去る令和元年6月4日、総務省の働き方改革(第2期)チームの報告会が行われた。このチームは平成30年1月から6月までの間活動した「総務省働き方改革チーム」の後を受けて同年11月から活動を開始していた。

総務省と言えば、国家の基本的な仕組みや国民の経済・社会活動を支える基盤である各制度(地方行財政、選挙、消防、国の行政管理、政策評価、統計)及びICTインフラ(情報通信、郵政行政)を所管する巨大組織だ。このように業務が多岐にわたり複雑な組織において、若手有志がフロントランナーとなる働き方改革はどのように進められているのだろうか?

 

省を挙げた本気の取り組み

第2期チーム事務局 大臣官房秘書課 飯田係長

 

第2期チームは公募による20名の若手職員により発足し、前チームの成果を引継ぎつつ、先進的な取組を行う企業への視察や他省庁等との意見交換を通して、さらなる分析および問題解決策を検討していった。今回は、省全体の意思決定プロセスや情報伝達、日々のコミュニケーションに関わる取組など日常業務の改革に注力している。若手の提言を受けて、すぐに実行できるものは令和元年7月、8月のワークライフバランス推進強化月間から着手を始めるという。

 

石田総務大臣

 

まず冒頭に、石田総務大臣から幹部向けに次のような趣旨の指摘があった。「今回の活動にあたっては、幹部の意識変革が重要と認識している。省内においては私が最年長者であるが、今の若い世代との考え方、育った環境がかなり違うと思う。ものの見方や、心構えが違うといった中で、心を一つにやっていくためには、お互いを理解しながら進めていく必要がある。特に、大きく時代が変わろうとしている狭間では、ギャップが大きくなる可能性があるので、幹部の関わりが求められる。就任当初から比べて、オフイス改革、テレ―ワークの推進により、働き方改革が着実に進んでいると実感している。今後さらに働き方改革に積極的に取り組み国の基盤を支える仕事へのモチベーションを高めてほしい。具体的に成果を上げていくには若手職員に提出してもらった、フレッシュなアイデアを取り入れて実際に職務に活かしてもらいたい」。

 

次に、成果の一つとしてRPAを活用した行政文書作成の効率化の事例が発表された。

 

RPAを活用した、行政文書作成の業務効率化への取り組み

自治財政局財務調査課 大宅課長補佐

 

自治財政局財務調査課では、各自治体の財務書類の集計、分析、公表を行っている。

「統一的な基準により作成された、全1,788自治体の財務書類のデータをとりまとめ、比較可能な様式により分析、公表することで、公会計情報の「見える化」を図ることが重要だ。財務書類は、各自治体のホームページ等において開示されているが、昨年度から比較可能な様式により、総務省ホームページにおいて、とりまとめ結果を公表することとした。しかし、全自治体分の財務書類のデータをとりまとめる業務は定型的かつ膨大だ。具体的に言えば、データを一つにまとめるためには個々の資料からの転記が必要であり、集計、公表作業に時間が取られるといったことが起こる。そこで、今回RPAを導入。これにより全自治体分のデータ処理に256時間程度かかると推定されていたものが、52時間程度で済むようになり、合計204時間程度の作業時間を削減することができた。その分、本来職員が行うべき分析業務に注力することができるようになったことは大きい」との報告があった。

 

アンケートに見る幹部と現場の評価ギャップから現状を紐解く

大臣官房秘書課 松本課長

 

次に、アンケートをもとに省内における今までの働き方改革の活動実態の分析と今回活動の概要が報告された。

 

「平成30年度の第1期働き方改革チームの提言を受けた、働き方改革だが、「効果はあったか?」についてアンケートを取ると、今のところ課長クラス以上に80%以上の高評価があり、改革が進んでいるという実感をもっているようだ。ところが、一方で課長補佐以下ではまだ40%程度の評価でしかない。無論、幹部は率先して働き方改革宣言を行ったからという面もある。

このように、まだ全体的に浸透していない状況において、今回の2期チームの提言は、今後現場レベルで効果が表れるテーマとなっている。アンケートの自由記載を見ると、テレワークについて取り組みやすくやったという意見などが出てくるようになった反面、会議の冗長性などの問題はまだ指摘されている。2期チームの提言はまさにこういった、業務やコミュニケーションの基本的な在り方の改善を提案するものが含まれている」

「また、今回、チーム編成にあたっては、係員級も入れ裾野を広げた。入省二年目の職員も手を挙げ、20名がランチミーティングを頻度高く開催するとともに、民間企業などの見学を行いつつ活動をしていった。具体的なアウトプットは、生産性に影響する6つのキーワードと20の対応策について検討がすすめられ、意思決定、情報伝達・共有、モチベーションを高める組織基盤づくりの3つのグループにわかれて活動し、対応策をとりまとめた」。

 

続いて、活動したチームによる提言が行われた

 

意思決定のスピードをあげる~会(快)議のための三原則とは?

サイバーセキュリティ統括官室相川さん

 

「我々は意思決定の質、スピードの向上をテーマとして活動した。チームで施策に取り組む役所においては関係者のコミュニケーションによる認識共有が必要不可欠。その中で必ず発生し、特に時間がとられるのは、会議、打ち合わせ、レクだ。幹部の皆さんに意識していただきたいのは、会議などの際にまずゴールや目的、趣旨の共有を行い、メンバーが同じ方向を向いている状態をつくること。実際に現場では、ゴールを決めずに議論を始め、想像以上に時間がかかったり、資料作成の際、もっと早い段階で完成イメージを共有できたりしていればよかったということは多い。

そこで、今回「快」議のための三原則を提案する。

この3原則を実施すれば生産性は上がる。会議・打合せ・レクにまつわる非効率は、一人ひとりで見ると、それほど大きな課題に見えないかもしれないが、組織全体で積みあがっていくと膨大な時間のロスになる。今後、会議などの効率化の研修をやっていきたい。また幹部の皆さんは、働き方宣言の中でも会議などの効率化をうたってほしい。こうして、「快」議の三原則を言語化して、眺めてみると実にあたりまえのことが並んでいるように見えるが、働き方改革の観点では、このような基本的なことを常に上から下まで様々な役職の職員が意識することに意味がある」との指摘があった。

 

情報伝達の改善~膨大なメール処理への対応

総合通信基盤局 後藤さん

 

「最近情報の伝達量が多く、だんだんメールの量が増えている。多いときには1日1人で2,000通ものメールを受信している職員もいる。省内の統一的なフォーマットやルールがないため、メールの送り手は一通一通書きぶりに悩みながら、思い思いの様式でメールを発信する。これでは受け手にとって重要性の判別もつきにくく、読みづらくもあり、情報伝達が上手くいかない。そこで、我々はメールの送り手・受け手の双方の負担を減らすため、フォーマットを作成することとする。省内でメールの書きぶりを統一し、件名や内容などについてのルールを作る。トライアルとしてまず、大臣官房から始めることにした。

 

また、メールを減らすことにもつながるが、省全体への共有事項はできるだけ総務省内のイントラネットを用いるようにしたい。職員に聞いてみたところ現状のイントラネットは、必要な情報が探しにくい、ユーザービリティがよくないといった声が上がっている。そこで、わかりやすいアイコンなどを配した新しいイントラネットを作成する予定だ。今後、新旧イントラネットを併置した後、どちらが良いか、職員にアンケートを取ることを予定している。「働き方改革」という言葉は、壮大かつ抽象的なため他人事のように聞こえがちだが、この情報伝達の改善は、チームメンバーが日々の業務で感じていることや省内アンケートで聞こえた声をもとに、極めて具体的かつ身近な業務における改善を検討したもの。職員一人一人が、今一度当事者意識を持って自分の働き方を見つめ直してほしい」。

 

次いで、報告の最後は、職員のモチベーション向上についてだ。

 

1on1ミーティングでモチベーションを維持、向上する

行政管理局 山内さん

 

「民間企業の従業員も含む調査結果だが、日本の働き方は、先進国の中でもとくに仕事へのエンゲージメントが低いという指摘がある。人生100年時代を迎える中、主体的な仕事への取り組みが求められているが、モチベーションが低いまま、守りの仕事に終始しているとそもそもイノベーションは生まれない。

 

先ほど発表のアンケート結果ではないが、課長級以上と、その下でギャップがあると認識している。若手が、闊達に意見を言えるためには、心理的安全性が必要と言われている。そのためには上司に忖度しないでものが言える関係である必要がある。自らアイデアを出したことに対し、裁量を付与してまかせてもらえるようになれば、モチベーションをもって仕事に取り組むことが可能になる。

 

管理職と若手職員がコミュニケーションをとる機会として、制度化されたものでは、これまでは半年に1回の人事面談はあったが、それでは足りない。我々は週に1回、あるいは隔週などでの1on1ミーティングを行うことを提案する。そしてこれを部下育成システム化していく。

 

この時注意すべきは、上司は部下に接するときに説教になってはいけないということ。最近の状況を聞くことなどを中心に進めることで、部下にとっては振り返りにもなり気づきが得られるといった場をつくることが重要だ。気付きにより若手の主体性を目覚めさせていく。そのためには8割は話させないといけない。こういった1on1ミーティングの進め方について今後研修を行っていく」。

 

この後、総務副大臣および、働き方改革の顧問を務める総務大臣政務官から一言ずつコメントがあった。何のための働き方改革か?それは国民のための仕事の質を上げることだといった、言及が多くなされた。

 

働き方改革に官僚の矜持を

古賀総務大臣政務官

 

報告会の最後に、顧問を務めた一人である古賀総務大臣政務官が締めくくった。

 

「私は28年前自治省に入省した。当時は国家の運営を司っているのだという強い気概と、官僚魂があった。我々は今でもこういった心持を忘れてはならない。働き方改革で無駄な業務負担を減らすのは、ワークライフバランスの充実もあるが、国家国民のためになるということが目的。そういった中で、制度設計や、法律作りをやるわけだが、常に国家のためになるのだろうか?自分たちの都合だけでやっているのではないのだろうか?と考える必要がある。国のために役立つことが中央省庁の役人たる意義でありモチベーションはそこにある。令和の時代に役人の矜持を取り戻す、官僚魂を取り戻すつもりで取り組んでもらいたい」。

 

役所は、上手くいったときは褒められず、ミスをすれば容赦ない叱責を受けるといった存在だ。血税を払う国民の視線は厳しいが、国民の本意としては雑務に追われるのではなく、創造的な制度設計や法整備に時間を活用してもらいたいと思っている。日本国の総務部とも言える総務省における地道な改革活動によって、中央省庁の働き方が変わることを期待するところだ。