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近藤宣之氏(株式会社日本レーザー)インタビュー【第4回】経営に必要な運を呼ぶ5つの心掛け

◆取材・文:渡辺友樹

日本レーザー株式会社 近藤宣之氏 (2)

「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞、「勇気ある経営」大賞受賞の日本レーザー近藤宣之氏・特別インタビュー!

日本レーザー、近藤宣之氏の特別インタビュー第4弾。リスクを取った経営が認められ、東京商工会議所の第10回「勇気ある経営」大賞で、商社として初めて大賞を受賞した同社。近藤氏に経営者に求められる条件を語って頂く。

 

‐ですから、「いつも笑顔で、感謝して、成長して、他責にせずに、受け入れる」、こういう気持ちで仕事をしていれば必ず運は良くなるんですよ。ところが、人間は弱いもので、私もブレることはしょっちゅうあります。たとえば社員が「社長、お話があります」と、私にとっては面白くないことを言ってきたときに一瞬顔色が変わっちゃう、これではダメなんですよね。瞬間的にニコニコして「そうか」と言う。これはもう修行ですよ(笑い)。‐

社員と経営者との関係性は……

前編
▶第1回グローバル時代の経営者の条件とは
▶第2回中小企業によくある理不尽な圧力・親会社からの独立物語
▶第3回経営者と従業員が参加する会社買収MEBOによる独立劇
(前号のあらすじ・記事HP公開中!)中小企業によくある親会社からの理不尽な対応の数々を受けて、遂に独立する日本レーザー。はたして、2013年、14年の業績は? 

近藤:弊社はだいたい2000万ドル以上の海外調達が有るのですが、2012年は平均80円で送金しているので、16億円で調達できた。円高だったので、それで3億円の利益が出ている。ところが2013年は25%円安になって、100円になりました。そうすると2000万ドル調達するのに20億円ぐらいかかる。つまり同じものを同じメーカーから仕入れて4億円のコストアップです。すると前の利益が3億円ですから、行って来いで1億円の赤字になるわけですね。

しかし、そのまま1億円の赤字を出すと、私の経営者としての資質が問われます。外部環境が悪くても生き残らなければならないと普段から言っているわけですから。

そこで色々な手を打って、たとえばレーザー以外のセンサーも始めるなど新規事業、従来のレーザー部門も数を増やして薄利多売で売り上げを1割ほど伸ばす。もちろん社長の給料はじめ色々とコストカットする。ただその報酬カットやコストダウンというのは、せいぜい年間経日の5%程度。弊社の7億2~3千万円の年間経費のウチ、3000~3500万ほどしかカットできない。結局、縮小均衡というのは効果が小さいんですよ。しかも人は絶対に切りませんし、生涯雇用ですから。

 

筒井:新入社員は新卒を採用しているんですか? それとも中途を?

 

近藤:2014年は早稲田から一人、2013年は名古屋大大学院と立命館から男性と女性が一人ずつ、その前は職業能力開発大学校から一人。要するに毎年一人か二人新卒を採用しています。また転職者も今年も採用しています。弊社は60歳で誰も辞めませんから、再雇用して65歳まで働いて、65歳になっても辞めなくて皆70歳まで働く。今68歳が二人いて、70歳になったら今度は75歳まで働く気でいますから、とにかく人間がどんどん増えていくんです。これは大変なことですよ。しかもあっちこっちで生涯雇用と言っちゃっていますからね(笑い)。

 

筒井:売り上げを伸ばしていくしかない。

 

近藤:そうです。利益を常に上げていく。だから社員も成長しなければいけないということです。損か得かというのはここにも繋がるんですよ。一見損な選択だけれども、志を持って社員を信じてモチベーションを上げていけば、不可能なことはないと思っています。普通はこんなにリスキーな経営は絶対しませんけどね。

 

筒井:それは近藤さんが社員の方々を信じる、信じることができるということですよね。

 

近藤:そう、社員を信じてこういう経営をしていれば社員は付いてきます。親会社の言いなりになっていたら付いてこないですよね。

 

筒井:その社員と経営者との関係性は、どちらがニワトリでどちらがタマゴかは分からないようなものなのでしょうか?

 

近藤:いえ、これは絶対に経営者から先にやらなければだめですよ。経営者が社員を信じる。経営者が社員のための経営をする。厳しくても、結局は自分たちのためになると納得してもらえる経営をしていれば、社員は必ずついてくる。要するに社員が会社から大切にされているという実感がないといけない。これはお金ということではなくて、給料が安くても大切にされていると思える環境というのもあるわけです。

 

筒井:そうですね。私も、経営者は社員にGIVEするのが役割なのかなと思うことがあります。

 

近藤:そうですよ。まさにサーバント・リーダーシップ(ロバート・グリーンリーフ(米、1904~1990)が1970年に提唱した「リーダーはまず相手に奉仕し、その後、相手を導くべき」という考え方)ですよ。

 

塩入:山本五十六の名言にも、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」というものがあります。やはり、リーダーが先に頑張るものでしょうね。

 

近藤:そうすると社員も頑張る。ただ、社員を甘やかしてはいけないんですね。だから、弊社の待遇は非常に厳しいです。

 

筒井:なるほど。

 

 

 

見えない領域をどう捉えるか

日本レーザー株式会社 (4)

近藤:この対談は経営者の条件というテーマですが、経営者には目に見えない領域の世界もとても大事で、目に見える価値観で自分だけが優秀だからっていう考え方では、絶対に限界があります。

 

塩入:おっしゃる通りだと思います。

 

近藤:スティーブ・ジョブズとか、直感でビジネスを行う経営者がいるけれども、その直感とは何なのか。これは科学的なメスが入りきらない領域だから、分からないところがあります。でも、直感というか気の動きというのは確かにあって。よく、『気働き』といって昔の日本人はそれを捉えていました。

 

筒井:そうですね。そういう西洋にはない日本的なもの、日本の昔の人たちが持っていたものから学べることは大きいと思います。

 

近藤:そうそう。だから例えば西洋の人たちが、たとえばアインシュタインが日本のことを勉強したら、日本ほど素晴らしい国や民族はないと。

 

筒井:そう!

 

近藤:日本が存在することは人類にとって素晴らしいことだと言っているんですよ。すごいですよね。で、そのアインシュタインの相対性理論で量子力学がとことん進んでいったら、あるものを測定するときにこちらの気持ちで結果が変わってくるというんですよ。このデータがこうなって欲しいなと思うと、実際にそうなるというんです。

ここまで来るともう、いまの科学では説明できません。これはまさに潜在意識とか気のレベルじゃないですか。よく民間療法で、気功でガンが治ったとか、キリストが手をあててらい病が治ったとか、沢山あるじゃないですか。そういう力を持っていた人が昔はたくさんいて、それは昔話とか伝説ではなくて、今もあるんですよ。

 

筒井:お医者さんにも、行き着くところは東洋医学だと言っている人もいますよね。

 

 

 

運を良くする5つの心がけ

 

近藤:目に見えない領域という話を、経営者の条件というテーマに沿って進めると、経営者には「運」や「つき」が必要ということになります。自分を知り、周りを知ること。それが分からずに、「俺が、俺が」では「つき」は来ない。「運」の悪い経営者では企業は発展せず、社員も不幸になります。「運かよ」ってみんな言うんだけど(笑い)。

 

筒井:でもそれについては、私もそう思います。運を呼ぶ経営者と運を呼ばない経営者って間違いなくいる。

 

近藤:ええ、間違いなくいます。で、「どうやったら運を呼べるんですか」ってみんな聞くんですよ。

 

筒井:「人間力」しかないというのが私の考えです。

 

近藤:幸運を招くというのは本人の態度が重要で、五つの心がけでうまくいくんですよ。まず一つめは「いつも明るくニコニコと笑顔を絶やさないこと」です。それから二つめとして「いつも感謝すること」です。生まれたこと、生んでいただいたこと、育ててくれたこと、いま仕事をさせていただいていることへの感謝、それから周囲の人々、お客さまからサプライヤーから社員まで、皆に感謝することです。

 

次に三つめとして、昨日より今日、今日より明日と「成長すること」です。これはビジネスやコミュニケーションのスキルの成長という意味ではなく、これらももちろん大切ですが、そうではなくてもっと大きな意味での成長のことです。この世に生まれた目的は何なのかという起点から問い詰めていくと、それは結局、この肉体の身を借りてこの世に現れてきたけれども、亡くなったとき、つまり肉体の身が滅びたときに残るものがその人間の本質だということ。この本質の部分の成長がいちばん大事なんですよ。

これを宗教では『魂』と呼ぶこともありますし、日本人はそれを『本心』と呼んできました。「私の本心にかけて」という言い回しがありますが、じゃあその本心とは何かと言ったら、私や筒井さんのこの肉体が本心であるとは誰も思いませんよね。肉体は滅びるわけで、滅びても残るものが本心なんですから。だから日本人にとっては『本心』も『魂』も一緒で、その部分の成長が大切なんです。次に生まれ変わってくるときのために、この部分の成長をしておかなければならない。けれども、前世の記憶は持っていけない。要はこういう風に仮定しておけばいいんです。いま我々はこの世を生きていて、この世を立派に生きるために、そう仮定すればいい。それ以上は別の人に任せる。

 

四つめは、「絶対に人のせいにしないこと」。他責にしない。同時に五つめが、「起こることをすべて受け入れること」です。だから、運が良いと思い込むことが大事なんです。「俺は運が悪い」と言う人がいますが、運が良いと思い込んでいれば、何か不都合なことが起こったときに「俺はもともと運が良いはずなのにこういうことが起こるということは、もう少し努力しないといけないんだね」というメッセージと受け取れるわけですよ。

ところが、一流の大学を出た優秀な人間が、出世が遅れたり、事業に失敗したりして「ああ、俺は運が悪い」とか、「自分は一生懸命頑張っているのに認めてくれない」と嘆く。これが間違いで、認めてもらえないのは努力が足りないだけなんですよ。

たとえば、安倍さん(総理)の円安路線は我々のような輸入商社には不利ですが、それで弊社が赤字になったら、私の常々言っていることが嘘になってしまうから、絶対に赤字にしないわけです。外部環境が変わって赤字になるなら、経営者は要りませんと言っているわけですから。こういう風に考えると、身の周りに起こることはすべて必然で、何らかの意味があって起こっているわけです。

だから、経営者に限らず若いビジネスマンでも、入社して不条理なことやひどいことをされたときに、3年もたずにすぐ辞めてしまう人がいるけれども、その不条理なことやばかばかしいことが起こるのはすべて自分を磨く砥石だと思えば成長できるはずです。

 

ですから、「いつも笑顔で、感謝して、成長して、他責にせずに、受け入れる」、こういう気持ちで仕事をしていれば必ず運は良くなるんですよ。絶対ね。ところが、人間というのは弱いもので、私もブレることはしょっちゅうあります。たとえば社員が「社長、お話があります」と、私にとっては面白くないことを言ってきたときに一瞬顔色が変わっちゃう、これではダメなんですよね。瞬間的にニコニコして「そうか」と言う。これはもう修行ですよ(笑い)。

 

筒井:運を付けるために、私は「異種格闘技戦」をとにかくこなす、アウェイな環境になるべく身を置くことを心がけています。

 

近藤:ああ、それもいいでしょうね。ホームは居心地がいいですからね。

 

筒井:居心地が悪いところにできるだけ出掛けるということを心がけているんです。

 

近藤:今お話しした5つを「こうすると運が良くなるよ」と話すと、みんなその場では「なるほどそうか」となる。だけどそのひとつひとつが普通はなかなかできない。だって、ニコニコ笑い続けているなんて殆ど不可能ですよ。家に帰って奥さんやご主人にニコニコするかといったら、それはしないわけです。ところが、人間の本質は潜在意識の下で繋がっていますから、家でブスッとしていたらそれは結局、仕事場にも繋がるんです。こういうことを言うと、家内なんかもすぐ非科学的だとバシッと言いますけど(笑い)、まあ確かに潜在意識というのは一般的に認められてはいるものの、ぜんぶ水面下で繋がっているとは思われていませんものね。

 

筒井:ケンカというのはいかがでしょう? 運とケンカというのは?

 

近藤:感情的になってやるケンカはいいことではないでしょうね。

 

塩入:近藤さんは、ケンカはなさらないのですか?

 

近藤:殆どしないですね。社員を怒鳴ることもないし、お客さんにももちろんしないですし。アピールというのはしますけど、アピールとケンカは違いますから。

 

筒井:じゃあ近藤さんはもう感情的になることはない?

 

近藤:そうですね。何が起こってもニコニコと受け入れることが大事なんですよね(笑い)。

 

筒井:難しい!

 

塩入:人としての基本的な心がけを何十年も続けてきておられて、なかなかできないことですよね。

 

近藤:難しいですよ。でも運が良くなるんです。僕はずっと自分は運が良いと思っていますよ。

 

筒井:でも仰るとおり、経営者は運をつけるしかないんですよね。

 

近藤:そうなんですよ。ところが優秀な人は学歴にこだわり、出自にこだわり…、「オレが、オレが」と自分の能力にこだわる人というのは、運をバカにしているんですよ。この「オレがオレが」で運が悪くなるんですよ。いま運が良くなるための五つの心がけの話をしましたが、逆に運が悪くなる要素というのは、「他責、人のせいにする」「オレがオレがという態度」「自分の利益を主張する」ということですよ。要するにさっきの心がけと反対のことですよね。損得で言えば目先の得、自分の利益を主張する態度です……。

 

(次号)世界における国益の主張と日本の役割について

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近藤宣之氏(こんどう・のぶゆき)…1944年東京生まれ。1968年、慶応義塾大学工学部電気工学科を卒業後、日本電子株式会社に入社。電子顕微鏡部門応用研究室に勤務。全国金属労働組合同盟、日本電子労働組合執行委員長に就任。1983年まで同職を務めた後、総合企画室次長、アメリカ法人支配人、取締役営業副担当などを経て、1994年、株式会社日本レーザー代表取締役社長に就任、現在に至る。2007年に役員・社員の持株会などから構成されるJLCホールディングスを設立し、MEBOを実施。日本電子からの独立を果たす。同社は第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞・中小企業庁長官賞を受賞(2011年5月)。また東京商工会議所第10回「勇気ある経営」大賞・大賞を受賞している(2012年10月)。

2013年3月:経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」全国43社に入選、受賞。

2013年4月:経済産業省「おもてなし経営企業選」全国50社に入選、受賞。

2014年1月:平成25年度東京都ワークライフバランス企業認定(多様な勤務形態導入部門)。

2014年3月:経済産業省「がんばる中小企業300社」に入選、受賞。

 

株式会社日本レーザー

〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-14-1(東京本社)

TEL 03-5285-0861 FAX 03-5285-0860

http://www.japanlaser.co.jp/

創光技術事務所インタビュアー

筒井潔(つつい・きよし)…経営&公共政策コンサルタント。慶應義塾大学理工学部電気工学科博士課程修了。外資系企業、ベンチャー企業、知財関連企業勤務を経て、合同会社創光技術事務所所長。

塩入千春(しおいり ちはる)…創光技術事務所シニア・アナリスト。理学博士。京都大学理学部卒。京都大学理学研究科修士課程修了。総合研究大学院大学博士課程修了。理化学研究所研究員等を歴任。

合同会社創光技術事務所

〒150-0046 東京都渋谷区松濤1-28-8 ロハス松濤2F

http://soukou.jp

 

2015年3月号の記事より
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