労働力不足の解決を目指し、企業や自治体の間接業務を請け負うBPOと、クラウドソーシングを基盤にしたSaaS事業を展開する株式会社うるる。星知也社長に新規事業の生み出し方や、事業の強みについて聞いた。

 

早くから在宅ワーカー活用に注目

――創業の経緯を教えてください。

もともと私は北海道の教材販売会社で新規事業部に所属していました。女性の就業が増えていた2000年ごろ、就業を希望しているけれども育児や介護があり外で働くことが難しい人たちに、仕事を提供できないか考えました。最初に、企業からデータ入力の仕事を受注し、教材を購入していただいた方に仕事を再委託する新規事業を立ち上げ、社内創業の形でうるるを設立しました。

 

新規事業としては好調でしたが、本体の教材販売の業績がふるわず、立ち上げたデータ入力事業への投資も難しい状況になりました。考え抜いた末、2006年に事業ごとMBO(経営陣が参加する買収)をする決断をしました。これが創業の経緯です。

 

――早い時期から在宅ワーカーに着目していたのですね。

ただ、すぐ軌道に乗ったわけではありません。データ入力は正確さが求められるので、複数の在宅ワーカーが確認作業を行っていました。さらに仕事を仲介する側の私たちが再度確認し、この作業に非常に時間がかかっていたのです。仕事はたくさん受注できるのですが、自分たちがボトルネックになっていました。

 

そこで2007年から始めたのが「シュフティ」というマッチングサイトです。当社を介さずに、発注企業とサイトに登録する在宅ワーカーが直接やり取りできます。今でいうクラウドソーシングですね。今、登録者は45万人(2022年12月末時点)を超えました。

 

ただ、ここでも乗り越えなければならない壁がありました。クラウドソーシングサイトの運営は手数料ビジネスなので、成長スピードが緩やかです。そこでシュフティのリソースを生かすことを考えたんです。これが今、当社が運営する複数のSaaSビジネスの基盤になっています。

 

国や自治体の入札情報サービス「NJSS」が柱

――自治体や公共機関の入札・落札情報をデータベース化した入札情報サービス「NJSS」が事業の柱です。在宅ワーカーを生かすヒントはどこにあったのでしょうか。

 

国の「年金記録問題」を覚えていますか?2007年、年金手帳などに記載されている基礎年金番号に登録されていない膨大な記録があることが発覚しました。要因の1つが、紙台帳で管理していた年金記録をデータ入力する際に、正確に記載されていないことでした。

 

年金記録問題をきっかけに国や自治体の入札情報に注目するようになったんです。当時も入札情報をまとめた他社サイトはありましたが、網羅性が低く、入札を希望する事業者にとっては本当に必要な情報が手に入らず、機会損失になっていました。

 

シュフティに登録している在宅ワーカーを活用し、人力で入札情報を収集しデータ化できれば新規事業として成り立つと考え、スタートしたことがきっかけです。顧客開拓も順調に進んでいます。

 

電話代行サービスは、初期投資ゼロが強みに

――他にはどんな事業があるのでしょうか。

 

「fondesk」という月額課金の電話代行サービスも運営しています。スタートアップを中心に電話の一次受付を行っています。コロナ禍前の2019年に始めたサービスですが、コロナによる在宅勤務の普及により、会社で電話をとる人が減ってしまったこともあり、契約数は2020年3月末から約10倍に増加しました。

 

一般的にコールセンターは地方都市でビル1棟を建て、そこで架電・受電業務を行うため設備投資が必要です。ですが、当社は在宅ワーカーが自宅で電話を受けているので、初期投資や固定費はかかりません。これが大きな強みです。

 

在宅での電話代行は、営業などのような架電するものは難しいですが、かかってきた電話を受け、取り次ぐサービスにニーズはあると考えています。

 

DX化の裏では膨大な人力が必要になる

――DX化が進む裏で人の力が必要になっているということですか。

そうですね。DX化が進み、人間の仕事をAIが担う時代がきています。ですが、デジタル化が進む上で膨大なデータをシステムに入れる作業は人の手が必要です。数年前から徳島県でスキャニングに特化したセンターを立ち上げています。

 

――2020年3月期から2024年3月期までの中期経営計画は、売上高を1年前倒しで達成しました。

今は広告費やシステム費などを軸とした成長投資のフェーズで、これからも着実に成長を重ねていきたいと思っています。在宅ワーカーの活用と親和性が高い会社や事業のM&Aも検討しています。

 

――今、注目している市場はありますか。今後の展望についても教えてください。

人口減少や少子高齢化による労働力不足の時代に入っています。新卒を採用できる会社は一握りという時代がくるかもしれません。

 

こうした中で、シニア世代に注目しています。企業を定年退職した人のスキルを活用するシルバー人材センターは大きな組織ですが、DX化が進んでいない印象です。アプリやLINEなどで仕事を依頼できるサービスがあればもっと利用は増えるのではないでしょうか。

 

今はリスキリング(学び直し)などで、シニア世代のITリテラシーが高くなっています。シニア世代のスキルを活用し、労働力不足という社会課題を解決していきたいですね。