プリント現代に息づく国定忠治の心意気『仁義を重んじ、弱きを助ける』赤城山南麓の信用組合

あかぎ信用組合/理事長 小林正弘氏

◆取材:綿祓幹夫

オビ 特集

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群馬県前橋市に本店を構えるあかぎ信用組合は今年に入り、さまざまな経営改革に乗り出している。

その立て役者は2016年4月に同組の理事長に就任したばかりの小林正弘氏だ。

侠客・国定忠治の心意気が息づく地域で、地域経済の活性化に尽力する同氏に、現在の取り組みとこれからの抱負をうかがった。

 

 

庶民間の相互扶助がルーツ

群馬県の県庁所在地・前橋市に本店を構えるあかぎ信用組合。同信組の前身は1954年に伊勢崎市に誕生した東毛信用組合である。

1994年、前橋市の群馬信用組合と合併したのを機に現在の名称となった。

「あかぎ」とは、上州の侠客・国定忠治の名台詞「赤城の山も今宵限り」で有名なあの赤城山のことだ。群馬県の中央に位置する赤城山の南麓が同信組の営業エリアであることから、その名がつけられた。

 

「地元では国定忠治の人気は高く、このあたりの出身者は任侠気質とよく言われます」

 

そう話すのは今年4月に同信組の理事長に就任した小林正弘氏だ。

戦後間もなくの頃、この地域の土木建築業者や不動産業者は任侠とのつながりが世間的なイメージとしてあり、銀行や信用金庫から取引を拒まれることがあったという。

また、戦争で疲弊した経済を復興させるべく、全国的に大企業優先の金融が行われており、伊勢崎市周辺の中小零細企業も他県と同様に資金難に苦しんでいた。

そうした問題を解決するために誕生したのが東毛信組であった。

 

「当時は日掛け箱という木箱を商店街などに置き、それを私たちが日掛け集金という形で毎日訪問して集金していました。

そうして集めたお金を各商店や事業所の毎月の支払いにまわしたり、残ったものを預金してもらったり、あるいは困っている人に貸したり、本当にシンプルな地元のための金融機関として当組合はスタートしました。

昔でいうところの無尽のような、庶民間の相互扶助の金融機関が私たちのルーツなのです」

 

 

衰退するものづくり産業

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絹織物の産地として有名な赤城山麓。伊勢崎営業部店内の壁には絹が使われている。

古くから絹織物の生産が盛んな伊勢崎市では、「銘仙」と呼ばれる伊勢崎絣が全国的に有名だ。

また、市内には近代養蚕農家建築の原点とされる田島弥平旧宅があり、2013年には富岡製糸場とともに世界遺産に認定されている。

 

いっぽう、伊勢崎市に隣接する太田市には戦前、東洋最大の飛行機会社として戦闘機の製造を手がけた中島飛行機株式会社があった。

戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)から解体命令を受け、その結果、誕生したのが自動車メーカーの富士重工業株式会社である。

 

こうした歴史的背景を持つ伊勢崎市周辺地区はものづくりが盛んな地域といえる。

しかし、同氏は次のように話す。

 

「絹織物産業や養蚕産業が栄華を極めたのは1960年代までです。それ以降は衣服の洋装化など日本人の生活様式が変遷したこともあり、衰退の一途をたどっています。

自動車関連の製造業は下請け業者でもまだまだ元気はありますが、そのほかの製造業となると大手企業に集約され、廃業を余儀なくされた事業所がたくさんあります。

生き残っていても二次下請け、三次下請けでなかなか儲けることができないのが現状です」

 

 

信組の本業とは何か

地域に根ざした金融機関である信組は、地域経済の影響を直接的に受ける。

同信組にとって冬の時代ともいうべき厳しい状況が続く中、新たに理事長に就任した同氏は「経営スタイルを本業に戻すこと」を目標として掲げている。

 

「当組合もこの地域も1970年前後からバブルが弾けるまではずっと上り調子でした。

好景気が続く中で地銀や信金に追いつこうという風潮が醸成され、バブルが崩壊し経営が傾いても『なんとかなるだろう』という雰囲気のまま、銀行の真似事を続けていました。

その結果、有価証券の運用に重点を置くようになったのです。

しかし我々の本業は、組合員の方々から預かったお金を非営利法人として地域の困っている人や融資を望む企業に貸出をする預貸業務です。

有価証券の運用で利益を上げているだけでは地元の協同組織金融機関としての存在意義は薄れてしまいます」

 

同氏が有価証券の運用に懐疑的なのは、もうひとつ、同氏なりの思いがある。

 

「自分たちが信頼した人にお金を貸して焦げ付いたならば、それはその人を見誤った私たちの責任です。

でも、有価証券は世間の相場で右往左往して、どこにどんな落とし穴があるのかも分かりません。

責任の所在がはっきりとしない有価証券の運用に経営を頼るようなことはしたくないんです」

 

 

原点回帰

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伊勢崎営業部外観

同氏いわく、銀行に追いつけ追い越せだった時代の同信組では来店者を集めることに躍起になっていたという。

しかし、同信組のルーツは日掛け集金だ。毎日、組合員のもとを訪れ、顔と顔を突き合わせることで信頼関係を築き、それが同信組の存在意義となっていた。

 

「私が理事長に就任してからは来店者を呼ぶことよりも、とにかく我々が外に出て、我々のほうからお客さんに会いに行くように、すべての職員に口を酸っぱくして言っています。

たとえ、地銀や信金が相手にしないような小さな取引先であっても、お客さんの気持ちになりながら経営上の悩みや課題をていねいにヒアリングし、フェイス・トゥ・フェイスのお付き合いをする。

そうやって本当のニーズを掴み、そのニーズに応えることが我々の存在意義だと思っています」

 

 

小口多数主義の経営

昔ながらの顔と顔を突き合わせた営業スタイルを推進する同氏は外部の専門家や他機関との連携も積極的に行っている。

その取り組みの1つが12月からのスタートを予定している群馬県内の大学との産学連携だ。

 

「世の中には素晴らしい技術を持っていても、それをどう商品につなげていけばいいのか分からない事業所や起業家がたくさんいます。

そうした世の中に埋もれている知的財産をより多く掘り起こし、商品として発信できる場をつくっていきたいと思っています。

産学連携に我々が加わる意義は資金調達面でのサポートのほか、取引先である中小企業と大学とのパイプをより太くし、地域経済の活性を促すことだと考えています。

実は、この産学連携はある弁護士さんとの出会いがきっかけで始まりました。

資金繰りに苦しむ経営者が弁護士に相談をしても破産を勧められることがほとんどです。しかし、その方はどうすればその事業所が再生できるかを親身になって考える、そんな弁護士さんでした。

地域経済の末端を支えるという我々の理念とも通底するものがあり、業務提携を結ぶこととなりました。

こうした外部の専門家たちとの連携も当組合は積極的に行っています」

 

同信組におけるこれらの取り組みは業績にも表れ始めている。

預金残高に対する貸出残高の比率を表す預貸率は、年初で50%だったものが9月の時点で55%まで増加、本業である融資が増えている証である。

また、昨年まで11%近くあった不良債券比率も現在は5%台まで減少しているそうだ。

 

「5000万円以下の小口の貸出件数は全体の45%を占めています。信用組合の本質は小口多数主義です。

さまざまな分野でグローバル化が進む現代ですが、我々はこの地域に根ざし、この地域で生きています。

ですから、地域経済の活性化は我々の使命であり、それを実現するためには幅広い業種の中小零細企業を積極的にサポートすることが大切だと思っています。

将来的な展望として、預貸率を70%くらいにし、本業である預貸業務だけでやっていける体制を整えることができればと考えています」

 

 

若手経営者とともに

同信組が進める連携協力の一環として、去る8月23日、同信組は東京新宿に本店を構える第一勧業信用組合と地方連携の協定を締結させた。

今年から日本各地の信組と連携強化を図る第一勧業信組にとって、これが10番目の地方連携協定となる。

 

「昨年9月にはさっそく第一勧信さんの店舗で開催された物産展にこんにゃくなどの地元産品を出展しました。

我々の地域の製造業については疲弊というよりも、伸び悩んでいると言ったほうが正確な表現だと思います。

こんにゃくにしろ、銘仙にしろ、この地域にも素晴らしい産品はたくさんあるので、第一勧信さんとの連携が伸び悩みを解消する糸口になってくれたらと期待しています」

 

そして、同氏がもう1つ期待を寄せているのが、同信組主宰の若手経営者による組織「健山会」である。

もともとは組合員同士の親睦や異業種交流を目的に設立された「あかぎクラブ」の若手の部として立ち上げられたのが「健山会」であった。

同氏は営業部長だった2000年にこの会のテコ入れを図り、販路拡大のためのビジネスマッチングや勉強会を主たる目的とした会として再スタートさせたのであった。

 

「本当に勉強をしたい、本当に何かをしたい、そんな思いを持った若手経営者が集まり、今は活気に満ちています。

再スタート時は35名ほどの会員数でしたが、現在では270名ほどになりました。

この会をきっかけにした融資も増えていて、これからも若い人たちとしっかり手を組んで、協力を惜しまずやっていきたいと思っています」

 

 

仁義を重んじ、弱きを助けた侠客・国定忠治には天保の大飢饉の際、私財を投じて民衆を救ったエピソードがある。

忠治が庶民のヒーローと言われるゆえんである。

同氏が進める改革の真価が現れるのはまだ先のことだ。しかし、信頼関係を大切にしながら、ほかの金融機関が相手にしない中小零細企業を支援する。

そんな同氏の話を聞いていると、忠治の心意気が現代にも息づいているような気がして、否が応でも同信組の将来を期待したくなるのである。

 

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遠くに望む赤城山

 

 

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◉プロフィール

小林正弘(こばやし・まさひろ)氏…1953年、群馬県伊勢崎市生まれ。地元の農業高校を卒業後、東毛信用組合(現・あかぎ信用組合)に入組。本店営業部長などを経て、2016年4月に同信組の理事長に就任し、現在に至る。

 

◉あかぎ信用組合(本部)

〒372-0043 群馬県伊勢崎市緑町5-5

TEL 0270-24-1002

http://www.skibank.co.jp/akagi/ 

 

 

 

◆2017年1月号の記事より◆

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