株式会社M&Aクラウドは、売り手がコストゼロで、買いたい企業候補の中から任意の買い手に会社の売却提案ができるという、エッジの立ったM&Aマッチングサービスを展開している。ベンチャー企業が事業を売却をしようと思ったとき、買い手企業がどこにいて、どこが窓口なのかわからないという悩みを解決するため及川厚博氏はこの事業を立ち上げたという。そもそも、このようなサービスを求めているベンチャー企業を取り巻く環境は、今どうなっているのか?自らシリアルアントレプレナーでもある及川氏に伺った。

 

会社を成長させ売却した資金で、次のベンチャーを育てるというトレンドが生まれつつある

 

けたたましい金属音が響きわたり、100年に一度という大開発が行われる渋谷。従来のメガITベンチャーの集積に加え、今新たに延べ床面積68万㎡の賃貸スペースが誕生しようとしている。Google日本法人の渋谷回帰も決まり、IT企業の集積度がさらに高まると見込まれる。こうした動きの象徴として行われた、今年9月のビットバレー再稼働イベントBIT VALLEY 2018は、18年前の熱気を思い起こさせた。しかし、以前の盛り上がりは世界的なITバブルの勢いに乗り、同時にファッションのようでもあった。外から見ていると、あっという間に風船がしぼむようにシュリンクしたかに見えた。しかし、現地の実態は大きく違っている。淘汰の後、本物だけが残り、結果的にIT産業の厚みが増してきている。今や広域渋谷ともいえる六本木、五反田までも含む、東京西南エリアには数多くのITベンチャーが育ってきて、勢いは増している。

 

こういった動きの中で、最近のベンチャー起業家の意識はどうなっているのか?ここで、学生時代から教育系SNSや、医療専門家情報サイト企業などを立ち上げ、売却してきた経験を持ち、シリアルアントレプレナーとしても実績を残している及川氏に質問を振ってみた。

 

「先人たちに聞くと、以前のITベンチャーブームでは、何がなんでもIPOという単線的な意識が強かったといいます。IPOして億万長者になり30歳で引退するみたいな。でも最近は、IPOももちろん選択肢にありますが、途中段階での売却も活発に行われています。というのは、IPO自体が年間でそう多くはないし、途中で売却して、資金をつくり、その資金で自らエンジェル投資家となって、次の投資に向かっていくほうが、むしろカッコいいという意識があります。そのほうが社会的価値が高いという認識ですね」

 

ピーター・ティールなどの、シリアルアントレプレナーも憧れの対象にはなっているようだが、日本でも身近に、家入一真氏やエニペイの木村氏、オザーンの愛称を持つ小澤隆生氏といった、手本となるシリアルアントレプレナーも少なからずいる。こういったロールモデルが近くに存在していることの影響も大きいと及川氏は指摘する。

 

スタートアップには人的ネットワーク、特に投資家が集まるコミュニティが必要だ。米国シリコンバレーでは、Y Combinator(ワイ コンビネータ)や500 Startupsなどの企業がスタートアップのコミュニティ活動を積極的に展開しているが、日本ではベンチャー・キャピタルがその役割を担っているという。

 

スカイランドベンチャーズ、B Dash Camp、Infinity Venture Partnersといったベンチャー・キャピタルが、ピッチ大会を繰り返しながら、コミュニティを拡大している。そんなコミュニティに若手起業家たちはどんどん吸い込まれていく。数年前は学生の起業家サークルも活動していたが、今では活発ではないようだ。なぜなら、学生起業家たちも、ビジネスコンテストに出て数十万の賞金を獲ることをしなくても、シリアルアントレプレナーたちのエンジェルの資金が集まるようになってきているからだ。つまり、日本でも分厚いベンチャーエコシステムとはまだ言い難いが、起業のノウハウの蓄積と、伝達、資金供給の循環が行われてきている。

 

巷にまだ出てこない、ベンチャー活動の実態

 

さて、シード期のスタートアップ企業はアイデアや技術の斬新さを武器に資金調達に活発に動く。彼らは、最初は露出機会が増えるが、資金調達に成功すると、コミュニティの表舞台からはいったん消える。こういった企業も実際には少なからず存在するし、先述のシリアルアントレプレナーたちの支援を受けるなど、資金調達に成功したため、もともとコミュニティ活動自体に参加しなかったベンチャーも多い。そういった企業たちが、シリーズA(プロトタイプのマーケティングを開始段階)を越え、シリーズB(事業の拡大段階)、シリーズC(事業の加速化段階)に移行するなど、実績を積み上げそれぞれに成長している。

 

「今の若手起業家の特性を大きく分けると、20代と30代に分かれます。20代は若者の感性が生かせるBtoCのビジネスモデルがどうしても多くなります。一方、30代は大企業やコンサル、投資銀行などでの実務を通して、実際の業務に精通したビジネスを展開していますね。例えば、AIによる物流システムのイノベーションといったものです」

 

30代は、企業において現実的な課題に直面するので、その課題に対しての認識が鮮明にある。その意識を、企業の中では様々な理由で実現できないので、スピンオフするといったケーズも多い。また、コンサルであれば、企業戦略やファイナンスに直接かかわっていて、実務能力も高いので起業へのハードルも低く、成果を出すこともできる。

 

数年間実績を積み上げ、シリーズCの展開が見えるようになった企業は、当然の結果としてバリエーションが高評価となる。実際に買手に人気が高いのはこういった企業だ。

 

このように日本においてもシーズからシリーズCまで様々な段階での起業家の活動の層の幅が出来つつある。したがって、中間的なバイアウトのチャンスも確実に増えてきているというわけだ。1999~2001年のネットバブルの黎明期を乗り越え、ベンチャーエコシステムは着実に形成されつつあると言えよう。これがさらに、M&Aの支援インフラが形成されることによって、中間地点でのキャッシュインと、次への投資に向かう日本のベンチャーも活性化していくだろうというのが及川氏の見立てだ。

 

 

M&Aが今後活性化するために何が課題か?

 

そういったM&Aではあるが、今後のさらなる活性化のためにはまだ課題がいくつもある。

まずは、売り手の課題だ。及川氏自身の企業売却の際にも直面し、苦しんだ経験があるという。

 

「IT企業の場合、よくあるのがM&Aアドバイザーに相談しても、ITに詳しくないので、バリエーションがかなり低くなってしまうということですね。その点、買収経験が一定程度あるIT企業であれば、技術的なことも含めて正しく評価してもらえます」

そこで、正しく評価してくれる企業にアプローチがしたいとういうことになるわけだが、買って欲しい企業にアプローチしようと思っても、なかなか方法がないということも多い。

 

「企業のM&A窓口は表に出てこないのでわからないし、総合窓口の問い合わせフォームからメールしても、投資部門になかなか上手くつながらない場合も多いのです。そこで、今や上場ベンチャー企業社長のTwitterアカウントに『会社買ってください』と直接投稿して、それがきっかけで買収が行われるケースも出てきています」

やむを得ずということかもしれないが、情報管理の面で問題があることはわかっている。全く関係の第三者にも情報が漏れ、不要な憶測を呼ぶリスクも大きい。しかし、それほどに売り手は、買い手候補にどうやってアプローチしていいか分からないという深刻な課題があるようだ。

「でも、この状況というのはなるべくしてこうなっていて、リクナビが出る前は人事担当者にどうアプローチすればいいか分からなかったと言うのと同じですね」と及川氏は指摘する。

 

一方、買い手も課題を抱えている。オープンイノベーションが活発になってきて、外部からの提携先を募集し、選考プロセスを経て、資本提携や業務提携の先を選択していく。買い手は売り手を探しているが、自社主催でピッチ大会を企画するにしては、運営コストがかかりすぎる。また、その時に時期や、1回あたりの社数が制限されるということもある。

 

もちろん上場企業であれば、IR資料の中の決算説明会資料や、中期経営計画などで公表したりする。M&Aを積極的にやって行きますよという意思を表明してはいるが、IRでは具体的な条件までは出せない。

「M&Aに慣れている買い手企業にとっては、M&A業者や、銀行・証券会社、ベンチャー・キャピタル、PE(プライベートエクイティ)ファンドの入りかたによっては、買収コストが上がったりするので、できるだけ直接見つけたい。また、今すぐというよりも、よい案件があれば買収するということで窓口だけ設置しておきたいということもある」

 

売り側も買い側もそれぞれに課題を抱えていると及川氏は指摘する。

 

M&Aクラウドが取り組むイノベーション、手数料無料で会社や事業を売却可能に

 

そこで、こういった課題を一気に解決するために、世に送り出したビジネスモデルがM&Aクラウドなのだ。

 

「先ほど申し上げた人材ポータルサイトの必要性と同じなので、今回買い手の顔が見える、マッチングサービスを作るのがもっとも効果的だという結論にいたりました。企業が求人窓口を作るようにM&Aにも買収窓口をということですね」

 

同社のサービスを使えば、買収オファーページの作成 、ポータルサイトへの掲載、買取条件を開示することができる。これによって、売り手企業は、候補先の窓口や、条件が明確にわかり、無駄のない買い手探しが実現できる。また、不特定多数に売りたい情報が拡散することを防ぐこともできます」

 

しかも、売り手企業は無料だ。通常のM&A仲介であると、当事者同士が勝手に結びついてしまう中抜きのリスクがあるので、契約しなければ買い手企業は教えてもらえない。売り手企業は、アドバイザリー契約書を結ぶ段階で、着手金と、専属契約(勝手に買い手を探したらダメ)を約束する。着手金は、紹介できなくても返金はない。成功報酬は売買対価の5% 、最低報酬300~2000万円と高額になる。

 

この点、M&Aクラウドのサービスであれば、①顔が見える相手の買収条件から気になる買い手との相性を調べることができ ②相性が良いと思った買い手企業に売り手自ら売却を打診 でき③チャットで当事者同士で交渉ができる ④そして、成約後、双方からM&Aクラウドに報告というフローになる。このため、売り手は無料で、買い手も低いコストで効率的に相手を見つけることができる。

 

M&Aクラウドの利用者の特長は、現状は売り、買いともにIT企業が多いようだ。が、今後は多様な業種の登録も増えつつある。また、基本は売り側は無料だが、ファイナンシャルアドバイザーを紹介してほしいというニーズがあれば紹介している。(今はほとんどそういったニーズはない)。

 

M&Aによるバイアウトのあるべき姿と今後の展望

 

及川氏自身は、自ら体験もし、シリアルアントレプレナーを見ていく中で、自身が起業した企業とのかかわり方を考察するなか、バイアウトした後も、経営が完全にうまくいくように、事業をフォローする立場で、何らかの形で会社に残ることが好ましいという。

 

買収した側も売却した側も、事後の事業の成長は共通の利害である。経営層が変われば、新旧経営層の間で文化が異なるために当然に社内の不要な調整コストが発生する。

 

最後に、シリアルアントレプレナー及川氏に、この事業も売却するのかと聞いたところ、今回はIPOを実現し、M&Aの慣習を変えるまでやるとのこと。M&Aの市場を活性化していく主要なプレイヤーの一人として、腰を据えて日本のM&Aの世界を変える意気込みを感じた。

 

 

<プロフィール>

及川 厚博(おいかわ・あつひろ)

株式会社M&Aクラウド 代表取締役CEO

1989年生まれ 札幌出身 / 東洋大学 経済学部卒

東洋大学在学中、教育系SNSを運営するMacropusを立ち上げる。その後facebookページの作成事業、インドネシアを中心としたオフショア受託開発事業を展開し、4年で経常利益数千万円まで成長させ、2016年に同業他社にバイアウト。医師監修の予防医療メディアDr.Noteの立ち上げ、顧問派遣会社ヴィプラスのスモールバイアウト。日商簿記検定1級保有。M&Aクラウドではアドバイザリーとしてメディア事業のM&Aを成約させる。

 

<会社情報>

会社名    株式会社M&Aクラウド

所在地    〒141-0031 東京都品川区西五反田8-2-2喜助西五反田ビル6F MAP

資本金    8,800万円 (資本準備金を含む)

お問い合わせ先 info@macloud.jp