◆文:増山弘之

 

住宅産業は学生から見れば、建設業界として十把一絡げに見える。昔から、建設業界は3K業種と呼ばれ、きつい、汚い、危険という先入観で見られ、ブラック企業のレッテルを張られている。確かにその通りの企業もあるが、注文住宅の業態に限れば思われている以上に給料も高く、休みも取れる穴場的業種なのだ。

しかしながら、そのイメージギャップを払拭するのは難しい、そこでミスマッチを解決するため立ち上がったのがBirth&Rebirth代表の真崎健さんだ。真崎さんが立ち上げたのは、住宅業界特化のマッチングサービス「iejob(いえじょぶ)」。真崎さんは、iejobの登録促進に向け、学生のことは学生に聞こうと、今回5人の学生とコラボして、住宅業界の採用課題を解決するプロジェクトを立ち上げることにした。今回そのプロジェクトを取材した。

 

学生採用プロジェクト・キックオフ

去る2月3日、表参道にある会議室には、iejob担当者と学生たちが集結していた。学生メンバーとはこの時が初対面で、今日はプロジェクトの説明を行う日のようだ。

各人の自己紹介の後、真崎さんが語り始める。

 

「実は私は、就職の失敗組でした。なりたかったパイロットを諦めて、ゼネコンに入社したのです。そして、その会社は入社直後に経営悪化。4,000人いた社員が半分になりました。良い先輩が辞めていきましたね。その時に、会社は上場企業でも社員を守ることはない。大きな会社に入れば安心という神話が自分の中で崩れましたね。その経験が後の独立へとつながってきます。

今、1つの会社のビジネスモデルが続くのが23年ともいわれています。建築現場でも昔はフィルムカメラで写真をとっていったものが、デジカメに変わり、iPhoneになった。そんな中で、古い業界の仕事がなくなっていく。住宅業界はテクノロジーの導入は比較的遅い業界であるが、AI時代にこれから突入していくことになる。これから大きな変化がやってきます。

私が起業以来続けている活動は顧客の課題解決です」

 

実際に、真崎さんが手掛けている本業は非常にユニークなコンサルティングだ。家も作れば売れる時代から、作っても売れない時代になってきた。どのように差別化していくのかが重要になった。顧客はまだ、デジタル図面(CAD)よりもヒューマンタッチな手描き図面に心を動かされる。

そこで、最もIT化されない手描きに着目。住宅建設会社と提携しガーデンの設計をはじめた。建物と庭と一体的に設計することで、夢のような空間を演出できる。ガーデンチャペル、サードリビングのようなものを作ると、3割くらい家を高く売ることができるのだ。

 

次の業界の課題は、特定の住宅建築会社を純粋想起させる手法の開発である。純粋想起されるとは、検索するならGoogleとか、一番最初に思い出してもらえる会社になるということである。

例えば、鹿児島県でいえば大手シェア率が4%しかなく、特定のブランドが純粋想起されることはまずない。そこで、真崎さんの会社では、純粋想起されるために、若いころから立ち寄れるカフェ、飲食店や、グリーン雑貨店をプロデュースし、実際に家を買う行動を起こす前に、なじみの企業として認知されている顧客接点を作る活動をしている。

 

住宅業界が環境に適応できるように、業界課題に合わせた取り組みを次々におこなってきた同社が、庭・外構の仕事、純粋想起、その次に目を付けたのが人材確保だ。人の採用課題を解決するためにはじめたのが、今回の住宅業界特化の採用サービスiejobなのだ。

 

「工務店の代表の方と話していると、最近応募してくる学生の質が落ちているとか、取れなくなっているとかいう話をよく耳にするようになりました。実際には、ノルマがきついわけでもなく、給料もしっかりともらえるにもかかわらず、なかなか学生が来てくれないのです。

一方、学生側も、大手志向が根強いが、大手企業が欲しているのは一部の上積みで、

落ちるに決まっているエントリーシートの記入や、説明会に行くと言った無駄な活動を強いられてると思うのです。そういった業界にも学生にも不幸をもたらしている、社会的な大きな課題を解決したいのです。」と真崎さんは熱を込める。

 

課題の提示~効果的なiejobのマーケティング方法は?

今回のプロジェクトで学生に課された課題は、どうしたら中堅大学の学生のiejob登録が促進されるかだ、と真崎さんは言う。

 

「ある大学で講演したとき、100人の学生に聞いたら、土と汗と言うイメージ。法被をきて、カンナで削っているみたいな先入観を持たれている。見方によっては、IT系の技術者などのほうがハードな就労環境なのではないか。住宅系は給料も高いし、学生にとってはブルオーシャン。そして、人が採れないので学生の要望は受け入れられやすいのです。半面、例えば人気業種のTVなどの制作の仕事は行きたい人がいっぱいいるので、待遇的に厳しい環境にあったりもする。

今回、大学の講演で住宅業についてしっかりと話したら。この業界へ興味をもつ学生が多いことが確認できました。事前アンケートを取ると、開始前は住宅業界にほとんど関心がないが、セミナー後には興味が湧き、iejobに登録しても良い生徒さんが8割以上となることが分かったのです」

 

実際には、想像以上に住宅会社にはいろいろな業態がある。分譲住宅もあれば、注文住宅もある。同社のお客様は注文住宅で、一棟一棟丁寧にモノづくりとしていくところが多い。注文住宅なので、お客様の要望にあった、とんがったデザインの家を作ることもできる。

また、ユニークな経営をしている企業も住宅業界にはある。東大卒業生を大工として雇っているところ、カフェやホテルを経営しているところ、地方創生事業をリードし古民家の再生を支援しているところもある。

 

「まずは、業界のことを認知してもらうことが必要なのです。もっと具体的に言えば、大手を受けて希望通りに内定がとれなかった就活生が、中小企業にターゲットを代え始める6月以降にiejobに登録し活用してくれる。まずは求人サイトから始めるが、そのうち、自己PR動画をとって登録すると、興味をもった企業からオファーが来るようにしたい。

エントリーシートの代わりになるエントリー動画を活用したい。学歴よりも学習歴、人間性を重視したエントリーです。動画を1分見れば、不採用人材わかります。これで学生・中小企業側ともに時間を省くことができます。そして面接も地方からわざわざ出てこなくてもよいように、1次面接オンラインでできるようにしたい」

 

「こういった、サービスの登録促進ができるよう、中堅大学生の動きを踏まえたアイデアを下さい。まずは、チャットワークで皆様のご質問に答えます。フィールドワークを終えて、アイデアを形にしてほしい」

 

真崎さんの課題提示を、受けてその日から、学生が一斉に動き出し、チャットワークを使ってこの後頻繁なやりとりがなされた。

 

 

学生による解決策の提案

そして、3月7日。約1か月の学生インタビューなどのフィールドワークの期間を経て、まとめられた提案の学生プレゼンが行われた。学生からは以下の提案がなされた。

 

提案1 住宅産業を紹介する動画コンテスト 早稲田大学 久保田さん

「30人の学生に聞いたところ、そもそも業界のイメージや、仕事のイメージが湧かないという声が多かった。そこで私は、業界イメージを伝える学生動画コンテストの実施を提案します。学生が動画を作る際、4人一組でチームをつくり、そのチームを10チームとします。各チームの4人がそれぞれに知人友人に動画を広める。コンテストの参加要件として、フォロワーの数をカウント。1人当たりTwitterで100名くらいのフォロワーがいるとすると、相当な数になります。この企画を単独で実行すると予算的には280万程度、組んでメリットのある企業と組んでシェアすればコストを限りなくゼロに近づけることが可能です」

 

提案2 インスタグラムを使った拡散 慶應義塾大学 和田さん

「私の提案は、住宅展示場でのアルバイトの活用です。アルバイトは学生にとってはなくてはならいものので、場合によっては学生生活の中心となっている人もいます。実際に、友人に聞いたところ、住宅展示場のアルバイトは土日にシフトに入れて、時給もよく好評でした。あなたもやらないと誘われました。そこで、話題性のあるアルバイトを活用し、インスタグラムで拡散してもらうという提案です。『変なバイト、住宅展示場のフォトモデル』として、撮ってもらった写真や、『変なバイト、住宅展示場の子供のお相手』として子供と遊んでいる姿の写真を、インスタグラムを通して、多くの友人に認知させながら、同時にiejobも知ってもらうというものです」

 

 

提案3 奨学金の活用 慶応義塾大学 沙さん

「私は中堅大学のキャリアセンターの方に話を聞いて、就活上の課題を聞きました。そうすると、キャリアセンターも就職率を上げることに腐心していて、学生のためになることであれば積極的に協力してくれるというスタンスでした。そこで考えたのが奨学金です。

奨学金は通常、返還型と給付型の2つに分かれるが、今回は転換型の奨学金を提案します。転換型とは、ご想像の通りiejobで紹介された企業に入社すれば20万円は返還不要、入社しなければ要返還となる。支給。学生は、就活に入ったからアルバイトをやめるということはほぼなく、就活の時期になると、学業と、バイトと、就活を同時に進めなければならない。このとき、1~2か月分のバイト代に相当する金額は訴求力があります」

 

真崎さんは、外部から見えない学生視点の提案に、大いに驚いたようだ。

「正直、30もアンケートが採れてくるとは思いませんでした。最近のデザインシンキングの流れでは、作り手の先入観を排除するため、顧客の行動に完全に入り込み、顧客になりきることが大切です。このとき、一次情報としてこれだけの顧客の声がとれていることは非常に重要です」

 

「1案と2案は1つにできないか考えたいと思います。3案については思いもよらない斬新な切り口でした。制度面のいろいろな制約を検討し、できるならすぐに実行したいですね」

 

 

このあと、学生のアイデアをさらに深堀するため、時がたつのも忘れて真崎さんと学生の白熱したセッションが展開された……。

そして次の日、学生に対し、真崎さんから熱いメッセージが届いた。

 

「昨日は貴重な時間をありがとうございました。

一生懸命の頑張りに最後のフィードバックをさせてください。

「企画力=実行力」

社会にでて、いや今でも実感することだと思います。

違う言い方ですと、

「コミットメントの高さ」とも言えるかもしれません。

私はコンサルティングしていて、

「圧倒的当事者意識」が伝わり、その会社の社員よりもその企画を成功させたい!という想いが、いろいろなことを変革させると思っています。

さらにいうと、相手の心が開かれていくのを感じる時があります。

そのスイッチをいれるのが、仕事でもあります。スイッチが入れば船が動き出したように進む。裏を返すと本気になれない人が多いのも会社です。最後は人の心を動かすことができたかが大事なことと思っています。

 

最後にセルフフィードバックはとても大事です。

本気でやった未成功には価値がある。

本気で過ごした時間には価値がある。

毎日毎日成長。グロースマインドセットが我々を幸せに導くと思っています。

 

おつかれさまでした。

皆様の成長をお祈りしています。(お祈りメールじゃないよ!ありがとう)

何かご縁があればまた、どこかで!」

 

真崎さんのコンサルタントとしての知見を随所で学生に披露いただき、学生にとっても大いに勉強になるプロジェクトとなった。

 

iejob