.(アナザーライフ)さん。

本稿では当日の様子をレポートする。

 

※本イベントにも繋がる

山中哲男さん×山口豪志さん対談記事「30代若手リーダーが語る「繋がり」が日本の未来を変えていく!」はこちら

another life.(アナザーライフ)新條隼人さんの記事「Googleでも集められない物語、あらゆる人生を追体験できるanother life.」はこちら

私たち一人ひとりにできること

容易な解はない。それでも私たち一人ひとりが答えを探さなければならない。向き合わなければならない。

主催者の山中哲男さんが冒頭に投げかけたこの言葉は参加者一人ひとりの心にどう受け止められたのだろうか。それは程なくして明らかになった。山中さんの言葉は、一人ひとりの参加者の心の波紋を打ち震わすに十分な力強さを持っていた。ゲストによるトークセッションが終わった後、多くの人が自分自身のアクションを考えた(後編で様子をレポートします)。この場にいる誰しもが「私にできることは何だろう」と考えていた。

 

後日、山中さんにイベントの意図を聞いた。

 

「私の周りには、様々な社会課題に対して、志を持ち活動する人が数多くいます。しかし、その人たちは何を目指しているのか、どんな課題に正対しているかが語られる場は殆どありません。

本質の部分では非常に近い考えを持ちつつそれぞれの特徴を活かした活動をする人たち同士が、顔を突き合わせて未来について語ることで、新しい気づきやアイデアが生まれ、未来に必要な今すべき行動につながるキッカケを作りたいと考えたんです。

 

過去を受け入れ未来にフォーカスをすることで、参加する人たちと共にできる行動につなげていくことを意図しています。

10年後に振り返った時に、『あの日がスタートだった』と言えるような場を作れたら幸いです」。

 

 

トークセッション1 社会課題に対して持続的に取り組むには?

社会問題の解決には「取り組み続ける」姿勢が重要ということで、第1部はサステナブルに続く組織の在り方とはどのようなものかというテーマで、社会課題に立ち向かうゲスト4人によるトークセッションが展開された。

 

山中哲男 (モデレーター) 1982年兵庫県生まれ。高校卒業後大手電機メーカーに就職する。約1年間働くが、やりがいをもつことができず転職を試みるものの、失敗の連続。自分で仕事をつくることを決意し、飲食店を開業。“ゆったりくつろげる空間”をコンセプトにした居酒屋を展開し繁盛店にする。その後、米国ハワイ州でコンサルティング会社を設立しCEOに就任。日本企業の海外進出支援、M&A仲介、事業開発支援を行う。人気店を多数支援。翌年、株式会社インプレスを設立し、代表取締役社長に就任。ビジョンや想いに共感し、経済合理性だけを追及するのではなく社会的に価値を見いだす事業に絞り込み、民間企業、行政問わず既存事業の事業戦略策定や実行アドバイス、新規事業やプロジェクト開発支援を中心に活動中。人、社会、地球が共生できる世界づくりを目指している。著書に『立上力』、『あったらいいなを実現するビジネスのつくり方』がある。2015ワールド・アライアンス・フォーラム事務局長 /U3A国際会議2016実行委員

 

山中哲男(以下、山中) 地球カンファレンスなので「地球」という大きなテーマで話を進めていこうと思いますが、今日のゲストのみなさんは、地球とか社会に問題意識を持っているメンバーで集まっています。なぜ問題意識をもったのか、各々のきっかけから自己紹介を交えてお聞きしていきたいと思います。

 

 

池嶋徳佳 2002年早稲田大学卒業、アクセンチュア株式会社入社。戦略部門に所属し、大手通信会社、ソフトウェアメーカー、製薬会社、小売会社等の営業・マーケティング改革プロジェクトに従事。2007年4月よりリヴァンプに参画。数々の企業の経営再建プロジェクト、マーケティング改革プロジェクトに従事。現在は官公庁におけるビジットジャパン・クールジャパン等の事業運営支援をはじめ、複数の企業において海外マーケティング事業の改革支援を実行中。2015年に経済産業省の補助事業としてローカルクールジャパン事業「The Wonder 500」を立ち上げ、運営事務局長に就任。

 

池嶋徳佳(以下、池嶋) 他のゲストの方は皆さん経営者ですが、私自身はサラリーマン生活が長い人間です。最初アクセンチュアで3年。次に広告系のベンチャーで2年程副社長をして、その後株式会社リヴァンプという事業再建に特化したコンサル会社に10年ほどおりました。それで40歳になるのをきっかけに今年退職しました。

私自身は食の問題に関心をもっています。きっかけはリヴァンプにいた最初の5年間である大手ファーストフード店の再建に携わっていたときのこと。この時に外食業界を取り巻く課題を痛感したんです。

 

業界の内側にいながら思ったのは、残念ながらファーストフード業界の食事って僕自身が毎日食べ続けたいと思えるものではなかったんです。もちろん子供達に毎日食べ続けさせたいとも思えなかった。それを変えたくて死ぬ気で経営に携わったのですが、結果から言うと、できなかった。

どういった問題があるかというと、外食産業って売る側がメガ化してしまっていて、農家などの生産者が本当に食べたいものを作ることができにくい構造になってしまっているんです。

 

例えば、売る側にとってみれば、材料の品質は一定水準で均一化させたい。曲がったキュウリや色の悪い野菜は避けたい。キュウリが曲がっていても美味しいですよ、とお客様に説明するのは手間とコストがかかります。ですので、これらの説明を省こうとしていくと、必然的に農家をファクトリー化させていくようになります。

そうすると、農家はメーカーが決めた肥料や農薬などの基準を守って、農協の流通のなかで生産出荷をしていかなければなりません。そのうえ、できあがった野菜にしてもメーカーの厳しい品質管理や指導という名のもとに厳格なガイドラインやパワーバランスを利用した価格交渉がされてしまう。

その基準に適合したものしか買い取ってもらえないので、これによって農家の方に対する要求はますます強まっていきます。こうしたサイクルが構造化しています。

 

あるとき僕は本当に美味しい国産のじゃがいもを丸ごと仕入れてそれを素揚げにして提供しようとしました。日本の芋の魅力を皆さんに知ってもらいたくて。

それで北海道中を回って美味しい芋を低コストで作っている農家さんを探して、実際にこれだという人を見つけたのです。

 

ところが、その農家の方は品質を追求するがために農協の流通から外れざるを得なかった人でした。それが何を意味するのか。ご自宅に伺ってトイレを借りたときにわかりました。水洗便所の水を流そうとしても流れないんです。実は水道代も支払えないほど困窮したギリギリの生活を送っていたのです。

 

この時に痛感したんです。本当に美味しいものを作っている人が報われていない構造が食の生産現場の一部にはあると。これらのことは理屈ではわかっていたんです。その生々しい現場をまざまざと見たことで、これは何とかしないといけないと目的意識を持ちました。

 

一方では海外の投資家と組み日本の企業や地域へお金を出してもらうような場にも立ち会ってきたのですが、現在の日本の状態において「焼け石に水」で、よくわからないものにお金が消えていっていると感じたくなる現場も目にしました。

こうした問題を孕んだ現代社会のなかで、もっと優良な会社、将来の子供たちの成長のために、お金が使われる仕組みを用意することが求められていると感じています。

 

 

 

山口 高弘 GOB Incubation Partners株式会社 代表取締役社長・山口高弘(やまぐち・たかひろ) 元プロスポーツ選手、19歳で不動産会社を起業。3年後に事業売却し、大学に進学。独立起業支援インキュベータ。企業内起業においても多くの事業立ち上げ、企業の新商品、サービス、事業開発に携わる。 GOB-IPでは主に若い世代がイノベーションに挑戦するためのマインドセット創り、事業化支援、キャンプ等を実施している。前職の野村総合研究所ではビジネス・イノベーション室長を担い、主にイノベーション創出をテーマに新規事業開発支援を展開。 政府委員就任多数。著書多数。

 

山口高弘(以下、山口) 今日のテーマに関していうと、私は人を二つに分けて考えることができると思っています。「社会は変化可能と考える人」と「社会を変えるのは無理と思っている人」との二つです。こう考えるようになったきっかけがあります。

 

私の生き方を決めたのは父親のある言葉でした。小学2年生の時に前へ倣えや組体操をさせられていることに反感を覚えたんです。軍隊のように画一的に扱おうとするあの教育がとにかく嫌でやりたくないと言ったら、学校から呼び出され三者面談を設定されたことがありました。

そのときに「協調性がない」と言った学校に向かって、父親が「この学校は北朝鮮か!」と言ってくれたのです。

 

この時に社会のルールがおかしいと思ったら必ずしもそれに従わなくてもよい、自分の考えていたことにも正しさはあると感じた現体験となったのです。

その後ムエタイの選手になろうと、タイに行ったのですが、タイは日本よりも規則に縛られている国でした。身分制度や差別が横行していて、若者が社会を変化させることはできないと思わされる現象ばかりで。

 

それで日本に戻った後、誰も変える人がいないのだったら自分が変えようと思い、19歳で起業しました。最初に行った事業はやんちゃな若者が共同生活できるシェアハウスを作るという不動産事業でしたが、事業モデルを相談しにいくと100人中100人がやめておけと言うんです。

この時にも、社会は変化できないと思っている人は世の中にたくさんいると感じました。挑戦しようとしている人をやめさせようとする人がこの世の中には多いのだなと。

 

事業は上手く行き、売却した後、詩人の吉本隆明先生のところで一年間書生をさせてもらっていました。この師匠から言われたことで、きっかけに繋がっている言葉があります。「世界はすべて繋がっている。キミの発言は時間と空間を超えても成り立つのかを常々考えなさい」と教えられたんです。

 

例えば、不倫の問題って現代社会では悪いことと言われていますが、ほんの50年前の社会では妾さんがいて完全に悪いこととは思われていなかった。あるいは場所を変えてアフリカなどの国では現代でも悪いとは思われていないところもあります。

どんな物事も時間と空間を超える内容かを考える癖が身に着くと、硬直化した諸問題に対して、変化は可能な事柄なのか否かをより高い視座で見ることができるようになります。

 

 

森山和彦 株式会社CRAZY代表取締役社長 1982年生まれ。中央大学卒業後、人材コンサルティング会社に入社。経営コンサルタントとしてトップセールスを記録。6年間の勤務を経て独立し、妻の山川咲とともに2012年7月に株式会社CRAZYの前身であるUNITEDSTYLEを創業。主な事業は完全オーダーメイドコンセプトウェディングサービス「CRAZY WEDDING」。2016年5月29日にCRAZY WEDDINGのプロデューサーを務めていた山川咲が“ウェディング業界の革命児”として「情熱大陸」で特集され大きな注目を集める。代表の森山は年間250件を超えるウェディング事業の経験を活かし、今月、法人向けのクリエイティブサービス「CRAZY CREATIVE AGENCY」を立ち上げた。CRAZY社は今後数多くの事業立ち上げに挑戦し、最終的には2000社100万人の雇用を生み出すことを宣言している。

 

森山和彦(以下、森山) 僕は新卒で入社した会社で人材コンサルタントとしてお客様の売り上げを上げるために活動していましたが、この活動が地球全体にどう役に立っているのかと考えた時、自分のやっていることが虚しくなる瞬間があったんです。

それで社会ってどうなっているんだろうと考えるようになりました。それこそ何がおかしいのかを一年ぐらい突き詰めて考えました。内容は多岐にわたっていて、お金の仕組みや戦争はなぜ起こるのか。あるいは起業している人のところへ行って、どういった問題意識で経営をしているのかを話を聞いたりしました。

 

そんなある時、研究してきた問題や課題が繋がって、社会のつながりや地球の生態系、役割や流れを俯瞰して見えると感じ取れるようになりました。社会の仕組みが見えるようになって、そこから僕でも何か変えることができるのではないかと思いだして、それが今のCRAZYに繋がっています。

 

 

山中 森山君が俯瞰してみた時に初めて社会の仕組みに気づくというように、僕にもそういった体験があります。僕は20歳の時に起業したのです。最初の10年間はひたすら突っ走りました。

それで30歳で今までやってきたことを振り返った時、経営としてはすごく儲かっていたのに、なぜか心が満たされない自分がいることに気づきました。満足感がなかったんです。周りから成功したねと言われるのですが何も嬉しくない。

 

そこから、あれ、もしかしたら、お金を持つこと=人生の豊かさではないのかもしれない。だとすると、自分も周りも経済と心が豊かになってハッピーになるにはどうしたらよいんだろうと考えはじめました。

そうした時に森山君など、もっと大きな軸、地球という軸で物事を考えている人と出会いました。地球という軸で物事を見ると、世界を広く見ることができ、変化にも果敢に挑戦していけるようになる。僕の役目はそういう人を応援できる社会を創ることに力を注ぎたいなと思うようになりました。

 

 

求められるリーダーシップとは?

山中 今日この場に来ている人は社会を変えることができると考えている人が多いですよね。僕が皆さんに言えるのは、社会を変えるためには自分が何をしているか、世界にどれだけ結びついているかに意識的になるべきだということ。

 

そして何事も一人では変えることができません。組織づくりを僕はジグソーパズルで捉えるんですけれども、メンバー一人ひとりのピースを合わせることが大切だと思っています。

そしてその変革を起こすリーダーの役割が極めて重要になってくるのですが、この役割について皆さんはどう考えていますか?

 

山口 私はシェアハウス事業を売却したお金で、これまで約30社に投資してきています。投資先の会社が上手くいくか否かって、一見すると事業計画が完璧な会社の方が意外や意外、上手くいかない場合が多いです。むしろ、そうではない会社、完璧ではない会社の方が長い目でみると生き残っているんです。

これはなぜなのか。思うに、業績が危なくなってきた時に、経営者が助けてと声を発した時に、人が去っていく会社だと中長期で見てなくなっています。逆に言えば、やばいなと思った瞬間に人が集まってきて助けてくれる会社がある。こういった会社は長続きしています。

 

そしてこの両者を分けるのは、経営者の人間性もさることながら、それ以上にその会社の事業が、人のためになっている事業なのか否かという極めて本質的なところに基づいているのではないかと思っています。言い換えれば、生んでいるキャッシュが人のためになっているか否かなのだと。キャッシュを生みつつ、人が幸せになるということを両立させているモデルが成功するのだと思います。

 

例えば会員制ビジネスって従来は会員が利用しない方が会費だけもらって利益が増えるわけです。

この手のビジネスってなくなっても困る人が少ないので助けようと思ってもらうことは難しくなります。でも、会員のためになることを提供しているビジネスなら、なくなっては困るので業績が悪化した時に助けてもらいやすくなる。

フィットネスクラブのカーブスなどは会員制ビジネスですが、会員のためになることをきちんと提供しています。その事業が人を幸せにするのかという視点が持てるように、投資家も変わらなくてはならないと思います。

▶参考記事「なぜ女性は“フィットネス”ではなく、カーブスに行くのか…」

 

 

山中 社会を変えていくリーダーという話でいくと、森山君の会社はユニークな取り組みをたくさんしていますね。

 

森山 ありがとうございます。僕の考え方は、経済は調べれば調べるほどただのデジタルな情報にすぎないことがわかった前提のもとにあります。

極言すれば、お金って結局、単なる信用の交換券なんですよね。ディズニーランドの入場券と同じ。この入場券をめちゃくちゃ貯め込んでいるだけという人が多い。入場券を使って中に入ってアトラクションに乗らないと意味がないのに。

 

そして、こうした既存のルールに何が何でも従わないといけないかを考えると、決してそんなことはないと思っています。

それよりも一番大切なのは、地球に生まれた一人の人間として自分はどうあるべきかを考えることのはず。そうすると、僕ら人類にとって大切なことを突き詰めると、「健康」と「人間関係」に集約されるなか、僕としては世界を良くする仕事、変える仕事に徹したいということが答えでした。

だから会社は純粋にそこにだけ注力しようと。そういう場にしたいと考えたんです。

 

リーダーの仕事はそういった環境、場を用意すること。だから僕の最初の仕事はみんなのご飯をつくることです。毎日3時間近くかけて作っていますよ。新しいことを考えていくには食生活が本当に重要だと思っています。

 

それにしても、なぜこんなに時間をかけているのか。そこには理由があって、CRAZYは鼻クソをほじっていても利益が出るような会社にしようぜと言っているからです。なぜか。カッコいい大人が集まっているんでしょう。単に金稼ぎをしたいのか? いや、違うでしょ。誰も見たことがない生き方をする会社にしようよと。

金とか経済、あるいは他人に屈する生き方ではなく、理想を向いた生き方をとことんしていこうと。だから僕たちの会社では、人が屈するぐらいの圧倒的な理想を提供しようと言っています。

 

そのために、一周回って経済(売上)はちゃんとやりましょうとなるんだけれども、もちろん、これを実現するとなると、内情はめちゃくちゃ大変になります。

というのも、人と深く向き合わなければならないし、時間もかかりますから。ただ、こういった姿勢に徹していくと会社のブランディングになります。人と徹底的に向き合うことで話題になり優秀な人が集まります。

あの会社に仕事を頼むと面白いよってことになるんです。今では、だいたい年間2,000人が見学に来てくれます。で、結果としてマーケティングのコストがいらなくなりました(笑)。

 

 

池嶋  森山さんのCRAZYって本当に面白い会社ですよね。僕は事業の種類は大きく二つあると思っていて、UberとかAmazonが本当にイノベーティブな会社かと考えると、乱暴な物言いですが、彼らがやっていることは既存プレーヤーからの利益移転だとも捉えることができます。もともと誰かが得ていた利益を新しい人に利益移転していった事業。

そこからいうと、CRAZYは真にイノベーティブな企業。新しいウエディングの形を模索する開拓者ですよね。世の中を変えていく可能性をもっているのは、このタイプだと思っています。

 

そのうえで面白いのがこの種の会社って大抵、経営者が新しいビジョンを掲げて軍隊のように突き進んでいくようなチームが多いのですが、そこでいうとCRAZYは違う。多様性というか、組織自体が活性化されている。

 

 

森山 ありがとうございます。100億円までうちの規模を大きく展開できれば、僕らのような考え方がもう少し主流になれるのではないかと思い、頑張っています。なぜ100億なのか。実は村から始まる理論という考え方があります。

売り上げが1000万は「家」、1億になると「大きな家」、10億になって「村」レベルとなります。100億で「町」、1000億だと「市」、5000億で「県」、1兆でやっと「国」なのです。ひとつの企業が発言権を得るには、それ相応の規模にならないと、社会に触れられないんですよね。

そうすると、社会全体に影響を与えるためには誰がどのように始めるかということがとても大切で、誰に投資をして誰を集めて、どうやって若手から良い会社を生み出すのかというのをみんなで考えることも、社会を変えるひとつの行動だと思います。

 

 

山口 面白い考え方ですね。最初は村だけど、町や市を見据えながら成長していくことは大切ですね。村から町に成長する時、規模も大切ですが構成要素も重要ですよね。人のためになることが、その要素の90%以上ないと、その先の100億規模にはなかなかいけません。

 

池嶋 売り上げが100億を超えると、持続が目的化します。でも僕は、100億1000億の企業がどんどん生まれる社会に、言い換えれば規模を追う会社ばかりという社会にあまり幸福性を感じません。以前、銀座の老舗商店組合の方達とお仕事をさせて頂く機会がありました。彼らは規模を追わない人達で、持続を追求しています。

自分の時代に合ったことをするために代替わりをしながら、その時代にあったものを提供し、地域や人との繋がりを持続することが最大の資産だという価値観をもっています。

 

 

経済合理性と社会性のハイブリッド企業の名は?

山中 そういった組織が持続可能になる社会を作り上げることが必要ですよね。本来、商売とは「三方良し」で売り手よし・買い手よし・世間よしだったはずが、現代社会では経済効果を追って利益を上げている会社と、素晴らしい思いはあるんだけど利益がうまく上げられない会社と、両極端に分かれてしまっているように思います。

ところで、この経済合理性と社会性をしっかりと両方とも確保された事業モデルってなんと表現すればよいのでしょうか。

 

森山 売上や規模を追わず、質的な成長を追求する「定常経済」という言葉がありますね。よく人の会社の規模や年商を聞きますが、本来望ましいのは、それで終わりではなく、聞かないといけないのは、その先の構成要素の質がどう上がっているのか、ということなんですよね。

年商は同じでも、社員の満足度や商品のクオリティがあがっていく、あるいは環境負荷が下がっていく。これも素晴らしいことですよね。

ところが現状では質的成長を喜ぶ会社がこの世の中にどれだけありますか。こういった意識を変えていく必要があると思います。

 

山口 仰る通り、売り上げの構成の中身が重要ですよね。数字だけを追い求めて、精神的に辛くなる事業構造は止めた方がいい。お客さんに対して自分の精神を強引にフィットさせなければならなくて、つらくなるのであれば、その会社は一度事業構造を考え直すべきとも思います。言い換えれば、自分がハッピーにしたいお客さんのためになる経営をしていった方が良い。

何とか経営と敢えて命名するとしたら、「哲学経営」ですかね?何のためにやるのかを中心に添えた経営という文脈で。経営者が哲学観をしっかりもって、経済合理性と社会性をハイブリッドした経営をするというのが重要です。

 

森山 自分が所属している組織を「株式会社」や「NPO」と思わないこと。これらはすべてラベルじゃないですか。誰かが決めたルールにすぎません。だから、「これ決めたの誰?」と毎回質問をしてほしいです。結局、すべて人間なんですよね。

それよりも大切なのは、あなたはどの基準で地球に貢献するんですか? 自分はどの基準でリーダーシップするんですか? あなたの事業はどれだけ世の中にとって素晴らしいんですか? ということでしょう。

 

これ、信じていない人はやったほうが良いです。ぶれずに好きなことをやっていれば、人は集まるし、集まる人も変わります。そういった想いで事業を続けてひとつの壁を突破すると、必ず類は友を呼び、仲間と思える人や支援してくれる人と繋がることができます。世の中には、皆さんのような志をもった方を支援したいという人がたくさんいますから。

 

 

山中 そうですよね。実は多くの人が同じ方向を向いているのに、キーワードが違ったりして手を組めないでいることが多い。誰かが手を繋いであげる、あなたとあなたって言っていることは違っているけど目指しているところは一緒だよねと言ってあげる人も必要なのだと思います。

 

山口 でも、繋げる人がいないと繋がらないというのは不確実性が高い繋がり方だと思います。

私はよく起業を目指す学生達に言うのですが、自分の掲げた理想に対して、自分の頭で考える範疇でしか解を見つけないというのは顧客や社会に対して不誠実な態度なんだよ、と話しています。

自分だけで考えている時間が、社会的にどれだけ無駄で不誠実な時間を過ごしているかを、感度を高めて考えていかないといけない。自分の無力さ無知さを理解して、周囲のリソースを借りて、積極的に繋がり始めろと。こうした文脈上で、繋げてくれるのを待つのは不誠実な時間の延長線上にあると思っています。

 

今後は?

山中 今後の展望を皆さん教えてください。僕から答えると、一人の人が手を挙げて一人で何かをやるのは無理があります。

今日のイベントが面白かったと思ったら、協力するところから始めてみてください。色々な人の話を具体的に聞いて。一人ひとりが持っているリソースが、社会課題にチャレンジしている人達にきちんと貢献していける社会になるよう、僕としても全力を尽くしますし、この連鎖が広まっていくと世の中を変えていけると思っています。

 

 

池嶋 今日はここに座らせて頂きながら、ゲストの皆さんの話を聞いて大変勉強になりました。翻って自分は10年間ガチガチのサラリーマンをしてきたなと。意外と人と話していないことを痛感しました。

これまで仕事の話は嫌という程してきましたが、自分が本質的に持っている課題や悩み、テーマとなると驚くほど他人と話せていないと再認識しました。

 

コンサルをしていくと、顧客の課題に対して自分一人で解決できるような課題はないことに気づきます。そのため重要になってくるのは周囲から助けてもらえる力なんです

よく部下にも、人から助けてもらえる力を磨けという話をしています。まさに自分一人で答えを探そうとあぐねている時間は不誠実というのは的を得ているなと。

 

では、人に助けてもらうためには何が必要になるのか。

それは、課題として昇華することです。ああわかるわかる、と課題を心の底から共有できると人は手を差し伸べてくれるし、いずれ自分も差し伸べたいという関係性をお互いに構築できます。

今日、この場で改めて、課題を話し合うことが重要なのだと認識できました。それを持ち帰って実行したいと思えるイベントでした。

 

 

森山 池嶋さんのリーダーシップが垣間見えるコメントですね。素晴らしいな。自分ができていないことや見えていないことに気づくことができてそうやって告白できる人って得ですよね。こういうリーダーシップが人の心を動かすんです。

人の心を捉える強くて優しいリーダーの在り方を垣間見させていただきました。こうやって言うと上から目線に聞こえてしまいますが、CRAZYで称賛されるリーダーシップでしたので。

 

池嶋 ありがとうございます。では、履歴書を用意しますので、何卒。

 

一同  笑。

 

山口 森山さんが言っていた株式会社とかNPOと思わない方がいいという話は深く共感できました。

もしそうなのだとすると、会社って何をする場所なんだろうか。私にとっては、「自分の問いを探求できる場」なのでないかと思っています。私の問いは「若い人が社会は変化可能であると想えるためにはどうしたらよいか」。

これが自分に投げかけた問いなんです。この問いにいつになったら答えることができるのか。

こうした問いをストレートに投げかけられる場、探求できる場が組織なのだと感じることができました。では、答えが見つからなければ、辞めなければならないのかというと、そういう場にしてしまえばいい。問いが投げかけられる場をリーダーシップで作っていけばいい。

 

ミシェル・フーコーというフランスの著名な哲学者がいます。彼の大学の講義は教科書は何も使わないそうです。そのうえ何も教えない。やることは、「キミ達はなぜここにいるんだ?」ということを聴講生に問うだけ。

それを毎回の授業で言って、15回近くの講義は終わるそうです。面白いのは初回は300人程の参加者なのが、最終回には3,000人にもなるそうです。どんどん増えていく。

つまり、本質的な問いが成り立つ場って人を巻き込む求心力が生まれます。経営努力って色々な問いを立てて、そこに真摯に答えることなんじゃないのかと、フーコーの話を聞くと思います。

それが哲学経営なのかなと。経営のあるべき在り方なのかなと思います。そのことを再確認できた場となりました。

 

(後編に続く)