市を挙げて、働き方改革を推進する鎌倉市。同市における働き方改革は、各主体がバラバラに取り組むのではなく、行政主導の強力なリーダーシップで突き進むというわけでもなく、官民連携のゆるやかなプラットフォームづくりの形態をとる。このようなユニークな進めた方を具現化するものとして昨年11月末に、鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会が発足した。以下、活動内容が正式に公表された発足式の模様を通じて、研究会の趣旨や取り組みを紹介する。

 

鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会発足の背景 鎌倉市長 松尾 崇氏

 

-鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会は2018年7月に準備会を開催した。その後テレワークに関するニュースがインターネット、テレビ等で報道されており、いよいよテレワークが定着していくのだなという実感が湧いてきている。昨今のデジタル革命の進展と共に働き方改革が本格化するなかで、テレワークは必然のものとなりつつある。鎌倉でも、ワークスタイルとライフスタイルの両立にむけて、企業や、市内テレワーク施設、フリーランスの方々に多大なる協力をいただいて進めてきた。

 

官民が連携して進めていく今回の取り組みは、市民の皆さんが週5日通勤ラッシュの中、会社に行き、心身とも疲れるといった生活から解放され、ワークライフバランスを保つことを願って始めたものだ。同時に、企業にとっても健康経営を実現していく観点から非常に重要だと認識している。

 

それでは、なぜ鎌倉でテレワークを推進するのか?鎌倉は歴史、文化、自然など、先代の方々から引き継いできた資産や、固有の資源などに加え、新しい集積の動きであるカマコン、ファブラボ、リビングラボといった取り組みが生まれている。また禅やマインドフルネスといった心身の健康に資する資源もある。こういった地域だからこそ、大きな変革が起こせるのではないかと考える。通勤形態の変革みならず、フリーランス、子育て中の女性や、高齢者の働き方など、多様な人々と新しい価値を創出していきたい。

 

今後、他の都市にはない豊かな環境を生かし、人材や知見を鎌倉に集約することで、鎌倉にしかない価値を創造し、その価値を獲るために人々が集まる好循環が実現できる。これと同時に、交流産業を生み出す機会にもつながっていくことを目指している。

 

鎌倉市では、まず隗より始めよで、市としても3つの宣言を行った。一つ目は、今年度内に、課長職以上のテレワーク、3年後までに一般職員に対象を広げたテレワーク環境を整え健康経営を推進すること。2つ目は、行政の業務も置き換え可能なものはAI、RPAを導入し、生産性向上を図ること。3つ目は、3年以内にPC、スマホで行政手続きができるようにし、市民にとって不要な時間の削減やサービスの向上を図っていくというものだ。

 

また産業と社会面ではAI、IoT、ロボット、ビッグデータなどを利用してSociety5.0の実現を目指したい。具体的には、自動車の全自動運転の実証実験やドローンの利活用を進めていきたいと考えている。また、商工会議所と連携し電子決済で買い物がしやすくなるような取り組みを行う。さらに、次世代の子供たちの育成においては、教育委員会との連携により、2020年度からの学習指導要領の改訂を踏まえ、英語、プログラミング教育の強化をサポートしていく。こうした新しい能力を身に付け、世界に羽ばたく将来の人材を育成していく。

 

鎌倉を「デジタルで様々な地域の課題を解決する最先端地域」とし、鎌倉の魅力を世界に伝えていきたい。そうした挑戦的な取り組みを、市内外の方々と共に一緒に共につくる、共創の精神で進めていきたいと考えている。新たな価値を創造することに賛同してくださった方と共にオープンイノベーションを広げていく。鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会は、そういった多様なものと連携していく場を提供する重要な取り組みである。官民関係なく、共に楽しい世の中に変えていきましょう。

 

 

テレワークの動向と今後の取り組みについて 総務省官房審議官 赤澤公省氏

 

-今、国民1人1人のライフスタイルを変えていく、テレワークによる柔軟な働き方が求められている。どこでも働ける働き方は、地域創生、人材不足の課題解決にも役立つ。企業からすれば生産性向上、優秀な人材の確保につながっていく。鎌倉にはカマコンといった土壌もあり、環境もすばらしく理想的な働き方ができる。鎌倉市が全国に先駆けてこういった取り組みを行う効果は大きいと言える。

 

さて、テレワークの効果であるが、導入企業では通勤時間の削減、ワークライフバランスの改善により、実施前と比べ企業の生産性は1.6倍となった。そして、このことが離職防止や、人材確保につながっている。テレワークを導入すれば、大きなメリットがあるが、平成29年時点で導入率はまだ、13.9%でしかない。導入している企業の利用率も社員全体の利用率からすれば5%未満が5割という状況にある。

 

政府の目標設定としては、2020年オリンピック、パラリンピックイヤーを目指して、テレワークの導入率を34.5%まで高める動きをしている。現在、経済産業省、厚生労働省、国土交通省とともに4省庁一体となって連携して進めている。これに向けて、総務省としては、インフラ整備、セキュリティのガイドライン設定や、専門家を派遣したり、導入への補助などを行っている。

 

さて、次に実際のテレワークの導入であるが、取り組みたいがどうしたらよいのかよくわからないという皆さんのためにガイドを用意した。これは「働き方改革のためのテレワーク導入モデル」というもので、同じような業種、同じような規模の企業におけるテレワーク導入事例や、各ステージで直面する課題毎に解決事例を紹介しているのでぜひ活用していただきたい。

 

今後の鎌倉でのテレワークの発展を大いに期待したい。

 

 

新人事制度「WAA」が変える日本の働き方 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役人事総務本部長 島田由香氏

 

-鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会が発足したのは素晴らしいことだ。名前の中に、ライフスタイルが入っているのが特に良い。今、至る所で進んでいる働き方改革には、「働き方」と書いてあるが、働くこととは「生きること」そのもの。皆さんには、ぜひ今回を、豊かな生き方を考える機会、生き方を変える機会にしてほしい。

 

さて、WAAとは、Work from Anywhere and Anytimeのことで、働く場所・時間を社員が自由に選べる制度だ。ここに朝の通勤ラッシュの写真がある。残念ながらこれが現実だ。電車の中では朝からぐったりと眠っている人もいて、余程疲れているのだろう。

 

「皆さん、これをやめましょう!」と言うと、簡単にはいかないよと思うだろう。私は、通勤ラッシュ自体を否定しているのではない。「決まった時間に会社に行かなければならない」という思い込みを持ち続けている、そのことに疑問を感じている。通勤ラッシュを続けたいと思っている人はいないはず。それならまずは思い込みを捨てることから始めていただきたい。考え方を変えることならすぐにでもできるはずだ。

 

WAAの裏ミッションは、通勤ラッシュ撲滅だ。テレワークはどこでもできる、今日からでもできる。鎌倉の皆さんと一緒に変えていきましょう。私は東京を中心に仕事をしているが、多くの場所で仕事ができるようにすることで全国にこの考え方が広がっていくと思っている。

 

がむしゃらに働いても、他国と比べて日本の労働生産性は低い。膨大なエネルギーが無駄になっている、この状態をなんとかしたい。生産性が低い問題はどこに潜んでいるのだろうか?米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に働く人の働きがいや幸福度を調査した「エンゲージメント・サーベイ」によると、日本は139か国中132位と最下位レベルだった。何より、やる気の無い人の比率が70%と高く、さらに、無気力や不満を撒き散らす人が24%を占める。残念ながら、熱意溢れて働いている人は6%しかいない。日本では、熱意溢れて働く人の足を周囲が引っ張る状態になっている。ちなみに1位の北米エリアでは熱意溢れて働く人が31%、やる気が無い人は52%となっており、データで対比すると、あらためて日本の働き方は問題があるのだと気づかされる。

 

では、「熱意溢れる」とはどんな状態で、どんな時に生産性が上がるのか?それは、心身共に満たされて健康で、わくわくしているときだ。カリフォルニア大学のソニア・リュボミアスキー教授によると、熱意溢れる人は、生産性が30%、営業成績は37%も高い。さらに、創造性は300%高い。松尾市長がオープンイノベーションについてお話されたが、アイデアを生み出し、イノベーションにつなげるにはクリエイティビティが求められる。皆がわくわくして働く働き方を広げていきたいと心底思う。

 

ユニリーバ・ジャパンでもWAAの導入後、30%生産性が上がった。社員アンケートによるとWAAの実践により「毎日の生活にポジティブな変化があった」が68%、「生産性が上がったと感じている」が75%といったように7割がポジティブな評価している。しかも、これだけの改革をやるにあたりコストは、勤怠のシステムをアップデートした数十万円程度しかかかっていない。

 

実際に、WAAを実施してよかったことを社員に聞いてみると「以前よりも、日々をどのように過ごすのかを自分の意志で決めている実感がある」、「通勤ラッシュを避けて出社したり、仕事に一人で集中する時間、同僚と話す時間、家族と過ごす時間などを自分で決めたりすることで、効率が上がった」といった声があがっている。この中で重要なキーワードは「自分で決める」ということ。

 

自分で決めるということは、様々な選択肢の中から選ぶということだ。選んだという事実が「エピソード記憶」となり、脳の海馬に蓄えられる。そこからやることの意義、意味が生まれ、目標が生まれる。そして達成しようと思ったときドーパミンが出てくる。一方で、やりたいと思うことをなぜかブロックしてしまうパターンも一人ひとりが持っている。こういった制約を、一つずつ外して物事をやりとげると、達成感が生まれ自己効力感が高まる。すると、豊かなリラックスした気持ちが感じられるホルモンが出てくる。こういったステップを経て脳の好ましい活動サイクルが生まれるのだ。これらは、ユニリーバ・ジャパンで実証的な取り組みを2年半行なってきてわかってきた成果だ。

 

何のために働き方改革をするのか。そのことを改めて考えていただきたい。働き方改革自体が重要なのではない。それは一つの手段にしか過ぎない。働き方改革とは、生き方を変えることだ。それぞれが本気で考え、豊かに生きるということが大事だ。国を挙げて働き方改革に取り組んでいる今こそ、大きなチャンスだ。大きなパラダイムシフトの時期に来ている。人間が本来持っているポテンシャルを解放し、豊かに生き、日本中をわくわくさせましょう。特に鎌倉のように地域と共に連携しながら進めていく研究会の意義は大きい。

 

人間誰しも生まれた瞬間から、生から死へ向かって時間は流れている。この1秒、この1秒が、死に向かっている。だから意味があること、自分にとって喜びにつながり、世の中にも役立つことにエネルギーを向けていただきたい。私自身もやりたいことをやっている。「そんなこと言っちゃって…」という人もいるかもしれないが、やりたいと思ったら何でもできる。マインドセットを変えることこそが重要なのだ。

 

働き方改革ではよく生産性向上が話題になるが、私は「生産性」という言葉が嫌いだとあえて言っている。「生産性」は多くの場合、インプットに対するアウトプット、つまり費やした物や量、時間、コストに対してどれくらいの成果があるかで表される。それをいきなり会社に求められて、働く人の生産性は上がるだろうか?アウトプットを変えるには、インプットを変える必要がある。私たちが気にするべき本当のインプットとは、働く人のマインドセット、健康、体力、モチベーション、感情の状態など、人そのものだ。本末転倒にならず、インプットにアプローチしていく必要がある。

 

では、インプットである働く人がどんな状態ならば生産性が高くなるのだろうか?ユニリーバ・ジャパンのアンケートでは、95%の社員が「集中している時」「時間と心に余裕がある時」を挙げている。また、80%が「無駄な通勤や業務がない」といったことを挙げている。そういった状況、環境は自分でつくり出せる。例えば、自分のペースで考え、集中したいなら、誰かに「ちょっといいですか」と話しかけられたりすることがない静かな場所で仕事をすれば良い。

 

さらに、地方都市にコWAAーキング(コワーキング)スペースを創出し、首都圏を離れて働く取り組みも始めた。これまでに宮崎県新富町をはじめ、北海道下川町、宮城県女川市、静岡掛川市などと協働している。社員が現地に赴き、普段と違う環境や人の中で刺激を受けることで、イノベーションを生み出していくことが狙いだ。滞在中は地域課題の解決もサポートする。例えば北海道では薪割りをしたりもしている。誰もが日本中どこでも働けるよう、取り組みを広めていきたい。

 

本当のパラダイムシフトは、経営者やリーダーがマインドを変え、マネジメントを変えることにある。経営者やリーダーの中には、社員の自主性に任せるとさぼるのではないかと不安になる人も少なくない。性善説で信頼することが大切だ。心配(しんぱい)を信頼(しんらい)に変えるだけだ。問題解決はものすごくシンプルなものなのだ。

 

 

鎌倉Worker 魅力のライフスタイル大公開

 

左ファシリテーターの宮田正秀氏(コンサルタント、カマコンメンバー)

 

宮田:はじめに、島田さんに鎌倉で体験していただいたテレワークの感想を聞いてみたい。

島田:日頃、スケジュールを見ると会議ばかりでげんなりすることも多い。今回はチームメンバーと鎌倉に来て、やるべき仕事ができ、非常に充実した時間を過ごせた。通勤しなくても良いし、部屋を借りたりすることも不要、聞いておいてもらうと良い情報を周りのメンバーとシェアもできる。電話会議も非常に有効と感じた。東京にいると自分が作業する時間が取りにくいが、外に出ると次年度の計画を考えるといった作業が集中してできる。途中で遮られないことが大きい。

 

左から宮田氏(ファシリテーター)、島田氏

 

宮田:では、パネルの皆さんにそれぞれのライフスタイルを紹介していただきましょう。

左から、作村氏、宍戸氏、滝本氏

 

シックス・アパート株式会社 シニアコンサルタント 作村裕史氏~午前中にアウトプットを終え、あとは充実した時間を過ごす

 

-私は、雇用されている側のテレ―ワーカーの立場としてコメントします。今日も娘を朝、保育園に預けてここに来ました。東京へは週2回程度商談や打ち合わせに行く。もちろん通勤ラッシュの時間帯はなるべく避けます。今の仕事の仕方は、午前中だけアウトプットの仕事をしていて、時間が短い分集中するという働き方です。

 

最終的には会社や上司はアウトプットを見る。だから、これだけやっておけばよい水準でアウトプットする。自分ではプロセスの「見えない化」と思っているが、必要なアウトプットを作成するための時間をできるだけ短くする。そうすると自分の仕事の価値を高めるインプットに多くの時間を費やすことができるようになる。

 

日業の業務においては、随時チャットを活用して仕事をしている。Slackのチャットでいつ呼び掛けてもよいし、返事はいつでもよい。チャット内に常駐しているわけではなく、必要に応じて活用するといった運用だ。社長や上司、あるいは誰とでもフラットに対話できる環境がある。一週間くらい議論が延々と続いていくこともある。すると会議を開催するためのプロセスがなくなり意思決定が速くなった。

 

30人の社員全員でテレワークを実施しているが、2か月に1回程度は全員で集まる。チャットのテキストには現れにくい部分もあるからだ。たまに会うことでお互いの近況をアップデートする。社員はテレワーク手当を毎月1.5万円受け取る。手当の原資は通勤定期券の削減分だ。社員はこれを自宅の光熱費やコワーキングスペース利用代金の補てんなどに使っている。貯金以外は何に使ってもOK。

 

働き方を変えたいというニーズで始まったテレワークだが、反対した社員はひとりもいなかった。テレワークが始まるまで会社のオフィスがある東京に通勤していた。その時は、子供を保育園に預けたりするのが大変で、こんなに大変な通勤が続くなら会社を辞めるべきだと思った。そこで、自分のためにもテレワークを提案したという次第です。おかげで時間に余裕が生まれ、さまざまなことにチャレンジできている。例えば、家庭菜園にチャレンジしました。ミニトマト、ナスビ、そして何とスイカもできてしまった!

 

鎌倉マインドフルネス・ラボ株式会社 代表取締役、一般社団法人 ZEN2.0 代表理事 宍戸幹央氏~海と共にする生活

 

-企業のコンサルティングとして研修などを行いながら、ZEN2.0と言って、マインドフルネスを教える活動もしている。6年前から鎌倉に住み、研修の講師をするときは東京に週1回程度行く。ZEN2.0カンファレンスなどの国際イベントも開催しながら、ライフスタイルを充実させることを図っている。

 

ライフスタイルは、海が好きということに合わせている。例えば、娘を保育園に預けたあと、海を見に行く。癒されて、そのままカフェで仕事をする。よって、海を見ている姿が目撃されることが多い。鎌倉のよいところは、場所を特定しなくて働けるということ。この結果いろいろな場所に移動すると、その場その場で多様な情報が入る。例えばスタバなどにいくと、知り合いがいて、すぐ打ち合わせができる。落ち着いて考えたい場合は海に行く。小学校の運動会を見に行くことも、仕事の合間にできる。

 

オンラインミーティングは便利で、移動のロスなく連続的に世界中のいろんな場所とつながれる。マインドフルネスの国際カンファレンスの準備は、スタンフォードのマインドフルネス教室をやっている方と打ち合わせ、直後に京都の方と打ち合わせるといった形で進めた。居ながらにして、瞬時に世界中とやりとりできるのはテレワークの強みだ。

 

出版社『A-Works』取締役 、「なみまちベーグル」プロデューサー滝本洋平氏 ~編集的思考を体現する鎌倉での仕事と子育て

 

今は中心的な仕事として、書籍編集を行っているが、その最適な場所が鎌倉だ。2003年に会社を立ち上げたが、その時社長とその弟(デザイナー)は沖縄にいて、自分だけ東京という離れた状態で、最初からテレワークをやらざるを得ない環境だった。そう考えると、ある意味でかなりの先駆者だったのかもしれない。

 

よって、いかに離れた状態で、どうしたら結果を出せるかを考えてできた帰結としてテレワーク体制がある。さらに、昨年、東京の事務所をなくした。あると行かなければならないと思い込んでいたが、なくしてみると、行く必要はなかったんだということに気づいた。

 

日々のスケジューリングでは、仕事の時間として、ラインを二本引いている。9:45に一本、17:45に一本引いている。スケジュール設定上は、なるべく上と下のラインの範囲で行う。9:45は娘を幼稚園に送るため。17:45は18:30から家族で夕食を囲むため。家族といる時間を大切にし、子育て最優先にするために、先に線を引いてコントロールしている。

 

編集者としてよい作品を生み出すためには、自分自身が機嫌よく日々をどう過ごすかが重要だ。1人で仕事をすると、孤独感があると言われるが、あらゆるプロジェクトであらゆる人達といっしょになるので孤独感は皆無。カフェなどがたくさんあり、仕事をする場所を自由に変えられるのが鎌倉の良いところ。スタバに行くと誰かに会う。誰にも会いたくない場合は逗子のカフェに行く。集中したいときは集中できるように場所を選ぶ。さすがに、自分がプロデューサーを務めているベーグルカフェでは人がくるとお客様対応のため仕事にならないが、それはそれで大切な時間だったりする。

 

渋谷で湘南新宿ラインの電車を降りて、新南口の階段上るとすぐにカフェがある。朝なら11:01着の湘南新宿ラインがあるから11:05から打ち合わせ可能。帰りにも1分前に駆け乗れる。ゆとりがあって海辺で、鼻歌を歌いながらやるように仕事ができたらよい。今日はここかなと、場所を変えながら働ける環境が心地よい。移動中、贅沢してグリーン車に乗った場合は、仕事時間と位置付ける。ところが、鎌倉の知り合いが乗車していて、打ち合わせたり、飲み会になる場合もある。

 

島田:偶発が生み出す新しい関係も良い。ミーティングしようねではなく、たまたまあったから話が進んでいくのは凄い。

 

滝本:鎌倉特有の何かを生み出すのにほどよい距離感は確かにある。

 

テレワークの導入の工夫は?

 

宮田:テレワークを実施するにあたって自分たちで工夫していることは?

 

作村:就業規定の変更から手を付ける会社さんが多いと思うが、ルールから作るとだいたい上手くいかない。当社も、もともとは旧来型の会社でして、紙の給与明細を手渡ししていた。これをペーパーレスにすることをまず行った。会社に行く理由をひとつずつ潰すことをやっていた。立て替えの現金払いをやっていたのもやめた。今は、立て替え経費を会社のメーンバンクと同じ口座で受け取るか、Amazonのポイントで受け取るか、どちらか選択できる。仕事の本質的な部分ではないところはできるだけカット。といったように進めていった。

 

島田:テキストベースのコミュニケーションで行き違いやトラブルは起きないか?

 

作村:むしろ、チャットというオープンスペースのテキストコミュニケーションによる社員間の情報格差がなくなることでトラブルにならないメリットのほうが大きい。日本は高コンテクストのコミュニケーション文化で、主語が不明瞭だったり、「みんな」、「あの件」といった会話をしがち。これが、テキスト化することで、初めてのメンバーでも、状況が理解でき溶け込める。手間はかかるが結果的にはやさしい。ログに残るから言った言わないもなくなる。

 

滝本:世代の若いほうが抵抗なく使いこなしている。そういうプラットフォームの文化で育っているから。むしろ絵文字で感情が上手く伝わる場合もある。自然発生的に、気遣いのルールは生まれていく。家族でLINEのやりとりしていても自然発生でできたインナールールは11個くらいある。こういったものは会社であっても必然的にできていくだろう。

 

 

鎌倉に住むという選択をどう考えるか?

 

宮田:島田さんの指摘によると自分で選ぶことが重要ということだが、皆さんが鎌倉を選んだのはなぜか?

 

滝本:自分がご機嫌でいられる場所を自分で選ぶべき。飲みに行くコミュニケーションが好きな人は、六本木、ディズニーランド好きは浦安といったように、自分の編集方針を持って、場所を選ぶと良い。自分は、自身の編集方針との合致をはかり、自分がご機嫌でいられること、そして快適な子育て環境を確保するため鎌倉を選んだ。何を大事にするか?で選べばよい。何かを選ぶということは、何かを捨てるということ。自然の多い場所を選ぶなら、六本木に飲みにいくことは捨てるといった決断も必要になる。

 

宍戸:海や、山など自然環境があって、子育てもしやすいのは鎌倉の魅力。家族で夕食を共にし、子供が寝たあとまた、オンラインで仕事とか、場所にしばられないので自由度が高い。また、テクノロジーが仕事のやりやすさは解決してくれる。

 

作村:もともとは東京出身だが、横浜市の港南台で結婚でき、鎌倉市の大船で子供が生まれた。そして鎌倉で子育てと言う、何かの引力に引き寄せられて鎌倉に来ているという実感がある。

 

島田:何かを深めたいと思ったとき、周辺視野というものの影響を知っているとよい。場所が変わると、脳は無意識にいつもと違う景色をとらえ危険を感じる。自分はここにいるという意識を強く感じる。それによって、やっている内容をより記憶しやすくなるということがある。また視野の10%以上緑があるかないかで脳のリラックス度は違うということがある。脳科学的にも鎌倉は良い環境と言える。

 

 

鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会の今後の取り組み  鎌倉市行政経営部 行政経営課 担当課長 橋本怜子氏

 

-鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会は、都内等への通勤を減らしてのテレワーク、都内等から鎌倉に来訪いただきテレワークやワ―ケーションを行う、ワークスタイル・ライフスタイルの普及を目的としている。同研究会はこういったワークスタイル・ライフスタイル変革に関心を持つ、鎌倉市、民間企業、個人が一体となって、鎌倉でのテレワークに係る情報発信、実証、勉強会等を行っていく会だ。これらによりテレワークの普及を図っていく。

 

2018年のイベントとしては、一般社団法人LivingAnywhereと鎌倉テレワーク・ライフスタイル研究会の共催で、3日間、Living Anywhere Days in 鎌倉を開催する。LivingAnywhereは「自分らしくを、もっと自由に。」をスローガンに、テクノロジーを使って、世界中どこでも人間が生活できる世界の実現を目指して活動している。今、暮らし方を選べる時代が来ている。夏は涼しい北海道、冬は、沖縄。そのあいだに鎌倉を入れるといったことでもよい。今回は市内のいろいろな場所でテレワークを実施。日中はいろんな仕事をやってみる。そして夜は交流イベントをやる。いつもの仕事場からは少し離れて、鎌倉の地でテレワークを実体験。何が課題かを皆で考え、意見交換しつつ今後の発展の機会としたい。

 

また、市内のテレワークが可能な施設の連携による、期間限定の鎌倉テレワークスタイルプランが発表された。5つの施設が連携して、会員向けの料金プランを作った。市内施設が連携するのは初めての試みだ。

 

研究会の活動は、研究会フェイスブック参照。

https://www.facebook.com/kamakuraworker/

 

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地域での取り組みは、バランス感覚が重要だ。行政が前に出すぎると失敗する。この点、鎌倉市は、民間でできないことを支えるスタンスであるとともに、地域のコミュニティが主導となっていることが良い連携関係を生み出していると言える。