◆文:小木曽正人 (公認会計士・税理士 小木曽公認会計士事務所)

 

実務においては「純資産」が基準に

親族外事業承継では、オーナーが保有していた株式を別の企業に譲渡することで承継を完了することとなります。親族外事業承継を検討するにあたって、オーナーが最も知りたいのが、「うちの会社はいくらで売れるのか」ということだと思います。

売買価格がどのように決まるのかは一概にこれっといった方法はなく、会社の財務状況や利益水準、技術や保有顧客など様々な要素を加味して決定されます。また、買いたいという候補先がどれだけいるのかによっても最終的な価格は変わることとなります。

 

しかしながら、後継者不在における親族外事業承継においては、その企業の「実態純資産(帳簿の純資産ではなく、時価情報を反映したり、資産性の有無を反映させた後の純資産)」を基準に決まることが実務上は多いと思われます。

これは、大手仲介会社が事業承継型のM&Aにおける買い手と売り手の合意できる価格を実態純資産+利益の数年分という計算に当てはめることで売買を成立されてきた慣習によるものと思われます

また、日本人には企業の本来的な価値である将来のキャッシュフローの獲得能力(現金を獲得できる能力)で評価することがまだまだ一般的ではなく、目の前の資産がどの程度あるのかで判断したほうがわかりやすいというのも要因と思われます。

 

このようなことからも、後継者不在で将来的に親族外の事業承継を考えているオーナーは、帳簿上の純資産ではなく、適正な財務諸表を意味する「実態純資産」がどの程度あるのかを知っておく必要があります。また、一定以上の利益を計上し続け、この実態純資産を向上させていくことが最終的に少しでも売買価格を上昇させる一要素となることも覚えておく必要があります。

その観点からも、個人の経費と会社の経費の混同等を日ごろから是正しておくことも重要となります。

 

株式価値と企業価値

親族外事業承継の場合、株式を別の会社へ譲渡することで承継を完了させることとなります。その時の譲渡対象となる「株式」がいくらなのか、というのが簡単にいうと「株式価値」となります。オーナーが実際株式を譲渡した場合に現金化できることができる目安がこの「株式価値」に該当すると考えていただいてよいと思います。

一方、株式を譲り受ける側の会社は、単にオーナーに支払う株式の譲渡対価のみで投資を考えていません。会社がその時点まで負担している借入金や社債などの有利子負債は、株式を譲り受けたのち、譲受側の会社が間接的に支払っていくこととなります。

 

そのため、投資側である譲受側の会社は、この有利子負債と株式の譲渡対価を合わせて、投資回収ができるかどうかを判断することとなります。したがって、有利子負債が多額にある場合には、株式はゼロ(実際には一株1円)で譲渡する代わりに、有利子負債を全額引き取ってもらい、オーナーが負っていた連帯保証を解消してもらうといった形で承継を行うこともあり得ます。

 

このように、親族外事業承継を考える場合には、単に保有する株式の価値である「株式価値」だけでなく、有利子負債を加味した「企業価値」がどの程度になるのかを、オーナー自身が知っておくことが必要となります。

 

小木曽正人 プロフィール

昭和50年5月11日生まれ(42歳)

平成11年10月に当時の公認会計士2次試験に合格。その後、大手監査法人に就職し、平成16年からは東京・名古屋とM&A、事業承継、株価評価、再生といった特殊案件のみを扱う部署(ファイナンシャルアドバイザリー)にて大手企業を中心にM&A等のアドバイスやサポートを実施

平成24年12月に小木曽公認会計士事務所を設立。株価評価、M&A、事業承継を中心に業務を実施

この他、東証1部上場企業や株式公開を目指している企業の社外役員を兼務

【書籍】

平成28年10月に清文社より「事業承継・相続対策に役立つ 家族信託の活用事例」を、公証人・弁護士・司法書士の共著により出版

小木曽公認会計士事務所

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