オビ 企業物語1 (2)

社内運動会復活! 増加の背景にあるものとは?

◆取材:加藤俊 /文:野村美穂

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666f9882341c94eacb2c0eb9250a95cd_m その日、某区営体育館の会場は熱気を孕んでいた。チーム対抗リレーが行われている最中だった。「頑張れ!」。会場から割れんばかりの声援が走者に向けられている。と同時になぜか笑いも。

走っているのは、脂の乗り切った中年男性、普段は各部署を率いる課長達だ。当然、走者としては不格好なのもいる。腹の突き出たオヤジ達が顔を真赤にして、リレーの走者として、息も絶え絶え、体育館を駆けずり回る。その姿は笑いを誘い、会場を和ませた。

 

実は、最近社内運動会が流行っている。参加して従業員の連帯感、士気を上げるといった意図があるそうだ。

昔から各企業では、福利厚生の一環として、懇談会や社員旅行などの色々な行事が行われてきた。ただ、社内運動会と聞くと、どうしても近年は廃れたイメージがある。高度経済成長期の臭いがする古臭いものと捉える人もいるだろう。ところが、現実的に実施する企業数は増えているのだ。

では、対人関係が希薄になり、社内行事はおろか飲み会さえ煙たく思う従業員が増えているというニュースを耳にする昨今の風潮に抗う形で、このムーブメントが伝えられてくるのは、なぜなのか。

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ 米司隆明氏 (1)米司隆明(よねじ・たかあき)氏…1980年山口県生まれ。2003年、神奈川大学経済学部卒業後、一般企業を経て、07年に同法人を設立。「スポーツで日本を元気に」をスローガンに掲げ、スポーツイベント、企業レクリエーション、社内向け福利厚生事業の請負などを行う。著書に『会社の悩みは、運動会で解決しよう!』(クロスメディア・マーケティング)がある。

運動会を代行する「運動会屋」運営団体NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ代表理事の米司隆明さんに聞くと、同団体が2007年に発足し、2008年に最初の運動会を行って以降、「依頼は年々倍増。2014年は134件の社内運動会をプロデュースした」とのこと。

更に、2015年は更に増えることが既に確定。運動会屋の他に名の知れた運動会運営代行会社は2社ほどあるというから、社内運動会を開催する企業数は実際にはずっと多い。

 

■社内運動会が増えている背景

しかし、なぜ社内運動会が増えているのだろうか。幾つかの理由が考えられるが、一つは、「リアルコミュニケーションの飢え」だと言う。上述の米司さんは語る。

「社内twitterなどのITツールでコミュニケーションをはかる企業を聞きますが、仕事以外に共通の話題を持ちにくい。その点、社内運動会は社員にニューヒーローが誕生したり、業務中だけではわからないリーダー資質が見られたり、交流のない部署の方と協力し合えたりと、スポーツだからこそのコミュニケーションを生み出す効能が期待できます」

 

実際に、運動会後、会社が明るくなったという企業は多い。そもそもの開催目的に、従業員のモチベーションアップを一番に位置づける企業が殆どだと言う。実際に実施した住友電装株式会社は、運動会の効能を「営業成績や離職率の低下など、数字には出しにくい面はあるが、計測できない効果が期待できる」と答えている。

詰まるところ、この社内運動会流行とは、従業員間のコミュニケーションが希薄になりつつある現代社会だからこそ、そこに抗う企業側のカンフル剤としての期待が寄せられているようだ。

 

■費用対効果を意識する企業

ただ、運動会が持て囃される理由はこれだけではない。もう一つ大きな理由がある。キーワードは、費用対効果を意識する企業の増加。流行の背景には、企業のコスト削減意識が絡むという。

元来、社内行事といえば、社員旅行が代表だった。この社員旅行が運動会に切り替わりつつあるのだ。理由は簡単。旅行に行くとなると、要する日数や宿泊費などかなりの経費がかかるが、運動会は一日で終るから。この経済的な理由から運動会を導入する企業が増えているのだ。実際に、米司さんは言う。

 

「リーマンショック直後から、社員旅行の代わりに社内運動会をする企業が急増しました。社員旅行のように2、3日の通常業務を停止せずに1日で済むことや費用を抑えられること、積み立てている福利厚生費を年度内に使用できることなど様々な理由があります。年度内の予算消化という観点や休前日が良いという理由から、年内最終営業日が社内運動会の開催に人気です」

 

日本企業の力が弱まったがために、運動会が持て囃されるという図式は虚しい感じもするが、効果は絶大である。京セラが1963年から毎年運動会をやり続けていることは有名だし、新入社員にとっても、運動会に期待する向きは案外多い。

日本能率協会2009年4月23日発表「会社や社会に対する意識調査」では、調査に回答した新入社員1,490人のうち53.4%が上司との人間関係構築には「運動会」が有効と答えている。これは「昼食を共にする」(53.0%)よりも高い数値なのだ。

通り一遍の研修より運動会での経験や意識付けは、ボディーブローのように後でじわじわ効いてくる。貴社も長い目で見てはいかが?

 

運動会屋 米司隆明代表理事インタビュー

■運動会運営代行会社は何をしてくれるの?

 

―運動会運営代行会社ってどこまでお任せできるのでしょうか?

 

米司:参加人数や開催目的をうかがい、会場の選定や全参加者の参加機会を増やすプログラムの企画を行います。弊社は運動会の企画・運営を行う「運動会屋」と、機材の貸し出しを行う「運動会レンタル」の2つの事業を運営しています。運動会屋は、クライアント企業のニーズに合わせ、フルオーダーメイドで運動会をプロデュースしていることが強みです。

 

―社内運動会ならではの競技を企画されているのですか?

 

米司:15~30分の競技を参加者層や参加人数に合わせて、8~13競技程度企画します。綱引きや玉入れ、ムカデ競争、障害物レース、借り物リレーなど「日本人なら誰しも懐かしい競技」を行いますがそれぞれに工夫を凝らします。パラシュートを付けて行うリレーや抱き枕のようなバトンを用いたリレーなど一風変わった競技にする場合もあります。借り物競争で「尊敬する上司」などを指定して、ゴールで「尊敬するきっかけとなったエピソードを聞かせてください」などと語ってもらえるようにすると社内親睦がより深まりますね。「歌のうまい人」と書いて一見地味な方が連れてこられ、どうなることかと思ったら、平井堅さんの曲をめちゃくちゃ上手く熱唱されて「おぉ~」という歓声が起きた企業様もありました。

 

―でも渋々参加する人が多いのでは?

 

米司:おっしゃるとおりです。ただ、チーム戦になるのでチームの代表として足を引っ張らないようにちゃんとしようとは思うわけです。それで、運動する中で自然にモチベーションが上がる方が多い。9割のお客様がリピート開催してくださいます。競技に参加し応援し合う中で「この会社、良い会社だな。良い仲間だな」という愛社精神が芽生え、営業成績がアップしたり離職率が改善されたりという喜びの声をよく頂きます。

 

―仕事ではわからない一面を知ることで、コミュニケーションが広がりますね。

 

米司:また、競技内容だけではなく、高齢の方が多い場合には運動会を午前のみにし、午後はバーベキューなどのレクリエーションに充てる場合もあります。運動会会場に設ける縁日屋台などの運営も行います。

 

―運動会運営のプロにお任せしないと、開催が相当大変だということがイメージできますね。依頼元の企業は参加人数や開催目的をお伝えするだけで良いのでしょうか?

 

米司:社内を熟知していないと難しい、チーム分けや参加競技の決定、チーム名やチーム紹介文の準備、参加者への開催誘導などを行って頂くことになります。事前告知をきちんとして参加いただけるのかが、毎回当日まで気がかりです。事前打ち合わせは5~10回程度と、開催内容などにより異なりますね。

 

―運動会を行うのって、日本だけなのでしょうか?

 

米司:スポーツイベントは海外にもありますが、日本型の運動会は日本独特の文化だと捉えています。チームに所属して総合得点を競うという形式が日本ならではですね。海外では集団ではなく、個々に競ってチャンピオンを決める競技が多いですね。

 

―スポーツは言葉が通じなくても楽しめますから、運動会、海外に広げられるといいですね。

 

米司:東日本大震災などで日本の集団の強さは海外でも評価されています。海外でも集団の繋がりを生み出すために運動会が役に立てる可能性はあると思いますし、そうなるよう活動していきます。

 

―今後の展望や課題についてお聞かせください。

 

米司:運動会屋というビジネスの認知度アップをするために先日、『会社の悩みは、運動会で解決しよう!』(クロスメディア・マーケティング)という本を出版しました。引き続き、認知度を高めることが課題です。まだまだ名刺交換をする際などに「本業は?」と聞かれてしまう程度の認知度なので。また、東京オリンピックの開催に向けて東京体育館の改修が始まるなど、運動会をしたくても会場がないという問題が発生することが懸念です。弊社では、関西や海外など関東以外の会場における開催を増やすことを検討しています。

 

―本日はありがとうございました。

 

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ 米司隆明氏 (3)

【取材のセッティングにあたり、株式会社ネットスターズ蛭田一史さんに尽力頂いた。写真左】

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取材協力

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ

東日本事務局:〒224-0046 神奈川県横浜市都筑区桜並木12-37 MKTビル1F

℡:045-949-4343

運動会屋
http://www.udkya.com/

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズ
http://www.spocom.org/

 

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