去る6月21日、都内において第一勧業信用組合と文教大学の提携協力に関する調印式が執り行われた。

この式典の中で第一勧業信用組合の新田理事長から「(文教大学と)第一勧業信用組合の考えは一致している。提携することによって今まで以上に色々なことができるのではないか」と、両者の将来の可能性について意欲的な発言があった。

果たして、教育機関と金融機関の考えるところが一致しているとはどういうことなのか。

そしてこの異色の組み合わせによって何が生まれようとしているのか。

その意図について文教大学学長の近藤研至氏にお話を伺った。

 

文教大学の精神は〝人間愛〟

文教大学は埼玉県越谷市に越谷キャンパス、神奈川県茅ヶ崎市に湘南キャンパスという2つのキャンパスを持ち、総生徒数1万人弱を誇る。

「ですが、そもそもの発祥は学校法人文教大学学園があるこの東京都品川区旗の台。このように学びの場が散在していることが、実は第一勧業信用組合との提携に大きく関係しています」と近藤研至文教大学学長は話す。

1927(昭和2)年に設立された立正幼稚園・立正裁縫学校が、翌28年に女子教育の推進を目指して財団法人立正学園を開学したのが、現在の文教大学の前身だ。当初は家政教育を中心としていた財団法人立正学園だったが、その後高等女学校を設置(現在の文教大学附属中学校・文教大学附属高等学校)、更に1945(昭和20)年には立正学園家政理学専門学校を開設し、拡大していった。

この成長の流れは戦後も続き、1953(昭和28)年に女子短期大学、そして1966年(昭和41)年には4年制女子大学を埼玉県越谷市に開学するに至る(現在の文教大学越谷キャンパス)。

 

「戦後の経済成長とベビーブームの流れに乗って、順調に規模を拡大していった。勿論そこには本校の教育方針と教師・学生に対して、周囲から高い評価を得られていたということも挙げられます。

本校建学の精神である『人間愛』。それを汎く伝えるために、新たに総合大学文教大学として生まれ変わったのが、1976年(昭和51)年。翌1977(昭和52)年に男女共学に踏み切りました」

 

1985(昭和60)年には神奈川県茅ヶ崎市に湘南キャンパスも設けられ、大学施設も充実している。

確固たるブランドと名門としての誇り。21世紀に入りどの大学も少子化の問題に直面し、受験生の募集に汲々としている中でも、文教大学は常に一定規模の、高い志願者数があるという。

そんな文教大学だったが近年、1つの問題に頭を悩ませていた。

 

〝2つのキャンパスで各々違う大学のようになっている〟

文教大学学長 近藤研至氏

「越谷キャンパスと湘南キャンパスに分かれて30年以上になります。2つのキャンパスは日常的には人的な交流がほとんどなく、教員も学生も互いに顔を合わせることもない」

近藤学長はそう嘆く。近藤学長も元は文教大学で学んでいた卒業生で、自身が卒業した直後に湘南キャンパスができたのだという。いわば、文教大学が1つしかなかった頃のことを知っている最後の世代ということになる。

 

「2つのキャンパスの間では行き来するのに、電車を乗り継いで片道2時間30分以上もかかってしまいます。それだけ離れてしまうと、両校はもはや別なものと思えるくらい。各々カルチャーも違うし、学生のメンタルも、教育環境も違うものになってしまっている」

 

1970年代、学生運動が活発だった時期の前後に、都心の大学が郊外に移転するブームが起こった。

山手線内に旧来のキャンパスを構えていた各大学が、学生の増加や需要の拡大に応えるべく、東京近郊に大規模キャンパスを新たに設置したのだ。そのメッカになったのが東京都八王子市近郊で、中央大学・拓殖大学・都立大学・大妻女子大学などが次々と移転し、現在も市内を中心に20校以上の大学が点在する「大学銀座」だ。

同様に埼玉・神奈川・千葉などの近郊各所にも大学キャンパスが散在するようになったが、そうなると実際に通う学生たちの生活も様変わりするようになる。

地方から東京に出てきた大学1年生が、憧れの東京生活を満喫しようと意気揚々と大学に来ると、そこは自身の出身地と同じような田園風景の中だったという笑い話もある。

新宿・渋谷に遊びに行こうにも電車に揺られて1時間以上、終電も早い、となると学生にとっては同じ東京の大学でも魅力的には感じられなくなってしまう。

こうして郊外型の大学の人気は減り、やはり古くから都心に広いキャンパスを持つ名門大学に人気が集中するようになった。

現在では都心の大学が手狭になったキャンパスを活用すべく、高層化をするのが流行だ。法政大学のボアソアードタワー(00年完成)や明治大学のリバティタワー(98年完成)などが有名だろう。

各大学がそのように経営に苦心する中で、文教大学も新たな方策を打ち出した。

 

「東京あだちキャンパス」の新設と第一勧業信用組合との提携

「現在、2021年の開設を目指して東京都足立区に新しく『東京あだちキャンパス』を計画しています。

実はこの新キャンパスを作るにあたって、改めて大学を1つのものとして捉えなおそう、と考えているのです。もう一度建学の精神に立ち返り、『文教大学らしさってなんだろう?』と。2つのキャンパスに分かれてから30年以上。もう一度大学の姿を考え直す時期だったのだと思います」

 

近藤学長がそう話すように、新キャンパスを開設するにあたって越谷・湘南の両キャンパスからスタッフを集めて、話し合う機会が増えてきたのだが、その中で双方からアイデアを出してもらうと、2つに分かれている弊害が如実に現れてきた。

「2つとも日々の事務で手一杯。新しいキャンパスを作るというのは、校舎が出来たらそこに移ればいいというものではないと思います。

学校が移り住むということは、人が動き経済も動く。元々住んでいらっしゃる方々との交流も生まれる。

だから『良き市民』として受け入れてもらえるようにしなければならない。足がかり地がかりをしっかりと整えてから移っていかなければならない」

新キャンパスには現在湘南キャンパスにある国際学部と経営学部が入る。教員・学生合わせると2000人以上もの人が移ってくる予定だ。

 

開設が3年後に迫っているのに、解決しなければならない問題が山積みであった。

近藤学長が頭を悩ませていた時に舞い込んできたのが、第一勧業信用組合との提携の話だった。

第一勧業信用組合は「地域とのふれあいを大切に」を掲げ、地方創生・創業支援を謳っている。メガバンクでは出来ないきめ細かいサービスが魅力だ。

「そういう思いがある会社だったので、私たちの持っていないノウハウを持っているのではないか、と思ったのです」

 

今回の提携では「地域社会及び産業界の発展のための共同支援事業」「民間企業等との共同調査・研究、受託研究」「民間企業等へのソリューション提供」などが協力内容に挙げられている。

地域と学校、産と学が有機的に結合し、新しいイノベーションを生み出す。

その間に第一勧業信用組合が立つことが期待されているのだ。

 

〝学生が大学に求めることは大きく変わってきている〟

「新キャンパスがきっかけで第一勧業信用組合と提携したのですが、今後の可能性はもっと広がっている」と近藤学長は話す。

「今、私立大学が注目し課題としているのは『今の大学生が大学に求めることは、以前とは大きく様変わりしている』ということです」

例えば、と近藤学長は続ける。以前なら学生たちは時間が許す限り大学のキャンパスに身を置き日々を過ごしていた。勉強をするのもそうだし、友人と会うのも大学の中。いわば「フルタイム」の学生だった。

しかし今の学生は「パートタイム」。大学にいるのは平均して1日6時間ほど。それ以外はアルバイトをしていたり家にいたりしている。SNSがあればいつでも友人とコミニュケーションはとれるし、図書館に行かなくてもネットがあれば勉強の事は足りる。

 

「だから大学では『必要なことだけを学びたい』。ムダな勉強をさせられて時間を費やしたくない。では、今の学生が大学に求めているモノとは何か。それは大学でしか得られない『体験』です」

 

既に文教大学ではそういった体験重視の授業に取り組んできたという。

企業へのインターンシップや、海外への留学。教育学部では教育現場に入り実際に助手として授業に参加する、といった活動をしているという。

 

「こういった活動に対する学生たちの反応は好評です。満足度も非常に高い。今後もこの活動を更に推進していくために第一勧業信用組合と密接な繋がりを持っていきたいと考えています」

第一勧業信用組合理事長 新田信行氏

特に注目しているのは、第一勧業信用組合と関係がある企業の活動への学生の参加だ。

インターンシップで学生が様々な職場で業務を体験することは元より、現在進行形で地域創生に立ち向かっている現場にも学生が赴く。

「是非学生たちに現場を見てもらいたい」と第一勧業信用組合の新田理事長も話しているという。

「学生がインターンで職場を選ぶ、というのも良いと思います。しかし、もっと大事なのはそこで学んだことが他の職場でも活きることがあるということです。一般企業の仕事を体験したことが公務員になって市役所に就職した後に活きる、ということもあると思います。インターン先に就職するかどうかではなく、自分の道の可能性を更に広げてあげられる。

それが今回の提携で得られる大きなポイントですし、また今後大学という教育機関に求められる役割だとも思うのです」

 

第一勧業信用組合の新田理事長からも「学生がやりたいと言うことをドンドン言ってきてほしい」と言われているそうだ。

 

学生が自らチャンスを掴める環境を用意できる大学。文教大学が目指すその姿に、今回の提携は大きな弾みになる、と近藤学長は考えている。

 

大学の価値は〝学生をどれだけ成長させられるか〟

大学が評価される点は「どこに就職させたか」ではなく「どういうキャリア形成をさせたか」ではないだろうか、と近藤学長は言う。

「例えば小学校の先生になりたいと思って入学してきた学生が、4年間様々な体験をし、学んだ結果『自分がどのようなことで社会に貢献していくことができるのか』と考えられる人になって巣立っていく。そういう『育ての文教大学』ということをこれからも強く示していきたい」

 

自分がどうやって生きていけばいいのか、という輪郭を作ってあげられる大学。それが第一勧業信用組合との提携によってより学生たちに提供できる、と近藤学長は今後の展望について話す。

 

文教大学には医学薬学系、理工系などのいわゆる理系学部はなく、さらに法学・経済学などの文系学部もない。どちらかというと、広く言えば人間の日常的な営みを基盤とした学部を持っている。

しかし人間科学部は日本の私立大学初、情報学部は全国初という歴史を持つ。

 

「今、各所で声高にダイバーシティが叫ばれています。しかし、それは人種や性別などの多様性だけでしょうか。様々な能力や経験、学んできたことなどを持った人々が混ざり合って新しい可能性を生み出すこと。それが『人間愛』という本学の精神とも呼応する本当のダイバーシティだと思います」

 

少子化や長引く不況で、大学経営には厳しい時代になっている。

しかしそんな中、文教大学は「生きること」「学ぶこと」に対する真摯な姿勢で向き合っている。

 

「語り合おう」。文教大学のパンフレットに掲げられている言葉には、性急にアンサーを求めようとしている社会やそこに暮らす人々に対して、その姿勢こそが正解への近道である、と問いかけている。

 

文教大学

学長:近藤研至

旗の台校舎:〒142-0064東京都品川区旗の台3-2-17

TEL:03-3783-5511

 

越谷キャンパス:

〒343-8511埼玉県越谷市南荻島3337

TEL:048-974-8811

 

湘南キャンパス:

〒253-8550神奈川県茅ヶ崎市行谷1100

TEL:0467-53-2111

URL:http://www.bunkyo.ac.jp/