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未来の沃野を拓け!ビジネスニューフロンティア〈12〉 

日本の風景が変わる!

CLTを使って木造高層ビルに挑め!

◆取材・文:佐藤さとる

オビ スペシャルエディション

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CLTが屋根材として使われているウィーンの4階建て大型商業施設

 

CLTという新たな集合材が、建築物の世界を変えようとしている。従来は使えなかった高層建築物に木材が使えるようになるのだ。すでにヨーロッパでは木造高層ビルが各地に建ち始めている。今後は日本でも鉄筋コンクリートに代わって木造高層ビルが各地で見られるかもしれない。

政府は杉などを使ったCLTの普及を成長戦略の一つに組み込んだ。性能や施工法、生産方法などの法整備を進めるという。停滞する林業の救世主、地方創生の起爆剤としての期待も高まる。

法隆寺を始め、かつて世界をリードした日本の高層木造建築技術。CLTの普及で再び輝きを取り戻せるか―

 

■鉄筋コンクリート(RC構造)で
1カ月の工期をわずか1日に短縮

もしかしたら来年は「コンクリートから木材へ」のパラダイム・シフトの転向点になるかもしれない─。そんな予感を感じさせるほど、いま林業関係者が勢いづいている。

 

10_New_frontier1203CLTは奇数の層が基本となっている。国の方針では3~9層が基本となりそう。厚さは12ミリから。

その主役がCLT(Cross Laminated Timber=クロス・ラミネーテッド・ティンバー)と呼ばれる集合材。その名の通り、繊維方向に揃えたラミナと呼ばれる板をクロスに重ねて接着剤で圧着した木材で、日本名は「直交集成材」と称される。

 

板を直交で組み合わせているため、互いの層が互いを抑え合い、収縮による寸法変化が少ない。かつ強度も高く、コンクリートに匹敵するほど。厚さもあり梁や柱として使えるほか、組み合わせれば壁、床などの幅広い面材としても活用できる。

型枠で固める時間なども取らず、また繰り抜きやカットも自在にできるため、コンクリートより使い勝手がいい。接合に使われる金具もシンプルで、設計、施工の省力化も期待できるなどいいこと尽くめだ。

 

実際、昨年高知県で建てられた国内初となるCLT構造の三階建てアパートは、ほぼ丸1日で構造体ができあがっている。RC(鉄筋コンクリート)の場合は通常1カ月弱かかるというから、激的とも言える期間短縮である。

断熱性もいい。もともと木は鉄やコンクリートより断熱性は高い。熱伝導率でみるとたとえば杉では、コンクリートの12倍以上ある。CLTは厚みがあるので、この特性を活かした快適な省エネ設計も可能となる。

 

■ヨーロッパで20年の普及率を10年で実現

CLTはヨーロッパでは1990年代から研究されはじめ、3〜5階の中層ビルやアパートなどに使われてきた。すでに9、10階建ての高層ビルやマンションもある。

 

10_New_frontier1202一般社団法人CLT協会の事業部長の中島洋さん。「まずは、標準仕様を決めること。どんな使い方ができるかを考えることはこれからの課題」

「ヨーロッパでは20年以上の歴史がありますが、日本はこの3年くらいで急に盛り上がっています。目標としてはヨーロッパが20年かけてきたことを10年で実現すること」と鼻息が荒いのは一般社団法人日本CLT協会中島洋さん。

中島さんの言う「ヨーロッパ並み」とは、CLTの生産年間50万㎥以上の供給体制を築くことだ。50万㎥という数字はピンと来ないが、3〜4階建て中層建築物の約6%が置き換わった量、もしくは1万棟の戸建て住居量に相当する。

 

「現状はまだコンクリートに比べて、コストが高い。立方メートルあたり15万円の価格を半額にできれば価格的に対抗できる。量産化できる生産体制も大きなポイント」(中島さん)

 

 ■来年度に生産方法や設計方法などを規格化

林野庁と国土交通省が策定したロードマップに2024年にその目標が設定されている。そのために2016年度内に、基準となる強度の告示や設計方法、生産体制の確立が謳われている。

2016年度とは来年度、である。現在、官民を挙げてのCLT普及への研究整備が進んでいる。中島さんのCLT協会もその一つで、現在参加企業と分担して、CLTの標準仕様など12のワーキンググループで研究開発、整理を行っている。

それにしてもここ3年程度で一気に性能や仕様の規格化、さらには量産体制を築くというのは、いささか性急に過ぎはしまいか。アベノミクス効果が狙えるうちに成長戦略に乗せようという政府の思惑もありそうだ。

 

 

■「宝の持ち腐れ」―収穫期を迎えた日本の山林

実は日本の林業の競争力を高め、成長させる戦略は民主党政権時代に決まっていた。

もとより国内の林業は衰退の一途を辿ってきていた。輸入材に押され、国産材のシェアは低下し続け、林業関係者の高齢化や後継者不足、そこから生まれる山林や中山間地域の荒廃、災害対策はずっと指摘され続けてきたこと。林業の起死回生は国家の懸案だった。

 

加えて、戦後植林された日本の山林が収穫期を迎えている事実がある。

現在日本の木材伐採量は年間0.35億立方メートル。これに対して成長量(伐採可能な木)は1.7億立方メートル。伐採量に対して5分の1程度しかない。これに対してドイツは成長量1.2億立方メートルに対して伐採量が0.7億立方メートル。スウェーデンが1億立方メートルに対して0.85億立方メートルと成長量と伐採量の差が小さい。日本の山林は「宝の持ち腐れ状態」なのだ。

 

■耐震性はほぼクリア、耐火性も3階までの新法律で対応

そこで成長戦略に沿った振興策が打たれたわけだが、当初、最終製品の需要拡大策を講じずに伐採量の増大に注力したため、木材がだぶつき、却って市場価格を下げる結果を招いた。加えて生産者側も長らく設備投資が遅れ、市場が求める質と精度の高い木材づくりに十分応えて来なかったこともある。

CLTが脚光を浴びているのは、単に建築材としての可能性だけでなく、世界に取り残されつつある木材品質を高めるチャンスからでもある。

10_New_frontier1205ヨーロッパのCLT建築。(9階建て木造集合住宅[ミラノ]。CLTですべて賄うのではなく、柔軟な組み合わせがポイントだ。10_New_frontier1204ウィーンの木造集合住宅

現在CLTは、国土交通省の大臣認定を一件ごとに取れば使用可能だが、これを大臣認定をいちいち取らなくとも使えるようにするのが、普及へのマイルストーンだ。

立ち向かうべきハードルは、耐久性、耐震性などの性能や設計、施工の仕様や規格統一など多岐にわたるが、なかでも高いハードルとなりそうなのが耐震性と耐火性だ。

CLTの規格の元はヨーロッパのCLTだが、地震国である日本ではより高い耐震性が求められる。実験ではCLT5階建てで、阪神淡路大震災クラスの耐震性が証明されている。

 

難題は耐火性だ。木は燃える材料である。建築基準法では4階以上が「1時間耐火」。5階以上が「2時間耐火」基準があり、火を点けてそれぞれ1時間、2時間燃やし続け、さらに自然と消える(自鎮)ことが求められる。

これらに対しては、モルタルや石膏ボードや薬剤などを入れて自鎮可能とし、法のクリアを目指している。3階以下の場合は、1時間の準耐火仕様となり、着火しても「燃えしろ(1分間に1ミリずつ炭化するので60ミリ以上)を確保しておけば設計できるという法律が来年成立する予定」(中島さん)という。

 

■従来工法と組み合わせ、自由な活用を

ヨーロッパの木造高層物をみても、オールCLTではなく、地下やエレベーター周りなどはRCを使うなど、従来の構造や既存の集成材などを組み合わせて、発展してきている。

日本でも既存技術や工法と柔軟に組み合わせることで、より自由な木造建築物が生まれよう。

期待したいのは、特性を活かした新市場の開拓だ。たとえばハウステンボスでは、CLTとスマートハウス技術を組み合わせたスマートホテル「変なホテル」を今年オープンさせる予定だ。またCLT協会では断熱性を活かした現代の土蔵や、津波などの避難時の「ノアの方舟」、壁やパーテーション、インテリア材などの提案もしている。

ほかにもテーマパークや列車、ホテルの内装部材、イベントの仮設施設や公園などの遊具などが考えられる。

 

いずれにせよ、新市場開拓には建設土木、住宅業界などの既存業界だけでなく、アミューズメントや医療、IT、広告、ロボットなど、異分野の人たちとの幅広い接点づくりがポイントになってくるのは間違いない。

 

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2015年4月号の記事より
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