生物としてのヒトは、かつて自然界の一部であったはずだ。しかしヒトの生活が近代化するにつれて、あたかもヒトが自然界で最も優位であるかのようにふるまうようになった。そのためか、近年では、ゲリラ豪雨や大型台風、野生動物による農作物への被害など、自然界からのしっぺ返しとでもいうべき事象が度々起こるようになってきている。ここで今一度、ヒトと自然界との在り方について考えるべきだろう。

 

そのような時代の中で、自然について「学ぶ」「守る」「伝える」の事業の3本柱を掲げ、法人や個人を巻き込んで環境に関する取り組みを行っているのが、一般社団法人エコロジー・カフェ(以下「エコカフェ」)だ。平成31年3月9日、デジタルハリウッド大学にて行われた、第15回目の活動報告を兼ねたシンポジウムの模様をお伝えする。

 

人間は自然に対してもっと謙虚であれ ~ 理事長 仁藤雅夫氏

シンポジウムは、主催者である仁藤雅夫氏による挨拶のことばから始まった。普段衛星を使った通信や放送に関する業務を手掛けている仁藤氏は、冒頭で昨年8月末に日本に襲来した台風21号のときに、衛星放送のアンテナが尋常ではない壊れ方をしたエピソードを紹介。

 

仁藤氏は、次のように問題提起する。

「我々人間が地球で一番偉い生物であるかのように振舞っているがために、このようなことになっているのかなと思います。もっと、ヒトは自然に対して謙虚な姿勢でいなければならないのではないでしょうか」

 

その後、シンポジウムのプログラムの概要について説明。登場予定のゲストを紹介した後、「本日は2時間半ほどの短い時間ではありますが、自然についていろんなことを考える時間にしていただければと思います」とあいさつを締めくくった。

 

野生動物と共存する手段としての「狩猟」~環境省 遠矢俊一郎氏

シンポジウムの第一部は、「亥(いのしし)年から考える、日本の狩猟と自然」と題する特別講演からスタートした。スピーカーは、環境省自然環境局 野生生物課 鳥獣保護管理室 狩猟係長 遠矢氏だ。

 

遠矢氏は、まずイノシシが干支の最後になっている理由に関する言い伝えを紹介し、聴衆の興味を引いた。次に、日本人とイノシシの関係のはじまりは古く、縄文時代から始まっていること、日本最古の歴史書である古事記にもイノシシの記述があることなどについても解説。さらにイノシシは、江戸時代に生類憐みの令が公布されていた中でも、「山鯨」と称してイノシシが食されていたことについても取り上げ、いかに日本人にとってイノシシが昔から身近な存在であったのかを強調した。

 

そして、話はイノシシの狩猟に移る。遠矢氏によれば、鳥獣保護管理法という法律では、銃器や網、罠を使って、野生の鳥獣を捕獲することが「狩猟」とされているようだ。だが、当然ながら野生動物は常に動き回るものであるし、意外と頭も良く、そう易々と捕まってくれるわけではないという。

 

「猟師さんの話によれば、木の葉をかぶせて罠を仕掛けたのをわからないようにしていても、後で行ってみると、『ここに罠があることなんてお見通しだ』と言わんばかりに、木の葉だけがきれいにどけてあることもあるそうです。そのため、猟師たちは野生動物たちと知恵比べをしながら、日々あの手この手でシカやイノシシを捕まえようとしています」と遠矢氏。

 

ところが、昨今のニュース報道にもあるように、シカやイノシシは近年増え続けている。遠矢氏によれば、その原因としては、シカやイノシシの分布域の拡大や生息個体数の増大が理由にあると言う。分布域でいえば、昭和53年から平成26年の36年間で、イノシシで1.7倍、ニホンジカで2.5倍に拡大した。また、生息個体数も、平成元年から平成23年にかけてイノシシは30万頭から94万頭、ニホンジカも30万頭から291万頭と大幅に増加している。

 

その原因は、気候変動による積雪量の減少、それに伴い、エサを確保しやすくなったことによる死亡率の低下だ。高山帯では、積雪量が減り、シカやイノシシが標高の高いところまで来られるようになったために、高山植物が食べられて見られなくなってしまったところがある。また、木の皮が食べられて木が枯れてしまうために、森林にもかなり被害が出ているという。また、人里にも出てきて収穫前の農作物を食い荒らすなど、人々の生活を脅かす存在にもなりつつある。

 

日本各地でシカやイノシシによる甚大な被害が出ていることから、今環境省と農水省がスクラムを組み、増えすぎてしまったシカやイノシシを捕獲して適正な数にコントロールする試みが始まった。捕獲数だけでなく、捕獲する猟師の数も増やすため、狩猟の魅力を伝える取り組みも積極的に行っているという。

 

「最近はテレビ番組でも狩猟が取り上げられるようになり、狩猟免許を取りたいという人が増えてきました。今、若い女性でも自分で捕った動物を食べたいという方が多いので、PR活動をさらに進め、そういった方々の背中を押すような場を設けていきたい」と遠矢氏は意気込む。

 

ただ、捕獲してもその多くは処分されてしまうのが現状だ。そこで、農水省が中心となり、「ジビエ」というキーワードで、シカやイノシシの肉を有効活用する取り組みを全国的に行っている。

 

「古の時代から、シカやイノシシは食べるために捕獲されてきました。命あるものを捕獲して食べるということは『命をいただく』という行為そのものですが、近年はそういう意識が薄れているような気がします。それを踏まえて、人間と動物が共存する理想の姿はどうあるべきかを今後私も考えていきたいですし、会場にいるみなさんにもぜひ身近な問題として考えていただければと思います。」

 

と遠矢氏は述べ、講演を終えた。

 

ここで休憩時間となったが、休憩時間後には「ティンカー☆ベル」によるハンドベルの演奏が行われた。「ティンカー☆ベル」は、2003年から埼玉県戸田市において知的障害を持つ子どもたちで結成されたハンドベルサークルだ。寄り多くの人々にハンドベルの音色を聴いてもらいたいと、月に2回、1日あたり4時間ほど練習に励んでいる。現在は「美女と野獣」を練習しているという。

 

2億9000万年前から生息するトンボの神秘 ~南部町立福田小学校4年 杉沢空良氏

第2部の冒頭では、トンボの観察会での気づきについて、青森県八戸市南部町立福田小学校4年生 杉沢空良氏より発表がされた。

 

杉沢氏は、トンボの観察会を通して3つのことを調べたという。ひとつは、トンボの留まり方には5つのパターンがあること。また、トンボが交尾するときにオスとメスがハート形をつくるのは、メスが他の雄に取られないよう、オスがメスの頭をおさえながら交尾するためであることも説明。さらに、2億9000万年前から1億6550万年前までの石炭紀に生息したメガネウラと呼ばれるトンボが、なぜ羽を広げると体長70cmにもなる大きさだったのかについても解説した。その理由は、当時は酸素濃度が濃かったこと、他の水生生物に食べられなかったこと、地球の平均気温が53度と今より高かったことがあるという。

 

杉沢氏は、「トンボ探検隊に入ってからこの3つの疑問を調べて、今まで注目していなかったようなことがたくさんわかり、トンボへの興味がさらに深まりました」と発表を締めくくった。

 

ハッチョウトンボに見る他のトンボとの棲み分け ~玉野市立荘内小学校6年 柴田妃更氏 

続いて、岡山県玉野市立荘内小学校6年 柴田妃更さんによるおもちゃ王国主催の昆虫探検隊に参加したときのハッチョウトンボに関する調査報告が行われた。

 

環境の異なるA・B・Cの3つの地点で観察したところ、ハッチョウトンボは日当たりが良く、低い草がまんべんなく生えていて、地面が少し湿っている場所に多く生息していることがわかったという。また、トンボの種類により生息地が異なり、体長が大きくなればなるほど飛距離が伸びるため、多くの場所で見られることも突き止めた。

 

柴田さんは「ハッチョウトンボが、小さい頃から慣れ親しんだおもちゃ王国で見られると知って、驚いたと同時に誇らしく思いました。これからもハッチョウトンボが皆に大切にされ、多く見られるトンボであってほしいです」と述べ、発表を終えた。

 

ヒツジの飼育を復活させて地方創生の一翼を担う ~ゆめ未来塾リーダー 玉木有一氏

小学生2名による発表の次は、「平成30年度 ゆめ未来塾 活動報告と今後の展開」と題し、ゆめ未来塾リーダー 玉木有一氏により発表が行われた。

 

ゆめ未来塾は、企業経営者・会社員・学生など、エコカフェ会員やエコカフェに興味のある方も含め、おおむね35歳以下の若手を中心に活動しているワークショップの一つだ。1期目はどちらかといえばインプット型の勉強会が多かったが、2期目はメンバーのやりたいことが実現できる場にすべく、話し合いが行われたという。

 

その中で、「人生100年時代で働き方も変わりゆく中、仕事以外のことにもどんどんチャレンジすべきではないか」との問題意識が生まれた。そこで、「日常生活ではできないアウトプットをしよう」というコンセプトで合意したという。

 

ゆめ未来塾が手掛けることになったのは、子羊をまるごと一頭購入し、オーナーの権利を複数のメンバーで共有することである。6ヶ月間、子羊の成長する様子を動画や画像で配信し、最後は肉を食べる、というものだ。

 

エコカフェにゆかりのある土地である青森県八戸市の近くに階上町というかつてヒツジの飼育が盛んに行われていた地域があるが、現在地域でヒツジの飼育を復活させようという機運が高まっているという。ゆめ未来塾もその動きに同調することで、地方創生の観点から地方を元気にする取り組みを始める。

 

「エコカフェの理念のもとに集うメンバーと、しっかり1年間ぶつかり合いながら議論をしてまいりました。この平成31年度は、議論したことを実際にアウトプットしていく年になると思います。ぜひ、みなさんにはこれからのゆめ未来塾に期待してもらいたいと思います」と玉木氏は思いを述べた。

 

頭で考えるだけでなく、実際のアクションを ~エコロジー・カフェアドバイザー 山崎俊巳氏

シンポジウムの最後に、エコロジー・カフェアドバイザーの山崎俊巳氏より、総括コメントと称してスピーチが行われた。

 

第1部では、「遠矢さんより、亥(いのしし)という括りで、地域社会が抱える問題について考えるきっかけをいただいた」と山崎氏。エコカフェは多様な人たちが集まっているため、その人たちの能力を組み合わることでリスクを下げ、スピード感のある支援をすることも可能だという。「考えるだけでなく、みなさんには実際にアクションを起こしてもらいたい」と山崎氏は述べる。

 

山崎氏は、第1部と第2部の間に行われたハンドベルの演奏にも触れた。「目に見える世界観に満足するのではなく、演奏の奥深くにある彼らの努力にも目を向けてほしい。1年1年の上達の幅は小さいかもしれないが、彼らがいかに音を合わせる努力したかを感じながら耳を傾けると、もっと豊かな音色に聴こえると思います」と述べた。

 

第2部については、トンボがエサや生息する環境によって棲み分けがなされていることに触れ、「動物は自然界において棲み分けをしているので、人間同士も動物に見習えばもう少し仲良くなれるのではないか」と感想を述べた。

 

最後に「エコカフェは、多くの人たちが参加して実際にフィールドを持ちながら会員のできることを組み合わせながら活動を広げていきたいと思っています。みなさんもぜひ参加して、アイデアを出し合って楽しんでいただければ幸いです。今回でこのシンポジウムは15回を数えますが、これまで以上に支援をお願い致します」と締めくくり、シンポジウムは終了した。

 

 

今回のシンポジウムでは、日本における野生動物が人間の生活にもたらす問題、トンボの生態、ヒツジの飼育プロジェクトと「生物」を切り口にさまざまな発表が行われた。都会にすむ人にとって自然は遠いものかもしれない。しかし、シカやイノシシの肉を食べたり、公園で昆虫の観察をしたりしながら、自然の問題をより「自分ごと」として捉え、アクションを起こすことが必要だと感じられるシンポジウムになったのではないだろうか。

 

エコカフェ

http://ecology-cafe.or.jp/