◆取材:加藤俊 /撮影:寺尾公郊

写真左から 後藤俊夫 /池田祥護 /藤村雄志

【鼎談】日本青年会議所 会頭 池田祥護× 100年経営研究機構 代表理事 後藤俊夫× 専務理事 事務局長 藤村雄志

中小企業の若手経営者や将来の経営者の集まりである日本青年会議所。その2018年度会頭を務める学校法人新潟総合学院理事長の池田祥護さんは、自らもファミリービジネスの後継者である。

池田会頭と100年経営研究機構代表理事の後藤俊夫さんと専務理事の藤村雄志さんが、ファミリービジネスの現在と未来について語り合う。前編はこちら

 

全国695の会員会議所、3万5千人を擁する一大組織

後藤 今日はどうもありがとうございます。青年会議所(以下、JC)の活動は、知られているようで知られていないところがありますので、そこをお話しいただけますか。

 

池田 JCは創始に「日本の再建は、我々青年の仕事である」と掲げており、愚直にこの社会への貢献を考え、実現を目指す団体です。戦後の荒廃した社会において、1949年の戦後間もない頃に、当時の若手経営者達が、日本の国際社会への復帰と経済再生・復権を目指して立ち上げました。実は、戦後初めて国際認定された日本の団体でもあります。

昨今「地方創生」が言われていますが、もともと「自分たちが住む地域をどうやってよくするか」「地域を活性化せねばならない」という強い使命感が根付いており、自分たちの会社をしっかり経営するのはもちろん、地域はもちろん、国のことや国際社会における日本の立ち位置などさまざまな問題をしっかり認識しながら活動を進めています。

 

藤村 テーマはどのように決めるのでしょうか。

 

池田 その年によって異なる社会問題に単年度制で取り組んでいます。単年度の中で役職を通じ、利害関係のない人間同士が組織を作って運動に取り組むわけですから、毎年創業するようなものです。議案づくりのトレーニングをする場でもあり、脈々と続いています。

 

藤村 いまはどのような組織構造になっているのですか。

 

池田 全国各地、あらゆるところに695の会員会議所と呼ばれる青年会議所、つまりJCが存在します。その中にトータルで3万5千名、20歳から40歳の9割のメンバーが経営者、もしくはそれに準ずる2世、3世のメンバーです。士業の方も5%くらいいらっしゃいます。30%が創業者で、30%くらいが代表権のない取締役、40%くらいが2世、3世です。

 

世代間コミュニケーションがファミリービジネスのカギ

藤村 日本は100年以上続いている企業が世界一多い国です。実は、その9割以上をファミリー企業が占めています。一方で「世襲」だとか「ファミリービジネス」と聞くと、世の中の空気としてなんとなく公平性に欠けて見え、否定的なイメージを持たれがちでした。

 

池田 私自身はファミリービジネスを肯定的に捉えています。何よりも私自身がそうした環境で生まれ育っていますし、2世、3世でも幼くして社会への貢献の在り方などを刷り込まれていくものですから、しっかりとした軸を形成しやすいと言えます。これはJCの会員と話をしていても、ことあるごとに感じることです。そのため、ファミリービジネスを恥だと思ったこともなければ、そこで漫然と生きていけるほど甘い環境ではありませんので、創業家以外の方が経営にあたることとの差を感じてはおりません。

 

藤村 どこまでいっても本人の資質の問題だと。

 

池田 ええ。特筆すべき点として、地方創生という文脈では、ファミリービジネスの企業の方が、より地域に根ざした活動や事業を通して地方を盛り上げようとしている事例が多いように感じます。利益の最大化はもちろんとして、同時に地域と共生することで連続的革新を実現しようとしているのでしょう。

 

後藤 会頭自身がファミリービジネスを恥と思わず、どう伸ばしていくかに心を砕いていらっしゃるということは大変立派だと思います。ただ日本全体でみると、そのような考えは必ずしも多数派ではなく、少数派だという実態が問題なのです。

海外と比較した場合、ファミリービジネスに対する温度差は際立ったものがあります。ある日本を代表するファミリービジネスの上場企業では、トップの方が日本国内ではファミリービジネスとは言いません。「『社会の公器』である企業」ですから、同族では困るという気持が頭の隅にあるのです。

一方、海外に行った時には「うちはファミリービジネスで、こんな家訓があります」と言います。なぜかと言えば、海外ではファミリービジネスであることが誇りだからです。ファミリービジネスの世界大会が毎年ヨーロッパを中心に開催されます。モナコで世界大会が開かれた時、主催者の王子(当時)が、「ファミリービジネスのみなさんのおかげで経済が回っています。ありがとう」とあいさつされたのを聞き、果たして日本で行われた場合、主催者がそういうことを言ってくれるだろうかと思いました。オランダで開催された際には王女、ドイツでは西ドイツのコール元首相がホストでした。

 

池田 ファミリービジネスに対する世論の差が国内外で大きいのですね。自立させるため、世の中を学ばせるために、経営のためにと期待して、子にJCへの入会を薦める親が多いようです。後継者不足と言われ、黒字倒産もある世の中ですから。また、経営ジャッジは現経営者である自分の経験値に依ります。息子の意見を取り入れないという人たちも多く、反抗している2世、3世もいれば、飛び出して自分でやる方もいますし、大手企業に入る人もいます。

 

藤村  どうしても親と子の間の難しさはありますよね。ファミリービジネスを勉強し始めて衝撃を受けたのは、「家憲」の存在でした。家憲とは家の憲法です。いわゆる「名家」にはだいたいあるようですね。3代、4代と続いているところには、こうしたしっかりした基盤があります。そうしたことを学べるのも100年経営研究機構のひとつの意義なのだと思います。

 

後藤 ファミリービジネスはガバナンスが重要です。一つはビジネスの側におけるコーポレートガバナンス、もう一つはファミリーガバナンスです。ファミリーガバナンスは、親と子のコミュニケーションの在り方がそのまま反映されます。親と子の対話が希薄な社会のなかで、この仕組みをどうやって復活させるかを、100年経営研究機構としても考えています。たとえば「ファミリーミーティング」、つまり家族会議の実施です。

 

池田 確かに世代間の「向き合い」を意識的に行わねば、解決できないのでしょうね。

 

後藤 戦前の民法には「戸主」「家長」「家督」という言葉があり、さらに「家族会議」があって家長が議長を務めていました。戦後は憲法や民法がかわって個人がクローズアップされるようになりました。その代償として「家族」の概念が薄まってしまったのです。それがいまの事業承継の本質だと思います。

また、家業を営むと1階がお店で、2階にみんな住んでいました。職住近接どころか同一だったわけです。

 

池田 子供が親の働く姿を目にするなかで、社会との関わりを学んでいくことを想えば、高度経済成長期の過程で住居が郊外に移ったことの弊害なのかもしれませんね。

 

池田 そういった場に参加されるというだけでも意識の高い方達と言えますね。

 

後藤 そうです。そして、これは家の歴史を知ることの大切さを物語るのですが、講義が進むうちに自分の家の歴史、家業の歴史を学んでいくうちに祖父や父が地域に貢献していることを再認識して目が輝いていく人が多かったのです。

 

地域活動、東南アジアへの支援 幅広く活動するJC

藤村 JCの方々は社会の活動に触れて地域の活動で磨かれている部分はありますか?

 

池田 30歳で入会して10年になりますが、最初とは違うなと感じます。入会したきっかけは、地域に根差していく以上、人脈作りや地域の先輩と触れ合うことは大切だと考えたからです。やっていくうちに周囲に「恩返しをしろ」という教えが身に付きました。自分が成長するにつれ、今度は恩返しをしていかねばならないという、次代の経営者や地域の未来に向けての恩返しです。いろいろな取り組みを通じ、必然的に刷り込まれて、JCを通じて地域貢献や社会貢献を社是に掲げている方はすごく多いです。

 

藤村 これまで印象的だった活動はどのようなものでしょうか?

 

池田 心から尊敬できる人に何人もお会いしました。国際機関と繋がっているので、今はUNSDGs(持続可能な開発目標)にかかわり、国際支援の事業をしています。たとえば、募金をして蚊帳を買い、マラリア撲滅のために現場に届け、現地の人と触れ合う、あるいはフード・アトリビューションの事業などです。また、他団体と共同で組んで、途上国で安定してきれいな水を提供できるような取り組みを行っております。直近の例では、カンボジアで雨水を持続可能な装置を作り、わざわざ水を汲みに行かなくてもよいようにしました。

東南アジアの貧困地域を目の当たりにすると、日本はなんて恵まれているんだろうと思いますし、今後子どもたちの教育においては何が大切なのかなどと考えられます。世界で戦っていかなければならないんだと考えると、これからの日本はどうあるべきかと思います。

 

藤村 活動は何名くらいで行われるのですか?

 

池田 委員会を組んで行っています。年齢はバラバラで、20代もいれば40歳に近い人もいます。また、年齢が高い人がリーダーになるわけではありません。今は一番若い人で31歳のリーダーが100人くらいのチームをまとめて事業をしています。彼は自分で手を挙げてきました。

 

藤村 自分の会社だと経験できないスケールの事業を経験できるわけですね。こうしたことを通じて、自分の意識が変わったなという実感はありますか? 自社の事業に生かしていこうという流れは。

 

池田 実感はあります。事業につながるかどうかも、人によってアンテナを立て感度があるかどうかでしょう。ヤシノミ洗剤のサラヤさんでは世界中に支社をつくってジョンソン&ジョンソンさんやP&Gさんと戦っています。

実は、私の会社もJCの理念に近いものがあります。もともとは小さい神社で収入源がほとんどなかったので、神社の役割を考え直し、地域の繁栄を支えていくことにしました。それで、新潟になかった私学をつくり、若い人たちが東京にいかなくても学べる場を作って貢献することにしたのです。のちに、医療、福祉の事業も始めました。さらに、教育が終わったあとの出口として、いい会社がなければ人が外に出て行くので、経営者や事業を応援する必要があると考えました。ですから、スポーツビジネスや地域の魅力を高めるための仕組みづくりなど、可能性を追求しながらやっています。

「ここまで稼いだから自分の人生は安泰で、暮らしていける」と思ったら衰退の始まりで、変化を恐れて挑戦を忘れてはいけません。自負もあります。戦って次世代に引き継いでいくのが、私たちの宿命だろうと思っています。

 

人に任せることの大切さや、みんなに背中で教えることも仕事で、生き生きした人材をつくり、決断できるリーダーになっていかねば会社の繁栄はないということはJCで学びました。695地域、3万5千人を抱えるJCの会頭として、利害関係なく「志」というガバナンスのなかで運営していくことができることには感謝しています。

 

藤村 ということはJCで組織作りを学ぶ方は多いのですね。

 

池田 ええ。それだけではなく、信頼のセーフティーネットとしても機能しています。時代の流れにあらがえず途中で会社をたたまれる人もいますが、その人がJCのなかで信頼を勝ち取っていればまた誰かに拾ってもらえます。悔しい経験をしても助けてくれる人が必ずいますから、挑戦を恐れないほうがよいのではないかと思います。

 

後藤 JCは同じくらいの世代の方々が切磋琢磨して学び合える、非常に貴重な場だと思います。加えて、何を学ぶかも問題です。長寿企業はだいたい一世代が28年くらいでバトンタッチしますので、ひいおじいさんの代から4代続けば100年になります。

 

地域に根付いた活動を行うためにまずは学びを

後藤 各地域のリーダーとしてJCの会員の方はがんばっていらっしゃると思いますが、地域の歴史、地域の文化、地域の地理を勉強されていますか。

 

池田 ブロック会長という都道府県のリーダーには行政が考えている地方創生プランなどを必ず勉強させるしくみがあります。「何をすべきか」という地域課題のためのオープンフォーラムも行います。

 

藤村 仕組みとして完成されているのですね。多くの総理大臣を輩出してきた組織でもあります。ただ、それだけに、池田さんのように上の役職になるほど、もはや公人ですから、自社のためではなく組織のために働く時間が多くなりますので、創業経営者では難しい部分があるように思います。

 

池田 確かに活動の時間をどの程度まで割けるのかという問題はあります。ただ、自分の為、自社の為という枠を越えて、他者の為に動くことに多くの会員が喜びを見出すようになるんですよ。JCの人間でも入会前は「自分が良ければいい」と思っていた人間がほとんどではないでしょうか。よくわからず入会して、文句言いながらやっていくなかで、2年目くらいから役を受ける人が出てきて「あいつができるんだったら、自分にもできるんじゃないか」と変わっていくのです。多くの人と接していると、「あ、目の色が変わった」という瞬間がわかることもあり、それが楽しみでもあります。

 

藤村 こうしたお話を聞いていると、JCは後継者育成のひとつのパッケージのように思えますね。一方で、知っている方を見ると「友達ができればいい」という方も多いように思います。

 

池田 そうした方が多いことは否定しません。ただですね、JCの活動を通して「企業は社会の公器」という、その公器性や社会貢献の重要さを肌で感じとることが重要なのです。それを学べる機会が与えられている場所だということこそがJCの最大の意義だと思っています。そうして成長した一人ひとりの会員が、JCで学んだ公器性を自社の様々なステークホルダーにも反映させていくことで、まず地域への恩返しを行っていくこと。その延長線上に、日本の持続的な発展が位置づけられているのではないでしょうか。「日本の再建は我々(青年)の仕事である」というJCの言葉に込められた気概を私はそう受け取っています。

そしてこれは長寿企業を長寿企業たらしめるのも、自分たちが社会の公器であるという気概を持つからこそ、地域への貢献があり、持続的な発展に繋がるのではと感じます。

 

後藤 「社会の公器」という志向があるから100年続いたというお考えは、まさに明言ですね。企業は人間と同じで孤立した存在ではありません。「恩返し」という言葉も出ましたが、苦しい時には助け合います。その中においてチームとして伸びてくるわけです。

SDGsやCSR(Corporate Social Responsibility)、CS(Customer Satisfaction)などの概念がありますが、すべて欧米から来たものです。それを日本が追いかけるのはいかがなものかと感じています。富士ゼロックスの小林陽太郎氏が「CSRの思想は日本が始まりではないか」と発言されていましたが、そうしたことも学ぼうとお考えですか?

 

池田 実は毎年そうしたことをテーマとしてやっています。アライアンス・フォーラム財団原丈人氏に合宿に呼んでいただくなど、渋沢栄一の「社会の公器」という言葉をもとに、「世のために人のために」という勉強はずっと続けています。会員一人ひとりが、従業員だけでなく、株主、取引先、顧客、金融機関、社会など、さまざまなステークホルダーから尊敬される経営者になるには、どうしたらいいのか、日々、謙虚に自問自答すべきと感じています。

 

後藤 日本にはすでに江戸時代より前から近江商人の「三方よし」の考え方がありました。これこそが公益資本主義の原型で、アジアの風土に合ったものです。その結果、日本には長寿企業が100年企業として2万5,321あります。この足元にあるモデルと経営を結び付ければ、さらに伸びるのではないでしょうか。

 

藤村 韓国や中国でも100年企業への興味が高まっています。海外からの視点が変わってきていることを感じます。ですから、我々が学んで継いでいかなければという使命を感じています。JCの方からも一層学ばせていただきたいですね。

 

 

(写真左)後藤俊夫(ごとう・としお)さん……100年経営研究機構 代表理事、日本経済大学大学院 特任教授 。1942年生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後に日本電気株式会社 (NEC Corporation)に入社し、1974年ハーバード大学ビジネススクールにてMBAを取得。1999年静岡産業大学国際情報学部教授、2005年光産業創成大学院大学統合エンジニアリング分野教授を経て、2011年より日本経済大学渋谷キャンパス教授に就任。同経営学部長を経て、2016年4月から現職に就く。日本における長寿企業やファミリービジネス研究の第一人者であり、精力的に教育活動や講演・セミナーなどを行っている

(写真中) 池田祥護(いけだ・しょうご)さん ……公益社団法人 日本青年会議所 会頭。1978年新潟県新潟市出身。事業創造大学院大学事業創造研究科修了。2009年、学校法人新潟総合学院理事長、2015 年、株式会社NSGホールディングス代表取締役就任。2018年1月より現職。

(写真右)藤村雄志(ふじむら・ゆうじ)さん……一般社団法人100年経営研究機構 専務理事 兼 事務局長、株式会社VALCREATION 代表取締役  。1978年山口県出身。同志社大学商学部卒。大学卒業後、株式会社ベンチャー・リンクに入社。その後2004年に起業し、これまでに30社以上の事業支援プロデュースを行ってきた。2011年、株式会社VALCREATION設立、代表取締役就任。2015年、一般社団法人100年経営研究機構設立、事務局長に就任。教育機会の創造を通じ次世代リーダーの育成に情熱を注いでいる。