◆取材:松村蘭

 

IT業種以外の多くの企業でも多機能・高機能なチャットツールやコミュニケーションツールが活用され、ここにきて流行の兆しを見せる中、サイバーリンク株式会社(以下、サイバーリンク社)は逆にシンプルさを追求したコンセプトの製品「U(ユー)」を打ち出した。世界シェアNo.1を誇る動画再生ソフト「PowerDVD」を主力とする同社が、あえて群雄割拠のビジネスコミュニケーションツールの市場へ飛び込むのはなぜなのか。

開発担当である萩原英知氏(以下、萩原・写真左)と馬場規隆氏(以下、馬場・写真右)の2人に、「U」の戦略を伺った。

 

シンプルだから、誰でも使える

サイバーリンクが満を持して世に送り出した製品「U」は、メッセンジャー・Web会議・オンラインセミナーの3つの機能を持つビジネス向けコミュニケーションサービスだ。

その最たる特徴は、とにかくシンプルだということ。必要最低限の機能に絞り、シンプルでわかりやすいUIにしたことで、どんな人でも簡単にすぐ使える点が魅力の製品だ。

 

萩原「我が社の製品づくりは、最近流行りのSlackやTeamsとは考え方そのものが違うのだと思います。他社の類似ツールと「U」の機能を比べたら、「U」は機能数が圧倒的に少ないんです」

 

馬場「我々はコミュニケーションツールを複雑化していくつもりはありません。メッセンジャーの最大の魅力は即効性です。例えば、メールで資料を送ったときに『ちょっとそれ見てもらえない?』と気軽に言えるようなもの。

昨今、日本の市場にSlackやTeams等の多機能なコミュニケーションツールが出てきて需要が高まっておりますが、同時に働き方が複雑化しているようにも見えます。新しいツールを導入したら、その使い方を覚えなくてはいけません。加えて、外部とのやりとりのためのメール文化も結局まだ残っていますよね」

 

多機能なツールには、複雑で難しいという側面もある。必要最低限の機能が簡単に使える、そんなシンプルなツールへの需要は必ずあるとサイバーリンク社は考える。

さらに、Uはシンプルであるが故に、導入にあたっての特別なトレーニングやサポートが不要だという利点もある。

 

萩原「サポートやトレーニングが必要な製品ですと、特に法人の場合は運用開始までに時間がかかってしまいます。また、様々な拠点で離れている人同士で利用するケースが多い。すると、トレーニングのために各拠点を回ることになり、無駄な経費や時間が発生してしまうことが考えられます。そうならないためにも、特別なトレーニングなしで使い始めることができる製品を提供しているのです」

 

同社がこのようにシンプルな製品づくりに取り組むようになった背景には、スマホ台頭による時代の変化が影響しているという。

 

ビジネスツールだって簡単でいいじゃないか

馬場「今の時代、スマホアプリを使うときにマニュアルを読む人はほとんどいませんよね。『パッと見てすぐに使える』というユーザーエクスペリエンスは、時代を追うごとに重要度が増してきているように感じます。

ところが、ビジネス向けのツールはマニュアルありきな使い勝手で、設定が難しく、一定以上のITリテラシーが必要になることが多々あります。ビジネスだけが昔ながらのアプローチのまま取り残されて、世の中はどんどん変わっていく。この状況に違和感を覚えたんです。ビジネスのツールこそ、簡単で誰でも使えた方がいいに決まっています」

これまでのコンシューマー向けアプリの開発経験をビジネス向けのツール開発に活かせば、ビジネスにおけるツールのあり方そのものを変えられるかもしれない。そんな想いが、とにかくシンプルであることにこだわったUを生み出したのである。

 

Uを実際に活用している様子。極端にシンプルにすることによって、ビデオチャットなどもごく簡単に誰でも利用できる。スマホなどからの参加も行える点が優れている。ITリテラシーがない人やアルバイトなどでも簡単に使えるだろう。

 

本社に行けない?SARS騒動で生じたWeb会議の需要と課題

Uが製品化されたのは2017年の夏のこと。それ以前は、サイバーリンク自体も他社のコミュニケーションツールを使っていたそうだ。サイバーリンクがコミュニケーションツールの必要性を認識したのは、SARS問題に直面したことが直接の経緯という。

「SARS(サーズ)」と聞いて、白いマスクを付けた人々が映し出されるニュース映像を思い出す人は多いのではないだろうか。2002年〜2003年にかけて、中国を中心に8,000人以上の患者が確認され、うち700人が死に至った流行り病だ。一時は台湾への渡航禁止令発令の直前までいくほどの状況に陥った。そんなSARS騒動の真っ只中にある台湾に、サイバーリンク社の本社はあった。

 

萩原「台湾本社を中心に開発を行っていたこともあり、頻繁に日本と台湾の間で行き来がありました。どうしても、技術的なやり取りの中で顔を合わせて進めていかなければいけないことが多かったんです。けれど、さすがにSARSのときは行き来するのが困難な状況でした。この騒動がきっかけで、遠隔のコミュニケーションでビジネスを進める必要が出てきました。当時は今と比べるとインフラも整っていませんでしたが、その後、常に新しい技術が生まれるたびにさまざまなTV会議システム・Web会議ツール・その他コミュニケーションサービスを試していったんです」

サイバーリンクは台湾、日本、アメリカ、ヨーロッパなど、世界中に拠点があるグローバル企業だ。たとえどこかの国で災害が起こっても、簡単にビジネスを止めるわけにはいかない。お客様は世界中にいるのだ。ビジネスを止めず、遠隔地同士でも円滑に仕事を進めるために、海の向こうにいる仲間と試行錯誤を重ねていった。

 

Web会議あるある 会議をすぐ始められない問題

他社のWeb会議ツールを導入して最初に挙がった問題、それは「会議をすぐに始められない」ということだった。

萩原「いざ会議を始めようというときに、音が出ない、映像が出ない。これでは会議がなかなか始められません。例えば13時から会議を始める予定だったのに、実際に始まったのは13時20分でした、ということが日常茶飯事だったんです」。

やっとWeb会議が始まったと思ったら、一難去ってまた一難、新たな課題が出てきた。音が悪くて聞き取りにくい、映像が乱れてしまうといった、品質の問題だ。いくつもの製品を試したものの、納得のいく品質のツールに出会うことはできなかった。

 

行き着いた解決策は、自社開発

ここで思い出してほしいことがある。サイバーリンクの本業、それは映像技術。その実力は、同社がこれまでに開発してきたDVD再生ソフト(PowerDVD)や映像編集ソフト(PowerDirector)からもわかるとおり本物だ。今までに培ってきた映像技術とユーザビリティを結集すれば、あらゆる課題を解決したツールを生み出すことができるはず。そう確信した。

萩原「映像って、綺麗に見せようとすればするほどサイズが大きくなるんです。サイズが大きくなると、ネットワークの回線が太くないといけない。映像の品質とサイズのバランスがポイントになります。小さなサイズの中で、最大限に高品質な映像を再現するということが、まさに我々が得意とするところだったのです」

こうして、Uという商品における高品質な映像のWeb会議やオンラインセミナーが実現した。

 

女性の声から生まれたバーチャルメイク

「U」のWeb会議には、Web会議中にリアルタイムでメイクが適用される「PerfectCam(パーフェクトカム)」というユニークな機能がある。

 

萩原「Web会議の中でPerfectCamを適用していただくと、ノーメイクだったとしても全く気付かれないほど自然なメイクが施されます。もちろん、顔を動かしてもずれません。男性の場合は、メイクをオフにして美肌機能だけを使うこともできます。私自身、Web会議に参加するときはいつも美肌機能をオンにしています」

メイクはテーマ別にテンプレートから選ぶことも、自分好みに口紅、チーク、アイライナーやアイシャドーなどをパーツ毎にカスタマイズすることも可能だ。美肌機能を使うとカメラ映りが良くなるため、対顧客のWeb会議でその効果を発揮しているという。

 

パーフェクトカムを活用してのチャット映像。女性の顔に施されているメイクはごく自然。違和感がなく表示されている。また、背景をぼかすなどの処理も簡単にできる。掃除の行き届いていない部屋などを見られる心配がない配慮の行き届いた設計だ

 

この非常にユニークなサービスは、サイバーリンクのクライアントのある悩みから生まれた。

萩原「お客様から『Web会議で在宅勤務中の女性がビデオをオフにしてしまうんです』というご相談をいただきました。ビデオがオフということは、それはただの電話会議です。Web会議の最大のメリットは、お互いの顔が見えること。やはり表情から伝わるものがありますので、できれば顔を出して会議に参加してほしいというのが本音です」。

馬場「そもそもなぜ女性がビデオをオフにするのかというと、例えば在宅勤務中に1時間Web会議をすることになったとします。在宅勤務をする女性の多くは、子育て中のママさんであることが多い。子どもの世話に追われる中、たった1時間の会議のためだけにメイクをしますか?という話です。

さらに、弊社は国を跨いで会議をすることもよくあります。すると、時差の関係で早朝や夜中に会議をすることになる人も出てくる。時間を問わず始まる会議のために、在宅で都度メイクをするのは結構負担になると思うんです」。

 

メイクだけじゃまだ足りない

さらに最新のアップデートでは、さらに高度な映像技術を取り入れた新機能が実装される予定だ。

萩原「実は、クライアントから『メイクだけじゃ足りないんです。家の中も見られたくないんです』という強い要望をいただいていました。そこで、サイバーリンクのAI技術を駆使し、『背景ぼかし』機能を新たに追加しました。AIに人がどういった形なのかを学習させ、人の周りだけをぼかすという仕組みです。この機能はすでに在宅勤務における要望だけでなく、工場やオフィスにおいて機密情報を映したくないという需要もいただいております。」

会議の相手が気心の知れた仕事仲間だとしても、スッピンは見せたくない。できれば部屋も隠したい。そんな女性の切実な想いに寄り添った結果、UのWeb会議に実装されたのが、バーチャルメイクと背景ぼかしの機能なのである。

 

中小企業にこそおすすめしたい

サイバーリンク社は、経済産業省が推進する「平成29年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業」に認定されており、「U」はIT導入補助金制度の対象にもなっている。さらに、同社は総務省主催のテレワーク・デイズにも参加するなど、働き方改革の推進活動に意欲的だ。これらの活動を通し、働き方改革になかなか踏み出せない中小企業にアプローチしたいという想いがあるのだという。

萩原「テレワークや在宅勤務という言葉が頻繁に聞かれるようになっていますが、それを実現できている会社は大企業がほとんどです。コスト面やITリテラシーをはじめとする様々な弊害のために、中小企業は従来と異なる働き方に対応できていないのが現状なのです」。

実際のところ、2017年時点のテレワーク導入率は、社員数300人以上の企業で23.0%、300人未満の企業で10.2%と企業規模によって差が出ている(総務省の通信利用動向調査)。

馬場「我々の製品はクラウドサービスなので、導入コストはかかりません。まずは無料版でお試しいただくということも可能です。ITリテラシーに関わらず、「U」はどんな方でも使えるシンプルな製品ですので、今までITツールの導入をしてこなかった中小企業の方々にとって最適だと考えております。」

働き方改革の必要性は理解しているものの、どう始めたらいいかわからない。予算も知識も足りない。低コストで気軽に始められる「U」が、悩める中小企業の背中を押してくれるかもしれない。

 

 

ビジネスマネジメントグループ ディレクター

馬場規隆

リテールビジネス デパートメント アシスタントバイスプレジデント

萩原英知

会社情報

企業名称:サイバーリンク株式会社

設立:平成17年3月

資本金:9,500万円

住所:〒108-0023 東京都港区芝浦3丁目5-39田町イーストウイング4F

URL:https://jp.cyberlink.com/